税法・財政法試験問題集・その12  解説など

 

西南学院大学法学部・税法(集中講義)2007年度「週末課題」〔2007年9月7日出題〕

 

  〔都合により、設問1.の(2)についての解説は、ごく基本的な事項を除いて省略します。「講義用スライド」のコーナーに掲載している「所得税その2  所得税法に定められた10種類の所得について」を参照して下さい。なお、法律の条文中に登場する数字は、原文では漢数字ですが、ここでは金額を示す部分を算用数字に改めています。〕

 

1.給与所得は、所得税法第28条に定められ、第1項において「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(中略)に係る所得」と定義される。講義においても再三述べたように、所得計算の基本形は

  〔所得(金額)〕=(収入金額)−(必要経費)…………………@ 

であるが、これは所得の性質に応じて変更が加えられている。給与所得の場合は、必要経費としての実額控除が認められず、同条第2項によって「給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする」とされているので、上の式の(必要経費)が(給与所得控除額)に変更されることとなる。

  給与所得控除は、所得税法第28条第3項に定められており、実額ではなく、定額を控除することとなる。そして、給与による収入金額に応じて給与所得控除の金額が変わってくる。ここで、同項の規定を示しておく(斜体字は、私による強調部分)。

  「前項に規定する給与所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

  一 前項に規定する収入金額が180万円以下である場合 当該収入金額の100分の40に相当する金額(当該金額が65万円に満たない場合には、65万円)

  二 前項に規定する収入金額が180万円を超え360万円以下である場合 72万円と当該収入金額から180万円を控除した金額の100分の30に相当する金額との合計額

  三 前項に規定する収入金額が360万円を超え660万円以下である場合 126万円と当該収入金額から360万円を控除した金額の100分の20に相当する金額との合計額

  四 前項に規定する収入金額が660万円を超え1000万円以下である場合 186万円と当該収入金額から660万円を控除した金額の100分の10に相当する金額との合計額

  五 前項に規定する収入金額が千万円を超える場合 220万円と当該収入金額から1000万円を控除した金額の100分の5に相当する金額との合計額」

  設問では、給与収入が500万円の人の給与所得控除額を算出するように求められている。従って、第3号を参照すると、次の計算式および結果を得られる。

  126万円+(500万円−360万円)×20/100=126万円+140万円×1/5=126万円+28万円=154万円

  故に、この人の給与所得控除額は154万円である。その後は、収入金額である500万円から給与所得控除額である154万円を控除して所得金額の346万円を得て、基礎控除をはじめとする各種所得控除(納税義務者に該当するもの)を次々に控除し、課税総所得金額を求めた上で、税率を当てはめ、最終的な納税額を得ることとなる。税額控除が適用される場合は、課税総所得金額に税率を当てはめて得られた納税額から税額控除額を控除して得られた金額が最終的な納税額となる。

  なお、上の数式の頭にある126万円であるが、これは第2号に従い、収入金額が360万円である人についての給与所得控除額を計算して得られた結果であることに、注意をしていただきたい。参考までに、計算例を示しておこう。

  180万円×40/100=72万円←第2号の斜体字の部分

  72万円+(360万円−180万円)×30/100=72万円+54万円=126万円←第3号の斜体字の部分

  126万円+(660万円−360万円)×20/100=126万円+60万円=186万円←第4号の斜体字の部分

  186万円+(1000万円−660万円)×10/100=186万円+34万円=220万円←第5号の斜体字の部分

 

2.これは、超過累進課税を採用する理由を知っていただくために出している問題である。これまでにも何度か、レポートの課題として出題しているが、今回も出題してみた。なお、実際には簡便な数式が存在し、それに当てはめて計算するのであるが、ここでは敢えてその数式を用いず、所得税法第89条第1項に忠実な方法を用いて計算することとする。

  まずは、所得税法第89条第1項を見ておこう。

  「居住者に対して課する所得税の額は、その年分の課税総所得金額又は課税退職所得金額をそれぞれ次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額と、その年分の課税山林所得金額の5分の1に相当する金額を同表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額に五を乗じて計算した金額との合計額とする。」(赤字は、私による強調箇所)

  次が、その表である。「上欄」を左欄に、「下欄」を右欄に移している。

195万円以下の金額 100分の5
195万円を超え330万円以下の金額 100分の10
360円を超え695万円以下の金額 100分の20
695万円を超え900万円以下の金額 100分の23
900万円を超え1800万円以下の金額 100分の33
1800万円を超える金額 100分の40

  この規定および表から、所得税法が超過累進課税を採用していることがわかる(赤字で強調した箇所)。規定をよく読んでいただきたい。

  設問では、課税総所得金額が200万円である場合となっている(課税総所得金額は、上述のように、収入金額から必要経費(所得の性質により、給与所得控除などに代替されることもある)を控除して得られた所得金額から各種所得控除を経た上で得られる金額である)。そこで、同条に従い、200万円を「195万円以下の金額」の部分と「195万円を超え330万円以下の金額」の部分とに分ける。

  200万円=195万円+5万円 であるから、最初の195万円までの部分には5%の税率が、残りの5万円(これが195万円を超える部分になる)には10%の税率を適用することとなる。従って、

  195万円×5/100=9.75万円      5万円×10/100=0.5万円    ⇒    9.75万円+0.5万円=10.25万円

  超過累進税率によって得られた税額は10万2500円ということになる。

  さて、講義でも述べたように、所得税は累進税率を採用しているということから単純累進税率を採用しているという誤解が流布している。たしかに、単純累進税率は、超過累進税率よりも計算が簡便で理解しやすい。しかし、次のような不合理を起こすことになる。

  やはり課税総所得金額が200万円であるとして、単純累進税率で計算した場合、「195万円を超え330万円以下の金額」であるからその税率を適用すると、

  200万円×10/100=20万円

  となる。

  課税総所得金額が195万円である場合なら、上の計算結果から9.75万円となるので、195万円から9.75万円を控除すると185.25万円が残るが、単純累進税率を適用して計算した場合、200万円から20万円を控除すると180万円が残ることとなる。よく見ていただきたい。課税総所得金額が少しばかり多いがために納税負担が重くなり、手許に残る(?)金額が5万2500円も少なくなることとなる。これが、単純累進税率の不合理であり、採用されない理由なのである。金額にも左右されるが、僅かな違いが大きな差を生むということになる。

  一方、超過累進税率を適用して計算した場合には、200万円から10.25万円を控除すると189万7500円が残る。これならば、課税総所得金額が多いがために手許に残る(?)金額が少なくなるという不合理はなくなる。

  〔「手許に残る」という表現には精度という点で疑問も残るが、収入金額、必要経費、所得、所得控除は各人によって異なるために比較の基準になりにくいので、課税総所得金額を基準とした上で計算したのである。〕

 

 

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