税法・財政法試験問題集・その14  解説など

 

 

T.参照条文を引用する形での説明に終わる答案が多かった。ここは、やはり、報酬のうちの過大な部分の損金不算入について論じて欲しかったところである。

  法人税法第34条第2項は、役員の給与のうち、第1項および第3項の適用がないものについて、その額が「不相当に高額な部分の金額として政令に定める金額」であれば損金に算入されないこととされている。また、今回の試験問題では参照条文として付けていないが、第36条も、役員、役員と特殊な関係にある使用人(従業員などのこと)に支払う給与について、やはり「不相当に高額な部分の金額として政令に定める金額」であれば損金に算入されないこととされている。

法人が使用人に対して支給する給与や賞与は、人件費である。このため、原則としては損金に算入すべきである。しかし、役員となれば、話が変わってくる。法人の役員は、会社法第330条にも規定されるように、法人との関係という点において使用人と異なる。そのためもあって、役員賞与(役員に対して支給される臨時的な給与)は人件費というより利益の処分であると考えられており、損金不算入の扱いを受けてきた。このため、従来は役員賞与を支給しない法人が多かった。そればかりでなく、実質的には賞与であっても報酬という名目で役員に給付されることも少なくなかった。そこで、役員報酬のうちの不相当に高額な部分の金額を損金に算入しないこととされたのである。租税回避行為の防止という意味合いをもつ。

それでは、役員報酬のうちの不相応に高額な部分とは、具体的にいかなるものであるのか。法人税法自体には、その基準を示す規定がない。施行令第70条によると、役員の職務内容、法人の収益や使用人に対する給与の支給状況、同種の事業を営む類似規模の法人の給与の支給状況と比較した額(第1号イ)、定款の規定や株主総会などの決議によって支給することができる金銭の限度額と比較した額(第1号ロ)のいずれか多い額、などの合計額である。役員の職務内容、法人の収益、使用人に対する給与の支給状況は、問題となる法人自体の決算状況などを参照すれば明らかになるが、類似規模の同種事業の法人の給与支払状況は、法人自体や法人の顧問税理士などにはわかりにくいことであり、基準として妥当であるのかが疑問視される。

役員給与についての重要な判例として、最判平成10年6月12日判時1648号53頁がある(改正前の法人税法第36条に関する事件である)。これは、X株式会社が、代表取締役であったAに退職慰労金の一部として土地および建物を帳簿価額で現物支給したとして経理を処理したが、損金経理をしなかったために損金として認められなかったという事案である。

 

U.参照条文を付したが、読みこなせていないという人が多い。たとえば、所得割について地方税法第35条が適用されるか同第314条の3が適用されるか、というように捉えている人が少なくない(「そうだ!」というあなた、講義をしっかりと聞いていましたか?)。よく読めばわかるように、第35条は道府県個人住民税、第314条の3は市町村個人住民税であり、個人は居住都道府県と居住市町村の双方に住民税を納めるのである。従って、道府県個人住民税の4%と市町村個人住民税の6%を合わせた10%が、住民税の税率ということになる(今回は参照条文としてつけていないが、道府県個人住民税と市町村個人住民税は、市町村が合わせて徴集することとなっている)。

  また、応能負担原則と応益負担原則との違いを十分に理解していない人もいる。かつては所得割について超過累進税率が採用されていたが、現在は比例税率である(しかも、法律は超過累進税率の採用を禁止している)。超過累進税率といっても税率がそれほど高くなく、累進の段階も少なかったので、応能負担原則を十分に反映していたかどうかは疑わしいが、それでもこの原則が現われていた。しかし、比例税率では応益負担原則のほうに資することとなる。なお、均等割について、これが応益負担原則の表れなのかという疑問を述べている答案もあったが、これについては私も同感である(利益の算定方法などが漠然としていて、あまりに不明確であるためである。また、各納税者の頭割りというのでは、どの程度まで行政サービスから受ける利益に応じているのか、全く怪しいとしか言いようがない)。

  均等割の税率の軽減(市町村個人住民税のみ)について疑念を述べている人もいたが、応能負担原則からすれば望ましいとは言える。

 

V:この問題については、単なる計算違いはともあれ、仕入税額控除の方法などが違うという答案も多く見受けられた。以下に示す計算過程、さらに教科書を読み直して実際に計算などをしてみて欲しい。

  @題意より、次のようになる。

  製造会社A           売上価格:10000円、これに対する税額:500円

  製品加工会社B    仕入価格:10500円(このうち、税額は500円)

                              付加価値:10000円

                              売上価格(税抜き):20000円、これに対する税額:1000円

                              納税額:1000−500=500円

  卸売会社C           仕入価格:21000円(このうち、税額は1000円)

                              付加価値:10000円

                              売上価格(税抜き):30000円、これに対する税額:1500円

                              納税額:1500−1000=500

  小売業者D           仕入価格:31500円(このうち、税額は1500円)

                              付加価値:10000円

                              売上価格(税抜き):40000円、これに対する税額:2000円

                              納税額:2000−1500=500

  消費者E              購入価格:42000円(このうち、税額は2000円)

  以上から、A、B、C、Dのそれぞれが納めるべき税額は、同じ500円となる。そして、この四者の納税額の合計は2000円であり、最終的にEが負担させられる額と同じであることがわかる。

  A問題は、Cが免税事業者であった場合である。

  免税事業者の場合は、消費税の納税義務がない(当然である)。そのために仕入税額控除もできない。ここで、上の例に登場するCが免税事業者であったとすると、次のようになる。なお、税率は上と同様に5パーセントとする。

  製造会社A           売上価格:10000円、これに対する税額:500円

  製品加工会社B    仕入価格:10500円(このうち、税額は500円)

                              付加価値:10000円

                              売上価格(税抜き):20000円、これに対する税額:1000円

                              納税額:1000−500=500円

  卸売会社C           仕入価格:21000円(このうち、税額は1000円)

                              付加価値:10000円

               注意!→ 売上価格(税込み):31000円(1000円はそのまま上乗せ)←仕入税額控除ができないため、このようにしないと付加価値の意味がなくなる。

                              納税額:0円(免税事業者であるため)

  小売業者D           仕入価格:31000円(このうち、税は1000円)

                              付加価値:10000円

                  注意→ 売上価格(税抜き):41000円←仕入税額控除ができないためである

                              これに対する税額は2050円

                              納税額は2050円(仕入税額控除ができないため)

  消費者E               購入価格:43050円(このうち、税は2050円)

  Cが免税事業者であると、C自身は納税義務を負わないが、AないしBの納税義務分について仕入税額控除ができない。このため、Cの小売価格には1000円がそのまま上乗せされる(そうしないとCは利益を確保することができない)。

  そしてDは、21000円を仕入価格とするのであるが、やはり仕入税額控除ができないので、利益を確保するためには売上価格を31000円としなければならない。そして、この売上価格に税率がかかるので、Dは2050円の納税義務を負うことになる。そしてEに品物が譲渡されると、結局、1050円分も負担が増えることになってしまう。

 

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