税法・財政法試験問題集・その29

 

大東文化大学大学院法務研究科・租税法T(講義)2010年度本試験問題〔2010年7月23日出題〕

 

●次のT〜Vの中から1問だけを選択し、解答して下さい。

 

T.次の事例を読み、設問1〜3に答えてください。

  甲は都内で喫茶店を経営しており、店内に5台のスロットマシンを設置し、賭博として客に利用させた。システムの概略を記すと、まず、客は、甲からコイン1枚を1000円で購入する。スロットマシンは、3つの絵柄が揃えば当たりとなる(払いだされる枚数は絵柄によって異なる)。当たりが出る確率は甲が自由に調整できるが、個々の勝負はあくまでも偶然に左右される。そして、客は、店から出る際に店内でコインを1枚1000円で清算する。但し、持ち帰って次に来店したときに、そのコインでパチスロ機の遊戯を行うこともできる。

  平成21年1月1日から平成21年12月31日までの間に、甲がコインを交付するときに客から受け取った現金の総額は2億円であり、客がコインを清算する際に甲が客に支払った現金の総額は3000万円であった。但し、平成21年12月31日の時点で、客が持ち帰り、清算されなかったコインが3000枚(300万円分)ある。

  平成22年1月4日、甲は常習賭博罪で警察に逮捕され、起訴されて有罪判決を受けた。スロットマシンはすべて没収された。

  〔設問1〕 甲のスロットマシン賭博による利得が課税される理由、および甲のスロットマシン賭博による所得の種類を述べなさい。

  〔設問2〕 甲は客の乙に対し、後払いの約束でコインを渡しており、甲から乙に渡されたコインは、平成21年12月1日の時点で500枚であった。そこで甲は乙に対して50万円の支払いを求めた。乙はその日のうちに50万円を支払った。この50万円は甲の収入金額となるか。

  〔設問3〕 甲は客の丙に対し、やはり後払いの約束でコインを渡しており、甲から乙に渡されたコインは、平成21年12月1日の時点で700枚であった。そこで甲は乙に対して70万円の支払いを求めたが、丙は支払わず、甲は平成21年12月31日までに回収することができなかった。この70万円は甲の収入金額となるか。

 

U.次の事例を読み、設問1〜3に答えてください。

  Xは東京都新宿区内に在住する税理士であり、平成9年にAと結婚し、長男Bをもうけた。しかし、平成16年頃からXは別の女性と不倫関係を続けていた。このことが発覚し、平成20年7月23日にXとAは協議離婚した。その際に作成された調停調書には、XがAに対し、離婚に基づく「慰謝料」として、Xが所有する土地および建物(取得価額は合計約1億円。以下、本件不動産)をAに譲渡し、かつ、現金3000万円をAに支払うという趣旨の一文があった。なお、協議離婚成立の時点におけるX所有の土地および建物の評価額は合計で約1億2000万円であった。

  Xは、上記の調停調書に基づき、平成20年8月4日、本件不動産をAに譲渡した。平成21年9月16日、税務署長Yは、XがAに本件不動産を譲渡したために譲渡所得が発生したにもかかわらず、譲渡所得の申告を行わなかったとして、増額更正処分、および過少申告加算税賦課決定処分を行った。

  〔設問1〕 Xは、本件について「慰謝料」とあるが実際には財産分与であり、財産分与から譲渡所得は発生しないと主張している。その理由づけとしては、いかなるものが考えられるか。なお、本件の「慰謝料」については、慰謝料の他に財産分与の性質をも有するものであるとします。

  〔設問2〕 Y税務署長は、財産分与において譲渡所得が発生すると主張している訳であるが、その理由はいかなるところに求められるか。

  〔設問3〕 本件において、Xの主張は認められるべきか。最高裁判例が譲渡所得に対する課税の本質について述べているところに留意しつつ、論じてください。

 

V.次の事例を読み、設問1〜4に答えてください。なお、株式の評価の方法については問わないものとします。

  東京都内で小売業などを営むA社(株式会社)は、平成17年から平成20年の間に、取引先であるB社(株式会社)の株式(取引相場がない株式である)を、1株当たり80円から120円で、平均100円で計143,756株取得した。平成21年3月、A株式会社は、その代表取締役にして実質的な全額出資者であるCに65,882株を、同年6月には残りの77,874株を、いずれも1株あたり100円で譲渡した。

  この事実に関し、D税務署長は、A株式会社からCへの株式の譲渡は時価よりも低い額でなされたものとして、次のように認定した処分を行った。

  B社の株式の時価 平成21年3月の譲渡時には1株あたり245円

  同年6月の譲渡時には1株あたり268円

  〔設問1〕  D税務署長は、Cについて、A株式会社から、時価との差額に相当する金額の経済的利益を受けたものとして、その差額相当金額を所得と認定し、増額更正処分を行った。これに対し、Cは更正処分の取消を請求したい。いかなる主張が考えられるか。

  〔設問2〕  D税務署長は、Cが受けたとされる経済的利益について、何所得と判断したのであろうか。根拠条文とともに答えなさい。また、D税務署長の増額更正処分は妥当であるか、論じなさい。

  〔設問3〕  D税務署長は、A株式会社についても、B社の株式の取得価額と譲渡価額との差額に相当する金額を益金に参入する更正処分を行った。A株式会社がD税務署長の更正処分の取消を求めるならば、いかなる主張が考えられるか。

  〔設問4〕  D税務署長が、A株式会社の主張に反論し、更正処分を正当なものとして位置づけるためには、どのような主張をなすべきであるか。

 

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