税法・財政法試験問題集・その36

 

大東文化大学大学院法務研究科・租税法T(講義)2011年度本試験問題〔2011年7月23日出題〕

 

●次のT〜Vの中から1問だけを選択し、解答して下さい。

 

T.次の事例を読み、設問1〜3に答えてください。

  Xは埼玉県新座市に居住し、東京都練馬区内の税理士法人に勤務する者である。Xは、平成15年に新座市内で中古の小型普通乗用車を50万円で購入した。以来、税理士法人への通勤、勤務先の外回り業務、レジャー、買い物などに使用していた。平成20年、Xは朝霞市内の国道上で自損事故を起こし、この乗用車を大破させた。X自身にはたいした外傷などはなかったものの、件の乗用車の破損状況はひどく、修理代が多額に上ることが判明したため、廃車することとした。そして、同年中にスクラップ業者に2000円で売却した。

  平成21年、Xは、自損事故がなかったとすれば件の自動車の平成20年当時の価値は25万円であり、譲渡によって24万8千円の損失が発生したとして、この損失を自らの給与所得と損益通算する趣旨の確定申告を行った。これに対し、所轄の朝霞税務署長は損益通算を認めない旨の増額更正処分を行った。

   〔設問1〕  本件において、Xが件の自動車の譲渡による損失を給与所得と損益通算することが可能であるとする主張をするための根拠として、いかなるものがあると考えられるか。

  〔設問2〕  Y税務署長がXの主張を認めず、増額更正処分を行ったことの根拠として、所得税法上は二つの論理が考えられる。それぞれ、いかなるものであるか。実務、判例、学説の動向に留意しつつ、論じてください。

  〔設問3〕  本件において、Xの損益通算を認めないとした場合、いかなる論拠によるべきであるか。〔設問2〕であげた二つの論拠の問題点にも留意しつつ、論じてください。

 

U.次の事例を読み、設問1〜3に答えてください。

  甲はクラリネット奏者であり、乙管弦楽団の正規の団員である。平成21年中の甲の収入は、乙管弦楽団から得た報酬、丙レコード会社から得た吹込料、丁レコード会社から得た吹込料、および戊喫茶店から得た出演料からなっている。平成22年3月1日、甲はこれらの収入のすべてを事業所得として申告した。しかし、平成23年になって、所轄税務署長は、いずれの収入も事業所得を構成しないとして更正処分を行った。なお、甲と乙管弦楽団との契約によると、甲は乙管弦楽団が行う定期演奏会、地方公演、レコード録音など、およびこれらのための練習に従事することを義務付けられる一方、毎月20日に報酬、手当などを受け取ることとされている。

  〔設問1〕  本件において、甲の収入がいずれも事業所得であると主張するための論拠として、いかなるものが考えられるか。事業所得の要件をあげ、論じなさい。

  〔設問2〕  所轄税務署長は、甲が乙管弦楽団から得た報酬を何所得であると判断したか。また、吹込料および出演料は何所得であると考えられるか。

  〔設問3〕  本件において、所轄税務署長の更正処分は妥当であるか。妥当であるとする場合に考えられうる問題点に言及し、判例、学説の動向に留意しつつ、論じてください。

 

V.次の事例を読み、設問1〜3に答えてください。

  平成16年某月某日、訴外A株式会社は東京地方裁判所から破産宣告を受け、弁護士のXがA株式会社の破産管財人に選任された。平成17年某月某日、同地裁はXの報酬を2000万円とする決定を行い、同年中にXはこの報酬の支払いをした。また、同年中にXは元従業員らの給与債権に対し、計3億65733648円の配当を行った。さらに、平成18年某月某日、東京地方裁判所はXの報酬を4000万円とする決定を行い、同月中にXがこの報酬の支払いをした。

  Xは、自らが受けた破産管財人報酬、元従業員らの給与債権への配当のいずれについても源泉徴収を行わないでいたところ、所轄税務署長は、Xに対し、源泉所得税納税告知各処分および不納付加算税賦課決定各処分を行った。

 〔設問1〕  破産管財人報酬の源泉徴収義務について法律上の根拠を示した上で、Xは自ら受ける破産管財人報酬について源泉徴収の義務を負うか。判例、学説の動向に留意しつつ、論じてください。

  〔設問2〕  元従業員らの給与債権への配当について、Xの源泉徴収義務を肯定する主張の論拠として、いかなるものが考えられるか。また、問題点は何か。

  〔設問3〕  元従業員らの給与債権の配当について、Xの源泉徴収義務を否定する主張の論拠として、いかなるものが考えられるか。また、問題点は何か。

 

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