税法・財政法試験問題集・その47

 

大東文化大学大学院法務研究科・租税法T(講義)2012年度本試験問題〔2012年7月24日出題〕

 

  ●次のT、Uより一問だけを選択し、解答して下さい。

  T.次の事例を読み、設問1〜3に答えてください。

  D大学教員の甲(男)は、平成元年に乙(女)と結婚し、息子の丙と娘の丁をもうけた。しかし、甲は、D大学の事務職員と長らく不倫の関係にあり、その事務職員の妊娠が平成20年に発覚した。このために甲と乙は離婚することとなった。甲と乙は、当初、離婚に向けて協議を重ねたがまとまらず、東京家庭裁判所に調停の申立がなされ、その結果、調停が成立した。調書には、次のような項目があった。

   ・甲は乙に対し、本件離婚に基づく「慰謝料」として、甲が所有する土地と建物を譲渡する。履行については、平成21年3月5日限りで所有権移転登記手続きを行う。

  以上に関し、所轄税務署長は、上記の土地および建物の所有権が乙に移転することによって甲に譲渡所得が発生するとして、甲の平成21年分の所得税について増額更正処分を行った。これに対し、甲は不服申立手続をとって争ったが、国税不服審判所が棄却の裁決を下したため、甲は出訴した。

  〔設問1〕本件において、上記調書にある「慰謝料」が文字通りの慰謝料(損害賠償)であるとするならば、甲には所得税の納税義務が生ずるか。また、乙に何らかの納税義務が発生するか。

   〔設問2〕  裁判の段階で、甲は、上記調書に「慰謝料」とあるが、真意は財産分与の趣旨であると主張している。その理由はいかなるものと考えられるか。仮に甲の主張が認められたとすれば、調停調書の「慰謝料」は財産分与であるということになるが、その場合に乙に何らかの納税義務が発生するか。

  〔設問3〕  本件において、〔設問2〕であげたように上記調書中の「慰謝料」が財産分与であるとした場合に、甲には所得税の納税義務が生ずるか。判例、租税法の学説、さらに民法の学説にも留意しつつ、論じてください。

  U.次の事例を読み、設問1〜3に解答してください。

  Xは、民法上の組合であるA茶生産組合の組合員である。Xは、A茶生産組合の事業活動に労務を提供し、その対価の支払いを受けている。

   A茶生産組合は、当初、組合員が出資口数に応じて出役するという責任出役義務制を採用していた。しかし、茶の需要が減ることはなく、むしろ増えており、また、組合員も高齢化しつつあるため、非組合員をも含めて雇用労力を用いるほうが効率的かつ合理的であるという認識に基づき、管理者、専従者および一般作業員が生産作業を行う形態に改められた。

   これによると、A茶生産組合は、非組合員ではあるが茶栽培の経験が豊富な者を管理者とすることができ、その一方で組合員を専従者または一般作業員とすることもできる。一般作業員に対しては、組合との関係では雇用者とし、作業時間を基本として日給で「労務費」を支払う(但し、支払日は毎月の一定日と決まっている)。また、一般作業員は、管理者の作業指示に従って作業に従事し、作業時間はタイムカードによって記録される。

   専従員の「労務費」は一般作業員のそれよりも若干高額ではあるが、それは熟練度や作業量の違いによるものであり、この部分を除けば一般作業員と何ら変わるところはなく、労務の提供の面でのA茶生産組合との関係については、専従員も一般作業員も基本的に同じである。

  また、Xは、A茶生産組合に出資することから受ける現金配当を平成22年度に一度受けたことがあるが、この時を除いて受けた機会は全くない。

  〔設問1〕  所轄税務署長は、XがA茶生産組合の組合員であることを捉えて、Xが同組合から支払いを受けた労務費について事業所得であると主張している。その論拠として、いかなるものが考えられるか。事業所得の要件をあげ、論じなさい。

  〔設問2〕  これに対し、Xは、自らがA茶生産組合から支払いを受けた労務費は事業所得でないと主張している。それでは何所得であると考えられるか。

  〔設問3〕  本件において、Xは〔設問2〕で解答された所得であるとして所得税の計算をしたが、所轄税務署長は更正処分を行った。この処分は妥当であるか。判例、学説の動向に留意しつつ、論じてください。

 

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