税法・財政法試験問題集・その83 解説など

 

 

 

 〔設問1〕本設問のケースでは乙、丙、丁、戊のいずれも法定相続人である。丙以外は相続を放棄しているのであるが、基礎控除額を計算する際には、相続を放棄した者、相続欠格事由に該当する者、推定相続人であったが廃除された者であっても、法定相続人である限りは相続をしたものとみなされる(あくまでも基礎控除額の計算のためだけである)。従って、基礎控除額は次のようになる。

 30,000,000+4×6,000,000=54,000,000

 〔設問2〕本設問のケースでは注意しなければならない点が四つある。

 第一に、設問1について述べたように、相続を放棄した者であっても法定相続人である限りは基礎控除額の計算に際して相続をしたものとみなされることである。

 第二に、AとBとの間の子であるCが相続開始前に死亡していることである。そのため、Cの子であるEおよびFが代襲相続人となる。代襲相続人はCの相続人としての地位を継ぐ訳であるから、Cの法定相続分については共同で等分に承継することとなる。但し、基礎控除額の計算においてはそれぞれ1人として数える(さすがに何分の1人と数える訳にはいかない)。法定相続分の計算と基礎控除額の計算とを混同しないように注意しなければならない。

 第三に、Cの配偶者Dは法定相続人ではない。

 第四に、相続開始時に生存している養子については、実際の養子の人数に関係なく、基礎控除額の計算の際には相続人の数への算入が制限される。具体的には、次の通りである。

 ・被相続人に実子がある場合:養子は1人まで相続人に算入する。

 ・被相続人に実子がなく、養子が1人である場合:養子は1人まで相続人に算入する。

 ・被相続人に実子がなく、養子が2人以上である場合:養子は2人まで相続人に算入する。

 本設問のケースでは、Hが実子であり、GとIが養子である。従って、被相続人に実子がある場合に該当し、基礎控除額の計算の際にはGとIのいずれか1人だけが考慮される。ちなみに、Cも養子であるが、相続開始前に死亡しているので、基礎控除額の計算には影響しない。

 以上から基礎控除額の計算における法定相続人は、B(相続を放棄しているが、基礎控除額の計算においては数に入れる)、E、F、G(Iでもよいが、いずれにしても養子は1人しか勘定に入らない)、Hの5人であり、基礎控除額は次の通りである。

 30,000,000+5×6,000,000=60,000,000

 なお、相続税法第15条第3項第1号により、養子であっても、特別養子縁組による養子、被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者などは実子とみなされるが、本設問には該当する者がいない。

 〔設問3〕本設問のケースのように遺言書がある場合、つまり遺贈についてはさらなる注意を要する。遺贈の場合、法定相続人でない者も財産(権)を継承することとなるが、基礎控除額の計算では法定相続人のみが考慮される。また、親族については、民法第900条により相続権の順位が定められているから、例えば被相続人に子がおり、その子が相続開始時に生存していれば、孫、被相続人の兄弟姉妹は法定相続人とならない。これに対し、配偶者は常に相続権を有する。

 本設問の場合に注意しなければならないのは、aにd、eおよびfという3人の実子がおり、いずれも生存しているため、aの弟であるc、aの孫であるgのいずれも法定相続人ではない。従って、基礎控除の額の計算でcおよびgは考慮に入れない。他方、fは法定相続人であるから、実際には相続を放棄していても基礎控除額の計算の際には考慮に入れる。

 従って、法定相続人はb、d、eおよびfの4人であり、基礎控除額は次の通りである。

 30,000,000+4×6,000,000=54,000,000

 

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