行政法試験問題集・その7

 

大東文化大学法学部・専門演習第一次選考筆記試験〔2004年11月25日出題〕

 

●以下の設問にすべて答えなさい。

1.南九州税理士会事件最高裁判所判決の趣旨をまとめた文章として妥当なものを、@〜Dから一つ選びなさい。

  @税理士会は任意加入団体であるから、特別会費を徴収し、その全額を税理士会政治連盟に寄附するという総会決議に反対する者は、税理士会から脱退すればよく、総会決議は税理士会の目的の範囲内の行動である。

  A税理士会は任意加入団体であるが、特別会費を徴収し、その全額を税理士会政治連盟に寄附するという総会決議は、これに反対する税理士の思想・良心の自由を侵害する。

  B税理士会は強制加入団体であるが、会員は、特別会費を徴収し、その全額を税理士会政治連盟に寄附するという総会決議に従わなければならず、総会決議は税理士会の目的の範囲内の行動である。

  C税理士会は強制加入団体であり、特別会費を徴収し、その全額を税理士会政治連盟に寄附するという総会決議は、税理士会の目的の範囲外の行動である。

  D税理士会は強制加入団体であるが、税理士会は一般社会とは異なる社会を形成しているのであるから、税理士会の総会決議のようなものは司法審査の対象の範囲外である。

2.憲法第14条(第24条)に関する以下の記述のうち、判例に照らして妥当なものを1つ選びなさい。

  @民法第733条第1項は、女性にのみ6ヶ月間の再婚禁止期間を定めている。これは父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことを目的としているものとされるが、この目的には合理性があるとは言えないから、憲法第14条に違反する。

  A非嫡出子の法定相続分を嫡出子の法定相続分の半分とする民法第900条第4号は、立法理由に合理性があるが、法定相続分を半分とするという手段に合理性を欠く。そのため、当該規定は違憲であるが、既になされた相続は無効とならない。

  B給与所得と事業所得の区別により、所得の捕捉の不均衡が長年にわたり恒常的に存在していることは明らかであるから、この区別を定めた所得税法の該当部分は憲法第14条に違反する。

  C青少年保護育成条例で青少年に対する淫行を規制していることにつき、都道府県により規制に差異があるとしても、憲法第14条に違反しない。

  D障害福祉年金受給者は児童扶養手当を受給できないという併給調整規定により、障害福祉年金を受給する者とそうでない者との間で差別が生じるが、これは合理的理由のない不当な差別である。

3.名誉毀損行為があった場合、裁判所は、民法第723条により、加害者に謝罪広告を命じることができる。これについて、判例の立場に照らして妥当なものを1つ選びなさい。(参考、2001年度法学検定試験3級一般コース、国U1987年)

  @良心の自由の保障といっても、絶対無制約なものではないから、常に公共の福祉によって制約を受ける。謝罪広告はこの公共の福祉による制約に合致しているので、許容される。

  A良心の自由とは、本来、信教の自由の一部である信仰選択の自由を意味する。謝罪広告は、そのような自由を制約するものではなく、許容される。

  B謝罪広告を命ずる判決は、本人の意思に反して本人の主義や主張などの告白を強制するものであるから、憲法第19条に違反する。

  C謝罪広告を命ずる判決は、自発的意思による任意の履行を求めるに過ぎず、強制執行によって履行を求める性質のものではないから許容される。

  D単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものにあっては強制執行をなしうる。この種の謝罪広告の掲載命令は良心の自由を侵害せず許容される。

4.生存権に関する最高裁判例についての以下の記述のうち、実際に判決文において述べられていない事柄を一つ選びなさい。

  @憲法第25条に規定される「健康で文化的な最低限度の生活」の具体的内容は、文化の発達や国民経済の進展、さらには多数の不確定要素を総合考量して初めて判断できる。

  Aこのため、「健康で文化的な最低限度の生活」の具体的内容に関する認定判断は、厚生大臣(現在は厚生労働大臣)の裁量に委ねられている。

  B憲法第25条第2項は、国に対して事前の積極的防貧施策を講ずる努力義務を課しており、第1項は、第2項による事前の積極的防貧施策にもかかわらず、なお落ちこぼれた者に対して、国が事後的、補足的かつ個別的な救貧施策をなす責務がある旨を宣言したものである。

  C憲法第25条第1項は、国が個々の国民に対して、具体的・現実的に何らかの作為義務を負うことを規定していない。

  D公的年金制度について具体的にどのような制度とするかについては、立法府の広い裁量に委ねられているから、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用があると判断せざるをえない場合を除き、裁判所の審査判断に適しない。

5.公法・私法に関する次の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい。

  @日本の行政法学においては、ドイツの行政法学の影響を受け、公法・私法の分類について権力説が比較的多数説である。

  A公法・私法の二分論については、実益などの観点から批判が寄せられている。

  B行政法は公法であるが、行政の活動について私法が全く適用されないという訳ではない。

  C租税滞納処分は典型的な権力関係であるが、これについて、判例は民法第177条の適用を認める。

  D公営住宅の利用関係は、基本的に民事法上の賃貸借関係と同様であるから、判例は、公営住宅使用の相続を認めている。

6.次のうち、行政行為(行政処分)にあたるものを1つ選びなさい。

  @公用地の利用に関して、市長が焼却場建設の計画書を議会に提出した。

  A勤務成績不良の公務員を、本人の意思に反して降職させた。

  B知事が或る建築物の許可をなす際に、消防署長の意見を聴取した。

  C国会が新しい税に関する法律を議決したので、その法律を官報に公示した。

  D国有財産を管理する財務大臣が、或る国有財産を民間企業に払い下げた。

7.行政裁量に関する以下の記述のうち、誤っているものを一つ選びなさい。

  @行政裁量は行政行為についてとくに問題とされるが、行政立法などについても認められる。

  A「公益上必要があるとき」に該当するか否かについて行政庁が判断する際には「効果裁量」が認められる。

  B裁量行為でも、裁量権の逸脱や濫用がある場合には違法となる。そのため、恣意的な裁量権の行使、または報復的な目的による裁量権の行使は違法となる。

  C法令上の要件に該当するかどうかの判断に関して行政庁に認められる裁量は「要件裁量」である。

  D行政庁が或る処分をなす際に「要件裁量」と「効果裁量」のいずれをも考慮しなければならない場合がある。

8.行政行為に関する次の説明のうち、妥当なものを1つ選びなさい。

  @行政行為の附款のうち、負担は、主たる行政行為の相手方に何らかの義務付けを行うものをいい、講学上の条件と異なり、主たる行政行為の効力と負担の効力は同時に発生せず、相手方が負担を履行して初めて、行政行為の効力が生じる。

  A行政行為には公定力があるから、行政行為が違法であったとしても、無効である場合を除き、取消権限のある者によって取り消されるまで、何人もその効力を否定できない。また、無効である場合を除き、不可争力があるから、一定期間が経過すると国民の側から取消しを求められなくなる。

  B違法な行政行為によって私人が損害を受けた場合であっても、その行政行為が無効でなければ公定力があるから、損害を受けた私人は、先に取消訴訟を提起して行政行為の取消判決を得なければ、国家賠償請求訴訟を提起することはできない。

  C違法な行政行為は無効であり、違法ではないが公益に反する不当な行政行為は取り消し得べきであり、ここに法適合性と公益適合性との区別を行う実益が存する。

  D無効な行政行為であっても、私人がむやみにこれを否定することは法的安定性の見地から許されず、裁判所または権限ある行政庁の確認があるまでは公定力が認められることは、判例・通説により広く承認されている。

9.行政行為の取消と撤回に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。(国税)

  @取消権は、処分行政庁のみならず監督行政庁もこれを有する場合があるが、撤回権は原則として処分行政庁のみがこれを有する。

  A裁量処分の取消権は、処分行政庁のみがこれを有し、裁判所は撤回権のみを有する。

  B裁判所は、取消原因の存する場合は、その処分の取消が公共の利益に反する場合であっても常に取り消さなくてはならない。

  C取消も撤回も、その効果は既往に遡ることを原則とするが、処分の相手方の権利または利益を侵害することになる場合は、この限りでない。

  D撤回は、成立に瑕疵のない行政行為の効力を失わしめる行為であることから、処分の相手方に有利な場合はともかく、権利侵害となる場合は絶対に許されないとするのが通説である。

10.憲法または行政法に関する問題のうち、とくに関心を持っているものを一つあげて下さい。

 

正答(解説は省略)

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