行政法試験問題集・その54

 

大東文化大学法学部「行政法1」・「行政法1A」2016年度前期末試験問題〔2016年7月28日出題〕

 

 ●次の中から一題のみを選択し、解答しなさい。

 1.XはA社から土地を購入したが、諸事情により、所有権移転登記を済ませていなかった。A社は、経営状態が不安定な状態を続け、ついに法人税などを滞納するに至った。Y税務署長は滞納手続に入り、A社の機会を差し押さえようとしたが、A社の社長Bは、Xに売却したはずの土地の登記の名義がA社のままであったことに気がつき、この土地を差し押さえるよう、Y税務署長に懇願した。これを受けてY税務署長はこの土地を差し押さえ、さらに、Zを競落人とする公売処分を執行した(登記の名義人もZに変更されている)。そこで、Xは、Y税務署長を相手取り、滞納処分(滞納手続)・公売処分の無効確認を求めるとともに、Zを相手取り、本件土地の所有権返還を求める訴訟を提起した。Xの主張は認められるべきであろうか。判例、学説の動向に留意しつつ、論じなさい。

 参照条文 民法第177条:「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」

 2.X社は、Y市内にショッピングモールを建設し、開店させる計画を立てていた。A社の大規模工場が撤退し、税収不足などに悩んでいたY市のB(市長)は、X社の計画に賛同し、既にA社から買収していた工場跡地をX社に売却し、ショッピングモールを誘致する旨の議案を市議会に提出した。同議会がこの議案を可決したことを受けて、BはX社に全面的に協力する旨を表明し、X社も建物の建築請負契約を締結し、付近住民に対する説明会を行うなど、着々と準備を進めていた。しかし、この誘致に対しては反対意見も強く、この頃に行われた市長選挙でBが敗れ、反対派のCが新市長に当選した。Cは、X社の建築確認申請に同意しないなど、これまでの誘致計画を完全に破棄した。その結果、X社は計画を断念せざるをえなくなったとして、Y市に対して損害賠償を求める訴訟を提起した。X社の請求は認められるべきか。学説や判例の動向に照らしつつ、論じなさい。

 3.行政行為の無効と取消について、学説や判例の動向に照らしつつ、論じなさい。

 4.国家公務員のXは、部下のAに対してセクハラ行為などを繰り返していたとして、懲戒免職処分を受けた。Xは、事実誤認があるなどとして懲戒免職処分の取消を求めて出訴した。

 さて、Xの請求は認められるべきか。認められるとしたら、いかなる場合か。学説や判例の動向に照らしつつ、論じなさい。

 〔参照条文〕

 国家公務員法第82条第1項:「職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。

 一 この法律若しくは国家公務員倫理法 又はこれらの法律に基づく命令(中略)に違反した場合

 二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

 三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」

 行政事件訴訟法第30条:「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。 」


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