行政法小演習室・その2
山口県職員研修〔2004年9月9日実施〕
T.行政手続
◎演習問題
事例1:知事Yは、訴外Aに対して、温泉法第8条第1項に対し、温泉湧出量を増加させるための動力装置の設置を許可した。これを知ったXは、同じ温泉の湧出量が激減するなどの損害を被ったと主張して訴訟を提起した。本来であれば、この許可をなす際、同法第
20条による温泉審議会を開催しなければならないが、本件においては審議会が開催されておらず、知事による審議会の意見聴取は持ち回りで決議されただけであった。裁判所は、これが手続上の瑕疵に該当することを認めた。この許可は無効か。また、取消しうるものであるか。〔参考:最二小判昭和
46年1月22日民集25巻1号45頁。松江地判昭和34年11月19日行集10巻11号2264頁は、持ち回り決議が違法かつ無効のものであるとした。これに対し、広島高松江支判昭和38年12月25日行集14巻12号2242頁は、手続の瑕疵を認めながらも、許可そのものの無効原因にはならないとした。〕事例2:Xは、山口県内での個人タクシー事業免許を申請した。山口県陸運局長Yは、Xに対して聴聞を行ったが、道路運送法の要件に該当しないとして申請を却下した。この際、@処分の基準は公表されておらず、AXに対し、主張と証拠の提出の機会を十分に与えていなかった。このような場合、Yがなした申請却下処分は適法か。
〔参考:最一小判昭和
46年10月28日民集25巻7号1037頁。この判決は、行政手続法・行政手続条例の制定に大きな影響を与えた。〕事例3:山口県職員のAは、某日、外務大臣に対して、渡航先を中東の某国とする一般旅券の発給を申請した。これに対し、外務大臣は「旅券法
13条1項5号に該当する」という理由のみを付してAの申請を拒否する処分をした。Aは、これを不服として出訴した。Aは、申請拒否処分に付された理由は全く具体性に欠けているから理由付記に不備があると主張している。この主張は認められるべきか。〔参考:最三小判昭和
60年1月22日民集39巻1号1頁。情報公開について、最一小判平成4年12月10日判時1453頁116頁も参照。両判決の結論はほぼ同じ趣旨である。〕
U.情報公開
◎演習問題
事例1:最三小判平成15年11月11日判タ1143号229頁について、現在の山口県情報公開条例においてはどのような判断がなされるべきか。また、非公開(非開示)とされるべき情報にはいかなるものがあると考えられるか。
〔参考:千葉地判平成9年8月6日判タ959号162頁は、県立高校の校長の出張に関する記録のうち、給料表の種類欄および級・号給欄を除いた部分について公開を命じた。東京高判平成10年3月12日判例自治190号74頁は、千葉県教育委員会による控訴を棄却し、最高裁判所も上告を棄却した。このような判断の代表的な例として、仙台地判平成8年7月29日判例自治155号13頁がある。但し、公務の遂行に関する情報であってもプライバシーの観点からすれば公務員を別異に扱うことができないとする判決も多数存在する。その例として、知事の交際費について、最一小判平成6年1月27日民集48巻1号53頁がある。〕
事例2:山口県情報公開条例第13条(国の情報公開法第8条)に該当し、存否に関する応答をせずに開示請求を拒否しうる情報には、いかなるものが考えられるか。
V.個人情報保護
◎演習問題
事例1:東京高判平成16年1月21日判時1859号37頁について、現在の山口県個人情報保護条例においてはどのような判断がなされるべきか。試験問題の種類などに応じて検討する。
(1)選択式の設問に関する部分について、山口県知事はこれを開示すべきであるか。
(2)記述式の設問に関する部分について、山口県知事はこれを開示すべきであるか。開示すべきでないとすれば、いかなる理由によるべきであるか。
(3)上記の判断は、いかなる記述式の設問に関しても妥当すべきものであるか。
(4)解答用紙および問題ごとの配点と得点の開示は、試験制度の趣旨や目的に合致するか。他の試験についてはどうか(開示が制度の趣旨や目的に合致する試験は存在するか)。合致しないとすれば、その理由はどのようなものであるか。
〔参考:東京地判平成
15年8月8日判例集未登載は、争点とされた記述式問題が「受験者の主観的見解」を問うものではなく、語句を記入させる問題などと本質的に異ならないとして、原告の請求を認容したが、東京高判平成16年1月21日判時1859号37頁は原判決を取消し、請求を棄却した。一審判決については、法令解説資料総覧法令解説資料総覧2003年5月号(通巻256号)に掲載の拙稿がある。なお、本件は上告中。〕W.行政事件訴訟
(1)取消訴訟の対象
◎演習問題
事例1:山口県A村にある企業Xは火薬製造業を営んでいる。或る日、Xの工場が火薬の爆発によって消失したので、Xは山口県知事に対し、工場の建築許可を申請した。消防法第7条の規定により、A村消防長Yの同意が必要とされるので、Xは記名押印を済ませた同意書を山口県のB土木事務所に提出した。しかし、翌日、YはB土木事務所長に同意の取消しを通告した。Xは、この取消しを不服として出訴した。Yは、消防長の同意が知事に対する行政機関相互間の行為であり、行政処分に該当しないと主張している。
〔参照:最一小判昭和
34年1月29日民集13巻1号32頁。同じような結論を出した判決として、成田新幹線訴訟に関する最二小判昭和53年12月8日民集32巻9号1617頁がある。当時の運輸大臣と日本鉄道建設公団との関係であり、一応は、運輸大臣から成田新幹線の建設が指示され、日本鉄道建設公団が運輸大臣に工事実施計画の認可を申請し、運輸大臣が認可処分を出している。〕事例2:山口県は、都市計画法に基づき、下関市を中心とする地域を一体として都市計画区域に指定し、整備を行おうとしていた。このため、国土交通大臣の認可を受け、土地区画整理事業計画の公告を行った。しかし、事業が進捗しないため、山口県は事業計画を変更し、再び国土交通大臣の認可を受けた。これに対し、実施区域内にて建物を所有するX1、賃借するX2などが事業計画の無効確認などを求める訴訟を提起した。X1やX2などの訴えは訴訟の要件を充たしているか。
〔参照:最大判昭和
41年2月23日民集20巻2号271頁。都市計画法上の地域指定については、最一小判昭和57年4月22日民集36巻4号705頁を参照。〕(2)取消訴訟における原告適格(行政事件訴訟法第9条)
◎演習問題
事例1:山口県内の某自治体にある遺跡は、駅前再開発および鉄道高架工事のための代替地の候補となっていた。そこで、山口県教育委員会は、文化財保護条例に従い、史跡指定解除処分を行った。これに対し、この遺跡を学術研究の対象としてきた県内の某大学教授Xらは、史跡指定解除処分の取消しを求めて出訴した。Xらの原告適格は認められるべきか。
〔参照:最三小判平成元年6月
20日判時1334号201頁。この他、最判昭和33年8月18日民集13巻10号1286頁、最三小判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁を参照。〕事例2:某月某日、国土交通大臣は、山口宇部空港から大連までの定期航空運送事業免許を某航空会社に与えた。これに対し、近隣住民のXは、騒音によって健康や生活上の利益を害されると主張し、この免許の取消しを求めて出訴した。Xの主張は認められるか。
〔参照:最二小判平成元年2月
17日民集43巻2号56頁。一応は法律上保護された利益説を採用するが……。〕事例3:企業Aは、X市内にB競輪場の場外車券売場を設置する計画を進めていた。これに対し、X市内の住民から反対の声があがり、X市議会も設置反対の決議を行った。しかし、A、およびB競輪場の管理者B市は計画を進め、
2003年9月9日、国のY省から設置許可が出された。X市は、AおよびB市と何度も協議を行ったが、何の進展もなかったため、Y省大臣を相手取り、設置許可の取消しおよび無効等確認を求める訴訟を提起した。そもそも、地方自治体は抗告訴訟を提起しうるのか。また、この場合、X市には原告適格が認められるのか。〔参照:大分地判平成
15年1月28日判例タイムズ1139号83頁、および法令解説資料総覧法令解説資料総覧2003年5月号(通巻256号)に掲載の拙稿。なお、福岡高等裁判所の段階で訴えが取り下げられた。〕(3)取消訴訟における(狭義の)訴えの利益
◎演習問題
事例1:山口県内において土地改良事業が行われていた。その地域内に住むXは、土地改良事業施行認可の取消しを求めて出訴したが、訴訟係属中に土地改良事業に関する工事や換地処分が全て終了し、原状回復は不可能となった。Xの訴えの利益は消滅したか。
〔参考:最二小判平成4年1月
24日民集46巻1号54頁。なお、建物所客命令に対する取消訴訟が提起されたが、その建物が判決時よりも前に除却された場合と比較すること。〕事例2:山口県職員のAは、山口市建築主事乙に対し、建築基準法第6条第1項に基づいて重量鉄骨の三階建ての住宅の建築確認申請をし、乙から確認処分を得た。これに対し、近隣住民の甲は、通路の構造などに問題があること、火災の危険があることなどを理由として、建築審査会に対して審査請求を行い、その裁決を得た上で確認処分の取消しを求めて出訴した。しかし、出訴の段階において、Aの建築物は完成していた。甲は訴えの利益が存在すると主張している。
〔参照:最二小判昭和
59年10月26日民集38巻10号1169頁。検査済証の交付や違反是正措置命令には……。〕事例3:山口県議会議員の甲は、議会を除名された。このため、除名処分の取消しを求めて出訴した。しかし、係争中に議員の任期が終了し、県議会議員選挙が行われた。この場合、甲には訴えの利益が存在するのか、それともそれは消滅したのか。
〔参照:最判昭和
40年4月28日民集19巻3号73頁。また、放送局免許の競願者に対する拒否処分については、最三小判昭和43年12月24日民集22巻13号3254頁がある。〕◎その他の問題(行政事件訴訟法が適用されるものではなく、民事訴訟なのですが、便宜上、ここで扱います。)
事例:甲市は、パチンコ屋、ゲームセンター、ラブホテルなどの建築を規制するため、条例を制定した。この条例によると、上記の営業を甲市において行おうとするものは市の同意を得なければならないとされていたが、業者乙は、甲市の同意を得ずにパチンコ屋を建築しようとしていた。このため、甲市は条例により、建築工事中止命令を発した。しかし、乙はこれに従わず、建設を続行したため、甲市は、乙を相手取り、この命令に従って建設を中止することを求める訴訟を提起した。さて、この事案については、どのような判断を下すべきであるのか。
〔参照:最三小判平成14年7月9日民集56巻6号1134頁(判時1798号78頁)、「宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例」(昭和58年宝塚市条例第19号)第8条など。裁判所法第3条第1項に注意すること。〕
X.法律と条例との関係
◎演習問題
事例1:屋外広告物法・条例に関する仙台市の事件(7月
20日付河北新報。別紙)と同様の事件が山口県内において生じた場合、山口県屋外広告物条例(名称はともあれ、同種の条例)においては、どのように対処すべきであるか。主要駅周辺で違法なビラが多く、住民から多くの苦情が出ており、住民が自発的にビラをはがせるようにするためには、行政から住民への委任が必要か。事例2:「日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例」(別紙)。自転車競技法(昭和
23年法律第209号)、競馬法施行令(昭和23年政令第242号)、小型自動車競走法施行規則(昭和25年通商産業省令第46号)およびモーターボート競走法施行規則(昭和26年運輸令第59号)との関係。日田市において実際に問題となったのは自転車競技法第4条との関係である。事例3:「宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等に関する条例」と建築基準法、風俗適正化法などとの関係。
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