行政法小演習室・その8  解説など

 

 

1.この問題は、私が時々使う言葉を用いるならば「超サービス問題」である。但し、侮ってはならない。

  (1)各5点。計15点。

政令 :憲法第7条第1号は、法律や政令などの公布を天皇の国事行為とするので、形式的には天皇が発令権者と解することも可能ではある。しかし、このような解釈は、日本国憲法の趣旨にそぐわない。従って、憲法第73条第6号により、内閣が発令権者であると解するのが妥当である。

  内閣府令:内閣総理大臣が発令権者である。

  省令:各省大臣が発令権者である。

  「国務大臣」と記されたものも多く、正解としたが、本当は不正確である。たしかに、内閣法第3条第1項により、国務大臣は「主任の大臣として、行政事務を分担管理する」のであり、各省の大臣として行政事務を担当するのが原則である。しかし、同第2項は「行政事務を分担管理しない大臣」、いわゆる無任所大臣を置くことも許容する規定である。また、同第13条第2項は、内閣官房長官が国務大臣であることを規定するから、明らかに省令の発令権者ではない。この他、内閣府設置法第9条により、内閣府に特命担当大臣を置くことができるが、これも明らかに省令の発令権者ではない。

  (2)各10点。計40点。設問の後半で「その規定を正確に書き写」すことを求めているので、これがなされていない場合には5点減点となる。

  政令:これについては、憲法第73条第6号(但し書き)と内閣法第11条の二つを記す必要がある。

  憲法第73条第6号:この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

  内閣法第11条:政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない。

  内閣府令:内閣府設置法第7条第4項である。「内閣府令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。」

  省令:国家行政組織法第12条第3項である。「省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。」

 

2.(1)は5点。(2)は10点。

  (1)誤っているものは@である。残りはすべて正しい。

  (2)@を修正したものの例は、次の通りである。

  「法律Aは、その適用対象の具体的な範囲については政令で定めることにしている。その政令は、委任命令に該当する。

 

3.(1)は5点。(2)は10点。

  (1) 誤っているものはAである。残りはすべて正しい。なお、告示の法的性格については様々な議論があるが、Cにあるように、単に何らかの事実を公に知らせるだけのものもあるし、学習指導要領のように行政立法のうちの法規命令に該当すると解されているものもある。

  (2)Aを修正したものの例は、次の通りである。

  「告示は、国の行政機関が行うことができるとともに、地方公共団体の行政機関が行うこともできる。」

 

4.正答はDである。これは、最三小判昭和431224日民集22133147頁の趣旨である。

  @は誤り。日本国憲法の下では、行政機関が法律に基づくことなく独自の立場で制定する独立命令 は全く認められていない。

  Aも誤り。公布も要件の一つである。

  Bも誤り。執行命令を制定する際には法律の一般的な授権だけで足りる。

  Cも誤り。行政規則を発する際の法形式について定める法律は存在しないので、告示、訓令、通達 といった形式以外であってもよい。

 

5.正答はCである。これは、最三小判平成3年7月9日民集45巻6号1049頁の趣旨である。

  @は誤り。たしかに、執行命令は委任命令と異なり、権利義務の内容を新たに定立するものではなく、具体的な法律の根拠も必要でないが、法規命令の一種ではあるから、法規としての性質 は認められる。

  Aも誤り。この選択肢の前半は正しいが、後半が誤っている。通達は裁判所を拘束しないし、通達に示された解釈に従ってなされた行政処分 が適法であるとは限らない。従って、行政処分の適法性の判断にあたって、裁判所が当該通達の内容を考慮する必要はない。

  Bも誤り。最三小判昭和431224日民集22133147頁の趣旨などから、仮に違法な通達が発せられ、そのために国民に不利益が及ぶような場合であっても、その通達自体を争うことはできない。そのことから、通達に対する法的規制は、行政内部は別として、外部からは行いえないということになる。但し、学説においては異論も強い。

  Dも誤り。学習指導要領は文部科学省の告示であるが、同省は法的な拘束力があると主張している。最一小判平成2年1月18日民集44巻1号1頁も、学習指導要領に法規としての性格が認められると判断している。

 

6.正答はDである。通達は行政規則の一種であるから法規としての性格を有しない。従って、行政機関が通達に反する行為を行っても、それだけで直ちに違法・無効ということにはならない。

  @は誤り。名称が紛らわしいのであるが、地方公共団体の長が定める規則は、行政規則ではなく、法規命令としての性格を有する。参考までに紹介しておくと、地方自治法第15条第1項は「普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。」と定め、同第2項は「普通地方公共団体の長は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、普通地方公共団体の規則中に、規則に違反した者に対し、五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。」と定める。

  Aも誤り。「国民の権利や義務に対し直接法的影響を及ぼすもので、その制定に関し法律の授権を必要とする 」のは法規命令、とくに委任命令である(執行命令の場合はとくに法律の授権を必要としない)。

  Bも誤り。行政規則が効力を得るためには公示を必要としていない。なお、指令 も行政規則としての性質を有することが多い。

  Cも誤り。政令は法規命令の代表である。

 

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