行政法小演習室・その9 解説など
1.〔各5点。計20点〕
ア.は誤っているので2を選ぶ。「通達は上級行政機関が関係下級機関・職員に対してその職務権限の行使を指揮する等のために発するものである」という部分は正しいが、その後が誤っている。通達は行政規則の一種であり、行政作用法の根拠はとくに必要とされていない。
イ.は正しいので1を選ぶ。前述のように、通達は行政規則の一種であるから、内部的効果しか有しない。従って、裁判所は、法令の解釈運用の際に訓令・通達の拘束を受けることはない。
ウ.も正しいので1を選ぶ。前述のように、通達は行政規則の一種であって内部的効果しか有しないから、本来であれば、通達に反する措置を行政庁が執ったとしても違法にはならないはずである。しかし、平等原則の観点からすれば、通達に従った措置が多く執られているのにそれとは異なる措置が執られるとすれば、違法と判断される余地がある。
エ.も正しいので1を選ぶ。行政指導の内容となるべき事項を通達で定めることは、一種の基準設定として、むしろ望ましいとも言いうる。
2.〔各5点。計60点〕
A.は正しいので1を選ぶ。とくに記すべきことはない。
B.も正しいので1を選ぶ。とくに記すべきことはない。
C.も正しいので1を選ぶ。とくに記すべきことはない。
D.は誤っているので2を選ぶ。国土開発計画や市町村の基本構想は、私人に対して法的拘束力をもたない計画の例である。
E.は正しいので1を選ぶ。実際の行政は、何らかの計画に基づいて動いていると考えてもよい。
F.は誤っているので2を選ぶ。状況の変化に応じて行政計画を改定することは、むしろ必要であり、望ましい。
G.も誤っているので2を選ぶ。行政計画には、法律の根拠に基づいていないものも多い。
H.も誤っているので2を選ぶ。行政計画は、原則として法律の根拠を必要としないこともあって、行政計画の策定に関する行政機関の裁量の幅は一般に広い。
I.も誤っているので2を選ぶ。行政計画に関する特別の訴訟制度は行政事件訴訟法などに規定されていない。
J.は正しい。最大判昭和41年2月23日民集20巻2号271頁を参照されたい。
K.も正しい。最小三判昭和56年1月27日民集35巻1号35頁などを参照されたい。行政計画を変更したり中止したりすること自体は、よほどのことがなければ違法ではない。しかし、その行政計画の存続を信頼した者との関係では違法となりうるのであり、損害をこうむった者は国家賠償または民法第709条による損害賠償を請求できる場合がある。
L.も正しい。前掲最小三判昭和56年1月27日については、法律構成として損失補償のほうが相応しいとする考え方もある。また、東京都で行われる予定であった都市博覧会が中止されたことにより、東京都は損失補償を関係企業に支払ったという事実もある。
3.〔5点〕
正答は@である。国民に対し、権利制限的な法効果を有する計画として、都市計画法第7条による市街化区域および市街化調整区域の設定、同法第29条による市街化区域内および市街化調整区域内の開発行為許可制度、土地区画整理事業計画などがある。
なお、念のために記しておくが、行政計画が権利制限的な法効果を有するからといって、処分性が認められるものとして抗告訴訟(とくに取消訴訟)で争いうるか否かは別の問題である。
Aは誤りである。行政手続法には行政計画の策定手続に関する規定が存在しない。そのため、計画の策定手続において利害関係を有する住民の意見を聞く、などの手続は、個別法での規定の有無の問題となる(ちなみに、政令や省令などについては行政手続法の規定が存在する)。
Bも誤りである。最一小判平成
4年11月26日民集46巻8号2658頁によると、都市再開発法に基づく第二種市街地再開発事業計画の決定が公告された後には、施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすことになり、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。Cも誤りである。土地区画整理法に基づく土地区画整理事業計画に関しては昭和41年2月23日民集20巻2号271頁がある。この判決によると、この事業計画により、宅地、建物等を所有する者が土地の形質の変更、建物等の新築、改築、増築等につき一定の制限を受けることにはなるが、そうした制約は「事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限」ではなく、「事業計画自体ではその遂行によって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが、必ずしも具体的に確定されているわけではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たる性質を有するにすぎない」から、取消訴訟の対象にはならない。
Dも誤りである。地方公共団体の計画した施策により、特定の者に、当該施策に適合する特定内容の活動を促す個別具体的な勧告、勧誘があったならば、当該施策への信頼に対して法的な保護を与える必要はある。最小三判昭和56年1月27日民集35巻1号35頁などを参照。
4.〔(1)は両方正解で5点。(2)は10点〕
(1)【A】:裁判所法第3条第1項
【B】:法律上の争訟(←法律の規定にある言葉で、法律学の術語でもあるから、正確に記すこと。)
(2)事件性の要件Tは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否(これには刑罰権の存否をも含む)に関する紛争であること、という内容である。従って、裁判所の救済を求めるには、原則として自己の権利または法律によって保護される利益の侵害という要件が必要とされることとなる。
次に、事件性の要件Uは、事件性の要件Tを充足した上で、その事件が法律を適用することにより、終局的に解決されうるものであること、という内容である。