行政法小演習室・その10  解説

 

1. 正答はCである。降職は、国家公務員法第78条に規定されている。同第82条に規定される懲戒処分と異なり、分限が処分であることは明文で示されていないが、職員本人の「意に反して」行うことができるとされているから、行政処分であることが前提となっている。なお、行政処分という言葉は行政行為とほぼ同義に用いることも多く、教科書によっては行政行為ではなく行政処分という言葉を用いているが、注意しなければならないのは、行政事件訴訟法第3条第2項にいう「処分」は行政行為のみを指すとは限らないという点である。ややこしいのであるが、これは仕方のないことである。

  ここで、行政行為の定義を再確認しておこう。行政行為は、行政庁が、法律(「法令」とする例も多い)に基づき、優越的な意思の発動または公権力の行使として、国民に対して具体的な事実について直接的に法的な効果を生じさせる行為である。

  @は行政行為ではなく、行政契約に該当する。払い下げは売却を意味する。

  Aも行政行為にはあたらない。国会 は立法府であるから行政行為をなす訳がない。官報による公示は内閣によって行われるが、これは国民一般に法律の公布などの事実を知らせる行為であり、特定の国民に対して具体的な事実について直接的に法的な効果を生じさせるものではない。

  Bも行政行為にはあたらない。この選択肢には「知事が建築許可基準を決める 」と書かれているので、これが基準設定行為、さらに言うならば行政規則の制定行為に該当することは明らかである。その際に「消防署長の意見を聴取」することはあるが、これも行政内部の行為であるにすぎない。ちなみに、最一小判昭和34年1月29日民集13巻1号1頁は、建築許可(臨時建築制限規則に基づく)の際に必要とされた消防所長の同意(消防法第7条)が行政行為に該当しないという趣旨を述べている。

  Dも行政行為に該当しない。国会であれ地方公共団体の議会であれ、「議員がゴミ焼却場建設の計画書を議会に提出 」する行為は、立法権の内部の行為であり、外部的な効果を生じさせない(地方公共団体の議会は立法機関として扱われないが、実質的には立法機関そのものである)。最一小判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁も参照のこと。

 

2.正答はDである(但し、Cについての説明を参照) 。既に掲げておいた行政行為の定義をみれば、国などの行政機関相互の協議や同意などは内部的な行為であり、行政行為に含まれない。

  @は誤り。或る行為が行政行為であるか否かは、単に対象が特定されているか否かで決まる訳ではない。行政立法は一般的・抽象的に国民の法的地位なり権利義務の範囲なりを定めるにすぎないのが原則であり、行政行為には該当しない。例外として、行政立法であっても特定範囲の国民の法的地位や権利義務などの範囲を確定するものであれば、行政行為に該当することとなる。選択肢の記述は、法的地位や権利義務の範囲の確定という趣旨が示されてないので、誤りである。

  Aも誤り。かつて、行政行為の定義については見解が分かれていたが、田中二郎博士による定義(上述の定義も同旨である)が決定的なものとなり、現在、公法上の契約を行政行為 に含める見解はほとんど存在しない。

  Bも誤り。申請の有無は行政行為の性質と関係がない。免許(大部分は講学上の許可に該当する)は、たいてい、私人の申請を前提とするが、その申請の内容などを審査して免許をなすか否かを決定するのはあくまでも行政庁である。従って、免許もまさに「行政庁が国民の権利・義務を一方的判断で決定する行為」としての性質を有することとなる。

  Cも誤り。そもそも、行政行為が「国民の権利・義務に影響を与えるものである」以上、必ず、何らかの「法的効果を伴うもの 」である。その点においてこの選択肢の記述は誤っている。

  なお、「国民に対し任意的な協力を求める行政指導であっても、国民の権利・義務に事実上の影響を与える場合は行政行為に含まれる 」という記述も誤りであり、概念上、行政指導が行政行為として扱われることはない。しかし、行政事件訴訟法第3条第2項にいう「処分」は行政行為に限られず、行政指導であっても「処分」に該当することはありうる。最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁は、病院開設中止勧告を「処分」であると述べる。但し、この判決の射程距離はいまひとつ明確でなく、多分に法的構造に左右されるのではないかと思われる。

 

3.(1)正答はCである。公有水面については私人がそもそも埋立の権利などを有していないという前提がある。従って、埋立免許は、私人に対し、公有水面の埋立の権利を設定する行為である。

  @は誤り。農地法による権利移動の許可は、一定の作為、給付又は受忍を命じるという性質を有しない。学問上の分類に従うならば認可である。

  Aも誤り。「作為、給付又は受忍の義務を特定の場合に特定人に解除する行為」は免除である。許可は一般的な禁止(不作為義務)を特定の私人に対して解除する行為である。なお、医師法による医師免許が学問上の許可であるとする部分は正しい。

  Bも誤り。「一般的禁止を特定の場合に特定人に解除する行為」は許可である。なお、「学校教育法による就学義務の猶予・免除」を学問上の免除であるとする部分は正しい。就学義務は、法律によって与えられる「作為、給付又は受忍の義務」であり、これを猶予または免除するというものであるからである。

  Dも誤り。自動車運転免許は、一般的な禁止を特定の要件に該当する私人に対して解除するものであるから、学問上の分類では許可に該当する。従って、認可に該当しない。

  (2)それぞれ、次のように修正することができる(あくまでも一例である。この他の修正例については、各自で考えていただきたい)。

  @形成的行為である認可は、第三者の法律行為を補充してその法律上の効果を完成させる行為であり、その例として農地法による権利移動の許可がある。

  A命令的行為である許可は、一般的な禁止(不作為義務)を特定の私人に対して解除する行為であり、その例として医師法による医師免許がある。

  B命令的行為である免除は、作為、給付又は受忍の義務を特定の場合に特定人に解除する行為であり、その例として学校教育法による就学義務の猶予・免除がある。

  D命令的行為である許可は、一般的な禁止(不作為義務)を特定の私人に対して解除する行為であり、その例として道路交通法による自動車運転免許がある。

 

4.(1)正答は@である。これは教科書どおりの記述といってよい。

  Aは誤り。許可を受けるべきところを受けないで行った行為は、強制執行や処罰の対象となる。しかし、原則として、その行為は直ちに無効とされない。

  Bも誤り。私権を設定する行為も特許の対象となる。

  Cも誤り。許可の対象は事実的行為に限られない。なお、許可を命令的行為とする説明は正しい。

  Dも誤り。認可は法律的行為の効力の補充と完成を行うものであるが、前提としてその法律的行為が有効なものでなければならない。従って、取消原因があれば、認可を受けた後にも取り消すことが可能である。

  (2)それぞれ、次のように修正することができる(あくまでも一例である。この他の修正例については、各自で考えていただきたい)。

  A許可を受けるべき行為を許可を受けないでした場合は、禁止違反として強制執行または処罰の対象となるが、当該行為は原則として無効とはならない。

  B特許は、公権力により権利能力、行為能力、特定の権利または包括的な法律関係を設定するものであるから、私権を設定する行為も特許の対象となる。

  C許可は、一種の命令的行為で、一般的な禁止を特定の場合に解除し、適法に一定の行為をする自由を回復する行為であり、その対象は事実的行為に限られない。

  D認可は、他の法主体の法律的行為の効力を補充し、これを完成させる行為であるが、認可の対象となる行為に取消原因がある場合には、当該行為の効力は認可により確定し た後であっても、当該法主体は取り消すことができる。

 

5.それぞれ、次のようになる。

  Aの「国税通則法に基づく租税滞納者に対する督促」は通知に該当する。

  Bの「公職選挙法に基づく公の選挙における当選人の確定」は確認に該当する。

  Cの「戸籍法に基づく婚姻届の受理」は受理に該当する。

  Dの「住民基本台帳法に基づく住民登録」は公証に該当する。

  Eの「建築基準法に基づく建築確認」は確認に該当する。なお、許可と理解する見解もある。

 

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