行政法小演習室・その11  解説

 

 

1.これは、行政行為の効力、とくに公定力および不可争力を確認するための問題である。

  (1)公定力の定義は、次のようなものである。

  行政行為が違法である場合であっても、無効である場合を除いて、取消権限のある者(行政行為をした行政庁、その上級行政庁、不服審査庁、裁判所)によって取り消されるまで、何人もその行為の効力を否定できない、という効力をいう。

ポイントは次のとおりである。

@行政行為が違法であっても、無効である場合を除いて効力が存在するということ。

A違法と無効とは区別されるということ。より正確に言えば、違法であっても有効であることが原則であり、無効であるのは例外であるということ。

B取消権限のある者のみが行政行為を取り消しうること。言い換えれば、行政行為の相手方である私人のほうから取り消すことはできないということ。

(2)公定力の法的根拠は、行政事件訴訟法に定められる取消訴訟制度である。同法第3条第2項において「処分の取消しの訴え」が定義され、第8条以下においてその手続が定められている。

行政行為をした行政庁自身が職権により取り消す場合などは別にして、私人が行政行為を取り消してもらいたいと思って裁判所に訴えるならば、取消訴訟制度によらなければならない。このため、取消権を有する者でなければ、私人であれ裁判所であれ他の行政庁であれ、その処分の効力を否定することはできないということになる。

(3)まず、損害賠償請求との関係については、行政行為によって私人が損害を受けた場合、直ちに国家賠償請求訴訟を提起してよいとする(取消訴訟を先に提起する必要はない)。刑事訴訟との関係については、行政行為に違反した者が刑事訴追を受けた場合、行政行為が違法であると主張するに際して、刑事訴訟において主張すれば足りる。以上の趣旨が示されていればよい。

(4)行政行為の不可争力(形式的確定力)とは、一定の期間を経過すると、私人の側から行政行為の効力を争うことができない、という効力である。この根拠も、一般的には行政事件訴訟法第14条および行政不服審査法第14条に求められる。

注意しなければならない点は二つある。

@無効の行政行為に不可争力は存在しない。

A行政庁の側からの職権取消や撤回を妨げない。

 

2.正答はCである。前問の(3)で正しく解答できれば、この問題は簡単であったはずである。

@は誤り。これは典型的な「ひっかけ」である。「その違法が重大又は明白であるときに無効となる」のではなく、「その違法が重大かつ明白であるときに無効となる」とするのが判例である。

Aも誤り。この文章自体がおかしなものであることは、少しばかりの注意を払えばすぐにわかるであろう。そもそも、行政行為が無効であれば、わざわざ取り消しを請求する必要がない(無効を確認してもらう必要はあるので、無効等確認訴訟が行政事件訴訟法に規定されている)。取消訴訟は行政行為を取り消すための訴訟であるから、行政行為が違法であれば裁判所はその行政行為を取り消すことができる。

Bも誤り。無効確認判決は、文字通り、行政行為が無効であることを確認する判決である。無効な行政行為は当初から効力がないのであるから、そのような行政行為には何人も従う必要がない。なお、無効確認判決については、行政救済法の講義において勉強していただきたい(常にこの訴訟を提起することができる訳ではないからである。行政事件訴訟法第36条を参照)。

Dも誤り。瑕疵ある行政行為を行政庁が取り消すこと(これを職権取消という)は、明文の根拠がなくともできる。その理由については見解が分かれるが、法律による行政の原理から説明するという説が比較的多いであろうか。この原理からすれば、違法な状態はできるだけ速やかに除去されることが望ましいからである。

 

3.これは、最一小判昭和48年4月26日民集27巻3号629頁を題材にした問題である。事例が特殊なものであるとも言え、重大明白説が適用されていない点に注意が必要である。

正答はCである。この選択肢に書かれていることを繰り返すが、課税処分は課税行政庁と被課税者との間のものであり、土地の所有権の移転などが関係する訳ではないから、第三者を考慮する必要がない。そのため、課税処分がもたらす不利益を甘受させることが著しく不当であると認められるような例外的な事情がある場合には、課税処分を当然に無効であると解すべきである。

@は誤り。課税処分は、その処分の存在ないし存続を信頼する第三者の保護の要請を伴わないのが一般である。

Aも誤り。違法であるから当然に無効であるという訳ではない。違法な行政行為、すなわち瑕疵ある行政行為のうち、その違法性(瑕疵)が重大かつ明白である場合に、初めて無効と言いうる。

Bも誤り。正答についての解説を参照。

Dも誤り。既に述べたように、この事例は特殊とも言えるものであって、瑕疵の明白性を要件にしていない判決はあまりない。むしろ、判例は、瑕疵の重大性および明白性を無効の要件とする態度を基本としている。

 

4.正答はCである。行政行為の中には、異議申立てに対する決定や審査請求に対する裁決のように、事実関係や法律関係についての争いを公権的に裁断することを目的とする行政行為がある。このようなものが簡単に職権で取り消されたりすると、事実関係や法律関係の安定を欠くことになり、問題がある(裁判所が確定判決を取り消したらどうなるかを考えてみるとよい)。そこで、この種の行政行為については不可変更力が認められ、行政庁が職権で取り消すことが認められなくなる。

@は誤り。第2問のDについての解説において述べたように、行政行為の職権取消については、授益的行政行為であるか侵害的行政行為であるかを問わず、法律の根拠を必要としない。その理由として法律による行政の原理が援用される。法律に従った、すなわち適法な行政活動が要請されるのであるから、違法な行政行為があれば、適法な状態に戻すためにもできるだけ速やかに行政行為が取り消されることが求められる、という訳である。

Aも誤り。職権取消の効果は、明文の有無にかかわらず、遡及するのが原則である。ただ、授益的行政行為の場合にこの原則を貫徹すると相手方及び第三者の信頼を著しく害する場合があるので、信義誠実の原則により、将来に対してのみ取消の効果が発生すると理解しているにすぎない(しかも、常にそうであるという訳でもない)。

Bも誤り。上級行政庁は下級行政庁の権限行使などを監督する権限を有する。しかし、下級行政庁の行政行為を上級行政庁が取り消すことができるかについては議論がある。通説は、法律の根拠の有無にかかわらず、上級行政庁による取消を認める。また、実際に、上級行政庁が監督権の行使として下級行政庁の行政行為を取り消すことを明文で認めている法律が存在する。なお、このことと、上級行政庁による下級行政庁の権限の代替執行禁止とは、別の問題である。

Dも誤り。憲法第31条の趣旨からすれば、行政行為の取消についても聴聞手続を経ることが望ましいことは否定できない。行政手続法第13条第1項第1号イも、許認可等を取り消す「不利益処分」について聴聞手続が必要であると規定する。しかし、同条自体が例外を認めるほか、行政手続法第3条において適用除外を定めており、別の法律で適用除外を定めることもあるので、必ず聴聞手続を経なければならないとは言えない。

 

5.正答はDである。既に取り上げた行政手続法第13条第1項第1号イにいう「取り消す」には、職権取消の他、撤回も含まれる。

@は誤り。行政行為の撤回を行いうるのは、当該行政行為を行った行政庁のみである。

Aも誤り。たしかに、侵害的行政行為の撤回は自由に行うことができると言える。しかし、懲戒免職のような確定力を生じる処分についても自由に撤回することができるのであれば、安定性を欠くことになってしまうので、このようなものについては自由に撤回することができない。

Bも誤り。一概に、授益的行政行為の撤回は許されないとは言えない。勿論、相手方の信頼や利益を保護するため、一定の制約はあると解されている。そして、相手方の同意があった場合には撤回することができる。

Cも誤り。とくに明文の規定がある場合は別であるが、行政行為の撤回は遡及効を有しない(もし有するとするならば有害な結果が起こりかねない)。撤回理由が相手方の責に帰すべき事由があるときであっても、遡及効を有しないのである。

 

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