行政法小演習室・その12
大東文化大学法学部・行政法1(
2008年10月16日出題、10月30日締切)
1.(担当者作成。オリジナル問題)
以下の設問に答えなさい。
(1)公定力の定義はいかなるものか。2、3行程度で答えなさい。
(2)公定力の法的根拠は何か。法律の名称を記しなさい。
(3)公定力と国家損害賠償請求との関係、および公定力と刑事訴訟との関係について、通説・判例はどのような見解を示しているか。2、3行程度で答えなさい。
(4)行政行為の不可争力(形式的確定力)とはいかなるものであるか。また、法的根拠は何か。2、3行程度で答えなさい。
2.(平成14年度国家U種)
行政行為の瑕疵に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。
(注意:この種の問題の常識として、答えを一つだけ選ぶこと。)
@違法な行政行為があったとしても、当然に無効になるわけではなく、その違法が重大又は明白であるときに無効となるとするのが判例である。
A行政行為に違法があるとして取消訴訟を提起しても、当該行政行為が無効でなければ、裁判所は当該行政行為を取り消すことはできない。
B無効な行政行為とは初めから実体的法律効果を全く生じ得ない行為をいうが、当該行政行為の名あて人は、当該行政行為の無効確認判決を得なければ、これに従わなければならない。
C違法な行政行為によって損害を受けた者は、当該行政行為の取消しの判決を得ることなく、国家賠償を請求することができるとするのが判例である。
D行政庁が行う行政行為はすべて法律に従ってなされるべきであるから、法律上、明文で瑕疵ある行政行為を当該行政庁が取り消すことができる旨が規定されていなければ、当該行政庁はその行政行為を取り消すことはできない。
3.(担当者作成。オリジナル問題。参考:地方上級1998年)
次の事例を読み、判例に照らして妥当な記述を、次の@〜Dから一つ選びなさい。
原告X1の姉の夫Aは、X1およびその夫X2からの借金の担保とするために、また、自らが経営する会社の債権者からの差押えを回避するために、自らが所有する土地および建物について、X1およびX2に無断で登記の名義を変更した。しばらくして、Aの事業経営が不振となったため、Aはこの土地の売却を思い立ち、売買契約書などを偽造した上で土地を第三者に売却した。Y税務署長は、調査をした上でX1に建物の譲渡に関する所得が、X2に土地の売買による譲渡所得があったものとして課税処分を行い、さらに滞納処分を行った。X1およびX2は、この課税処分の無効を主張して出訴した。
@このような課税処分は、その処分の存在ないし存続を信頼する第三者の保護の要請を伴うから、瑕疵の明白性が証明されない限り、当然に無効であるとは言えない。従って、X1およびX2による無効の主張は正当でない。
Aこのような課税処分が違法である以上、当然に無効であり、裁判所が瑕疵の重大性などを考慮する必要はない。
Bこのような課税処分は、課税要件の根幹に関して重大な瑕疵があるとは言えないから、無効であるとまでは言えない。従って、裁判所は課税処分の無効を確認することはできず、取り消すことができるにとどまる。
C課税処分は課税行政庁と被課税者との間のものであって第三者を考慮する必要がないから、課税処分がもたらす不利益を甘受させることが著しく不当であると認められるような例外的な事情がある場合には、課税処分を当然に無効であると解すべきである。
D上のような事例に限らず、判例は、瑕疵の重大性を無効の要件としているのであって、瑕疵の明白性については要件にしていない。
4.(平成12年度労働基準監督官)
講学上の職権取消に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。
@行政庁が職権で瑕疵ある行政行為を取り消すためには、法律による行政の原理から、当該行為が相手方に対して授益的行政処分であるか侵害的行政行為であるかにかかわらず、取消しについて法律上の独自の根拠が必要である。
A瑕疵ある行政行為に対する行政庁の職権取消の効果を遡及させることは、相手方及び第三者の信頼を著しく害することになるから、法律上、遡及効果が発生する旨明文で定めているもの以外、行政行為の取消しの効果は、将来に対してのみ発生させる。
B上級行政庁による下級行政庁の権限の代替執行禁止という行政組織法上の原則から、およそ上級行政庁が監督権の行使として下級行政庁の行政行為を取り消すことを明文で認めている法律はない。
C異議申立てに対する決定や審査請求に対する裁決のように、事実関係や法律関係についての争いを公権的に裁断することを目的とする行政行為については、当該行政行為を行った行政庁が職権で取り消すことはできない。
D行政行為を取り消すに当たっては、適正手続の保障を定めた憲法31条の精神から、事前に相手方に意見開陳の機会を保障するために、必ず聴聞手続を経なければならないと解されている。
5.(平成11年度東京都)
行政行為の撤回に関する記述として妥当なのはどれか。
@行政行為の撤回は、当該行政行為を行った行政庁の監督官庁に限り行うことができる。
A侵害的行政行為の撤回は自由に行うことができ、懲戒免職のような確定力を生じる処分も自由に撤回することができる。
B授益的行政行為の撤回は許されず、相手方の同意があった場合でも自由に撤回することはできない。
C行政行為の撤回は撤回理由が相手方の責に帰すべき事由があるときは、遡及効を有するが、公益上の必要によるときは将来に向かって効果を生じる。
D授益的行政行為の撤回にあたる許認可の取消しについては、行政手続法において聴聞の手続を経ることが規定されている。
6.(平成3年度国家U種)
行政強制に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。
@行政上の強制執行は、義務の履行を強制するために人の身体または財産に対し新たな侵害を加えることを内容とするものであるから、法律の根拠に基づいてのみこれをすることができる。
A行政上の即時強制とは、行政法上の義務違反があり、しかも執行罰や代執行等他の強制手段によっては目前に迫った障害を除く暇のない場合に、直接に人の身体または財産に実力を加え、もって行政法上の義務の履行を強制する作用である。
B行政代執行法上の代執行とは、行政法上の義務違反がある場合に、行政庁がその義務の履行を求めて裁判所に訴えを提起し、それを認める確定判決を得た後、行政庁自らが義務者本人に代わってその義務を履行することをいう。
C行政上の即時強制は急迫の不正を除くことが目的であるが、人の身体または財産に強制を加えるものであるから、それがいかなる即時強制であっても、これを行なうには裁判官の発する令状によらなければならない。
D行政代執行法上の代執行の対象となるのは、行政法上の義務違反のすべてに及び、その義務の種類が作為義務であるか不作為義務であるかを問わず、また、義務者本人しか履行しえない義務であるかを問わない。
7.(平成16年度東京都)
行政上の強制執行に関する記述として、妥当なのはどれか。
@行政上の強制執行を行う権限は、代執行、執行罰、直接強制、強制徴収の4種類に整理され、その手続については、いずれも行政代執行法で定められている。
A代執行とは、他人が代わって履行できる義務を義務者が履行しない場合に、行政庁又は行政庁の指定する第三者が、義務者がしなければならない行為をして、行政庁がその費用を義務者から徴収する手続である。
B執行罰とは、他人が代わって履行できない義務の不履行がある場合に、一定の期限を示して義務者に義務の履行を促し、それまでに履行しないときには、一定額の科料を科するもので、行政罰の一種である。
C直接強制とは、目前急迫の行政違反の状態を排除するために緊急の必要がある場合に、あらかじめ国民に義務を課することなく、行政庁が国民の身体や財産に実力を加えて行政目的を実現することである。
D強制徴収とは、金銭給付義務が履行されない場合に、義務者の財産に実力を加えて、義務の履行を強制的に実現する手段であり、国や地方公共団体の金銭債権であれば、個別の法律による授権がなくとも行うことができる。
8.(平成16年度特別区)
行政代執行法に規定する代執行に関する記述として、通説に照らして、妥当なのはどれか。
@行政庁は、代執行を行う場合、義務者に対し、相当の履行期限を定め、その期限までに義務が履行されないときには代執行をなすべき旨をあらかじめ必ず戒告しなければならないが、この戒告は口頭で行えば足りる。
A行政庁は、他の手段によって義務の履行を確保することが困難でない場合でも、その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、代執行を行うことができる。
B行政庁は、第三者に代執行を行わせることができ、その費用を義務者から徴収することができる。
C行政庁は、事前に裁判所から代執行令書の交付を受けなければ、代執行を行うことができない。
D行政庁は、義務者が代替的作為義務を履行しない場合だけでなく、代替的不作為義務を履行しない場合でも、代執行を行うことができる。
9.(平成4年度地方上級)
次に掲げる事例のうち、行政庁甲が代執行を行うことが可能なのはどれか。
@甲は老朽化して危険な乙所有の木造住宅について、建築基準法上の権限に基づき取壊しを命じたが乙はそれを拒否した。
A甲は乙の営業する店舗につき、公衆衛生上問題があるとして法令に基づかない行政指導として、1ヵ月の営業停止を勧告したが、乙は営業を継続中である。
B甲は政治団体たる乙に、公道上のデモ行進についての許可をなしたが乙は許可の条件であった「他の交通を阻害しないこと」に著しく反したため、甲はデモ中止を命令したが、乙は行進を継続中である。
C乙は公務員を退職したにもかかわらず、公務員宿舎を継続して使用しているので、甲は立ち退きを要求したが、乙はなお居座っている。
D甲は要綱によって市街地建築物のネオン規制を行っているが、乙は長年の指導勧告にもかかわらず、要綱に違反しており、甲は改めて期間を定めて撤去を要求したが、乙は撤去を拒否している。
10.(平成元年度国家T種)〔やや発展的な問題。〕
行政強制に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。
@監督行政庁が、法令に基づいて適法に営業停止処分を行ったにもかかわらず、業者がこれに違反して営業を継続している場合には、当該行政庁は代執行によって営業所を閉鎖することができる。
A旧性病予防法による強制検診や、廃止されたらい予防法による国立療養所への強制入所などは、即時強制の例である。
B代執行を行うには義務者が単に義務を履行しないことのみでは足りず、他の手段によってその履行を確保することが不可能であることを必要とする。
C国税は、国民の憲法上の義務とされる納税の義務に基づいて徴収されるものであるから、一般債権に優先する効力を有し、滞納処分による差押えに関して、民法177条の適用される余地はないとするのが判例である。
D違法建築物の所有者を相手として建築除去の代執行をする際に、当該建物に賃借人として入居している者の家財道具を搬出する行為は違法ではない。
付記:10月23日(木)は休講(大学院法学研究科秋季入試のため)。従って、今回の課題の提出日は10月30日です。メールでの提出の場合は、30日午前0時とします。