行政法小演習室・その13  解説

 

 

1.正答は@である。まず、行政上の強制執行の前提として、義務の履行を行政行為によって命じておく必要がある(直接、法令によって義務づけられる場合もある)。その義務が履行されない場合に強制執行に至るのであるが、義務の履行を強制するために人の身体または財産に対し新たな侵害を加えることを内容とするから、先の行政行為とは別に法律の根拠を必要とする。また、行政上の強制執行は裁判所の判決を必要としない。

Aは誤り。行政上の即時強制は、事前に行政法上の義務違反がある必要はない。従って、事前に義務の履行を促すような行為を必要としない。

Bも誤り。行政代執行法上の代執行については、裁判所に訴えを提起し、確定判決を得る必要がない。むしろ、行政上の強制執行が可能な場合であれば、裁判所に民事上の強制執行手続を求めることは許されない、とするのが判例である(最大判昭和41年2月23日民集20巻2号320頁)。

Cも誤り。即時強制は急迫の不正を除くことが目的である。そのため、人の身体または財産に強制を加えるものであるとは言え、裁判官の発する令状を必要としないとも考えられるであろう。また、判例も、即時強制に際して令状主義が適用されるとはしていない。

Dも誤り。行政代執行法第2条を再度確認していただきたい。代執行は代替的作為義務のみを対象とする。非代替的作為義務(他人が代わってなすことのできない作為義務)および不作為義務は代執行の対象とはならない。

 

2.正答はAである。この選択肢の記述は代執行の定義そのものである。

@は誤り。代執行、執行罰および直接強制が強制執行として規定されていたのは行政執行法である(同法には強制徴収に関する規定もあったが、旧国税徴収法の規定によるとしていた。第6条。従って、強制徴収を強制執行の一種として規定していたとは言えない)。行政執行法は日本国憲法の制定に伴って廃止されており、現在の行政代執行法は代執行のみを定めている。執行罰および直接強制は、とくに法律の規定が存在する場合にのみ可能とされており、強制徴収の場合は国税徴収法の規定の例によることとなる。

Bも誤り。これは引っ掛け問題である。そもそも、執行罰は、「罰」と記すものの強制執行の一種であって罰ではないから、行政罰とは異なる。執行罰は、非代替的作為義務または不作為義務の不履行がある場合に、一定の期限を示して義務者に義務の履行を促し、それまでに履行しないときには、一定額の過料を科するものであり、刑罰としての科料を科すものではない。

Cも誤り。「目前急迫の行政違反の状態を排除するために緊急の必要がある場合に、あらかじめ国民に義務を課することなく、行政庁が国民の身体や財産に実力を加えて行政目的を実現すること」という説明は、即時強制に関するものである。直接強制は、予め義務が課されていることを前提としており、その義務が履行されない場合に、直接、義務者の身体または財産に実力を加え、義務の内容を実現する手続である(強制徴収の例を考えるほうがわかりやすいかもしれない。強制徴収が直接強制の一種であるためである)。

Dも誤り。この選択肢の前半は正しいが、「国や地方公共団体の金銭債権であれば、個別の法律による授権がなくとも行うことができる」という部分が誤っている。国税については国税徴収法の規定が一般的に適用されるが、それ以外のものの場合は国税徴収法で定める滞納処分の例によることを、法律の明文の規定で定める必要がある。

 

3.正答はBである。代執行は代替的作為義務を対象とするものであるから、行政庁が自ら行うことも可能であるし、第三者に行わせることも可能である。そして、その費用を徴収するものである。これらのことは行政代執行法第2条に定められている。

@は誤り。代執行の戒告は文書で行わなければならない(行政代執行法第3条第1項)。但し、非常の場合または危険切迫の場合には、戒告の手続を経ないで代執行を行うこともできる(同第3項)。

Aも誤り。行政代執行法第2条は、他の手段によって義務の履行を確保することが困難であることを、代執行の要件として求めている。

Cも誤り。行政代執行法第3条第2項の規定からではわかりにくいかもしれないが、代執行令書を交付するのは行政庁であって、裁判所ではない。そもそも、行政庁による代執行は、裁判所での手続を不要とするものである。また、戒告と同様、非常の場合または危険切迫の場合には、代執行令書の手続を経ないで代執行を行うこともできる(同第3項)。

Dも誤り。行政代執行法第2条をしっかりと読み、定義を覚えておきさえすれば、この選択肢の記述が誤っていることはすぐにわかるはずである。不作為義務は代執行の対象にならない。

 

4.代執行が可能なのは@である。住宅を取り壊す義務は代替的作為義務であるから、行政代執行法第2条に定められる要件を満たせば、代執行を行うことが可能である。

Aは可能でない。営業停止の勧告は行政指導であり、行政行為などではないから、何らかの義務づけを行うものではない。むしろ、行政指導に従うかどうかは乙の任意による(行政手続法第32条を参照)。なお、営業停止が不作為義務である点にも注意を必要とする。

Bも可能でない。デモ中止命令に従う義務は、デモ行進を継続している乙のみが履行することが出来るのであって、乙以外の者が乙に代わってなしうるものではない。

Cも可能でない。立ち退き要求は、非代替的作為義務を命ずるものの典型である。立ち退きは、退職後も公務員宿舎を継続して使用する乙にしかなしえない。

Dも可能ではない。そもそも要綱は行政規則の一種であって外部的な効果を有しない。そのため、国民に対して要綱によって何らかの義務づけをなすことはできない。また、指導や勧告も事実行為であって何らの法的効果も有しないから、いかなる義務づけもなしえない。

 

.これは、問題用紙に示したように平成元年度の国家T種の問題であり、やや発展的なものである。そのため、難しかったかもしれない。しかし、国家U種や地方上級などでも、時折ではあるが国家T種レヴェルと思われるものがあるので、注意していただきたい。

正答はDである。賃借人にとっては酷な話なので、妥当でないように思えるのであるが、代執行の目的を達成するためには違法建築物の除去をしなければならない訳であり、賃借人の家財道具を搬出せざるをえない。このため、賃借人の家財道具の搬出は、代執行に伴う行為として認められると理解されている。なお、この点に関する最高裁判所の判例は存在しないが、札幌地判昭和54年5月10日訟務月報25巻9号2418頁があるので、参照されたい(但し、事案は選択肢に書かれているものとは異なる)。

@は誤り。営業停止処分は不作為義務命令であるから、行政代執行法に規定される代執行を行いうる場合に該当しない。営業所を閉鎖するというのであれば、別の法律によって直接強制が認められていなければならない。

Aも誤り。強制検診や強制入所は、既に命じられた義務を履行しない場合に行われるものであり、直接強制の例である。仮に、義務を命じることなく、予告をなすこともなく行政庁が実力行使をするのであれば、即時強制に該当する。

Bも誤り。選択肢には「履行が不可能であること」と書かれているが、別に不可能でなければならない訳ではない。行政代執行法第2条によれば、代執行を行うには、単に義務者が義務を履行しないことのみではなく、「他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」でなければならないから、履行の確保が困難であればよいこととなる。

Cも誤り。これについては、公法と私法との区別に関して有名な最一小判昭和35年3月31日民集14巻4号663頁は、国税滞納処分による差押について民法第177条の適用を認めている。

 

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