サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第15編

 

  このところ、市町村合併の件に気を取られていて、サテライト日田問題のほうにまで手が回らなかったのですが、また新たな動きがみられたようなので、ここで記しておきます。なお、今回の内容についての情報は、「ひたの掲示板」に東京の古川昭夫氏が書かれていたところから得たものです。

 これまで、サテライト日田設置を許可した経済産業省(旧通商産業省)は、この問題について表立った動きを見せていなかったのですが、ようやく、解決に向けて動き出したようです。このことについては、2001年1月19日付の朝日新聞朝刊大分13版25面、毎日新聞朝刊大分版19面、西日本新聞1月19日付朝刊26面(大分)などが報道していますが、それぞれの記載に若干のズレが存在するように思われるので、記事の内容を紹介しておきます。

 まず、毎日新聞2001年1月19日付朝刊大分版19面によれば、経済産業省車両課は、毎日新聞社の取材に対し、《法的に条件を満たせば許可せざるを得ないとした上で「業者が建物を作るだけでは発券できない。別府市が『車券を売りたい』と明確な方針を持つから許可を出した」と経過を説明。さらに、日田市民の反対運動について「重く受け止めている。建設予定地周辺との調整はこれまでも指導したがうまく行かずに困っている」》旨を述べています。さらに、「許可から1年過ぎても開設に至らなければ、許可を取り消す場合もありうる。別府市の3月議会までに円満解決を目指す。内容は言えないが、既に両市への働き掛けを始めている」ことを明らかにしました。

 ここでいう設置許可の取消ですが、行政法学でいう撤回の可能性が高いと思われます。行政法学においては、取消と撤回とを区別しております。ここで少々説明を加えさせていただきます。

 取消とは、許可などの行政行為が違法であった場合に、その行政行為の効力を失わせることを意味します(その場合、原則として、その行政行為がなされた時点に遡って効力が失われます。これを遡及効といいます。但し、この問題における設置許可のような場合には、遡及効が否定されることも考えられます)。

 これに対し、撤回とは、許可などの行政行為が、成立時点において適法であったが、その後の事情の変化などにより、もはや存続させる意味が失われた場合に、その行政行為の効力を失わせることを意味します(この場合、原則として、遡及効がありません。但し、補助金適正化法第17条第1項のように、遡及効を認める場合もあります。この点につきましては、森稔樹「連邦行政手続法改正後における行政行為の撤回」佐藤英善=首藤重幸編・行政法と租税法の課題と展望[新井隆一先生古稀記念。2000年、成文堂]所収を参照して下さい)。

 何故、このような区別をするのでしょうか。例えば、自動車運転免許を考えて下さい。通常、自動車運転免許は、実技試験および学科試験に合格し、視力検査などを経て交付されますが、それらの際に不正などがなされなければ、適法に免許が交付されます。そうして得られた免許を有する者が、ある日、酒酔い運転か何かの理由で免許を「取り消された」とします。この時、遡及効を持ってしまうと、免許交付時から無効となりますから、彼は無免許運転だったという結論になります。これでは不合理ですから、区別する必要があるのです。

 経済産業省車両課の上記のコメントは、設置許可が適法になされたことを前提としております。既に何度か述べましたように、私も、今回の設置許可自体は適法であったと解釈しております。以前にも古川氏への反論として記しましたが、法的にみれば、たとえ不当な許可であったとしても、行政庁側に裁量が認められる限りにおいて、裁量の行使に逸脱または濫用がない限り、明らかに違法であるとは言えず、適法とされる範囲内にあるのです。しかし、今回の設置許可が結果として失敗であったということは否めません。経済産業省車両課自身、日本共産党大分県委員会が提出した設置許可取消要望書に対して「行政指導で解決すべき問題だった」と述べております(もっとも、何がその問題であるか、記事からは明確でない部分があります)。

 それでは、今回の設置許可を撤回するとして、その法的根拠は何でしょうか。実は、行政法学において、通説・判例によれば、行政行為の撤回は、それ自体が行政行為であるにもかかわらず、個別の法的根拠を必要としません〔例、塩野宏・行政法T[第二版増補](1999年、有斐閣)142頁〕。これに対して、許可のような行政行為の撤回については法的根拠を必要と考える説も存在しますが、経済産業省は通説・判例の立場を採っています。

 次に、2001年1月19日付の朝日新聞朝刊大分13版25面および西日本新聞1月19日付朝刊26面(大分)によれば、日本共産党別府市議団は、1月16日、同党の衆議院議員1氏および大分県議会議員1氏とともに経済産業省車両課長の瀬戸比呂志氏と交渉しました。その席上、瀬戸氏は「地域社会との調整を重視することは基本」であるという認識を示し、「日田市民の反対運動を重く受け止める。両市の対立は競輪事業のイメージダウンにもつながる。何とか円満に解決したい」と発言されたとのことです。また、既に日田市、別府市、設置業者の 溝江建設との折衝に向けて動いていることを認められたそうです。また、別府市議会3月議会が2月末に開会されるため、それまでに解決したいという旨を示されております。

 前回、私は、1月13日にサテライト日田建設予定地を訪れたが建設工事が進んでいないようであると記しました。昨年12月の別府市議会で継続審査となったことも原因としてあげられますが、おそらく、この時点で経済産業省が何らかの行動をとっていたものと思われます。

 さらに、1月18日、同党別府市議団(西日本新聞記事では北部地区委員会)は、別府市長の井上信幸氏に、サテライト日田設置断念を視野に入れつつ日田市との話し合いをすること、日田市が求めている市報べっぷ11月号の記事の訂正について文書で回答すること、発券などサテライト日田関連予算を取り下げることを申し入れました。

 しかし、別府市は、この問題についてとくにコメントなどを出しておりません。おそらく、市報べっぷ11月号掲載記事の訂正には、少なくとも直ちには応じないものと思われます。また、日田市との話し合いについては、既に何度か行われています。サテライト日田関連予算については、前回の市議会で継続審査となっておりますので、現段階では何とも言えません。

 おそらく、経済産業省が動き出した背景は、おそらく昨年12月9日の反対行動を中心とする日田市側の姿勢であり、そして、今年1月7日に放送された東京放送系の番組「噂の!東京マガジン」(残念ながら、大分県では放送されていません)でこの問題が取り上げられ、全国的な反響があったことであろうと思われます。また、日田市のホームページに設置されている掲示板の影響力を忘れてはいけません(私も長らくこの問題を追いかけてきましたが、このホームページについては、ほとんど影響力などないでしょう)。こうしたことからすれば、今回を含め、市議会議員の動きは、あまりにも遅すぎます。もし動くのであれば、遅くとも昨年の12月までが、タイミングとしては相応しかったと思われます(但し、別府市議会の日程などを無視しておりますので、御注意下さい)。

 なお、古川昭夫氏のホームページで、サテライト日田問題に関する資料が掲載されています。

 http://www.seg.co.jp/hanshaken/zenkoku/hita/index.htm

 

(2001年1月20日)

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