サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第16編
再び、僅か一日足らずで続編ということになりました。
ついに、日田市長の大石昭忠氏は、1月19日に開かれた日田市議会各派代表者会議の席上、経済産業省(または法務省)を相手取り、設置許可の取消または無効確認訴訟を提起する考えを明らかにしました。このことについては、2001年1月20日付の毎日新聞朝刊13版24面、西日本新聞朝刊15版37面、大分合同新聞朝刊朝F版25面などに掲載されています。また、朝日新聞朝刊13版31面および大分合同新聞朝刊朝F版25面は、日田市が別府市を相手取り、市報べっぷ2000年11月号掲載記事の訂正などを求める訴訟を提起する方針を固めたと報じております。こうした方針は、各派代表者会議で了承されております。しかし、地方公共団体が訴訟を提起するには、地方自治法第96条第1項第12号により、議会の同意を必要とします。このため、2月中旬にも臨時市議会が開催される模様です。議会が同意すれば(これまでの経緯から行けば、同意の可能性は非常に高いものと予想されます)、いよいよ、この問題が法廷に持ち込まれることになりそうです。
このことを受けて、日田市のホームページに設置されている「ひたの掲示板」には、再びサテライト日田問題で多くの意見などが書き込まれています。 また、別府競輪のホームページには「質問コーナー」がありますが、「ひたの掲示板」にも投稿されている方が1月7日に放送された「噂の!東京マガジン」に基づいて「質問コーナー」に書き込みをされていました。しかし、何の回答もなされていません。この質問が西日本新聞に取り上げられたこともあり、にわかに「質問コーナー」が活気付いてきたことは、皮肉な現象です。先の質問には何の回答もなされていないことから、日田市民の方による怒りの書き込みなどがなされています。別府市の対応が注目されるところです。本来ならば、「ひたの掲示板」および別府競輪の「質問コーナー」に書かれている質問や意見などを紹介すべきでしょうが、投稿された方々の同意を得ていませんので、今回はいたしません。このホームページをお読みいただいておれば、御連絡下さい(今月の分については、プリントアウトをし、保存しております)。
さて、新聞報道に戻りましょう。今回の動きに関して最も詳細な記事を掲載しているのは大分合同新聞ですが、それによれば、大石氏は、場外発券場設置について競馬と競艇に関しては地元の同意を法的な要件としているのに対し、競輪だけがそうでないことは法の下の平等に反すると述べ、さらに、 溝江建設に対する設置許可がなされた際に日田市に何らの通知もなされなかったことについて、国の説明責任の問題である旨を述べられております。また、別府市との交渉については、解決困難であるという内容の意見を示されました。
既に、日田市は、東京の法律事務所など法律の専門家に相談を持ちかけております。実は、経済産業省(または法務省)を相手取って訴訟を起こすとしても、要件などの問題があるからです。
参考:ここで法務省が登場しますが、「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」第1条によれば、「国を当事者又は参加人とする訴訟については、法務大臣が、国を代表する」こととされています。また、同法の第2条第2項によれば「法務大臣は、行政庁(国に所属するものに限る。第五条、第六条及び第八条において同じ。)の所管し、又は監督する事務に係る前条の訴訟において、必要があると認めるときは、当該行政庁の意見を聴いた上、当該行政庁の職員で法務大臣の指定するものにその訴訟を行わせることができる。この場合には、指定された者は、その訴訟については、法務大臣の指揮を受けるものと」されます。これらのことを指すものと思われます。
まず、設置許可取消訴訟ですが、行政事件訴訟法第14条第1項により、「取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つたから三箇月以内に提起しなければ」なりません。同第3項では「処分又は裁決の日から一年」と規定しているので、両項の関係が問題となりますが、第1項は当事者に通知されるなどの場合を定めたものであり、第3項は当事者が処分又は裁決のあったことを知っているか知らないかに関係なく期間を限定したものと解釈されます。この設置許可に関する法律関係の場合、経済産業省が行政庁、 溝江建設は当事者、別府市は実質的当事者ですが、日田市は第三者です。そうすると、第3項のほうが適用されそうです。しかし、日田市は、昨年6月に「日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例」を制定しています。その他の事実・事情なども考え合わせれば、第1項のほうが適用され、取消訴訟提起は不可能ということになるでしょう。
次に、行政事件訴訟法第36条に基づく設置許可無効等確認訴訟です。これによるならば、第14条に規定される出訴期間は関係ないことになります。しかし、第36条は非常に難解な条文です。第一に、日田市が「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」である場合に「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り」提起できるのか、それとも「損害を受けるおそれのある」だけで提起できるのかという問題があります。また、第二に、日田市が「その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」に該当すれば、「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り」提起できることになります。
第一の場合ですが、そもそも、本件の場合、日田市は「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」に該当するのでしょうか。この点につき、日田市は、街のイメージダウン、風紀の悪化などをあげるものと思われますが、具体的にいかなる損害を被るおそれがあるのかを示す必要があると思われます。ここをクリアするとして、次は「当該処分……」という要件が必要か不要かという問題です。これについては学説も判例も分かれているようです。忠実に解釈するならば「当該処分……」の要件は必要となります。しかし、それを不要と解する学説や判例もあり、逐条解説書によっては、判例が「当該処分……」の要件を不要と解する説に固まっていると記すものもあります。 第二の場合ですが、日田市が「その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」に該当するならば、設置許可に関して「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴え」と言っても、本件の場合、このような訴え(当事者訴訟など)が可能なのか、そもそも「現在の法律関係」が存在するのか、若干の疑問があります。損害賠償請求が可能であるとしても、それによって「目的を達することができ」るのでしょうか。 実は、この無効確認等請求訴訟について、あまり自信はないのですが、結局のところ、日田市に法律上の利益があるのか(事実上の利益では足りません)、現にサテライト日田が設置されるとしてどのように具体的な損害を受けるおそれがあるのか、ここにかかってきます。
最後に、損害賠償請求です。この場合も、やはり具体的な損害(この損害は、物質的な損害に限られません)を受けたことをどこまで立証できるかにかかってきます。その意味において、設置により街のイメージダウンになるという主張は、具体的な損害を示すものと言いうるか、疑問が残ります。街の風紀が悪くなるなどの主張についても同様です。
このように考えると、日田市が経済産業省(または法務省)を相手取って訴訟をするとしても、要件の段階で苦しいのではないかと思われます(却下判決が下される可能性が高いのではないでしょうか)。それだけ、日田市の立証責任は重くなると考えられます。 また、要件をクリアして実体判断に行く場合ですが、訴訟で自転車競技法の不備を主張する場合には、他の法律と同様に地元の同意を要件として規定しなかった、規定するように改正しなかったという不作為を主張することが考えられます(これが一番現実的でしょう)。ただ、その場合、立法裁量の問題が出てきます。また、本件設置許可についても、行政裁量の壁を突破できるかどうかが鍵となります。
別府市に対する訴訟のことについては、既に「第14編」で記しておりますので、具体的な動きがみられ次第、再び取り上げることにいたします。 一方、別府市側の対応ですが、大分合同新聞上掲記事によれば、同市大塚茂樹助役名により「市報べっぷの掲載記事に関して訴えが提起された場合、専門家らとも協議した上で、適切に対処したい」とするコメントを出しております。しかし、サテライト日田設置については、従来通りに進めるという意向を崩しておらず、22日にも、幹部職員(競輪事業課長氏など数名)を日田市に派遣し、説明会を開くこととしています。その際にはサテライト日田設置反対連絡会にも参加を要請するとのことです。
前回、経済産業省側が解決に向けて動き出した旨を紹介しました。しかし、日田市が経済産業省(または法務省)に対する行政訴訟を提起し、別府市に対する記事訂正等請求訴訟を提起する方針を固めていることからすれば、タイムリミットは今月中、遅くとも2月の臨時日田市議会開会直前までということになります。こうなると、解決に向けて考えられうる方向は、第一に別府市の設置計画白紙撤回であり、第二に経済産業省による設置許可撤回(取消)ということになりそうです。また、日田市が行政訴訟を提起して却下された、または棄却されたとしても、法的な問題は別として、経済産業省の競輪政策に大きな見直しが迫られることは間違いなく、自転車競技法の改正は避けられないものと思われます。また、別府市も、この設置許可に関しては実質的当事者ですから、何らかの対応をとらざるをえません。その意味で、以前に記した私の見解は修正されなければなりません。
但し、別府市側についてみれば、少なくともサテライト日田設置に関しては、日田市への対応策がない訳でもありません。日田市が行政訴訟を提起したとしても、そのことによって設置許可の効力が停止せず、消滅もしないというのが原則です(行政事件訴訟法第25条を参照)。昨年12月の別府市議会で継続審査となったサテライト日田関連特別予算が可決されるならばという前提ですが、設置を強行する手があるのです。訴訟には時間がかかります。その間に設置が済めば、裁判の判決は、日田市の訴えの利益がないとして却下ということになります(同法の第9条も参照)。但し、この方法は、法的には認められるとしても、後々の重大な問題を惹起することになるでしょう。
(2001年1月20日)
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