サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第30編

 

 6月19日の10時から、大分地方裁判所第1号法廷において、対別府市訴訟の第2回口頭弁論が行われました。前回の口頭弁論において別府市側の答弁書が提出されたため、日田市側から、6月12日付の準備書面が提出されました。これは、日田市側の訴訟代理人である梅木哲弁護士によって作成されたものですが、少々、私も関係しています。

 別府市の答弁書には、原告適格の部分に関連して公権力の行使という言葉が用いられていたため、市町村が公権力の主体である場合が多いことは当然としても、そうでない場面があるとして、市報の刊行は公権力の行使にあたらないと主張したのですが、別府市側の訴訟代理人である内田健弁護士は、判例時報1479号掲載の判決などを援用して、市報の刊行が公権力の行使にあたると主張しました(実は、この解釈が誤っているのですが、後に示します)。少々、日田市側の準備書面の論理構成面に難があることは認めざるをえませんが、解釈の誤りも指摘しなければならないでしょう。また、別府市側は、日田市に原告適格がないこと、および名誉の意味について、今年の2月28日に新潟地方裁判所高田支部から出された判決を援用しています。

 また、別府市側は、日田市の主張する名誉について、準備書面の最後の頁の部分を摘示し、その意味が不明確であると主張しております。

 この口頭弁論の模様は、西日本新聞や朝日新聞で報道されましたが、扱いは小さく、私が実際に傍聴したこと以上のものを記したものでもありません。実際、口頭弁論終了後、NHK大分、大分朝日放送、読売新聞、西日本新聞などの記者氏が梅木弁護士や日田市職員4氏らを囲んで取材をしていた時、私も梅木弁護士の隣におり、補足説明をしたり、質問を受けたりしていました。続いて、私が残って大分朝日放送および西日本新聞の記者氏と話をしております。この日は、大分大学で講義の一環として行っている裁判傍聴のための打ち合わせをして研究室に向かったのですが、西日本新聞の記者氏から電話をいただき、質問を受けました。

 さて、判例時報1479号の判決ですが、これは或る小学校の職員会議における発言内容が自治体の広報に掲載され、児童の名誉が侵害されたという事案に対するもので、背景は非常に複雑です。この事件の原告は、国家賠償法第1条と民法第723条に基づいて損害賠償請求をしております。判決理由中には、たしかに、公権力の行使という言葉が登場します。しかし、ここでは、単に自治体の公務員が公権力の行使に関わるという意味合いで使われているにすぎず、広報の発行が公権力の行使であるという言い方はなされておりません。

 そもそも、公権力の行使というからには、行政行為論を待つまでもなく、法律の根拠を必要とします。もう少し拡大して、条例の根拠でもよいでしょう。仮に市報の発行が法律あるいは条例の根拠に基づいていない場合には、公権力の行使たりえません。それはただの事実行為です。しかも、事実行為である場合であっても、公権力の行使の一環としてなされるのであれば、法律の根拠を必要とします。行政上の強制執行や、警察官職務執行法に定められる職務質問などがその例です。

 それでは、法律の根拠さえあれば、行政庁によるいかなる行為も公権力の行使と言いうるのでしょうか。そうではありません。例えば、行政指導の中には、法律上の根拠があるというものも存在します。独占禁止法に定められている勧告などは、その代表例です。この場合、勧告の後に命令が控えているのですが、勧告そのものに法的な拘束力はありません。他には、廃棄物処理法に定められるごみ処理もあげられます。

  別府市のものであれ日田市のものであれ、市報の発行が条例に基づくものであるかないかに関わらず、公権力の行使にあたらないことは言うまでもないでしょう。仮に公権力の行使であるとするならば、一体、具体的に何が、どの部分が公権力の行使なのでしょうか。広報はお知らせにすぎません。基本的には、新聞や雑誌と同じです。広報誌であっても、国や自治体が刊行する場合には公権力の行使であって、出版会社が刊行する場合には民事法上の行為であるという主張は、おかしなものであるとしか言いようがありません。

 次に、先の新潟地方裁判所高田支部判決についてです。これは、東京放送(TBS)のニュース番組によって上越市が名誉を侵害されたとして訴えたもので、出訴までの経緯が上越市のホームページ(http://www.city.joetsu.niigata.jp/)に掲載されています。結局、上越市が敗訴し、上越市は3月13日に東京高等裁判所へ控訴したのですが、注意していただきたいのは、却下判決でなく、棄却判決であるということです。この判決をまだ入手していないため、私は、上越市役所に電話を入れ、その結果、担当の方から状況などをうかがうことができました。それによると、問題は、上越市が主張する名誉の中身でした。上越市がTBSを被告として裁判を起こすこと自体は認められています。つまり、訴える資格そのものは認められたのです。ここから考えても、日田市の原告適格はクリアされるということになります。細かい部分は判決を入手しなければわかりませんが、私は、「第27編」においても述べましたが、日田市対別府市の場合、ともに公法人であることから、とりもなおさず私法人対私法人と同様に考えるべきだと思います。その意味では、次回口頭弁論までにしっかりとした準備書面を作成すれば、日田市の原告適格は難なくクリアできる可能性が高いでしょう。問題は、日田市が有する名誉です。これをさらにつめなければならないのです。

 次回は8月28日、13時10分からです。

 本題からは外れますが、ここで、公営競技の場外券売場について、気になる話題を記しておきます。

 まず、福岡市博多区にある場外車券売場設置問題です。これは、6月18日の21時55分、NHK第一放送の九州・沖縄地方ニュースで知ったことです。翌日、日田市の職員であるG氏とも話をしましたが、博多駅の付近に設置される計画があり、住民の間でも賛成派と反対派とが分かれているようです。18日の福岡市議会でもこの問題が扱われました。

 また、大分市三佐(みさ)校区では、一旦取り止めとなった場外舟券売場「ボートピア大分」の設置計画が、別会社によって再び出され、6月17日に説明会が行われました。大分市は反対の立場を表明していないのですが、住民の中には反対論が強く、サテライト日田問題の影響もあって、長期化が予想されます。この問題については、掲示板「公園通り」を参照して下さい。場合によっては、新コーナーを設けて取り上げることも考えています。

 

(2001年6月23日)

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