サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第33編

 

 最初にお詫びです。この不定期連載記事については、可能な限り、何らかの動きがあり次第、すばやく対応することを原則としています。しかし、今回は、9月11日に行われた設置許可無効等確認訴訟(対経済産業大臣訴訟)の口頭弁論を取り上げるにもかかわらず、1か月以上の遅れとなりました。試験期間中で採点に追われたこと、論文などの仕事を3つ抱えていたこと、大学内の雑務が多かったこと、などによります。今後も、更新などが遅れがちになるかもしれませんが、御容赦の程、お願い申し上げます。

 9月11日の午後、大分地方裁判所第1号法廷にて、対経済産業大臣訴訟の口頭弁論が開かれました。この日、同じ法廷でじん肺訴訟の口頭弁論が行われるとあって、そちらのほうの傍聴整理券を求める人が多かったようです。ちょうど、関東地方に台風が上陸していた日でしたが、大分は快晴でした。また、この日の22時(現地時間では9時)、テロリストにハイジャックされた旅客機がニューヨークの世界貿易センタービルに突入するという大惨事のニュースが飛び込んできたのですが、口頭弁論は13時からですから、知る由もありません。

 さて、この日の口頭弁論の模様です。第1号法廷は、13時30分からのじん肺訴訟に合わせて、席の配置などが大幅に変えられており、少々窮屈そうです。13時、口頭弁論が開始されました。原告側から、45頁にわたる「準備書面(第1)」が提出され、原告訴訟代理人の一人、寺井一弘弁護士が趣旨を説明しました。口頭弁論は10分ほどで終わりましたが、「準備書面(第1)」の中身について、寺井弁護士と相談などをし、木田秋津弁護士とも、憲法第31条の件について話をしました。その時、適切な文献があったら紹介するという約束をしたのですが、なかなか見つからなかったというのが本当のところです。

 しかし、今回の「準備書面(第1)」は、内容に不適切な点が、否、「暴言」があるとして、西日本新聞2001年9月12日付朝刊16版35面において批判されました。この点については、競輪関係者からの反発を買ったのみならず、日田市民からも疑問や批判が投げかけられました。同記事は、「準備書面(第1)」を、競輪などに偏見や誤解を招くような表現を含んでおり、「暴言」書面であると評価しています。これが、今後の訴訟にどのような影響を与えるかはわかりませんが、競輪の実態などに照らせば、賛否両論が展開されうるものであるのみならず、経済産業大臣側からの強烈な反論が予想されます。さらに言うならば、今度は日田市側が、あるいは原告訴訟代理人側が名誉毀損などで訴えられるかもしれません。たしかに、この記述は、他にどのように表現すればよいのかという問題があるとは言え、適切とは言い難いものです。

 問題の箇所は、「準備書面(第1)」中の「第2  日田市の原告適格の存在」にあります。もう少し詳しく記すと、書面では8頁、「1.本件処分による法律上の利益の侵害」中の「(1)場外車券売場の設置について受忍義務を課せられること」です。ここでは、場外車券売場について「多くの人々が集合して賭けに興じる場そのものである」と評価した上で、「競輪の開催は、競馬のように土・日曜日ではなく、平日であることから、興じる競輪ファンは競馬とは異なって無職者が多く、また、殆どが男性であって、一般の勤労市民が集うことが少ない賭博であるとされている」と断じています。さらに、立川競輪場の例を出しており、「厳重な警備体制をとっているにもかかわらず酔っ払いが増えて自転車泥棒のような犯罪から殺人事件のような重大犯罪までが引き起こされている」などとして、周辺環境の問題を指摘しています(なお、この部分について出典などは示されていません)。

 西日本新聞が「暴言」と評価したのは、まさにこの部分です。ここに登場する「無職者」という表現、そして、この文章自体が問題とされているのです(なお、ここで競馬が登場しますが、地方競馬の場合は平日にも開催されますので、「準備書面(第1)」は中央競馬のみを想定しているものと思われます)。

 たしかに、「準備書面(第1)」の主張も理解できなくはありません。私は(若干ながら)川崎競輪場の周辺を知っていますし、中央大学法学部法律学科の学生であった時には、南武線を利用していたので、東京競馬場の最寄駅である府中本町駅を通っていました。競馬開催日ともなると、南武線には多くの競馬ファンが乗り込みます。少数であると信じたいのですが、中には朝から駅の売店で日本酒や缶チューハイを買って飲んでいる客もおりました。さらに、競馬終了後の南武線では、負けた腹いせなのでしょうか、府中本町から登戸まで大声で演説(?)をする輩までいました。この演説(?)は、「おれはなあ、この東京競馬場に30年以上通ってるんだ! ここのことなら何から何まで知ってるんだ!」という言葉で始まりました。混雑している折、迷惑千番であったことだけは覚えています。私自身は府中本町駅で降りたり乗り換えたりしないのですが、友人から聞いたところによると、缶や瓶(しかも瓶の場合は割られている場合もあり)、さらに外れの勝馬投票券が道路上に散乱していたそうです。外れ馬券などの散乱は、別に競技場や場外券売場周辺のみで見られるものではないのですが、周辺住民などにとっては迷惑この上ないものです。以前読んだ鉄道廃線跡散策に関する本でも、廃止された下津井電鉄の駅跡などに舟券が散乱しているという記事が出ていました。川崎競輪場付近については、近隣に県立川崎図書館があるので資料収集などに向かうと、競輪新聞や赤鉛筆を売っている人にしつこく付きまとわれかけたという経験もあります。

 しかし、政策の面から公営競技の是非を論ずるのであれば別としても、現に競馬や競輪などが法律によって認められ、地方の財政収入の一つになっていることなどを考えると、競輪の場外車券売場の設置という問題と、設置による環境などの変化という問題とは、相互に関連するとは言え、一応は別に考えなければなりません。それのみならず、仮に事実であるとしても、表現などは考えなければなりません。競輪などを楽しむ人々、さらには主催者サイドのことも考慮に入れなければならないのです。今回の「準備書面(第1)」は、原告適格の存在を主張するあまり、その点の配慮に欠けていたとしか評価しようがありません。敢えてもう一点あげるとすれば、立川競輪場の例を出しているのですから、調査報告の出典を明示する必要があります(勿論、証拠書類として提出する必要もあります)。どうしても、環境の悪化などを指摘したいのであれば、「別に証拠書類として提出した調査報告書に示された通りである」などとして、西日本新聞に「暴言」と指摘された箇所については一切記さないほうがよかったのです。

 この他の点については、「準備書面(第1)」が長大であり、様々な論点を含んでいることから、別の機会に取り上げます。

 

(2001年10月14日)

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