01 租税と租税法
これから租税法の講義を進めていくのであるが、現行の日本の法規のいずれを参照しても、租税の定義を示す規定は存在しない。日本国憲法を例に取ると、第30条に納税の義務が規定されるとともに、第84条および第30条に租税法律主義が規定されている※。第84条には租税という言葉が登場するが、定義はなされていない。このことは、法律などについても同様で、租税法とされる法律のいずれを参照しても、租税の定義はなされていない。
※憲法学における通説的な見解は、第84条のみをあげるようである。しかし、租税法学においては、租税法律主義の根拠に関して見解が分かれ、第84条および第30条を根拠とする見解が多い。租税法律主義は、単に国家財政運営上の原則に留まらないものである、と解されるべきである。従って、第84条と第30条の双方を根拠とする見解のほうが妥当であろう。この点については、拙稿「租税法律主義の射程距離(1)―
一方、租税法学や財政学などの教科書を参照すると、たいてい、租税の定義に関する記述がある。もっとも、定義づけはそれほど容易なことではない。そればかりか、定義の実用性を疑う見解も存在する。おそらく、「あまり実益がないから」、あるいは「難解な記述となるから」ということもできる。 たしかに、谷口勢津夫教授が指摘するように「個々の税目については、その意義および内容が法律や条例で定められる」から「租税の定義をめぐって、法律や条例の解釈上問題が生じることはない」※。しかし、実際には、租税に限らず、我々が国家や地方公共団体に納める(支払う)金銭などの債務は多いし、租税と言いながらそれ以外のもの、例えば負担金と区別し難いものも存在する。また、租税とは異なるはずの社会保険料などについても、租税と同様の問題が生じる場合も存在する。
※谷口勢津夫『税法基本講義』〔第4版〕(2014年、弘文堂)7頁。
そこで、本章では、租税とはいかなるものであり、租税法とはいかなるものであるのか、ということについて、なるべく身近な例をあげながら話を進めていく※。
※以下、租税の法的定義などについてほぼ同じ趣旨を、拙稿・前掲税務弘報論文135頁においても述べている。
1.租税の法的定義
既に述べたように、日本においては、租税についての法的定義がなされていない。
もっとも、国税通則法第2条第1号および国税徴収法第2条第1号は「国税」を「国が課する税のうち関税、とん税及び特別とん税以外のものをいう」と定義し、国税徴収法第2条第2号は「地方税」を「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第一条第一項第十四号(用語)に規定する地方団体の徴収金(都、特別区及び全部事務組合のこれに相当する徴収金を含む。)をいう」と定義する。これらは、国税通則法、国税徴収法のそれぞれの適用に必要な範囲を決めるための定義であり、租税そのものの定義でないことは明らかである。
しかし、 公租公課として、国家(および地方公共団体)が国民から徴収する財貨(金銭など)は、租税ばかりでなく、負担金、手数料などの形式をとる場合もある。従って、或る程度、租税のメルクマールを明らかにしておく必要がある。
租税の法的定義を行った例として有名なものは、1919年に制定されたドイツ(ヴァイマール共和国期)のReichsabgabenordnung(一般的にライヒ租税通則法と訳す。直訳ではライヒ公課法となる) である。同法の第1条第1項は、「租税とは、特別の給付に対する反対給付ではなく、給付義務につき法律が定める要件に該当するすべての者に対し、収入を得る目的をもって公法上の団体が課する一回かぎり又は継続的な金銭給付をいう。関税はこれに該当するが、行政行為を特別に請求することに対する手数料及び負担金(受益者負担)は、これに該当しない」と規定する※。
※訳は、田中二郎『租税法』〔第三版〕(1990年、有斐閣)1頁による。
また、1977年に制定されたドイツ(連邦共和国)の租税通則法(公課法。Abgabenordnung)第3条第1項は、「租税とは、特別の給付に対する反対給付ではなく、法律が給付義務について定める要件に該当する者に対し、公法上の団体によって収入を得るためにのみ課される金銭給付をいう。収入を得ることは付随的目的たりうる 」と規定する※。
※この条文の訳は、私自身によるものである。
日本においては、上記の定義(とくにライヒ租税通則法第1条第1項)を基として、法律学などにおいて様々な定義がなされている。若干の例をあげておく。
「租税とは、国又は地方公共団体が、その課税権に基づき、特定の給付に対する反対給付としてではなく、これらの団体の経費に充てるための財力調達の目的をもって、法律の定める課税要件に該当するすべての者に対し、一般的標準により、均等に賦課する金銭給付である」※。
「国(または地方公共団体)が、国の主権に服する者から、公的・一般的収入の目的をもって、法律(または条例)に定める要件を充足する事実があり、金銭的給付義務が確定するときに、強制的に、収納する金銭的給付である」※※。
「国家が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付である」※※※。
※田中・前掲書1頁。
※※新井隆一『租税法の基礎理論』〔第三版〕(1997年、日本評論社)2頁。
※※※金子宏『租税法』〔第十八版〕(2013年、弘文堂)8頁。
以上は学説による定義であるが、最高裁判所も判決の理由において租税の定義を述べている。まず、大嶋訴訟として有名な最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁は「租税は、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてでなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもつて、一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付である」と述べる。これは、上記の諸定義と同じ趣旨と考えてよいであろう。
また、旭川市国民健康保険条例訴訟として有名な最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁も「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たるというべきである」と述べる。これも、上記の諸定義と同じ趣旨と考えてよい。
2.租税のメルクマール
先に掲げた諸定義には、一定の共通する内容が含まれている。しかし、統一的な定義がなされている訳ではない。
もっとも、これは日本だけの現象ではない。租税の定義を実定法において示すドイツの例は、むしろ、世界的にも珍しいほうである。おそらく、憲法上の争点となりうることを含め、実益の点などを考慮したのであろう。そして、日本においては、ドイツとは逆に、租税を法的に定義することには実益がないという考え方のほうが一般的であるかもしれない※。
※教科書によっては、租税の定義を示していないものもある。その例として、三木義一編著『よくわかる税法入門』〔第7版〕(2013年、有斐閣)がある。
たしかに、通常の場合は、先に示した谷口教授の指摘にあるように、法律によって国税および地方税とされているものを租税とする形式的思考法が簡便でもあるし、それで事足りることが多い。
また、北野弘久博士は、租税の定義について根本的な疑義を述べる。北野博士は、租税について「法認識論のレベル」における定義と「法実践論のレベル」における定義とが区別される必要がある旨を指摘し、その上で、「従来の租税概念は、明治憲法のもとでのそれを、日本国憲法のもとにおいても無批判的に踏襲してきたものであ」り、「明治憲法のもとでと同じレベルで日本国憲法のもとでの税財政に関する法概念・法理論を構築することは学問的には誤謬である」と批判する※。
※北野弘久『税法学原論』〔第六版〕(2007年、青林書院)27頁。北野弘久編『現代税法講義』〔五訂版〕(2009年、法律文化社)4頁[北野弘久担当]も参照。
甲斐素直教授も、先に示した田中二郎博士による定義を引用しつつ「これが税法学の対象となる租税の定義を述べているに」留まり、憲法第84条と「まったく結びつきをもっていない」と批判する※。
※甲斐素直「租税法律主義における租税概念の外延について」日本法学60巻3号(1994年)132頁。なお、同論文では憲法学の学説についても批判が展開されている。
これまでの租税法学や憲法学などにおける租税の定義に、不十分な点があることは否定できない。とくに、租税法学と憲法学との間には、決して短くない距離がある※。このため、さらに検討を重ねる必要性は高い。ただ、形式的思考法によっては、租税とそれ以外の公課とを上手く区別できないこともあるし、租税法律主義の射程距離を画定する際などには困難を生じる。
※拙稿・前掲税務弘報論文137頁。拙稿「日本国憲法における『租税』の概念と租税法律主義との関連についての試論」税制研究56号(2009年)137頁も参照。
私は、実定法において租税を定義する実益はあるものと考える。とりわけ、憲法において定義を示す必要性はあると考える。この点に関連して、税理士の山本守之氏が、国税徴収法第2条における定義を「定義の実益だけを考えて規定している例である」とした上で、憲法第84条が租税法律主義の根拠規定となっているために「実定法において租税を定義する必要はあるように思われる」と述べており、参考になる※
。※山本守之『租税法の基礎理論』〔新版〕(2008年、税務経理協会)4頁。
上述の諸定義には、若干の差異があるように読み取りうる。これは、後に述べる租税観、さらに言うならば国家観の相違によると考えられる部分もあるが、多くは表現上の問題である。これらの定義に共通する部分を見出せば、租税のメルクマールを明らかにすることができよう。
租税のメルクマールについては、次のように整理することができる※。
※この整理は、主に佐藤進=伊東弘文『入門租税論』〔改訂版〕(1994年、三嶺書房)1頁による。また、より一般的に、肥後和夫編『財政学要論』〔第4版〕(1993年、有斐閣)115頁[西村紀三郎担当]、片桐正俊編『財政学―転換期の日本財政―』(1997年、東洋経済新報社)209頁[長沼進一担当]、吉田克己『現代租税論の展開』(2005年、八千代出版)9頁、宮入興一編著『現代日本租税論』(2006年、税務経理協会)1頁[松井吉三担当]、神野直彦『財政学』〔改訂版〕(2007年、有斐閣)149頁、星野泉=小野島真編『現代財政論』(2007年、学陽書房)55頁[小野島真担当]、室山義正『財政学』(2008年、ミネルヴァ書房)205頁も参照。なお、拙稿・前掲税務弘報論文135頁も参照。
(1)強制性
租税は、根本的に公権力を背景とした強制性を備える、とされる。しかし、これだけでは手数料や負担金と区別し難い。
(2)無償性
ここにいう無償性とは、何らかの対価としての性格、または反対給付としての性格が認められないことをいう。
手数料は、国家などによる何らかの特定の給付に対する反対給付である※。また、負担金は、例えば宅地開発のように、開発などによって利益―手数料の場合よりも、より一般的な利益―を受ける者に対し、その利益に着目して課されるものである。従って、手数料および負担金の場合には無償性が認められないことになる
※※。※例えば、公園の入場料などを考えること。但し、地方自治法第231条の3第2項、地方税法第67条、同第72条の67などに規定される督促手数料に注意する必要がある。
※※この点をとくに強調するのが、神野・前掲書164頁である。
これに対し、租税には無償性が認められる。例えば、所得税の申告を期限までに行い、法律に定められたとおりに申告をしても、それによって選挙権の行使に特典が認められる、などというようなことはない。青色申告については若干の優遇措置が認められるが、これは政策的なものであるし、国政全般について何らかの反対給付が得られる訳でもないし、そもそも国からの何らかのサーヴィスに対する直接的な対価という意味を有する訳でもない。
しかし、無償性についても問題がある。前掲最大判平成18年3月1日および前掲最判平成18年3月28日の根本的な難点は、かような部分にあるのかもしれない※。
※拙稿・前掲税制研究56号139頁。
第一点は、既に示した北野教授の根本的な疑義に関わる。大日本帝国憲法第62条は、第1項において「新ニ租税を課シ及税率ヲ変更スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ」としつつ、第2項において「但シ報償ニ属スル行政上ノ手数料及其ノ他ノ収納金ハ前項ノ限ニ在ラス」と定めていた。このような規定であれば、無償性は当然のこととして承認されるであろう。しかし、日本国憲法第84条には大日本帝国憲法第62条第2項のような明文が存在しない。従って、日本国憲法第84条は、無償性を有する公課のみを租税と扱うものとすべき説の根拠にならないのではなかろうか。
第二点は、反対給付または対価性の意味ないし範囲の不明確性であり、無償性の意味との関連において無視しえない問題である。ここでは、たとえば目的税を考えてみるとよい。
本来、目的税は行政側の利益提供に対する反対給付として位置づけられるものではない。しかし、実際には受益者負担論的(または原因者負担的)な観点から、何らかの対価性を有するものと考えられることが少なくないようである※。そうであるならば、反対給付ないし対価性は、手数料のように直接的な租税負担との対応を必要としないことになる※※。。しかし、これでは租税たる目的税とその他の公課との区別が曖昧になり、「何らかの行政目的が存在する場合に、強制的に徴収する必要があれば税の名を借り、柔軟な対応をすべき場合は負担金や分担金といった形式を選択するとの便宜的な運用が行われてきた」と評価されるのもやむをえない※※※。。実際に、自動車取得税・入猟税・水利地益税などのように、負担金との区別がつきにくいものもあるし、都市計画税のように曖昧な性格を有するものもある。
※消費税の福祉目的税化の議論はその典型であろう。
※※増田英敏『リーガルマインド租税法』〔第4版〕(2013年、成文堂)227頁は「租税の非対価性は直接的な対応関係がないという意味で用いられている」と指摘する。
※※※伊川正樹「地方目的税の今後の可能性―『本来的目的税』の提言を基礎として―」日本租税理論学会編『地方自治と税財政制度(租税理論研究叢書16)』(2006年、法律文化社)37頁。
なお、ヴァーグナー(Adolf Wagner)は租税に「一般的報償性」を認めたが、ノイマルク(Fritz Neumark)により批判された。
(3)道具的性格
租税は、第一次的に国家の資金調達を目的とするものである。かつてはこれがメルクマールとして強調されていた。国家自身が財貨などを得る場合が多いからである。
しかし、国家が租税を徴収しつつも、その徴収額を第三者に譲渡することもある。その代表例として、地方譲与税、地方交付税、補助金をあげることができる。
また、経済政策、景気政策などの手段に用いられることもある。前掲最大判昭和60年3月27日も指摘するように、租税には所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整などの機能があることも認められる※。先にあげた地方譲与税、地方交付税や補助金などは、このような機能を担うものとして捉えられるであろう。また、最近では自動車取得税などにおいて、環境政策の一環として用いられることがある。
※この趣旨は、最判平成4年12月25日民集46巻9号2829頁(酒類販売免許制訴訟)において引用されている。
(4)一連の租税の調達過程における課税の一方的性格
これは、徴税手続などにおける権力的要素などを指す。
現在、通説は租税を私人の法定債務であると考える。私もこの説を支持するのであるが、これは税額や税率が法定されているという実体法的観点に着目したものであり、租税の徴収という手続法的観点からすれば、申告納税という方法が多くの租税において採られているものの、更正、推計課税、さらに税務調査など、権力的な側面が強いことも否めない。
(5)法律の根拠
近代立憲主義において、私有財産の不可侵は重要な原則である。この原則は現代立憲主義において若干の修正を受けたが、日本国憲法は、私有財産制度の存在を前提とし、私有財産の保護を規定する。しかし、租税は、上述のように、国民から強制的に、直接的な反対給付を伴うことなく徴収されるものである。従って、課税権の行使は、国民の財産権に対する一方的な侵害にあたる。そのために、恣意的な課税権の発動がなされてはならない。
また、本来ならば租税こそが国家の資金調達の最終手段でなければならないが、近年は公債に依存する傾向が大きい。日本は代表的であり、先進国の中でも最悪の水準である。
但し、ここで注意しなければならないことがある。
上記における租税の定義は租税法学あるいは財政学におけるものであり、行政の観点からのものとも言いうる。租税、手数料、負担金などは、それぞれ根拠法規を異にするし、取扱も異なる。しかし、日本国憲法第84条における「租税」の意義については、別に考えなければならない。この点は、租税法の講義というより、むしろ憲法や財政法の講義において扱うべきものであるため、ここでは詳しく取り上げないこととする※。
※拙稿・前掲税務弘報54巻12号137頁、同・拙稿前掲税制研究56号136頁を参照。
3.租税の分類
日本の実定法が定める租税には様々なものが存在する。これらは、勿論、無秩序に、あるいは相互に無関係に存在するのではなく、一定の体系性を有する。ここで、租税の分類などを概観する。
(1)国税と地方税
国税は、国が租税主体として賦課・徴収する租税のことである。所得税、法人税、消費税、相続税・贈与税、酒税、関税などが該当する。国税の場合は、単一の法典ではなく、国税通則法や国税徴収法などの一般的な法典と、所得税法、法人税法など、個別の法典により規律される。これはドイツにならった方式である。
一般法とは言い難いが、所得税法、法人税法などの個別法典に規定される原則を、様々な政策のために修正する特別措置をまとめた法律がある。租税特別措置法である。この法律に定められる特別措置は、主に非課税や租税負担の軽減のためのものであり、一般的に特別措置というとこの種のものを指すが、租税負担を加重する特別措置も存在する。また、単なる租税負担の加重とは意味を異にするが、国際的租税回避を防止するための規定として、租税特別措置法第40条の4および同第66条の6がある。これらも租税を軽減するための特別措置ではない。なお、租税特別措置は租税特別措置法に定められるのが一般的であるが、所得税法や法人税法などの一般法に規定されることも多い。
地方税は、普通地方公共団体および特別区が租税主体として賦課・徴収する租税のことであり、さらに都道府県税(地方税法では道府県税という)と市町村税とに分かれる。個人住民税、法人住民税、個人事業税、法人事業税、固定資産税、都市計画税、地方消費税などが該当する。地方税の場合は、国税と異なり、租税手続を含めて地方税法という単一の法典により規律される。これはアメリカやフランスと同じ形式である。
日本においては、国税のほうが全体に占める収入の割合が多く、また、主要な税源も国税のほうに配分されている。このため、実際の事務量などは地方公共団体全体のほうが多いにもかかわらず、租税収入は国のほうが多いという問題がある。
なお、既に述べたように地方交付税および地方譲与税が存在する。
地方交付税は、国税のうち、所得税、法人税、酒税、消費税およびたばこ税の、それぞれ一定割合を、国が地方自治体に交付するものである。従って、地方交付税という名称ではあるが、国から地方公共団体への交付金であって、租税ではない。詳細については地方交付税法を参照されたい。
また、地方譲与税は、国税ではあるが、その収入の一定割合を地方自治体に譲与するものであり、その目的が法律に定められているものである。
(2)内国税と関税
関税は、国税のうち、外国からの輸入貨物に課されるものである。これ以外が内国税である。内国税と関税とでは、扱う行政組織が異なる。内国税を扱うのは国税庁・国税局・税務署であり、関税を扱うのは税関である。また、関税については、関税法および関税定率法、さらに国際条約が適用されており、原則として、国税通則法、国税徴収法の適用が排除される。
(3)直接税と間接税
伝統的な学説によると、直接税と間接税は、それぞれ、次のように定義されてきた。
まず、直接税とは、納税義務者と担税者が同一であることを立法者が予定する租税をいう。これに該当するとされるのが所得税、法人税、相続税、固定資産税などである。
これに対し、間接税とは、納税義務者と担税者とが異なり、納税義務者が租税負担を別の者(担税者)に転嫁することを立法者が予定する租税をいう。これに該当するとされるのが消費税、地方消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、関税などである。
上記のような定義について、故木下和夫教授は「一般的にはわかりやすいが、厳密に定義していくときには非常にあいまいな区分になってしまうという性格を持っている」と述べる※。
※木下和夫「租税構造の理論と課題」木下和夫編著『租税構造の理論と課題(21世紀を支える税制の論理第1巻)』〔改訂版〕(2011年、税務経理協会)7頁。
直接税と間接税との区別は、一般的に転嫁の有無を基準にするものとして説明されてきた。直接税、間接税のそれぞれについて上記のように理解するならば、転嫁を基準にせざるをえない。しかし、実際には、直接税であるから転嫁がなされない、あるいは、間接税であるから必ず転嫁がなされる、ということにはならない。市場においては、当事者の力関係などにより、転嫁の有無が決定されるから、間接税であっても租税負担が転嫁されないという場合が存在するのである。これに対し、法人税は直接税であり、納税義務者と担税者が同一であるとされるが、実際には、法人が取引活動などをなす際に、法人税負担分を価格に上乗せし、相手方に実際の負担を転嫁するという現象が存在する。
故木下和夫教授は、次のように述べる。
「転嫁の大きさの程度によっては、例えば消費税において完全に転嫁されれば間接税になるが、消費税が市場の状況によって全く転嫁されないときには直接税(つまり事業者課税)になってしまうことになる。あるいは、所得税を例にとってみても、被雇用者の所得税のほとんどが源泉徴収の方法によって勤務先の事業主が納税するが、その税負担は被雇用者が負うというのであれば、個人所得税の大部分は直接税ではなくて間接税なのか、ということになる。直間比率は、あいまいな定義に基づく租税の分類基準であるために、厳密な議論をする場合には混乱をひきおこすことになる。
現代では、このような状況をふまえて、直接税、間接税の分類基準はむしろ形式的かつ直観的なものであり、課税当局の行政上の分類として用いられているにすぎないというべきであろう。」※
※木下・前掲書7頁。
金子宏教授は、直接税とされる固定資産税を例にとり、固定資産の所有者が固定資産税の分を地代や家賃に含めて借地人や借家人に転嫁するという現象、すなわち、固定資産税の実質的な負担を所有者ではなく、借地人や借家人がなすという現象が存在することを指摘し、「最近では、むしろ、所得や財産など担税力(租税を負担する能力のこと)の直接の標識と考えられるものを対象として課される租税を直接税と呼び、消費や取引など担税力を間接的に推定させる事実を対象として課される租税を間接税と呼ぶことが多い」と述べる※。
※金子・前掲書12頁。金子宏=清永敬次=宮谷俊胤=畠山武道『税法入門』〔第6版〕(2007年、有斐閣新書)7頁も同旨(金子教授が担当している部分なので当然であるが)。
固定資産税(都市計画税が課されている市町村においては都市計画税も含めて)の転嫁について記すならば、固定資産の所有者が借地人や借家人に税額(少なくともその一部)を転嫁しなければ、固定資産を維持し難いという場合も少なくないであろう。同様のことは不動産所得税についても指摘しうるので、その限りにおいて所得税も転嫁されうることになる。もっとも、固定資産税や不動産所得税の場合、固定資産の所有者に転嫁の意識があるか否かについては、議論の余地もあろう。それに、転嫁云々を言い出すならば、譲渡所得税などについても認めざるをえないのではなかろうか。
また、神野直彦教授は「直接税と間接税は、租税負担の転嫁の有無を基準とした分類だと考えてよい」としつつ※、実際の転嫁の有無を判断することが難しいという事実を指摘する。その上で「法人税が転嫁されていることを実証する研究が続々と現れている」としていくつかの研究を紹介し、「法人税の転嫁を肯定する議論が、常識になっているといってもよい」、「シュタインがいうように、転嫁は不可知論の領域に属するといったほうがよいかもしれない」、「転嫁の有無を分類基準とする直接税と間接税の区別は、きわめて曖昧な租税の分類基準となる。そのため直接税と間接税の区別は、実際の転嫁の有無でなく、立法上の規定に委ねられるようになっている。つまり、法律上、納税者が負担することを予定している租税が直接税であり、納税者が負担しないで、取引相手が負担することを予定している租税が間接税、と理解されている」と述べる※※。
※神野・前掲書172頁。
※※神野・前掲書177頁。結果的に、私の説明と同じ趣旨である。
以上と異なる説明をなすのが吉田浩教授である。吉田教授は、納税義務者と担税者との異同による直接税と間接税との区別について「これではサラリーマンの給与からの源泉徴収による所得税を直接税と説明することができない」として「最近の説明では直接税は『税負担者の個別事情を考慮できる税』、間接税は『税負担者の個別事情を考慮できない税』とも説明されている」と述べる※。また、鈴木将覚教授は「直接税が個人の経済的事情を反映させることが可能な税であるのに対し、間接税は無記名の課税ベースに対して課税が行われるという点が重要である」と述べる※※。表現は異なるが、後に示す北野博士の説明と同旨である、と考えてよいであろう。
※畑農鋭矢・林正義・吉田浩『財政学をつかむ』(2008年、有斐閣)204頁。源泉徴収による所得税については、故木下教授も「被雇用者の所得税のほとんどが源泉徴収の方法によって勤務先の事業主が納税するが、その税負担は被雇用者が負うというのであれば、個人所得税の大部分は直接税ではなくて間接税なのか、ということになる」と指摘する(木下・前掲7頁)。
※※麻生良文・小黒一正・鈴木将覚『財政学15講』(2017年、新世社)89頁[鈴木将覚担当]。
租税負担の転嫁の可能性は、財政学の観点に立った場合の議論であると言うべきである。勿論、法律学においても、立法政策などを考慮に入れるならば、転嫁の可能性の有無は重要であるが、法律学の観点に立った場合には、租税法律関係に着目すべきであろう。北野弘久 博士は「直接税の場合には、税法上は納税義務者と担税者とが一致することが予定されているために、ほんとうの納税者である担税者も租税法律関係の当事者としての法的地位を取得することが予定されている。逆に、間接税の場合には、ほんとうの納税者である担税者は、租税法律関係の当事者としての法的地位が与えられず、法形式的にも租税法律関係から排除されることが予定されていることを意味する」と述べる※。
※北野編・前掲書7頁[北野]。
(4)人税と物税
人税とは主体税ともいい、主に人的な側面に着目して課されるものであり、所得税、相続税などが該当する。これに対し、物税とは客体税ともいい、主に物的な側面に着目して課されるものであり、消費税や固定資産税などが該当する。
(5)収得税・財産税・消費税・流通税
これは、担税力の標識および課税物件の相違を基準とした区別である。
収得税は、収入に着目して課される租税であり、直接的に所得を対象とする所得税(法人税、住民税なども含まれる)と、人が所有する生産手段から得られる収益を対象とする収益税(事業税や鉱産税など)とに分かれる。なお、相続税および贈与税は、所得税の補完税として考えるならば収得税であるが、次に説明する資産課税(財産税)と捉える説も存在する※。
※北野編・前掲書は、所得税のうち、譲渡所得および山林所得を「所得課税法」の項目においてではなく、「資産課税法」の項目において扱う。
財産税は、財産の所有に着目して課される租税であり、人の財産の全体や純資産を対象とする一般財産税と、特定の種類の財産を対象とする個別財産税とに分かれる。日本においては、かつて、一般財産税として富裕税が存在したが、既に廃止されている。相続税および贈与税は、財産税とすれば一般財産税に含まれることとなる。これに対し、個別財産税には、地価税、固定資産税、自動車税などがあり、重要な地位を占めている※。
※金子=清永=宮谷=畠山=前掲書8頁[金子]は、相続税および贈与税を所得税の補完税と捉えるため、一般財産税は存在しないという見解を採る。また、金子・前掲書14頁は、一般財産税の例として、1946(昭和21)年に導入された財産税と1950(昭和25)年に導入された富裕税をあげる。
消費税は、物品やサービスを購入し、消費することに着目して課される租税である。ゴルフ場利用税や入湯税のように、消費行為そのものに課されるのが直接消費税であり、製造業者や小売人により納付された租税が販売価格に含められて消費者などに転嫁されることが予定されるものが間接消費税である。例として、消費税、酒税、たばこ税などをあげうる。
さらに、間接消費税は、課税対象に応じて個別消費税と一般消費税とに分かれ、課税段階に応じて単段階消費税と多段階消費税に分かれる。このため、理念的には単段階個別消費税、多段階個別消費税、単段階一般消費税、多段階一般消費税の四種が存在しうることとなるが、日本の税制には、現在、多段階個別消費税と単段階一般消費税は存在しない※。
※消費税については、第七部において詳細を扱う。
個別消費税は、課税対象が特定の物品またはサービスに限定されるというものであり、酒税、たばこ税などが該当する。これに対し、一般消費税は、課税対象が原則として全ての物品およびサービスであるというもの、すなわち、課税対象が原則として限定されないものをいう。消費税および地方消費税が該当する。
また、単段階消費税は、一つの取引段階のみで課税を行うものであり、酒税、たばこ税などが該当する。これに対し、多段階消費税とは、複数の取引段階で課税を行うものであり、消費税および地方消費税が該当する。
流通税は、権利の取得や移転など、取引に関する様々な事実行為や法律行為を対象として課される租税である。登録免許税、印紙税、不動産取得税などが該当する。
(6)普通税と目的税
普通税とは、収入の使途を特定の経費に充てることを予定せずに課される租税である。近代立憲国家においては普通税が原則とされている。これはノン・アフェクタシオンの原則と言われるものであり、財政法第14条、会計法第2条および地方自治法第210条にいう総計予算主義の要請でもある。
これに対し、目的税とは、当初から収入の使途を特定の経費に宛てることを予定して課される租税である。法律によって支出目的が規定されているため、例外として扱われる。
しかし、最近では、支出目的の限定という面に着目し、目的税が応益原則に資することが強調され、再評価の機運も見られる。また、地方分権に伴う課税自主権の強化の一環として、法定外目的税の活用例が増えている。
たしかに、目的税により、税収の使途の明確化が期待できる部分があることは否定できないのであるが、次に示すような問題があり、法定外普通税を含めて懸念を抱かざるをえない。
第一に、目的税を多用するならば「財政の統一的運営を困難に」し※、財政の硬直化を招きやすくなる※※。特定財源についても同様のことを指摘しうる。
※金子・前掲書17頁。※※金子・前掲書17頁、拙稿「地方目的税の法的課題」『地方税の法的課題(日税研論集46号)』(2001年、日本税務研究センター)284頁。なお、碓井光明『要説地方税のしくみと法』(2001年、学陽書房)37頁、伊川・前掲35頁を参照。
第二に、議会の予算審議権・議決権の範囲を狭め、結局は国民主権、地方自治における団体自治・住民自治の原則に反する結果につながりかねない※。
※拙稿・前掲日税研論集46号285頁。なお、碓井・前掲書38頁、宮入編著・前掲書31頁[松井吉三担当]、同書134頁[松井]も参照。
第三に、本来、地方税は住民生活の基盤整備という目的を有するはずであるが、第一次地方分権改革による法定外普通税・法定外目的税の制定の動向はこの目的と異なる方向に進んでおり、結局は課税しやすいところに課税するという傾向が見受けられる。東京都の宿泊税はその典型であり、東京都に居住し、都内の宿泊施設を利用する住民はもとより、課税団体である地方公共団体の域外に居住する住民や企業など、参政権がなく、当該地方公共団体の住民税の納税義務者でもない者を宿泊税の納税義務者としている※。地方自治法第10条第2項に規定される負担分任の原則から逸脱していることは否めず、第二の点と同様に国民主権・民主主義の観点からは問題とせざるをえないし、租税体系に歪みを生じさせる危険性が高いことも否定できない※※。※「ホテル等」は、東京都宿泊税条例第6条第1項により、特別徴収義務者とされる。なお、ここにいう「ホテル等」は、同第2条において「旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第三条第一項の許可を受けて行う同法第二条第二項又は第三項の営業に係る施設」と定義される。
※※東京市町村自治調査会『課税自主権と法定外税調査研究報告書』(2004年3月)178頁。これは、大分大学教育福祉科学部助教授であった私へのインタビューをまとめた記事である。同書179頁には増田英敏教授へのインタビューをまとめた記事も掲載されているので、参照されたい。
4.租税法学の理論上の体系
論者によって内容や順番が異なることも多いが、概ね、次のようになっている。なお、多くの教科書においては、とくにシャウプ勧告に焦点を当て、近代国家になってからの日本の租税の歴史を扱うのであるが、この講義においては省略し、後に必要な部分について若干触れるに留める
※。 ※元々、租税法は行政法各論において扱われた分野であり、租税法学として独立してはいるが現在でも行政法の一分野であることに変わりがないため、体系については行政法学と共通する部分が多い。(1)租税法の基本原則
租税の意義、租税法律主義、租税法の解釈、課税上の原則など、租税法の全体に共通する原則を扱う。租税法総則、または租税法の基礎理論とも言われる。この部分のみに関する解説書もあるほどで、理論的な難題も少なくない。
(2)租税実体法
所得税法、法人税法、消費税法などの個別租税法について、課税要件などを扱う。多くの体系書が租税実体法に膨大な頁数を充て、租税法の中心的な存在となっているとともに、一般国民にとっても最も関心の高い分野であろう。個別の租税実体法に関する概説書なども多く出版されている。
(3)租税手続法
根本的には、行政法学における行政手続法と同じものである。納税義務が成立してから具体的に租税が納付されるまでの手続である。例えば、申告納税は、納税義務者が納めるべき税額を納税義務者自らが確定し、申告して納付するが、場合によっては税務署に認められず、納税義務者が修正申告をするか、税務署が更正処分を行う。滞納処分に至る場合もある。こうした一連の過程を扱う。
見方によっては、租税処罰法や租税争訟法も租税手続法に入るのであるが、これらは事後手続であるため、租税手続法とは別に扱われる。この点も行政手続法と同じである。但し、租税手続については行政手続法が適用されず、国税通則法や国税徴収法などが適用される場合が多い。
(4)租税争訟法
行政法学における行政争訟法と根本的には同じである。更正処分や滞納処分などを受けた納税義務者が救済を受けるための手続を扱う。租税法の場合は、行政不服審査前置主義が採用され、しかも行政不服審査法ではなく、国税通則法の規定が適用される。そのため、税務署長に対する異議申立て、国税不服審判所への審査請求を経てから、裁判所に訴訟を提起することとなる。なお、租税訴訟に関する特別法は存在しないので、行政事件訴訟法などが適用される。
(5)租税処罰法(罰則法)
行政法学における行政刑法と根本的には同じである。個々の租税の確定や徴収、納付に直接的に関連する犯罪と、それに対する制裁(刑罰などの処罰)を扱う。
中心となるのは脱税犯である。これは、次のように細分される。
逋脱犯(狭義の脱税犯):納税義務者または徴収納付義務者が、偽りその他不正の手段により、租税を免れ、またはその還付を受けたことを構成要件とする犯罪である。帳簿書類への虚偽記入、二重帳簿の作成などの手段によることが多いが、単純な無申告や過少申告であっても逋脱犯に該当する場合がありうる。課税主体の租税債権を直接的に侵害する犯罪と位置づけられる。
間接脱税犯:外国貨物の密輸入や酒類の密造など、一般的に法律により禁止されている行為を行った場合が該当する。
不納付犯:徴収納付義務者が、徴収し納付すべき租税を納付しない、という事実を構成要件とするものである。
滞納処分脱犯:滞納処分の執行を免れる目的により、財産の隠蔽や損壊、その他租税債権者の利益を害する行為が該当する。
脱税犯とは別に、租税危害犯の概念が存在する。これは、課税主体の租税債権を直接的に侵害するものではないが、租税確定権や租税徴収権の行使を妨げるために可罰的であるとされる行為を犯罪とするものであり、主なものは次の通りである。
虚偽申告犯:文字通り、納税申告書に虚偽の記載をすることが構成要件とされる犯罪である。
単純無申告犯:正当な理由がないにもかかわらず、納税申告書を提出期限内に提出しないことが構成要件とされる犯罪である。但し、偽りその他不正な行為と結びついている場合には、単純無申告犯ではなく、逋脱犯とされる。
不徴収犯:源泉徴収などの徴収納付義務者が、納税義務者から徴収すべき租税を徴収しない場合をいう。罰則として、所得税法第242条第3号がある。
検査拒否犯:これは、次のような行為を構成要件とする犯罪である。
@税務職員の行う質問に対して答弁をしない、
A税務職員の行う質問に対して偽りの答弁をする、
B税務職員の行う検査を拒否する、
C税務職員の行う検査を妨げる、
D税務職員の行う検査を忌避する、
E質問・検査の際に偽りの記載がなされた帳簿書類を提出する。
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(2011年3月15日掲載)
(2011年3月21日修正)
(2011年3月22日補訂)
(2011年3月31日修正)
(2011年4月5日修正)
(2012年8月5日修正)
(2013年3月29日修正)
(2013年8月1日修正)
(2014年3月3日修正)
(2018年1月24日補訂)
(2018年7月23日修正)