14    法人税の性質

 

 

  法人税法は、法人所得税に関する規律を中心とする。従って、各事業年度の所得に対する法人税が主なものである。しかし、そればかりでなく、法人税法は、各連結事業年度の連結所得に対する法人税、および退職年金等積立金に対する法人税をも規律する。このうち、各連結事業年度の連結所得に対する法人税は、2002(平成14)年7月の法人税法改正により導入された。

 ※2010(平成22)年改正まで、法人税法は清算所得に対する法人税を規律していた。また、2007(平成19)年改正まで、特定信託の所得に対する法人税が課されていたが、同改正によって廃止され、法人課税信託の所得に対する法人税に統合された。これは、新信託法が2006(平成18)年に制定され、翌年の9月30日から施行されたことに伴うものである。

 法人税については、以前から、その性質をどのように考えるべきかという問題がある。これは、法人本質論(法人擬制説と法人実在説との対立)と無関係ではなく、法人税の制度設計にも少なからぬ影響が生ずるからである。金子宏教授は法人本質論を「租税政策論の中にもちこむのは議論を無用に混乱させるだけである」と述べるが、が、このように言い切ることには疑問が生ずる。むしろ、奥村宏氏が指摘するように、法人擬制説、法人否認説、法人実在説のいずれも「現実にかかわる大問題であ」り、「会社は実体かどうかをめぐる議論」は「一九世紀のドイツ以上にいまやもっと大きな問題なのである」と考えるほうがよい※※。そうであるならば、法人本質論を「租税政策論の中にもちこむ」必要性は、法律学の観点からすれば非常に高いものであるとみなさざるをえない。

 ※金子宏『租税法』〔第十八版〕(2013年、弘文堂)267

 ※※奥村宏『経済学は死んだのか』(2010年、平凡社新書)150頁、152

 それでは、法人税の性質をいかなるものと考えるべきであろうか。

 第一の見解として、法人税は所得税の前取りである、とする説がある。これによると、法人の所得に対して法人税を課し、さらに個人の配当所得に対して所得税を課すことは、二重課税に該当することになる。企業、とくに株式会社の本来の形態を考慮すれば、法人税が株主個人の配当所得を減少させることは当然であるから、二重課税という立論にも意味はある。

 第二の見解として、法人税は法人の担税力に着目して課される独自の租税である、とする説がある。これによると、法人の所得と株主の所得とは別であり、法人自体にも担税力があることから、法人の所得に対して法人税を課し、さらに個人の配当所得に対して所得税を課したとしても、二重課税には該当しないことになる。この見解に対しては、「@株式市場の発展が阻害される。A配当所得を他の所得と比較したとき、不当に差別しているような印象を与えがちとなる。この結果、B企業の資金調達方法が影響を受け、課税の中立性と抵触する。資本蓄積といった政策目標を重視すると、特にこのような弊害が注目されてくる」という指摘がなされている

 ※吉田克己『現代租税論の展開』(2005年、八千代出版)76

 シャウプ勧告は第一の見解を採用し、配当控除制度の採用を提案した。日本の所得税法も、基本的に同じであるが、現在の経済社会においてこうした考え方はそのまま妥当しないものと思われる。

  例えば、第一の見解の前提として、法人税は転嫁しないという考え方がある。法人税が直接税であることから主張されるのであろう。しかし、実際には転嫁しないとは言えないのではないか。転嫁するのであれば、第一の考え方の前提そのものがなくなる

 ※この点については、さしあたり、吉田・前掲書81頁、神野直彦『財政法』〔改訂版〕(2007年、有斐閣)177頁、星野泉=小野島真編著『現代財政論』(2007年、学陽書房)66頁[小野島真担当]、室山義正『財政学』(2008年、ミネルヴァ書房)231頁を参照。

 次に、転嫁の有無と無関係に、法人の規模などを念頭に置いた場合、第一の見解には難点が存在する。大規模法人の場合、いまや法人が個人の集合体であるという考え方は妥当しにくくなっている。株式会社の利点の一つに「所有と経営の分離」があるが、大規模法人の場合はこれが妥当する場合が多い。一方、法人の経営方針や配当政策に対する個人株主の影響力は、年度によって若干の違いがあるとはいえ、一貫して低いというのが現状である

 ※北野弘久『税法学原論』〔第六版〕(2007年、青林書院)149頁は「日本の大法人の多くは個人株主の占める比率がきわめて低く、『資本』に法人格を付与した財団的実態をもっている。もちろん大法人の多くは所有が所有と経営とが分離している。したがって、法人所得が最終的に個人株主に帰着するという法人擬制説的思考が妥当する社会的基盤がほとんど存在しないといってよい」と述べる。

 ※※例として、東京証券取引所=大阪証券取引所=名古屋証券取引所=福岡証券取引所=札幌証券取引所「平成22年度株式分布状況調査の調査結果について(平成23年6月20日)」を参照。

 また、小規模企業については、とくに個人企業のようなものである場合、法人は個人の集合に過ぎないという命題が妥当しやすいのであるが、それでも法人になれば、家族の間に所得を分割できるし、所得を法人の内部に留保できるから、所得税法に定められた累進税率を回避することが可能となる。そうなれば、法人の利益のうち、個人に配当されない部分が多くなる

 ※これに対し、北野・前掲書149頁は「多くの中小法人は、所有と経営とが一致ししかもそのオーナーの生存権の延長線上に憲法理論上位置づけられうる実体をも」ち、「法人格を有するとはいえ、憲法理論上は生存権ないしは生業権の保護の対象となりうる存在である」と述べる。

 しかし、以上のような問題があるとはいえ、第一の見解の影響力は大きい。そのため、日本をはじめとして、多くの諸国においては何らかの二重課税排除のシステムを採用している。次に掲げるものが代表的なシステムである。

 ※アメリカはこうしたシステムを採用しておらず、個人所得税と法人所得税を別個に課税する。

 (1)組合方式

 これは完全調整方式の一種であり、法人を組合とみなした上で、法人の所得を株主の持株数や社員の出資金額に応じて按分した上で、その按分した額を株主や社員の所得として課税する方法である。これによると、法人税は廃止されることになるので、そもそも二重課税の問題は生じない。小規模法人については採用が可能であるが、大規模法人の場合は法人の保有株式などの問題があり、採用は難しいとされている。また、この方法によると、実際に配当されていない未実現の所得についても課税されることになる。現在、一般的な制度として採用する国は存在しない。

 ※吉田・前掲書77頁による。

 (2)カーター方式

 1966年にカナダのカーター委員会報告が提案した方式で、やはり完全調整方式の一種であり、法人の所得に対しては所得税の最高税率で課税し、税を引く前の法人の全所得を株主の持株数や社員の出資金額に応じて按分し、算出された所得税額から法人税に相当する額を控除する方法である。組合方式と異なり、法人税は存続する。しかし、所得税の最高税率よりも低い税率が適用される株主や社員には法人税が還付されることになるので、やはり二重課税は排除される。

 ※吉田・前掲書77頁。

 (3)法人税株主帰属方式(インピュテーション方式)

 一部のヨーロッパ諸国で採用される方式で、個人株主の受取配当、その受取配当に対応する法人税額の全部または一部に相当する額を個人株主の所得に加算して算出された税額から、加算した金額を控除するという方法である。受取配当に対応する法人税額の全部を株主に一度帰属させるため、部分調整方式のうちの受取段階調整方式の一種である※※。この方法によると、法人の所得のうちで配当に当てられた部分については二重課税が完全に排除される。

 ※ドイツが完全な法人税株主帰属方式を採用していたが、2000年の税制改正により、2002年からはこの方式が採られなくなった。現在では受取配当の2分の1を控除する制度である。フランスも完全な法人税株主帰属方式を採用していたが、2004年からドイツと同様の方式を採用している。

 ※※かつてグロス・アップ方式とも呼ばれていた。吉田・前掲書77頁、78頁は「今日の先進諸国においてもっとも普及している方式」と説明する。

 (4)支払配当損金算入方式

 これは部分調整方式のうちの支払段階調整方式の一種であり、法人所得のうち、配当その他の利益の処分にあてた部分を法人の損金に算入し、法人税の対象から除外するという方法である。配当その他の利益に関する部分については、損金に算入することによって二重課税を完全に免れることが可能である。しかし、逆に法人に留保された利益については、法人税と所得税との統合が一切行われないので、法人税株主帰属方式と同様に、相対的に重課または軽課が生じる。

 ※吉田・前掲書77頁、78頁。

 5)二重税率方式

 これは支払配当軽課方式または二段階税率方式とも呼ばれ、部分調整方式のうちの支払段階調整方式のうちの一種で、ドイツにおいて2002年度に廃止されるまで長らく採用され、日本においても1961(昭和36)年から1990(平成2)年まで採用されていた方法である。法人所得のうち、配当にあてた部分については通常の法人税率よりも低い税率を適用する。これにより、結果的には支払配当の一部を損金に算入する方法と同じになる。なお、法人に留保された利益を後に配当にあてる場合には、支払配当損金算入方式と同様に、法人税の還付の問題が生ずることとなる。

 ※吉田・前掲書77頁、78頁。

 6)配当所得控除方式

 これは部分調整方式のうちの受取段階調整方式の一種であり、個人の受取配当の一定割合または一定額を所得から控除する方法である。簡易な方法ではあろうが、二重課税の排除の方法としては杜撰なものであると評価される。また、この方式によると、個人の所得税について累進税率が適用されることから、高額所得者ほど納税負担の軽減が大きくなる。

 ※金子・前掲書277頁。

  (7)配当所得税額控除方式

  これも部分調整方式のうちの受取段階調整方式の一種であり、シャウプ勧告を受けて日本において採用されている方法で、個人の受取配当の一定割合または一定額を、所得からではなく、所得税額から控除する、というものである。この方式は、一定の所得段階に照準を合わせることによって二重課税を完全に排除できる。しかし、配当所得控除方式と同様に、高額所得者ほど納税負担が大きく軽減され、逆に所得が低くなるほど二重課税が排除されなくなるという問題が生ずる。

  ※吉田・前掲書77頁、78頁。

 

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(2011年3月16日掲載)

(2011年8月19日修正)

(2012年7月11日修正)

(2012年8月8日修正)

(2013年10月17日修正)