32 国税としての消費税の構造
1.課税対象(課税物件)
消費税法は、課税対象を国内取引と輸入取引とに分け、それぞれについて規定を置く。以下において概観を試みる。
(1)国内取引
国内取引は、消費税法第4条第1項によって「国内において事業者が行った資産の譲渡等」とされており、「資産の譲渡等」は第2条第1項第8号によって定義される。
「資産」は広い概念で、たな卸資産や固定資産などの有形資産の譲渡は勿論、商標権や特許権などの無形資産も含む。また、「譲渡等」は、譲渡の他、貸付(第2条第2項)、役務の提供(各種の契約による労務や便益などのサービスの提供のこと)を含む。消費税は、原則として、事業に該当するものの「資産の譲渡等」の全てについて課されるが、第6条第1項によって非課税とされるものを除く(第2条第1項第9号により「課税資産の譲渡等」と表現される)。
消費税法にいう事業は、所得税法にいう事業よりも広く、同種の行為を独立して反復継続して行うことと理解されている。
事業外の取引は、元々、消費税の課税対象から外されている。これを不課税取引、または課税除外取引という(非課税取引とは意味が異なるので注意されたい)。これは、把握が困難であること、および、税収が僅少と見込まれるためである。
また、対価を伴わない取引も課税の対象とならないのが原則である。たとえば、従業員が会社などから受け取る給与などは、事業者が対価を得て行う取引に該当しない。また、或る個人が自己所有の中古車を販売しても、その個人が事業者でなければ、消費税の課税対象とはならない。
但し、第2条第1項第8号、消費税法施行令第2条第1項・第2項により、課税対象となることがある。また、消費税法第4条第4項各号に該当する場合も課税対象となる(みなし譲渡)。
ここで、表示方式の問題を取り上げておく。これは、外税方式か内税方式(総額表示方式)かという問題である。外税方式の場合、消費者が税額を知ることはできるが、事業者にとっては転嫁がしにくい。これに対して、内税方式は、事業者にとっては転嫁がしやすいが、消費者にとって実質的な税負担が見えにくい。日本においては、消費税法施行以来、どちらの方式によるかを事業者の選択に委ねていた。しかし、2003(平成15)年度改正によって、原則として内税方式が採られることとなり、2004(平成16)年4月1日から始められた(第63条)。このため、事業者が不特定多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合に、あらかじめ資産や役務の価格を表示する際には、消費税額および地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。
但し、後に述べるように、2014(平成26)年4月1日より、税率が4%(地方消費税を入れて5%)から6.3%(地方消費税を入れて8%)に引き上げられたことに伴い、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(平成25年6月12日法律第41号)第四章に特例が定められた。参考までに、規定を紹介しておく。
「第四章 価格の表示に関する特別措置
(総額表示義務に関する消費税法の特例)
第十条 事業者(消費税法 (昭和六十三年法律第百八号)第六十三条に規定する事業者をいう。以下この条において同じ。)は、自己の供給する商品又は役務の価格を表示する場合において、今次の消費税率引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁のため必要があるときは、現に表示する価格が税込価格(消費税を含めた価格をいう。以下この章において同じ。)であると誤認されないための措置を講じているときに限り、同法第六十三条の規定にかかわらず、税込価格を表示することを要しない。
2 前項の規定により税込価格を表示しない事業者は、できるだけ速やかに、税込価格を表示するよう努めなければならない。
3 事業者は、自己の供給する商品又は役務の税込価格を表示する場合において、消費税の円滑かつ適正な転嫁のため必要があるときは、税込価格に併せて、消費税を含まない価格又は消費税の額を表示するものとする。
(不当景品類及び不当表示防止法の適用除外)
第十一条 前条第三項の場合において、税込価格が明瞭に表示されているときは、当該消費税を含まない価格の表示については、不当景品類及び不当表示防止法 (昭和三十七年法律第百三十四号)第四条第一項の規定は、適用しない。」
(2)輸入取引
輸入取引の課税対象は、保税地域(関税法第29条、消費税法第2条第1項第2号。みなし取引:消費税法第4条第5項)から引き取られる外国貨物〔関税法第2条第1項第3号、消費税法第2条第1項第10号・第11号(課税貨物)〕である。国内取引の場合と異なり、外国貨物の引取が事業として行われるか否か、対価を得て行われるか否かを問わず、課税の対象となる。
(3)非課税
本来なら課税対象取引であるもののうち、消費税法第6条に規定されるもの(第1項―別表第一、第2項―別表第二)が非課税となっている。その代表となる取引が、土地の譲渡や株式の売買である。本来であれば資産の譲渡であるが、資本の振替に過ぎないという理由により、非課税とされているのである。なお、社会保険診療、学校法人の授業料や入学受験料なども非課税とされているが、これらは社会政策上の理由による。
非課税は、免税と異なり、売上が課税の対象から除外されるだけである。従って、仕入税額は控除されない。
消費税導入時より、食料品の非課税化が主張されている。しかし、安易な非課税化は、仕入税額控除が認められなくなる一方で、食料品の価格に消費税が含まれていないという意味でもないので、かえって消費者の負担が増えることもあるのである。
ここで、一つの例を利用して説明を試みる。以下、税率を5%とし、A(食料品製造業)、B(卸売業者)、C(小売業者)、D(小売業者より食料品を購入した消費者)、E(飲食店等)、F(飲食店等のサービスを利用した消費者)としておく※。
※三木義一編著『よくわかる税法入門』〔第7版〕(2013年、有斐閣)241頁 【望月爾担当】(同書の第9版には掲載されていない)。但し、これは森信茂樹『日本の消費税』(納税協会連合会、2000年)599頁に登場するものである。
@Dが購入した食料品が課税されている場合
A 仕入額を300とし、付加価値を200とする。すなわち売上を500とする。
仕入額にかかる税額は15円(∵300×0.05=15)
売上にかかる税額は25円(∵500×0.05=25)
納税額は10円
B Aからの仕入額は500円(税額込みで525円)。ここで売上額を700円とし、この中には、Aからの仕入以外に、販売などのために必要な費用の100円を含める。
仕入額にかかる税額は25円(∵500×0.05=25)
販売などのために必要な費用にかかる税額は5円(∵100×0.05=5)
売上にかかる税額は35円(∵700×0.05=35)
納税額は5円
C Bからの仕入額は700円(税額込みで735円)。ここで売上額を1000円とし、この中には、Bからの仕入以外に、販売などのために必要な費用の100円を含める。
仕入額にかかる税額は35円(∵700×0.05=35)
販売などのために必要な費用にかかる税額は5円(∵100×0.05=5)
売上にかかる税額は35円(∵1000×0.05=50)
納税額は10円
Cから商品を購入したDの購入額は、消費税分を入れて1050円
ADが購入した食料品が課税されていない場合
A 仕入額を300とし、付加価値を200とする。すなわち売上を500とする。
仕入額にかかる税額は15円(∵300×0.05=15)←原材料などを購入する際には消費税がかかるので売上には税がかからないが、仕入税額控除もできないので、売上を500とするには仕入額にかかる税額15円を足さなければならない→Bに販売する価格は515円
B Aからの仕入額は515円。この他に、販売などのために必要な費用の100円がある。純粋な付加価値は100円であるとする。
販売などのために必要な費用にかかる税額は5円(∵100×0.05=5)
純粋な付加価値100円は非課税であり、販売などのために必要な費用にかかる税額について仕入税額控除が認められない→Cに販売する価格は720円
C Bからの仕入額は720円。この他に、販売などのために必要な費用の100円がある。純粋な付加価値は200円であるとする。
販売などのために必要な費用にかかる税額は5円(∵100×0.05=5)
純粋な付加価値200円は非課税であり、販売などのために必要な費用にかかる税額について仕入税額控除が認められない→Dに販売する価格は1025円
BFが飲食等をした店の食料品が課税されている場合
A 仕入額を300とし、付加価値を200とする。すなわち売上を500とする。
仕入額にかかる税額は15円(∵300×0.05=15)
売上にかかる税額は25円(∵500×0.05=25)
納税額は10円
B Aからの仕入額は500円(税額込みで525円)。ここで売上額を700円とし、この中には、Aからの仕入以外に、販売などのために必要な費用の100円を含める。
仕入額にかかる税額は25円(∵500×0.05=25)
販売などのために必要な費用にかかる税額は5円(∵100×0.05=5)
売上にかかる税額は35円(∵700×0.05=35)
納税額は5円
E Bからの仕入額は700円(税額込みで735円)。調理などのために必要な費用は300円で、純粋な付加価値を1000円とする。
仕入額にかかる税額は35円(∵700×0.05=35)
調理などのために必要な費用にかかる税額は15円(∵300×0.05=15)
売上にかかる税額は100円(∵2000×0.05=100)
納税額は50円
EはFに、2100円でサービスをすることとなる。
CFが飲食等をした店の食料品が課税されていない場合(但し、Eが行うサービスそのものは課税されるものとする)
A 仕入額を300とし、付加価値を200とする。すなわち売上を500とする。
仕入額にかかる税額は15円(∵300×0.05=15)←原材料などを購入する際には消費税がかかるので売上には税がかからないが、仕入税額控除もできないので、売上を500とするには仕入額にかかる税額15円を足さなければならない→Bに販売する価格は515円
B Aからの仕入額は515円。この他に、販売などのために必要な費用の100円がある。純粋な付加価値は100円であるとする。
販売などのために必要な費用にかかる税額は5円(∵100×0.05=5)
純粋な付加価値100円は非課税であり、販売などのために必要な費用にかかる税額について仕入税額控除が認められない→Eに販売する価格は720円
E Bからの仕入額は720円。この他に、販売などのために必要な費用の300円がある。純粋な付加価値は1000円であるとする。
販売などのために必要な費用にかかる税額は15円(∵300×0.05=15)
Fのサービス提供価格は、720+300+1000=2020である。Eの料金は課税対象なので、101円の税額が上乗せされ、結局2121円となる。
しかし、Eが仕入税額控除を認められるのは、販売などのために必要な費用にかかる税額の15円のみであるため、結局、Eは86円を納めなければならない。
(4)輸出免税
国内取引としての物品の譲渡やサービスの提供は、物品が輸出されたり、サービスが国内で行われたりする場合に、免除される(消費税法第7条、第45条第1項第5号・第7号、第46条、第52条、第53条など)。輸出免税として、課税の対象から除外するのみならず、仕入に含まれる税額を控除、さらに還付して、税負担を0とする。ゼロ税率の代表例であり、日本の消費税でゼロ税率となっているのは、輸出免税の場合のみである。
輸出される物品、国外で提供される役務などに対する消費税の課税主体については、源泉地主義と仕向地主義とがある。
源泉地主義は、名称の通り、源泉地国に課税権があると考える。しかし、各国の消費税制度が統一されておらず、物やサービスの流れが相互的でなければ、輸入超過国の国庫の擬制によって輸出超過国の国庫(税収)が増大するし、税負担水準の低い国の製品が国際競争上有利になる。これは、別の観点からすれば、自国内で消費される製品などを自国のものと他国のものとに分け、その上で他国のものについて消費税を課すことができないという結果になる。
これに対し、仕向地主義を採れば、輸出品は仕向地国の税制に服することになるため、仕向地国の製品や他国の製品と同じ競争に服しうるし、税制の国際的競争中立性も確保できることになる。そして、自国内で消費される製品などについては自国のものであると他国のものであるとを問わずに等しく課税することが可能となる。日本の消費税法は仕向地主義を採用している。
3.納税義務者
(1)一般的事項
国内取引の場合は、課税資産の譲渡等を行った事業者である(第5条第1項)。すなわち、個人事業者および法人―国、地方公共団体、公益法人、公共法人、人格のない社団等も含む―である(第2条第1項第3号・第4号、第3条、第60条)。
なお、最終消費者は、後に述べる個人輸入のような場合を除けば、そもそも納税義務者ではなく、担税者であるに過ぎない。そのため、消費税に関して最終消費者は課税関係の外に置かれるのであり、仮に税務訴訟(行政事件訴訟)が提起されるとしても、行政事件訴訟法第9条にいう訴えの利益(より厳密に記すならば、原告適格)を欠くこととなる。
輸入取引の場合は、課税貨物を保税地域から引き取る者である(消費税法第5条第2項)。国内取引と異なり、事業者のみならず、個人(消費者)や免税事業者も、保税地域から課税貨物を引き取る限りで納税義務者となる。
(2)免税事業者制度(免税点制度)
現在の消費税の導入に際しては、小規模零細事業者の強力な反対があった。これを懐柔するため、また、事務負担を軽減するために、消費税の導入当初から、基準期間における課税売上高について免税事業者制度が採用されてきた。これは消費税法第9条に定められているもので、当初は3000万円(課税売上高)が免税点であったが、2004(平成16)年4月1日から1000万円(課税売上高)に引き下げられた。
基準期間は、個人事業者については課税年度の前々年、法人については課税期間の前々事業年度とされている(第2条第1項第14号)。
課税売上高は、国内で行った課税資産の譲渡等の対価の合計額から対価の返還等の金額(第38条。消費税抜きの金額のこと)を控除した金額である(第9条第2項第1号)。
以上に対しては、第10条ないし第12条の2に特例が定められている。
ここで、免税事業者が取引に参加するか否かによって引き起こされる問題について述べておく。これが、既に述べたように消費税をいっそう複雑な制度としているからである
※。※ここでは、北野弘久編『現代税法講義』〔五訂版〕(2009年、法律文化社)249頁に掲載されている例を利用する。但し、この本の例では小数点が出てしまい、差がわかりにくいので、全ての数字を100倍したものに置き換えている。
A、B、C(いずれも企業)およびD(最終消費者)がおり、Aが10000円の価格の商品Eを販売する、と仮定する。税率は5%としておく。まず、A、B、Cのいずれも課税事業者である場合は、次のようになる。
AはEをBに販売する。Aの納税額は500円である(10000×0.05=500)。
次に、BはEに2000円の付加価値をつけ、12000円の価格で販売する。Bの納税額は100円である(∵12000×0.05−10000×0.05=600−500=100)。
そして、CはEに、さらに2000円の付加価値をつけ、14000円の価格で販売する。Cの納税額は100円である(∵14000×0.05−12000×0.05=700−600=100)。
最後に、DはEを14000円で購入する。Dが最終的に負担させられる消費税額は700円である(14000×0.05=700)。この額は、A、B、Cが納めるべき税額の合計と同一である(∵10000×0.05+12000×0.05−10000×0.05+14000×0.05−12000×0.05=500+600−500+700−600=700)。
ところが、ここでBが免税事業者であるとすると、話が変わってくる。
AはEをBに販売する。Aの納税額は500円である(10000×0.05=500)。
次に、BはEに2000円の付加価値をつけ、12000円の価格で販売する。ここまでは上と同じであるが、Bは免税事業者であるため、納税額は0円である。一方、Bは仕入税額控除もできない。
そして、CはEをBから購入するのであるが、Bが免税事業者であり、課税事業者であるCは仕入税額控除をなすことができないので、CはAが納めるべき税額500円を仕入価格に上乗せした12500円で仕入れることとなる。さらに2000円の付加価値をつけると、14500円の価格で販売しなければならない。Cの納税額は725円である(∵14500×0.05=725)。
結局、DはEを14500円で購入することになるので、Dが最終的に負担させられる消費税額は725円である。このように、流通段階に免税事業者が入ることにより、課税事業者であっても仕入税額控除が否認されてしまうため、納税義務者の負担、さらには消費者の実質的負担は増えてしまうのである。既に取り上げた非課税物品の取引と同様の事態が生じているのである。
(3)実質行為者課税の原則
課税物件の帰属が問題となる場合に、名目(名義)ではなく、実体(実質)に着目して課税せよという原則であり、消費税法第13条に規定されている。これは、所得税法第12条や法人税法第11条などにならったものである。
また、信託財産に係る資産の譲渡等の帰属については、消費税法第14条が定めている。
4.課税標準および税率
(1)課税標準
国内取引については「課税資産の譲渡等の対価の額」(消費税法第28条第1項)であって、消費税相当額と地方消費税相当額を除いたものとされている。
ここで対価は「一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他の経済的な利益の額」であり、消費税相当額および地方消費税相当額は含まれない。
以上の対価には、実際のところ、個別消費税や直接消費税に相当する額が含まれていることがある。個別消費税の場合は、本来的に製造者が納め、負担の転嫁が予定されていることから、ここにいう対価にあたると考えられる。これに対し、直接消費税は、本来は消費者が自ら負担し、納付すべきものであり、事業者は特別徴収義務者にすぎないので、ここにいう対価に含まれないであろう。
なお、対価の額は当事者間において取り決められた取引価格である(時価ではないことに注意)。しかし、第28条第1項但書は、法人が資産をその法人の役員(第4条第4項第2号)に譲渡した際の価格がその資産の価格に比較して著しく低い場合には、その資産の価額に相当する額を対価とみなすと規定している。この他、法人が役員の資産を贈与した場合には、贈与の際の資産の価額に相当する額が対価とみなされ(第28条第2項第2号)、個人事業者が棚卸資産または事業用資産を家事のために消費または使用した場合には、その消費または使用の際の価額に相当する額が対価とみなされる(第1号)。
輸入取引については、課税貨物について関税定率法第4条ないし第4条の8までに準じて算出した価格に、貨物の保税地域からの引き取りにあたって課される個別消費税(酒税、たばこ税、揮発油税、地方道路税、石油税である)および関税の額に相当する金額を加算したものが課税標準である(消費税法第38条第3項)。
(2)税率
消費税の税率は6.3%である(第29条)。地方消費税は、課税標準を消費税の税額としており(地方税法第72条の77第2号・第3号)、税率を(消費税の税額の)63分の17とする(同第72条の83)。
地方消費税は都道府県税であるが、地方税法附則第9条の4以下により「当分の間」の扱いとして、納税義務者は、地方消費税を都道府県にではなく、消費税と合わせて税務署に申告し、納付することとなっている。そのためもあって、消費税と地方消費税とを合わせた負担率は8%となる。
▲以上は、2014年4月1日からの税率である。前日までは、消費税の税率が4%、地方消費税の税率が(消費税の税額の)25%であり、合わせて5%であった。
税率の引き上げは、2012(平成24)年8月10日に、消費増税法案などという通称で呼ばれる「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」(以下、消費税法等改正法と記す)および「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」(以下、地方税法等改正法と記す)が参議院本会議で可決され、成立したことによる。
消費税法等改正法および地方税法等改正法により、消費税および地方消費税は、2014(平成26)年4月および2015(平成27)年10月の2段階で引き上げられることとなっていた。
消費税法等改正法の第2条は、2014年4月より、国税としての消費税の税率を現行の4%から6.3%に引き上げる旨を規定する。都道府県税としての地方消費税を合わせると8%となるので、地方消費税の税率は1.7%となる。なお、地方税法等改正法第1条によると、地方消費税の税率は消費税額の63分の17である。
また、消費税法等改正法の第3条は、2015年10月より、消費税の税率を先の6.3%から7.8%に引き上げる旨を規定する。地方消費税を合わせると10%となるので、地方消費税の税率は2.2%となる。なお、地方税法等改正法第2条によると、地方消費税の税率は先の63分の17から78分の22に引き上げられる。
しかし、2014年11月18日、内閣総理大臣が2015年10月実施予定の税率引き上げを2017年4月1日に延期する旨を表明した。これは、消費税法等改正法附則第18条第3項および地方税法等改正法附則第19条に基づく判断による。なお、これらの規定は平成27年度税制改正の際に削除された。
(3)課税期間および期間帰属
消費税のうち、輸入取引に係るものについては、随時課税されることになっているので、課税期間および期間帰属は問題にならない。これに対し、国内取引に係るものは、課税期間および期間帰属に服することとなる。
課税期間は、個人事業者については原則として暦年とされ(消費税法第19条第1項第1号)、法人については原則として法人税法に定められた事業年度とされる(同第2号)。
期間帰属は、課税資産の譲渡等が行われた期間の帰属のことである。原則的には、資産の譲渡等が行われた課税期間に対価が発生したと考えてよい。そして、第28条第1項の規定は、現金主義ではなく、権利確定主義を採用するものと解することができる。但し、現金主義など例外も認められる。
5.消費税額の計算など
納付すべき消費税額は、課税標準額に税率を乗じて計算した税額から、仕入税額控除など各種控除を行った後に残る金額である。ここでは、計算や税額控除について概観する。
(1)売上税額の計算
売上税額という言葉は消費税法に登場しないが、課税標準額に税率を乗じて計算した税額をいうものとしておく。
まず、課税期間中に行われた課税資産の譲渡等の対価の額の合計を算出する(第45条第1項第1号および第2号では課税標準額という)。
次に、課税標準額に対する消費税額を算出する。
課税資産の譲渡等について税込みで代金を徴収している場合(税込処理)には、課税資産の合計額に105分の100を乗じることにより、課税標準額が算出される。但し、1000円未満の端数は切り捨てる。そして、課税標準額に4%を乗じて売上税額を算出する。
これに対し、対価の額と消費税相当額とを区分して代金を徴収している場合(税抜処理)には、対価の額の合計額=課税標準額、消費税相当額の合計額=売上税額である。
(2)実額による仕入税額控除(前段階税額控除)
仕入税額とは、仕入れに含まれていた消費税額のことである。消費税法は、仕入税額控除の方法として二種類を認めているが、ここではまず実額による仕入税額控除について説明する。これが原則的な方法であり、基本となるからである。
第30条によると、売上税額から、期間中に国内において行った課税仕入(第2条第1項第12号)に係る消費税額と、保税地域から引き取った課税貨物に係る消費税額の合計額を控除することになる。非課税取引などは課税仕入に含まれない。
課税仕入に係る税額は、税込処理の場合には課税仕入に係る支払対価の額に105分の4を乗じて算出し(第30条第1項括弧書き)、税抜処理の場合には消費税相当額を合計して算出する。
仕入税額の全てが控除されるのかと言えば、必ずしもそうではない。消費税法は、課税期間中の課税売上割合※によって区別を設けている。課税売上割合が95%以上の場合には、仕入税額の全額が控除の対象となる。これに対し、課税売上割合が95%未満の場合には、第30条第2項各号に定められた方法により、控除額を求めることとなる。
※消費税法第30条第6項により、総売上高に対する課税売上高の割合をいうこととされている。
実額による仕入税額控除は、原則として、帳簿、請求書などで一定の要件をみたした場合に認められる。しかし、このように帳簿方式が採用されていることもあって、実額による仕入税額控除、とくに第30条第7項による仕入税額控除の適用否認については重大な問題点が存在する。
まず、規定を確認しておく。第30条第7項は、次のように規定する。
「第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。」
これを受けて、同条第8項以下は次のように規定する。
第8項:「前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
二 課税仕入れ等の税額が第一項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物に係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税貨物を保税地域から引き取つた年月日(課税貨物につき特例申告書を提出した場合には、保税地域から引き取つた年月日及び特例申告書を提出した日又は特例申告に関する決定の通知を受けた日)
ロ 課税貨物の内容
ハ 課税貨物の引取りに係る消費税額及び地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。次項第三号において同じ。)又はその合計額」
第9項:「第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
一 事業者に対し課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この号において同じ。)を行う他の事業者(当該課税資産の譲渡等が卸売市場においてせり売又は入札の方法により行われるものその他の媒介又は取次ぎに係る業務を行う者を介して行われるものである場合には、当該媒介又は取次ぎに係る業務を行う者)が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で次に掲げる事項(当該課税資産の譲渡等が小売業その他の政令で定める事業に係るものである場合には、イからニまでに掲げる事項)が記載されているもの
イ 書類の作成者の氏名又は名称
ロ 課税資産の譲渡等を行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
ハ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
ニ 課税資産の譲渡等の対価の額(当該課税資産の譲渡等に係る消費税額及び地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
ホ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称
二 事業者がその行つた課税仕入れにつき作成する仕入明細書、仕入計算書その他これらに類する書類で次に掲げる事項が記載されているもの(当該書類に記載されている事項につき、当該課税仕入れの相手方の確認を受けたものに限る。)
イ 書類の作成者の氏名又は名称
ロ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ハ 課税仕入れを行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税仕入れにつきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
ニ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
ホ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
三 課税貨物を保税地域から引き取る事業者が保税地域の所在地を所轄する税関長から交付を受ける当該課税貨物の輸入の許可(関税法第六十七条(輸出又は輸入の許可)に規定する輸入の許可をいう。)があつたことを証する書類その他の政令で定める書類で次に掲げる事項が記載されているもの
イ 保税地域の所在地を所轄する税関長
ロ 課税貨物を保税地域から引き取ることができることとなつた年月日(課税貨物につき特例申告書を提出した場合には、保税地域から引き取ることができることとなつた年月日及び特例申告書を提出した日又は特例申告に関する決定の通知を受けた日)
ハ 課税貨物の内容
ニ 課税貨物に係る消費税の課税標準である金額並びに引取りに係る消費税額及び地方消費税額
ホ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」
第10項:「第七項に規定する帳簿の記載事項の特例、当該帳簿及び同項に規定する請求書等の保存に関する事項その他前各項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。」
石村耕治教授の整理に従うと、次のような主要論点が存在する※。
※北野編・前掲書257頁[石村]。
@ 帳簿を保存しているが、請求書等を保存していない場合
原則として、この場合は実額による仕入税額控除が認められない。但し、消費税法施行令第49条第1項は、消費税法第30条第1項に規定される「課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が三万円未満である場合」(第1号)または「三十条第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が三万円以上である場合において、同条第七項に規定する請求書等の交付を受けなかつたことにつきやむを得ない理由があるとき(同項に規定する帳簿に当該やむを得ない理由及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)」(第2号)について、帳簿のみによる仕入税額控除を認める。
ここで、消費税法基本通達より、関連する規定を引用しておく。
11−6−2(「支払対価の額の合計額が三万円未満の判定単位」):
「令第四九条第一項第一号((課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等))に規定する「課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が三万円未満である場合」に該当するか否かは、一回の取引の課税仕入れに係る税込みの金額が三万円未満かどうかで判定するのであるから、課税仕入れに係る一商品ごとの税込金額等によるものではないことに留意する。」
11−6−3(「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるときの範囲」):
「令第四九条第一項第二号((課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等))に規定する「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は、次による。
なお、請求書等の交付を受けなかったことについてやむを得ない理由があるときに該当する場合であっても、一一―六―四に該当する取引でない限り、当該やむを得ない理由及び課税仕入れの相手方の住所又は所在地を帳簿に記載する必要があるから留意する。
(一) 自動販売機を利用して課税仕入れを行った場合
(二) 入場券、乗車券、搭乗券等のように課税仕入れに係る証明書類が資産の譲渡等を受ける時に資産の譲渡等を行う者により回収されることとなっている場合
(三) 課税仕入れを行った者が課税仕入れの相手方に請求書等の交付を請求したが、交付を受けられなかった場合
(四) 課税仕入れを行った場合において、その課税仕入れを行った課税期間の末日までにその支払対価の額が確定していない場合
なお、この場合には、その後支払対価の額が確定した時に課税仕入れの相手方から請求書等の交付を受け保存するものとする。
(五) その他、これらに準ずる理由により請求書等の交付を受けられなかった場合」
11−6−4(「課税仕入れの相手方の住所又は所在地を記載しなくてもよいものとして国税庁長官が指定する者の範囲」):
「令第四九条第一項第二号((課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等))に規定する「国税庁長官が指定する者」は次による。
(一) 汽車、電車、乗合自動車、船舶又は航空機に係る旅客運賃(料金を含む。)を支払って役務の提供を受けた場合の一般乗合旅客自動車運送事業者又は航空運送事業者
(二) 郵便役務の提供を受けた場合の当該郵便役務の提供を行った者
(三) 課税仕入れに該当する出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当(以下一一―六―四において「出張旅費等」という。)を支払った場合の当該出張旅費等を受領した使用人等
(四) 令第四九条第二項((課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等))の規定に該当する課税仕入れを行った場合の当該課税仕入れの相手方」
11−6−5(「課税仕入れの相手方の確認を受ける方法」)
「法第三〇条第九項第二号((請求書等の範囲))に規定する「課税仕入れの相手方の確認を受けたもの」とは、保存する仕入明細書等に課税仕入れの相手方の確認の事実が明らかにされているもののほか、例えば、次のものがこれに該当する。
(一) 仕入明細書等への記載内容を通信回線等を通じて課税仕入れの相手方の端末機に出力し、確認の通信を受けた上で自己の端末機から出力したもの
(二) 仕入明細書等の写し等を課税仕入れの相手方に交付した後、一定期間内に誤りのある旨の連絡がない場合には記載内容のとおり確認があったものとする基本契約等を締結した場合における当該一定期間を経たもの」
11−6−6(「元請業者が作成する出来高検収書の取扱い」):
「建設工事等を請け負った事業者(以下一一―六―六において「元請業者」という。)が、建設工事等の全部又は一部を他の事業者(以下一一―六―六において「下請業者」という。)に請け負わせる場合において、元請業者が下請業者の行った工事等の出来高について検収を行い、当該検収の内容及び出来高に応じた金額等を記載した書類(以下一一―六―六において「出来高検収書」という。)を作成し、それに基づき請負金額を支払っているときは、当該出来高検収書は、法第三〇条第九項第二号((請求書等の範囲))に規定する書類に該当するものとして取り扱う(当該出来高検収書の記載事項が同号に規定する事項を記載しており、その内容について下請業者の確認を受けているものに限る。)。
なお、元請業者は、当該出来高検収書を作成し下請業者に記載事項の確認を受けることにより、当該出来高検収書に記載された課税仕入れを行ったこととなり、法第三〇条第一項((仕入れに係る消費税額の控除))の規定が適用できるものとして取り扱う。
(注) この取扱いは下請業者の資産の譲渡等の計上時期により影響されるものではないことに留意する。」
11−6−7(「帳簿及び請求書等の保存期間」):
「法第三〇条第一項((仕入れに係る消費税額の控除))の規定の適用を受けようとする事業者は、令第五〇条第一項ただし書((課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等))、規則第一五条の三((帳簿等の保存期間の特例))の規定により、帳簿及び請求書等の保存期間のうち六年目及び七年目は、法第三〇条第七項((仕入れに係る消費税額の控除に係る帳簿及び請求書等の保存))に規定する帳簿又は請求書等のいずれかを保存すればよいのであるから留意する。」
A 帳簿および請求書等への必要な記載がない、または不実記載がある
この場合も、原則として実額による仕入税額控除は認められないこととなる。
これについては、消費税法第30条第8項が帳簿の必要記載事項を、同第9項が請求書等について定めており、第58条が「事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)又は特例輸入者は、政令で定めるところにより、帳簿を備え付けてこれにその行つた資産の譲渡等又は課税仕入れ若しくは課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。第六十条において同じ。)の保税地域からの引取りに関する事項を記録し、かつ、当該帳簿を保存しなければならない」と定めていることに注意すべきである。
B 税務調査において納税義務者(事業者)が帳簿および請求書等を提示しなかった場合
これについては解釈が分かれる。
課税実務においては、第30条第7項にいう「保存」に提示を含めている。従って、納税義務者が帳簿および請求書等を保存していても、税務調査の際にこれらを提示しなければ、仕入税額控除が認められないということになり、税務行政庁は仕入税額控除を行わないで消費税額を算出して決定処分をなすことができる、ということになる。
最一小判平成16年12月16日民集58巻9号2458頁は、消費税法第30条第7項が「第58条の場合と同様に、当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等が税務職員による検査の対象となり得ることを前提としているものであり、事業者が、国内において行った課税仕入れに関し、法30条8項1号所定の事項が記載されている帳簿を保存している場合又は同条9項1号所定の書類で同号所定の事項が記載されている請求書等を保存している場合において、税務職員がそのいずれかを検査することにより課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、同条1項を適用することができることを明らかにするものであると解される」と述べている。その上で「事業者が、消費税法施行令50条1項の定めるとおり、法30条7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、法62条に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、法30条7項にいう『事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合』に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条1項の規定は、当該保存がない課税仕入れにかかる課税仕入れ等の税額については、適用されないものというべきである」と述べている。
しかし、或る書類を保存することは、その書類を他人に提示することは別の事柄である。すなわち、保存は当然に提示を含む訳ではない。福家俊朗教授は「消費税の基本的な制度設計にかかわって、仕入税額控除の否認は『基本原則』を否定する例外であり、その要件を厳格に解釈することが強く求められているだけでなく、租税法では特にあってはならない解釈立法として、批判を免れない」と述べる
※。石村教授も、前述の解釈を拡大解釈と批判し、「仕入税額控除は、青色申告承認のような申告手続上の特典とは異なり、累積排除型の消費税制度の根幹をなすものである。事業者が法定帳簿等を保存しているにもかかわらず、税務調査時に理由があり提示しなかったことをもって、後出し(実額反証)を含めて一切納税者の反論を許さないとし、仕入税額控除を機械的に否認する法の運用ないし解釈は、あまりに硬直的かつ不条理である」と述べる※※。※福家俊朗「帳簿不提示と仕入税額控除」水野忠恒=中里実=佐藤英明=増井良啓編『租税判例百選』〔第4版〕(2005年、有斐閣)169頁。岩品信明「帳簿不提示と仕入税額控除」水野忠恒=中里実=佐藤英明=増井良啓=渋谷雅弘編『租税判例百選』〔第5版〕(2011年、有斐閣)162頁も参照。
※※北野編・前掲書259頁[石村]。
そも も、第58条に定められる帳簿の保存義務については、罰則がなく、この義務の履行を確保するための手段についても規定されていない。また、第68条は「第六十二条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)若しくは同条第三項の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者」(第1号)または「前号の検査に関し偽りの記載又は記録をした帳簿書類を提示した者」(第2号)に対して罰金刑を科すと定めるが、これは税務調査への不協力などに対する罰則であって、仕入税額控除を否認する根拠になりえない。明らかに法律の不備であるとしか言えず、それが拡大解釈につながっているものと思われる※。
※福家・前掲169頁も同旨であろう。
C 質問検査の際に税理士以外の第三者が立ち会っていたことを理由として調査を打ち切り、その上で仕入税額控除の適用否認を行った場合
これは税務職員の守秘義務との関係が理由とされ、調査に着手しなかった、というものである。そもそも税務調査全体に関わる問題でもあるが、調査の打ち切り(未着手)が質問検査権行使の際の合理的な裁量の範囲内にあるのかが問われなければならないであろう。また、この場合に、帳簿および請求書等が適切に保存されているとしても提示が拒否されたものとして扱われることについて適法と解する判決(東京地判平成11年3月30日税資241号524頁)も存在するが、これで仕入税額控除の適用が否認されるというのは行き過ぎであろう。
D 帳簿および請求書等が保存されておらず、そのことについて特別の理由があることを証明できない場合
この場合には、消費税法第30条第7項ただし書にいう正当な理由が存在することを立証できなければ、仕入税額控除の適用が否認されてもやむをえないであろう。
E 消費税仕入税額、課税仕入額の推計の可否
所得税法や法人税法と異なり、消費税法には推計課税に関する規定が存在しない。しかし、消費税についても推計課税が行われており、課税実務においては明文の規定がなくとも推計課税は課税の公平の観点から当然に認められるという立場をとっており、判例もこの立場をとる。これについては、所得税法第156条や法人税法131条が制定される前から所得税や法人税について推計課税が行われていたという経緯が背景にあるが、明文の規定が存在することが望ましいことは言うまでもない。
F 実額反証
これは、税務調査が行われた後に、納税義務者の側から実額による仕入税額控除の根拠として帳簿や請求書等を提示し、既になされた決定処分などを争うことである。税務調査において正当な理由がないのに帳簿や請求書等の提示を拒否したという場合には、争訟の段階において納税義務者がこれらを提示して反証したとしても、仕入税額控除は認められないとする判決がある(前橋地判平成12年5月9日税資247号1061頁)。また、簡易課税の適用対象者については、税務調査に際して第三者の立ち会いを強く求めたために調査を打ち切り、推計課税によって最も低いみなし仕入れ率を適用して課税した場合に、納税義務者が実額反証をなすことは認められるとする判決がある(大阪地判平成14年3月1日税資252号順号9081)。
(3)簡易課税制度
消費税法第37条に規定される簡易課税制度は、基準期間における課税売上高が5000万円以下の事業者に認められるものである。これは、実額による仕入税額控除を選択した際に生ずる煩雑な会計処理などを不要とするものであり、課税売上税額の一定割合(これをみなし仕入率という)、換言すれば課税売上にかかる消費税額の一定割合(これをみなし控除率という)を仕入税額とみなして控除することが認められる。但し、この制度の適用を受けるためには、事業者がその適用を求める旨の届出書を、適用を求める課税年度の前年度中に所轄の税務署長に提出しなければならない。
みなし仕入率は、消費税法施行令第57条に定められている。第1項に定められる率は、次のようになっている。
第一種事業=卸売業(消費税法施行令第57条第5項第1号):90%
第二種事業=小売業(同第2号):80%
第三種事業=農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業(同第3号。但し、第一種事業、第二種事業のいずれにも該当せず、加工賃などの料金を対価とする役務の提供を行う事業にも該当しないもの):70%
第五種事業=運輸通信業、金融業、保険業、飲食店業に該当しないサービス業(同第4号。但し、第一種事業、第二種事業、第三種事業のいずれにも該当しないもの):50%
第六種事業=不動産業(同第5号。但し、第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業のいずれにも該当しないもの):40%
第57条第1項には第四種事業が登場しない。これは、同第5項第6号において第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業、第六種事業のいずれにも該当しないものと定義されている。みなし仕入れ率は同第2項第4号により、「当該課税期間中に国内において行つた第四種事業に係る課税資産の譲渡等に係る消費税額の合計額から当該課税期間中に行つた第四種事業に係る売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額(次項第二号ニにおいて「第四種事業に係る消費税額」という。)に百分の六十を乗じて計算した金額」と定められている。
従って、これらの事業の消費税額は、それぞれ、課税売上高に次の数字を乗ずることによって得られることになる(但し、税率を6.3%とする)。
第一種事業:0.63%〔∵(100/100-90/100)×6.3/100=0.63/100〕
第二種事業:1.26%〔∵(100/100-80/100)×6.3/100=1.26/100〕
第三種事業:1.89%〔∵(100/100-70/100)×6.3/100=1.89/100〕
第四種事業:2.52%〔∵(100/100-60/100)×6.3/100=2.52/100〕
第五種事業:3.15%〔∵(100/100-50/100)×6.3/100=3.15/100〕
第六種事業:3.78%
〔∵(100/100-40/100)×6.3/100=3.78/100〕ちなみに、税率を8%(国税としての消費税と地方消費税を合わせた税率)とするならば、次のようになる。
第一種事業:0.8%〔∵(100/100-90/100)×8/100=0.8/100〕
第二種事業:1.6%〔∵(100/100-80/100)×8/100=1.6/100〕
第三種事業:2.4%〔∵(100/100-70/100)×8/100=2.4/100〕
第四種事業:3.2%〔∵(100/100-60/100)×8/100=3.2/100〕
第五種事業:4.0%〔∵(100/100-50/100)×8/100=4.0/100〕
第六種事業:4.8%〔∵(100/100-40/100)×8/100=4.8/100〕
事業者が複数の種類の事業を営む場合には、原則としてそれぞれの事業ごとにみなし仕入率を乗じ、その加重平均を算出することとされる(消費税法施行令第57条第2項)。但し、そのうちの一つの種類の事業の課税売上高が全体の75%以上であれば、その事業のみなし仕入率を全売上税額に適用することができる(同第3項第1号)。また、三種類以上の事業を営んでおり、そのうちの二種類の事業の課税売上高が全体の75%であれば、その二種類の事業のみなし仕入率のどちらか低いほうをその二種類以外の事業にも適用することができる(同第2号)。
実際には、簡易課税制度の利用に際して慎重な判断が求められることが多いようである。実際の仕入率とみなし仕入率とを比較し、前者が後者より低ければ、簡易課税制度を利用したほうが事業者にとっては納付税額が少なくなるために有利となる。しかし、仮に実際の仕入率のほうがみなし仕入率より高いとすると、簡易課税制度では納付税額が多くなり、事業者にとって不利となる。
(4)その他の控除
売上対価返還等制度(第38条)と貸倒控除(第39条)がある。
〔戻る〕
(2011年3月15日掲載)
(2012年8月12日修正)
(2012年8月14日補訂)
(2012年9月12日修正)
(2013年10月17日補訂)
(2014年4月1日補訂)
(2015年5月19日修正)