33 地方消費税
〔はじめに〕2010年12月、持田信樹・堀場勇夫・望月正光『地方消費税の経済学』(有斐閣)が刊行された。書名のとおり、経済学の観点から地方消費税の分析を行ったものであるが、国際比較などもなされており、参考とすべき点は多い。
国税として消費税などの消費課税が存在するが、地方公共団体にも消費課税が存在する。従来、地方税においても個別消費税が主流であり、しかも、国税としての消費税が導入された後にも、しばらくの間、地方税としての一般消費税は存在しなかった。しかし、地方分権の推進が謳われるようになり、また、地域福祉の拡充を図る必要が高まり、地方公共団体の自主財源を拡充することを求める意見が強くなった。そこで、1994(平成6)年度税制改正の際に一般消費税としての地方消費税が都道府県税として導入されることとなり、1997(平成9)年度から施行されている※。
※これと同時に、地方譲与税は廃止されている。なお、都道府県は、地方消費税の税収のうち、2分の1を市町村に交付することとされている。
地方消費税は消費税の付加税である。これは、一つには納税義務者の申告および納付の便宜に適うという点によるものであり、一つには徴税の便宜に適うという点によるものである。そこで、都道府県税ではあるが納税申告・確定・徴収に関する事務などを国(税務署および税関)に委託する形をとり、また、納税義務者の範囲、非課税や免税の扱いなどを消費税と同一にしている。そのため、都道府県は地方消費税について実質的に地方税立法権を認められておらず、地方税行政権を行使しえない、ということになる※。
※拙稿「地方消費税再考―地方税財政権の観点から―」税制研究55号(2009年)92頁、93頁も参照。
地方消費税の課税物件(地方税なので課税客体ともいう)は、「消費税法第二条第一項第九号に規定する課税資産の譲渡等」および「同法第二条第一項第十一号に規定する課税貨物」(地方税法第72条の78)の引き取りである。前者は国内取引、後者は輸入取引であるので、消費税の場合と意義および範囲が同一である。そして、前者に対する地方消費税が譲渡割、後者に対する地方消費税が貨物割と称される(同第72条の77第2号・第3号)。
譲渡割については、本来、納税義務者は都道府県知事に中間申告および納付を行い(地方税法第72条の87)、都道府県知事に確定申告および納付を行う(同第72条の88)。また、都道府県知事は更正・決定の権限を有する(同第72条の89)。しかし、地方税法附則第9条の4以下により、「当分の間」は納税申告、確定、徴収に関する事務などを国へ委託することとなっている※。
※「32 国税としての消費税の構造」において述べたように、2012(平成24)年8月10日、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」および「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」が参議院本会議で可決され、成立した。これにより、消費税とともに地方消費税は、2014(平成26)年4月および2015(平成27)年10月の2段階で引き上げられることとなったのであるが、2014年4月からは地方消費税の税率が消費税額の約27%となる。換言すれば、「課税資産の譲渡等の対価の額」(消費税法第28条第1項)の1.7%である、ということになる。同様に、2015年10月からは地方消費税の税率が消費税額の約28%となる。換言すれば、「課税資産の譲渡等の対価の額」の2.2%である、ということになる。
なお、2014年11月18日に内閣総理大臣が2015年10月実施予定の税率引き上げを2017年4月1日に延期する旨を表明した。これは、消費税法等改正法附則第18条第3項および地方税法等改正法附則第19条に基づく判断による(これらの規定は平成27年度税制改正の際に削除された)。この点については、拙稿「地方税法等の一部を改正する等の法律(平成28年3月31日法律第13号)〜法人課税および軽減税率の導入を中心に〜(地方自治関連立法動向研究12)」自治総研454号(2016年)69頁、同「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律等の一部を改正する法律(平成28年11月28日法律第86号)(地方自治関連立法動向15)」自治総研464号(2017年)70頁も参照。
以上のように、消費税および地方消費税について複雑な税率が設定されたことからしても、地方税法附則第9条の4以下の「当分の間」の規定は生き続けることになるであろう。地方税法本則の第72条の87以下の規定をそのまま実行するとなれば、納税義務者にとっても都道府県にとっても煩雑さが増すばかりであることが明らかである。地方分権の理念などに照らして正しいか誤っているかは別として、本則の第72条の87以下を改正し、貨物割と同様の規定とし、譲渡割についても恒久的に、国が納税申告、確定、徴収などに関する事務を行う(あるいは、国がこれらの事務の委託を恒久的に都道府県から受ける)とすべきであろう。「当分の間」は永久的に「当分の間」であり、曖昧な性格が持続するという意味において弊害が多い。
貨物割については、地方税法第72条の100により、国が消費税の賦課徴収の例によって消費税の賦課徴収と併せて行う。申告および納付についても、消費税の申告および納付の例によって消費税と併せて行う(同第72条の101、同第72条の103第1項)。これらは、譲渡割の場合とは異なり、「当分の間」の措置とはされていない。
地方消費税の根本的な問題の一つとして、課税地と最終消費地との不一致がある。一般消費税である以上、原材料の生産、製造、卸売および小売が別々の都道府県において行われうる。ここに消費を加えてもよい。そうなると、それぞれの段階について課税団体が異なりうることにもなる。このことから、地方消費税が仕向地主義、源泉地主義のいずれに立つのかについて議論がなされることとなる。
前述の通り、地方消費税は国税たる消費税の付加税としての性格を有する。しかし、消費税が仕向地主義に立つのに対し、地方消費税については様々な議論がなされており、現在も見解の一致をみない※。この議論は、現在は都道府県に認められていない税率決定権と深い関係がある。
※堀場勇夫「地方税としての消費税」税2008年8月号6頁は「地方消費税は仕向地主義をよりどころとしている」と述べるが、このような見解はあまり多くないようである。
持田信樹教授は、源泉地主義の下において都道府県に税率決定権を与えるならば「財貨・サービスの物流や企業の立地活動を攪乱する一方、流通の中間段階の所在する安易な税率引き上げ競争が発生して、付加価値税本来の正確な税額計算ができなくなる」ため、都道府県に税率決定権を与えるのであれば仕向地原則を採用することが望ましいと述べるが、税務行政上の困難があることも認める※。また、総務省の「地方消費税勉強会報告書」は、外国の税制を参考にして日本の地方消費税についても都道府県の税率決定権を認めることは理論上可能であるとする※※。
※持田信樹『地方分権の財政学』(2004年、東京大学出版会)106頁。
※※詳細は、棚瀬誠「地方団体による多段階型の付加価値税の税率決定について―地方消費税勉強会報告書―」税2007年9月号61頁。持田・前掲書109頁、127頁(カナダ・ケベック州売上税が扱われている)、同「税源委譲こそ『三位一体』の主人公」地方税2005年4月号8頁、堀場・前掲8頁も参照。
前述の問題を解決するため、都道府県間の清算が必要となる。
地方税法第72条の114第1項は、各都道府県が、当該都道府県に納付された譲渡割額に相当する額、および貨物割の納付額の合算額に相当する額から国に支払った貨物割の徴収事務費に相当する額を控除した額※を、都道府県ごとの消費に相当する額※※に応じて按分し、その按分した額を他の都道府県に支払うことを規定する。この按分額は、当該都道府県から他の都道府県に支払われるものと、他の都道府県から当該都道府県に支払われるものとの両方が存在することにあるが、これらは相殺することとされている(同第2項)。
※但し、地方税法附則第9条の15により、当分の間は「第72条の103第3項の規定により払い込まれた貨物割の納付額及び附則第9条の6第3項前段の規定により払い込まれた譲渡割の納付額から同項後段の規定により他の道府県に支払うべき金額を減額し、他の道府県から支払を受けるべき金額に相当する額を加算して得た額」とされている。
※※地方税法第72条の114第3項により、都道府県の小売年間販売額、およびこれ以外の消費に相当する額を指すとされている。
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(2011年3月15日掲載)
(2012年8月12日修正)
(2012年8月14日補訂)
(2012年9月12日修正)
(2015年5月26日修正)
(2018年12月11日修正)