第6回    行政立法

 

 1.行政立法とは

 憲法第41条には、国会が「国の唯一の立法機関である」と定められている。ここにいう立法は実質的意味の立法を意味するものとされているから、原則として、実質的意義の立法(権)は立法機関たる議会(国会)によって担われるべきものと考えられる

 しかし、現実の問題として、全ての事項について詳細にわたって立法機関が実質的意義の立法(権)を行使することは不可能である。そこで、法律を執行するための細則などを行政機関が定める必要が出てくる。また、法律は、或る事項についての要件の決定などを行政に委任することが多くなっている。そこで、行政権実質的意味の立法権を行使することになる。

 憲法第73条第6号も、内閣による実質的意味の立法の行使(政令の制定)を認める。但し、実質的意味の立法ということで、国民の権利や自由などに直接の影響を与えることが予定されることになるため、一定の要件を必要とする。

 それでは、何故、行政立法が必要とされるのであろうか。ここで、よく指摘される点に私自身が考えていることを交えて掲げておく。いずれも深く結びついている。

 第一に、福祉国家理念の実現のため、行政需要の拡大と、迅速な対応の必要性が生じたことである。

 第二に、科学技術などの発展と、それに対する専門技術的知識の必要性が高まったことである。

 第三に、法律の改正には時間がかかり、事態の推移などに迅速に対応しにくいが、行政立法の場合は、法律の改正ほど時間がかからないので、より的確な対応を速くとりうることである。

 第四に、現実に見られる一般的な傾向として、専門技術などについては国会(議員)より行政(職員)のほうが熟達している、という事実を否定することはできないであろう。このためもあって、法律で詳細な規制基準を設けることが難しくなっている。仮に法律に盛り込むとすると、今度は法律の規定がわかりにくいものになりかねない。

 勿論、行政立法の有用性を認めるとしても、日本国憲法が三権分立主義を採用する限り、行政立法は例外的な存在である。また、行政立法は国民主権の原理に照らしても例外的な存在と言わざるをえず、むやみな拡大は望ましくない。行政立法の問題点としては、さしあたり、次の点を指摘しうる。

 まず、行政立法については、国会が行政に対して行う統制(コントロール)を働きにくくするという点を指摘しうる

 ※もっとも、それならば法律や条例はどうなのかという問題もある。現実には、法律や条例の大部分が行政の担当部局の職員により、案として作成されているからである。最近でこそ少なくなったが、オール与党化が指摘された地方議会の議員には、議会の役割が執行機関(地方公共団体の長以下の機関)による予算を成立させることこそ議会の役割であると公言する者が多かった。これでは大日本帝国憲法下において天皇の翼賛機関とされた帝国議会と変わりがなく、まともな議会活動を期待できないし、行政の独走などを許すだけである。

 次に、法律の改正と異なり、行政立法の改正は国民の目に触れにくい。とくに、行政規則とされるものがそうであり、行政権の裁量による新設・改正・廃止が実質的に我々の生活に影響を及ぼす可能性がある。

 そして、現在の裁判制度においては、たとえ行政立法が憲法や法律に違反しているとしても、行政立法自体の違憲性や違法性を争う手段がない。何か具体的な事件が発生しなければ、行政立法の違憲性や違法性を問うことができないのである。これでは、仮に行政立法が憲法や法律に違反しているとしても、その状態が放置され、固定化されることになるのである。

 

 2.行政立法の種類

 従来の学説は、行政立法を二つに大別していた。これについては、全く性質の違う手段を一つにしているということで批判がありうるが、ここでは便宜上、従来通りに説明をする。

 法規命令:これは委任命令と執行命令とに分かれる。名称のとおり、私人の権利や自由などに直接の影響を及ぼすことが予定されている。

 行政規則:これは私人の権利や自由などに直接の影響を及ぼさないとされるものである。基本的に行政内部における一般的・抽象的規範である。

 

 3.法規命令

 (1)定義など

 法規命令とは、行政機関が制定する、行政と私人との権利義務関係に関する一般的規律のことである。名称のとおり、狭義の「法規」としての性質を有する。内閣が発する政令(憲法第73条第6号、内閣法第11条)、内閣府令(内閣府設置法第7条第3項)、各国務大臣が発する省令(国家行政組織法第12条第1項)が法規命令に該当する。

 法律の留保の原則によると、狭義の「法規」を作りうるのは、国民の代表機関である議会によって定立される法律(狭義の法律)のみである。法規命令は、この原則に対する例外をなすのであるから、この原則を可能な限り貫徹するためには、行政機関が単独で実質的な意味における立法の権限を行使することを許してはならない。従って、狭義の法律とは異なり、法律の委任がなければ、国民に義務を課し、または権利を制約する規定を設けることはできない(憲法第73条第6号、内閣法第11条、内閣府設置法第7条第4項、国家行政組織法第12条第3項を参照)。

 日本国憲法の下において、法規命令は、委任命令執行命令とに区別される。なお、大日本帝国憲法第9条は、法律の委任を受けることなく天皇(行政)が発する独立命令も認めていたが、日本国憲法において独立命令を認める余地はない。

 委任命令とは、法律の委任により、新たに私人の権利・義務を創設するなど、私人の権利や自由などに直接的・具体的な影響を与えるもので、実体的な条文を定める。学説は、実体性に着目して、個別的かつ具体的な授権規定の必要性を主張する。

 これに対し、執行命令とは、上位の法令の執行を目的とし、上位の法令において定められている私人の権利や義務を詳細に説明する命令、または、私人の権利や義務を実現するための手続に関する命令をいう。執行命令については一般的な授権で足りるとされる(新たな権利義務の設定を伴わないためである)。

 (2)法律による委任の問題点

 委任命令については、法律における授権規定の性質が問題とされる。抽象的・包括的な委任では、法律に何らの要件をも定めないことと同じであり、行政が実質的な意味の立法権を自由に行使することを許容することになりかねないためである。

 私が、個別的かつ具体的な委任の例として、よく講義で委任命令の例として利用するのが、所得税法第27条第1項と所得税法施行令第63条である。まず、所得税法第27条第1項の規定をみよう。

 「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」

 この規定は、事業所得とされる所得についての詳細な定義を政令としての施行令に委任する旨を示すが、「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業」と具体的な例を自ら示している。これにより、施行令に委任されるべき事柄は明確であり、範囲も限定されることとなる。「その他の事業で政令で定めるもの」が、法律に例示された事業から遠くかけ離れたようなものであったり、そもそも事業とは言えないものであったりすることは許されない。そこで所得税法施行令第63条をみよう。次のような規定である。

 「法第二十七条(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。

 一 農業

 二 林業及び狩猟業

 三 漁業及び水産養殖業

 四 鉱業(土石採取業を含む。)

 五 建設業

 六 製造業

 七 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)

 八 金融業及び保険業

 九 不動産業

 十 運輸通信業(倉庫業を含む。)

 十一 医療保険業、著述業その他のサービス業

 十二 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業」

 基本的に、法律第27条第1項の例示に即しつつ、より詳細に事業の内容を示していることがわかる。施行令第63条第2号は第1号(法律に示された例)に近いものであるし、施行令のほうの第3号にある水産養殖業は、当然、漁業に結びつく。第11号および第12号は少々具体性を欠くが、事業とされるものの範囲が広範であり、時代の変遷とともに拡大することからして、やむをえないものである。また、施行令第63条柱書きでは不動産の貸付業、船舶の貸付業および航空機の貸付業が除外されているが、これらは所得税法第26条において不動産所得とされていることによる。租税法に求められる要請が基因となっているのかもしれないが、所得税法施行令第63条は、委任立法として望ましい形に仕上がっている例と評価することもできるであろう。

 行政法学、さらには憲法学において問題とされるのは、国家公務員法第102条第1項である。同項は、国家公務員に対し、選挙権の行使を除いて人事院規則14-7に定められる「政治的行為」を禁止している。これは、法律そのものが、禁止すべき「政治的行為」の性質について全く例示をしないまま、具体的な中身を人事院規則に委任していることを意味する。選挙権の行使は憲法第15条により保障される基本的人権であるから、これを「政治的行為」から除外するのは当然であり、除外したところで何が「政治的行為」であるかを法律そのものから了知しうる訳ではない。そもそも「政治的行為」はあまりに漠然としている概念であるから、国家公務員法第102条第1項については、法律の授権が包括的にすぎる、白紙委任であるとして、批判も強い。しかも、同項に違反した場合には同第110条第1項第19号という罰則が適用されうるので、一般的・包括的な委任では罪刑法定主義を逸脱することになりかねないのである。

 ※白紙委任の代表例として、刑法第94条がある(現在に至るまで適用例はない)。これは中立命令違反罪を規定するものであるが、犯罪の構成要件が完全に「局外中立に関する命令」に委任されており、法律は刑罰のみを明らかにしている。

 国家公務員法第102条第1項については、裁判でも合憲性が問題とされた。しかし、判例は合憲としている。次の二つの判決を紹介しておこう。

 ●最大判昭和49年11月6日刑集28巻9号393頁(猿払事件):「政治的行為の定めを人事院規則に委任する国公法102条1項が、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を具体的に定めることを委任するものであることは、同条項の合理的な解釈により理解しうるところである。そして、そのような政治的行為」は「公務員組織の内部秩序を維持する見地から課される懲戒処分を根拠づけるに足りるものであるとともに、国民全体の共同利益を擁護する見地から科される刑罰を根拠づける違法性を帯びるものであ」り、同項が「同法82条による懲戒処分及び同法110条1項19号による刑罰の対象となる政治的行為の定めを一様に委任するものであるからといって、そのことの故に、憲法の許容する委任の限度を超えることになるものではない。」

 ●最二小判平成24年12月7日刑集66巻12号1722頁:国家公務員法第102条第1項が「同法110条1項19号による刑罰の対象となる政治的行為の定めを一様に委任するものであるからといって、そのこと故に、憲法の許容する委任の限度を超えることにはならない。処理すべき問題は何か、その問題をどのような方向で解決するかが決定された上で、委任がされるときは、一見規定上は白紙委任のようであっても、違憲となるものではないと解される。/本件の場合、人事院規則に政治的行為の定めを委任する目的が、公務員の政治的中立性を維持することにより行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するためであることは、規定の文言及び趣旨からみて明らかであるから、問題の特定は十分にされているということができる。また、上記委任が、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある政治的行動の定めを予定するものであることも、規定の文言及び趣旨から合理的に理解することができる。したがって、その委任は、白紙委任ではなく、それ自体において違憲とすべきものではない。」(/は、原文における改行箇所)

 (3)法規命令の違法性

 委任する法律の側ではなく、委任を受けた側(法規命令)の違法性が問題となることがある。以下、若干の例を概観しておく。

 ●最大判昭和46年1月20日民集25巻1号1頁(T―51)

 農地法第80条(当時)は、国が強制買収で取得した農地について農林大臣が農地としての性格が認められないとして相当と認めた場合に旧所有者又はその一般承継人に売り払わなければならないと規定していた。法律の規定では対象の土地について限定を加えていなかったが、農地法施行令旧第16条は「公用、公共用又は国民生活の安定上必要な施設の用に供する緊急の必要があり、且つ、そのように供されることが確実な土地等」に限定していた。判決は、施行令旧第16条が農地法の委任の範囲を超えて無効であると述べた。この判決は妥当であり、とくに問題はないものと思われる。

 ●最一小判平成2年2月1日民集44巻2号369頁

 銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)第14条は、現在、次のような規定である。

 第1項:「都道府県の教育委員会は、美術品若しくは骨とう品として価値のある火縄式銃砲等の古式銃砲又は美術品として価値のある刀剣類の登録をするものとする。」

 第2項:「銃砲又は刀剣類の所有者(所有者が明らかでない場合にあつては、現に所持する者。以下同じ。)で前項の登録を受けようとするものは、文部科学省令で定める手続により、その住所の所在する都道府県の教育委員会に登録の申請をしなければならない。」

 第3項:「第一項の登録は、登録審査委員の鑑定に基いてしなければならない。」

 第4項:「都道府県の教育委員会は、第一項の規定による登録をした場合においては、速やかにその旨を登録を受けた銃砲又は刀剣類の所有者の住所地を管轄する都道府県公安委員会に通知しなければならない。」

 第5項:「第一項の登録の方法、第三項の登録審査委員の任命及び職務、同項の鑑定の基準及び手続その他登録に関し必要な細目は、文部科学省令で定める。」

 訴訟が提起された当時の規定によれば、銃砲刀剣類のうちで美術品や骨董品としての価値があるものについては、文化庁長官への登録によって所持できるとされていた。訴訟で問題とされたのは、銃砲刀剣類のうち、どのようなものが登録の対象になるかということである。

 銃砲刀剣類登録規則第3条は、第1項において「登録審査委員は、都道府県の教育委員会の指示を受けて、火縄式銃砲等の古式銃砲及び刀剣類の鑑定の職務に従事する」と定め、第2項において「登録審査委員は、鑑定にあたつては、次条の鑑定の基準に従つて公正に行なわなければならない」と定める。この鑑定を受けなければ登録をすることができない訳であるが、第4条第1項は鑑定の対象を「日本製銃砲にあつてはおおむね慶応三年以前に製造されたもの、外国製銃砲にあつてはおおむね同年以前に我が国に伝来したもの」としているのに対し、第4条第2項は、刀剣類の鑑定の対象を日本刀に限定している。外国刀剣(サーベル)は、それが美術品や骨董品としての価値がある物であるとしても登録の対象とならない訳である。

 ※元々は文化財保護委員会規則であったが、昭和43年から文部省令となった。現在は文部科学省令である。

 最高裁判所第一小法廷は、法律が登録基準の設定自体を省令に委任しており、省令においてどのような基準を定めるかについては行政庁の専門技術的な裁量が認められるとした上で、登録の対象を日本刀のみとする登録規則第4条第2項は法律の委任の趣旨を逸脱するものではないと述べた。

 省令における基準設定について、行政庁の専門的な裁量が認められることはやむをえないであろう。しかし、この事件の場合、立法の経緯はともあれ、法律の規定のみからでは登録の対象が日本刀のみに限られるという趣旨を読み取ることはできず、判旨には疑問が残る。

 ●最三小判平成3年7月9日民集45巻6号1049頁(T―52)

 旧監獄法第50条は、在監者への接見の制限について「命令」(法務省令)で定めるとしており、同法施行規則第120条は14歳未満の者が在監者と接見することを許さないとする規定であった。判決は、この制限が法律によらないで被勾留者の接見の自由を著しく制約するものであるとして、施行規則第120条が法律の第50条による委任の範囲を超え、無効であると述べた。

 ●最一小判平成14年1月31日民集56巻1号246頁

 事案:児童扶養手当法第4条第1項は、児童扶養手当の支給要件を次のように定めている。

 「都道府県知事、市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)及び福祉事務所(社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)を管理する町村長(以下「都道府県知事等」という。)は、次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において、当該児童の母以外の者がその児童を養育する(その児童と同居して、これを監護し、かつ、その生計を維持することをいう。以下同じ。)ときは、その母又はその養育者に対し、児童扶養手当(以下「手当」という。)を支給する。

 一 父母が婚姻を解消した児童

 二 父が死亡した児童

 三 父が政令で定める程度の障害の状態にある児童

 四 父の生死が明らかでない児童

 五 その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」

 この第5号を受けて児童扶養手当法施行令第1条の2が定められるが、その第3号は「母が婚姻(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)」と定められていた。すなわち、子が父から認知されなければ、母は児童扶養手当を受給するが、子が父から認知されると児童扶養手当を受給できないこととなる。

 X(原告・被控訴人・上告人)は、A(子)が同施行令第1条の2第3号に定められる児童に該当するとして児童扶養手当を受給していた。しかし、B(父)がAを認知したため、Y(県知事。被告・控訴人・被上告人)は、同号括弧書きに該当するとしてXの受給資格を喪失させる処分を行った。そこで、Xは同号括弧書きが憲法第14条に違反するなどとして処分の取消を求めた。

 判旨:最高裁判所第一小法廷は、同号括弧書きが法律の趣旨、目的に照らして均衡を欠く結果となり、法律の委任の趣旨に反すると述べ、本件受給資格喪失処分を取り消した(反対意見がある)。判決理由中においては、法律第4条第1項ないし第4項が「法律上の父の存否のみによって支給対象児童の類型化をする趣旨でないことは明らかであるし、認知によって当然に母との婚姻関係が形成されるなどして世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもない。また、父から認知されれば通常父による現実の扶養を期待することができるともいえない。したがって、婚姻外懐胎児童が認知により法律上の父がいる状態になったとしても、依然として法4条1項1号ないし4号に準ずる状態が続いているものというべきである」。

 なお、この判決を受けて、児童扶養手当法施行令第1条の2第3号の括弧書きの部分は削除されている。

 ●最大判平成21年11月18日民集63巻9号2033頁(T−53)

 事案:高知県安芸郡東洋町に居住する原告ら(このうちのX5が公務員としての農業委員会委員であった)は、地方自治法第80条第1項に基づき、同町選挙管理委員会に対し、同町議会議員のAについて解職請求を行った。原告らは、この解職請求に係る署名簿を平成20年4月14日に同町選挙管理委員会に提出し、17日に受理されたが、5月2日、署名簿にある全員の署名を無効とする旨の決定を行った。そのため、原告らは異議を申し立てたが、同調選挙管理委員会は異議申立てを棄却したため、出訴した。高知地判平成20年12月5日民集63巻9号2117頁は原告らの請求を棄却したため、地方自治法第80条第4項(第74条の2第5項および第8項を準用する)により、最高裁判所へ上告した。

 問題とされたのは、地方自治法第85条第1項が公職選挙法第89条第1項を準用し、これを受ける形で当時の地方自治法施行令第115条・第113条・第108条第2項・第109条が公職選挙法第89条第1項を準用することによって、農業委員会委員が(公職候補者となることができる場合と否とを問わずに)在職中に議会議員の解職請求代表者となることができない旨を定めていたことである。

 最高裁判所大法廷は、前掲高知地判を破棄し、次のように述べて同町選挙管理委員会による異議申立棄却決定を取り消した(最二小判昭和29年5月28日民集8巻5号1014頁を変更したこととなる)。

 判旨:地方自治法は「議員の解職請求について、解職の請求と解職の投票という二つの段階に区分して規定しているところ、同法85条1項は、公選法中の普通地方公共団体の選挙に関する規定(以下「選挙関係規定」という。)を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているのであるから、その準用がされるのも、請求手続とは区分された投票手続についてであると解される」から、地方自治法第85条第1項は「専ら解職の投票に関する規定であり、これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって、解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできない」。しかし、前記の地方自治法施行令の各規定は、地方自治法第85条第1項に基づいて公職選挙法第89条第1項本文を「議員の解職請求代表者の資格について準用し、公務員について解職請求代表者となることを禁止して」おり、これは地方自治法第85条第1項に「基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものであって、その資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで無効と解するのが相当である」。

 (4)法規命令に対する手続的な統制の手段

 上述のような問題点を抱える法規命令であるが、手続面において民主的な統制を加えることにより、実体面にも民主的な色彩を高めることが可能である。その手法としては、現在、次のような例がある。

 第一に、国会による事後承認である。日本においては少ないが、災害対策基本法第109条の例がある。

 第二に、審議会などへの諮問である。電波法第99条の11に義務づけの例がある。なお、審議会などは諮問機関の一種とされるが、手続の点などにおいて問題があり、透明化が必要とされている。現在、中央省庁等改革基本法第30条第4号が、会議や議事録の公開を原則とする旨を規定している。

 第三に、公聴会やパブリック・コメント手続である。国民一般、あるいは利害関係人に意見陳述の機会を与えるもので、独占禁止法第71条、不当表示防止法第5条第1項などに例がある。

 なお、最近ではパブリック・コメント手続がとられることが多くなっており、重要性も増している。これは、まず、政策などの趣旨や省令などの原案を公表し、これに対する国民からの意見を聴取するというものである(インターネットが活用されることになる)。そして、意見を集約した上で結果を公表するというものである。場合によっては、さらに公聴会や討論会を開催することもありうる。

 法規命令を含め、行政立法の制定手続については、行政手続法に盛り込むべきであるという議論があり、検討が重ねられたが見送られたという経緯があった。

 

 4.行政規則(行政命令)

 (1)定義など

 行政規則とは、行政機関が定立する、私人の権利義務に直接関係しない行政立法のことである。従って、法規命令と異なり、行政規則は外部的効果を有せず、行政内部における効果のみを有し、法律などの解釈の基準を示す(解釈基準)、行政庁の裁量権行使の基準を示す(裁量基準)、などの機能を有する。

 ▲ここで、外部的効果と内部的効果について説明を加えておく。

 外部的効果とは、或る行為などの効果のうち、行政の外部に対して働く何らかの法的効果のことである。法規命令の場合は、施行によって国民一般に対する拘束力を有する(法規命令は「法規」としての性格を有する)。また、行政行為は、特定の私人に対する法的拘束力を有する。

 内部的効果とは、或る行為などの効果のうち、行政の内部に対してのみ働く法的効果のことである。行政規則の場合、上級行政機関が下級行政機関に何かを命じるなどして効果を生じるのであるが、一般国民または特定の個人に対する法的拘束をなすものではない(法的には無関係である。つまり行政規則は「法規」でないということなのである)。

 行政規則は、通常、次のような形式として存在する。

 @訓令・通達(国家行政組織法第14条第2項、内閣府設置法第7条第6項):上級行政機関が下級行政機関に対し、その権限の行使を指図するために発する命令のことである。論者によって用語法が異なるが、一般的には区別がなされていない。あえて言うなら、文書による命令が通達であるということになろうか(そのように定義する例もある)。

 A要綱(地方公共団体の場合):条例を施行するためのものなど、様々な目的を有する。

 B告示(国家行政組織法第14条第1項、内閣府設置法第7条第5項):但し、外部に対する法的拘束力を有する場合、すなわち法規としての性格を有する場合がある(国立公園などの指定の告示。なお、文部科学省は、学習指導要領を告示の形式で示しながら、法的拘束力があると主張しており、最一小判平成2年1月18日民集44巻1号1頁も法的拘束力を認める)。

(2)訓令・通達の法的拘束力に関する問題(重要)

 訓令・通達は行政規則としての法的性質を有するが、法規としての性質を有しない。このことから、従来の学説・判例は、内部行為的性質を重視しつつ次のような法理を示してきた。

 @通達は、国民の法的地位に直接影響を及ぼすものではない。単に下級機関の権限行使を制約するにすぎない。そのため、上級行政機関は、その有する包括的な行政監督権限に基づき、下級機関の所掌事務について、とくに法律の根拠を必要とせずに通達を発することができる。

 A行政庁が国民に対して通達に反する処分を行っても、その処分は通達違反の故に直ちに違法とは認められない。国民は、通達に違反した不利益な処分を被っても、処分が通達に違反することのみを以て処分の違法を主張することはできない。行政庁側も、処分が通達に違反しないことを理由として、処分の違法性が争われているときにその処分の適法性を根拠づけることは許されない。また、裁判所も、法令の解釈運用の際に訓令・通達の拘束を受けることはない。従って、通達に定められた取扱いが法の趣旨に反している場合には、裁判所は、その取扱いの違法も判断できる。

 B通達は、国民と直接関係しない。従って、違法な通達が発せられ、そのために事実上国民に対し不利益な効果が及んでも、国民は通達自体を争うことはできない。もし違法な通達が発せられた場合には、国民は具体的な不利益処分が行われるのを待ち、行政処分がなされた段階で、この行政処分に対して行政訴訟などを提起して、違法な通達を執行した具体的処分の違法性を争えばよい。

 ●最三小判昭和43年12月24日民集22巻13号3147頁(T―57)

 墓地、埋葬等に関する法律第13条に定められた「正当な理由」(埋葬の拒否に関する)について厚生省環境衛生課長が通達を発していたが、宗教団体間の対立から埋葬拒否事件が多発するに至り、同省公衆衛生局環境衛生部長が新たに通達を発した。これに対し、原告寺院が異宗徒の埋葬の受忍が刑罰によって強制されるなどとして、新たな通達の取消しを求めて出訴した。最高裁判所は、上に示したような通達の性格を述べた上で、通達が直接的に原告寺院の埋葬受忍義務を課したり墓地の経営管理権を侵害したりするようなものではなく、通達は行政処分ではないとして、上告を棄却した。

 しかし、現実において、通達は行政機構に対して強い指導力(ないし拘束力)を有し、国民の地位に大きな影響を及ぼすことが多い。状況によって、通達に何らかの法的意味を認めることも必要となろう、具体的には次のような論点がある。

 a.通達によって慣習法化した場合(例、法解釈):通達が変更されるときなどに問題となる。

 ●最二小判昭和33年3月28日民集12巻4号624頁(T―56)

 旧物品税法において「遊戯具」は課税対象物品とされたが、パチンコ球遊器は10年間ほど課税の対象となっていなかった。しかし、東京国税局長は、パチンコ球遊器が「遊戯具」に該当するという趣旨の通達を発し、これに基づいて税務署長がパチンコ球遊器製造業者に対して物品税賦課処分を行った。判決は、「本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基く処分と解するに妨げがな」いと述べた。

 b.通達によって処分への審査基準が設定された場合(例、平等原則違反)。また、大量一律に許認可の可否を決定する場合。

 c.国民が通達の影響で直接的に重大な不利益を被り、しかも通達そのものを争わなければ、救済を全うしえないような特段の事情がある場合。

 (3)要綱の問題

 補助金給付要綱(これは、実際上、裁量基準として機能する。また、法律の委任を受けていない場合が多い)や指導要綱(宅地開発指導要綱など、地方公共団体において制定された、行政指導の基準)などの形式で存在する。とくに指導要綱が問題とされうる。

 ●最一小判平成5年2月18日民集47巻2号574頁(T―103)

 武蔵野市は、中高層建築物建設事業を行う業者に対して開発負担金を納付することを求める行政指導をするため、指導要綱を制定した。原告業者は、賃貸マンションを建設する際に開発負担金を納付したが、これが強迫(行政指導のことを指している)によるものとして返還請求訴訟を起こし、控訴審では国家賠償請求を追加した。最高裁判所は、強迫の主張は認めなかったが、行政指導の限度を超え、違法な公権力の行使があったとして、原審判決を破棄し、差し戻した。

 (4)裁量基準の公表

 裁量基準として行政規則が定められることが多い。裁判所はこれに拘束されない(前掲最三小判昭和43年12月24日)。しかし、裁量基準が公表されると、国民に予測可能性を与え、行政庁の恣意的な判断を抑制する効果がある。逆に、行政庁の意図を知らしめることによってそのとおりの目的を達成しうる。

 行政手続法第5条は、申請に対する処分についての審査基準を可能な限り具体的に定めた上で公開することを義務付ける。また、同第12条は、不利益処分についての処分基準を可能な限り具体的に定めた上で公開することを努力義務としている。

 ●最一小判昭和46年10月28日民集25巻7号1037頁(個人タクシー事件、T―125)

 事案:Xは新規の個人タクシー営業免許を申請した。陸運局長Yはこれを受理し、聴聞を行ったが、道路運送法第6条に規定された要件に該当しないとして申請を却下する処分を行った。Xは、聴聞において自己の主張と証拠を十分に提出する機会を与えられなかったなどとして出訴した。

 判旨:最高裁判所第一小法廷は、手続が行政庁の独断を疑わせるような不公正なものであってはならず、法律の趣旨を具体化した審査基準の設定および公正かつ合理的な適用が必要であり、そして申請人に主張と証拠の提出の機会を与えなければならないと述べ、申請人には公正な手続を受ける法的利益があるとした上で、本件の審査手続に瑕疵があるとして、申請却下処分を違法と判断した。

 (5)意見公募手続

 意見公募手続とは、命令等制定機関が命令等を定めようとする場合に、あらかじめ、当該命令等の案および関連する資料を公示し、意見の提出先および提出期間を定めて広く一般の意見を求めることである(行政手続法第39条第1項)。

 ここで「命令等制定機関」とは、命令等を定める機関のことであり、政令のように「閣議の決定により命令等が定められる場合」は「当該命令等の立案をする各大臣」をいう(行政手続法第38条第1項)。

 また、「命令等」は、行政手続法第2条第8号により、次のものとされる(同イ〜ニ)

  法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む)または規則

  審査基準

  処分基準

  行政指導指針

 なお、行政指導指針に関連して、最一小判平成5年2月18日民集47巻2号574頁(T−103)および最三小判昭和60年7月16日民集39巻5号989頁(T−132)に注意すること(両判決とも別の機会に扱う)。また、行政手続法第32条以下を必ず参照すること。

 さらに、平成26年改正により、第35条が改正されたこと、および、「行政指導の中止等の求め」として第36条の2が、「処分又は行政指導」を求めうることを定める規定として第36条の3が追加されたことにも注意を要する。 

 

 

(2015年9月22日掲載)

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