第9回  行政行為論その1:行政行為の概念

 

 

 ★はじめに

 行政行為に限らず、行政契約などを含めて行政作用を学ぶ際には、まず、民法学の法律行為論を復習していただきたい。

 これは、単に法律行為との異同を知るために必要であるというだけではない。そもそも、行政法学は成立時期が遅い、若い学問である。そのため、歴史の古い民法学の理論を借用する形で行政法学を形成しなければならなかった。行政行為、行政契約などの行政作用は、いずれも民法の法律行為論を土台とし、応用として変形させたものである。

 法律行為にも幾つかの分類が存在するが、行政行為論との関係でとくに留意していただきたいのが、契約、単独行為、合同行為の区別である。行政行為は、法律行為のうちの単独行為に近いものである。以下の記述を参照しながら、行政行為と契約との相違、行政行為と単独行為との相違、行政行為と合同行為との相違をまとめてみるとよい。

 

 ★★本論

 行政庁が行う処分、すなわち行政処分は、行政法学においては行政行為(Verwaltungsakt)と呼ばれることが多い。日本の法令上は「処分」と表現されるが、まともな定義がなされていない。行政手続法第2条第2号において一応は「処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう」として定義がなされているが、これは満足な定義になっていない。

 その他、主な法律から「処分」について定義らしいものを示している条文を掲げておくが、いずれも満足な定義となっていない。

 行政事件訴訟法第3条第2項:「この法律において『処分の取消しの訴え』とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう」。

 (旧)行政不服審査法第2条第1項:「この法律にいう『処分』には、各本条に特別の定めがある場合を除くほか、公権力の行使に当たる事実上の行為で、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの(以下「事実行為」という。)が含まれるものとする」。

 (新)行政不服審査法第1条第2項:「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる」。

 そこで、ここでは、行政行為≒行政処分として説明を加える。

 

 1.行政行為の定義

 行政行為とは、行政庁が、法律(「法令」とする例も多い)に基づき、優越的な意思の発動または公権力の行使として、国民に対して具体的な事実について直接的に法的な効果を生じさせる行為である。運転免許証の例(許可)の他に、農地譲渡の認可、課税処分などがある。

 この定義には、次のような前提が存在する。

 行政行為には法律による行政の原理が直接的に妥当する。そのため、法律の根拠を必要とする。

 行政行為の場合、行政と国民とは対等の関係にはないことが前提となっている。従って、地方公共団体が締結する売買や請負などの契約、国有財産の貸付や譲渡などは含まれない。

 具体的な事実について直接的に法的な効果を生じさせる、もっと言うならば具体的な事実について国民の権利・自由または義務に直接的な変動を及ぼす。 

 

 2.行政行為の分類

 行政行為は、いくつかの観点から分類されうる。 ここでは、そのいくつかを取り上げることとする。

 (1)授益的行政行為と賦課的(負担的)行政行為

 これは、相手方が行政行為によって現実に受ける利益・不利益という観点による分類である。単純な二分法ではあるが、効果を軸におくためにわかりやすく、行政手続(法)の側面において有益であり、実定法の解釈にも即するという利点がある。

 ここで授益的行政行為(ein begünstigender Verwaltungsakt)とは、相手方に対し、権利を付与し、権利の制限を撤廃し、または利益を与えるなど、有利な法的効果を生ずるものであり、授益処分ともいう。行政手続法にいう「申請に対する処分」の多くが含まれる(というより、申請に対する行政行為を前提としていると考えてよい)。

 一方、賦課的行政行為(ein belastender Verwaltungsakt)とは、権利を制限し、義務を課すなど、相手方に不利益な効果を生ずるもので、負担的行政行為、侵害的処分ともいう。行政手続法では不利益処分という。命令・禁止、剥権行為などがこれにあたる。

 以上は、相手方が現実に受ける利益・不利益という効果のみに注目している。しかし、現実には、行政庁の相手方である私人(許可の申請をした者など)にとっては授益的行政行為であるが、近隣住民などの第三者にとっては(事実上ではあるが)不利益な効果が生じるものがある。このようなものを二重効果的行政行為(複効的行政行為、Verwaltungsakt mit Doppelwirkung)という。

 当然ながら、相手方たる私人にとっては賦課的(負担的)行政行為であるが、第三者にとっては(事実上ではあるが)利益をもたらすような効果を生じるものもありうる。しかし、実際のところ、このような行政行為を二重効果的行政行為として扱うことはない(争訟となるような場合が存在しないからであろう)。

 (2)法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為

 これは、ドイツ民法学において定立された法律行為論を基にして、ドイツの行政法学者コルマン(Karl Kormann)が作り上げた分類であり、若干の変化を伴って日本の行政法学に取り入れられ、第二次世界大戦後の日本の行政法学においては田中二郎博士による分類法として有名なものである。1980年代から多くの批判が寄せられたのであるが、これに代わる決定打もないというのが現状である。

 ここで、田中博士の分類法について説明を加えていく。

 法律行為的行政行為とは、行政行為の内容が行政庁の効果意思の表示を要素とするものである(但し、民法の法律行為論とは逆に、法律の意思が先に存在する)。次のように細分化される。

 A.命令的行為:私人に対して、作為、受忍または不作為を命ずるもの。下命、許可および免除に細分される。

 a.下命(Befehl)

 作為、不作為、給付または受忍を命ずる行為で、業務改善命令や建築物除却命令などが該当する。

 なお、不作為を命ずる下命を、とくに禁止(Verbot)という場合がある。

 b.許可(Erlaubnis)

 法律による一般的な禁止(不作為義務)を解除する行為で、自動車運転免許などが該当する。許可を受けないでした行為は強制執行または処罰の対象になるが、その行為の効力が必ず否定される訳ではない。

 もっとも、許可を命令的行為とする考え方については、近年になって少なからぬ批判が寄せられ、形成的行為に含められることも多くなっている(ドイツの行政法学においては、古くから形成的行為とされている)。許可の場合、本来的には私人の自由に属する事柄を、公益上の理由から全面的に禁止しておき、一定の場合にその禁止を解除するということで、次の免除に近い性質を有し(不作為義務の解除と考えられるためである)、新たに権利や権利能力などを設定するのではないために、命令的行為とされたのであろう。

 c.免除(Dispens)

 作為義務を解除する行為である。

 B.形成的行為:私人に対して法的地位を設定し、変更し、または剥奪するもの。特許、認可および代理に細分される。

 d.特許(Verleihung) 設権行為ともいう。私人に対して新たに権利能力、権利、包括的法律関係を設定する行為である。公務員の任用や公企業の特許などが該当する。また、平成18年改正前の民法第34条は、公益法人の設立の際に「主務官庁の許可を得」なければならないと定めていたが、ここにいう「許可」は講学上の許可ではなく、特許に該当する(民法学にいう許可制は行政法学にいう特許制である)。 なお、特許の変種として、変権行為および剥権行為がある。 変権行為は「既存の権利・能力・法律関係等を変更する行為」をいう。また、剥権行為は「権利能力・行為能力・特定の権利又は包括的な法律関係を消滅せしめる行為」をいい、法人の解散、公務員の罷免などが該当する※※

 ※田中二郎『新版行政法上巻』〔全訂第二版〕(1974年、弘文堂)123頁。

 ※※田中・前掲書123頁。

 e.認可(Genehmigung)

 補充行為ともいう。私人の行為を補充してその法律上の効力を完成せしめる行為である。農地売買の際の農地委員会の許可、鉄道事業者やバス事業者の運賃変更に対する国土交通大臣の認可などが該当する。認可を受けない行為は、原則として無効である。

 f.代理

 文字通りの代理である。田中博士の説明を引用すると「第三者のすべき行為を国が代わってした場合に、第三者自らがしたのと同じ効果を生ずること」であり、「当事者間の協議が調わない場合に国が代わってする裁定、一定の場合に国が代わってする会社の定款の作成、役員の任命」が例としてあげられている。行政行為の定義に忽然と登場するという印象を受けるためか、批判される概念でもある。

 ※田中・前掲書123頁。

 ②準法律行為的行政行為とは、行政行為の内容が行政庁の効果意思以外の判断・認識などの精神作用の表示を要素とするものである。次のように細分化される。

 ア.確認(Feststellung):法律行為を確定する行為であり、行政庁の判断の表示である。所得税の更正決定や当選人の決定などが例としてあげられる。

 確認は、準法律行為的行政行為とされる他の行為と異なり、行政手続法にいう処分に含められる。また、許可などと類似する場合もあり、行政庁の意思表示として法律行為的行政行為に含める見解もある(日本では少ないが、ドイツの行政法学においては定説である)。

 イ.公証(Beurkundung):「特定の事実又は法律関係の存否を公に証明する行為」であり、行政庁の認識の表示とされる。選挙人名簿などの公簿への登録、免許証の交付などが例としてあげられる。

 ※田中・前掲書124頁。

 ウ.通知(Mitteilung):常に行政行為である訳ではなく、「観念の通知」という事実行為である場合もある。法律の規定によって通知に何らかの法的効果が与えられる場合に、準法律行為的行政行為とされるのである。

 エ.受理(Annahme) :「他人の行為を有効な行為として受領する行為」のことであり、「到達と異なり、受動的な意思表示である」。願書や届出書などの受理が例としてあげられている。但し、受理によっていかなる効果が生ずるかは法律の定めに左右される。行政手続法第7条はこの受理の概念を排除したものと理解されている※※

 ※田中・前掲書125頁。

 ※※宇賀克也『行政手続法の解説』〔第6次改訂版〕(2013年、学陽書房)93頁。

 以上が田中博士による分類の概要であり、近年においても地方公務員試験などにおいて登場しているが、近年、日本の行政法学においてこの分類法は次第に用いられなくなっている。ドイツの行政法学は、行政行為を行政庁の公法的意思表示と捉えており、日本の法律行為的行政行為および確認行為を行政行為とする。これに近い考え方を日本において採用するのが塩野宏教授である。次のような分類である。

 α.命令行為:作為、不作為を命ずるもの。

 β.形成行為:私人に法的地位を与えたり拒否したりするもの。許可、認可、免許の拒否など。

 γ.確定行為:法律関係を確定したり、それを拒否したりするもの。租税の更正や決定など。

 ちなみに、ドイツの行政法学では、行政行為を次のように分類する(表現などは、Wilfried Erbguth, Allgemeines Verwaltungsrecht mit Verwaltungsprozess- und Staatshaftungsrecht, 7. Auflage, Nomos Verlagsgesellschaft, 2014, §12 Rn. 34ff.による)。

 命令的行政行為(Befehlende Verwaltungsakte):一定の行為を命じたり禁止したりする行政行為のことである。

 形成的行政行為(Gestaltende Verwaltungsakte):具体的な法律関係を直接的に基礎付け、変更し、または排除する行政行為のことである。

 確定的行政行為(Feststellende Verwaltungsakte):権利、または法的に重要な資格を確定させ、または拒否する行政行為のことである。

 (3)実定法における許可、認可などの用語について

 行政法学において、許可、認可などの概念は明確に区別されるのであるが、実定法においては、許可、認許、特許、免許、承認、認証などの語が登場し、厳密に使い分けられていないため、混乱が生じる。そこで、行政法学における概念の違いを整理する意味で、再び田中博士の分類により、記しておく。

 ①許可と認可との違い

 第一に、許可は、本来であれば人の自由に属する事柄を、公益上の理由などから全面的に禁止しておき、一定の場合にその禁止を解除するというものである。許可の対象は法律的行為である場合もあり、事実的行為である場合もある。

 これに対し、認可は、一定の法律的行為(例、農地売買契約)の効力を完成させる行為である。認可の対象は法律的行為に限られる。禁止の解除という性格を持たない。 第二に、許可を受けるべき行為なのに受けないで行った場合には、禁止違反として強制執行や処罰の対象になるが、法律行為の効力(例、肉の販売契約)は直ちに否定されない。すなわち、許可を受けるか受けないかということと私法上の行為の効力とは別の問題なのである。

 これに対し、認可を受けないで行った契約などの効力は完全に成立しない。しかし、許可と異なり、そもそも認可を受けないで法律的行為をなすことが禁じられている訳ではないので、強制執行や処罰の対象にならないのが原則である。

 ②許可と特許との違い

 田中博士の分類法によれば許可は命令的行為であり、一定の場合に禁止を解除するに留まる。そのため、許可によって何らかの利益(例、独占的な利益)を伴うとしても、それは反射的利益である。また、許可は、必ずしも申請を前提要件とするものではない(通常は申請に基づくが)。

 ※反射的利益とは、法が何らかの利益の実現を目指して或る行為を命令したり制限したりする結果として私人が受ける事実上の利益のことである。すなわち、私人の利益を法的に直接保護するという訳ではない。行政事件訴訟法第9条により求められる訴えの利益の有無を判断する際に重要な概念となる。反射的利益の例として、医師法によって医師に診療義務が課される結果として患者が診療を受ける利益などがあげられる。

 これに対し、特許は、本来、私人が有しないとされる特別な権利能力や権利、包括的な地位などを設定する行為である。このため、特許を受ける私人に、第三者に対抗しうる法律上の力を与えることになる。また、特許は、申請を前提要件とする。

 ③特許と確認との違い

 特許は法律行為的行政行為であり、私人のために特別な権利能力、権利、包括的な地位などを設定する効果意思の表示である。

 確認は準法律行為的行政行為であり、特定の事実または法律関係に関し、存否や真否を公の権威をもって判断する行為で、この判断(意思でない点に注意すること!)の表示に法律が一定の効果を付与するものである。 特許法による特許:これは行政行為の特許ではなく、確認である。

 

(2015年9月22日掲載)

(2017年10月26日修正)

(2017年11月17日修正)

(2017年12月6日修正)

(2017年12月20日修正)

戻る〕