第15回    行政指導

 

 

 1.行政指導の意義

 いつのことからか、日本の行政は不透明であると諸外国 (とくにアメリカ)から批判されるようになった。その大きな原因の一つが行政指導である。

 まず、行政指導は、行政組織法の根拠を必要とする。しかし、行政作用法の根拠を必要としない。と言うよりも、法律の根拠がないという事態に臨機応変に対応するための方法であり、法的効果もな い事実行為であり、権限の所在や指揮系統・行政責任の不明確性もあって、当事者以外からは見えにくいものとなっている。とくに、国による行政指導は、官庁の監督権限と結びついて行政の不透明性・密室性を拡大させ、また官民の癒着をも進行させた。日本の行政手続法が制定されたのは、行政指導に関する諸外国からの批判に答える(あるいはかわす?)という意味もあったのである。

 しかし、行政指導が全て悪であるという訳ではない。地方公共団体、とくに市町村において、国の法律の不備、しかも、条例を制定できるかどうかも疑わしい場合などを補う形で、例えば無秩序な宅地開発を防止するために、行政指導が用いられた。

 行政指導には定型がないので、これに対する定義も様々であり、法律においても様々な用語が用いられる(指導、勧告など)。行政手続法第2条第6号は、行政指導を「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないもの」と定義 している。この定義にも現われているように、行政指導は、相手方に法的な義務を課するものではなく、任意的な協力を求めるものである。たとえ要綱などにおいて行政指導の基準を定め、相手方がそれに従わない場合の対応措置を定めたとしても、それによって法的な行為にはならない。要綱は内部的な基準にすぎないからである。

 そして、行政指導は、何らかの具体的な行政目的を実現するための手段である。行政指導に従わない私人は、事実の公表や給付の打ち切りなどの制裁を受けることもあるが、刑罰を科される訳ではない。その意味においては、行政指導は非権力的手段である。もっとも、前記の制裁も、刑罰よりはソフトであるとはいえ、場合によっては問題を残すであろう。

 

 2.行政指導の種類

 前述のように、行政指導には定型がない。この点が行政行為などと異なるのであり、行政手続法第2条第6号も一応の定義であるにすぎない。そのため、行政指導の種類と言っても、実態からの帰納的分類であり、実際に果たす機能をみた上での便宜的な分類に過ぎない。実際の行政指導には、社会保障行政などで見られる助成的な指導、規制的な指導、調整的な指導があると言えるが、実際にはいくつかの性格を兼ね備えていることも多く、いずれも、何らかの意味において規制的な機能を帯びる点において共通している。

 @規制的な行政指導

 行政指導において典型的なものであり、多くの行政指導が、何らかの形で行政の相手方である私人(個人、私企業など)の活動を規制する目的のためになされるものであると言いうる。例として、次のようなものがある。

 消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法第6条第1項に基づく、公正取引委員会による勧告

 経済産業省によって行われる、不況時における操業短縮勧告(積極的な規制目的)

 建築確認の留保とセットで行われる行政指導

 料金の値上げをめぐる行政指導

 A助成的な行政指導

  情報提供による助成であり、単なる情報提供とは異なり、何らかの政策目的を実現するための手段として位置づけられる。

 B調整的な行政指導

 私人間の紛争を解決するための手段としてなされる行政指導である。マンションの建築主と周辺住民との間での紛争を解決するために行われる行政指導などが例としてあげられる。ただ、この場合は、実質的にマンションの建築主などに対する一種の規制として働くことが少なくない。その意味においては規制的な行政指導の変種と言えなくもない。帰納的な分類であるため、一つの、あるいは一連の行政指導が複数の性格を有しうることは、むしろ当然のことである。

 

 3.行政指導の問題点

 事実行為であるはずの行政指導は、様々な場面において行政目的を実現するための手段として多用されている。それだけに、様々な問題が存在する。

 @法律の根拠

 既に述べたように、行政指導について行政組織法の根拠は必要である。それは、行政指導の内容が所掌事務の範囲内であることが求められるからである。

 これに対し、行政作用法の根拠が必要であるか否かは問題とされる。既に述べたように、事実行為であることからすれば、行政作用法の根拠は不要であると言いうる。実際的な側面においても、法律の根拠がないという事態に臨機応変に対応するための方法なのであるから、行政作用法の根拠は不要であるとも言えるであろう。判例も、おそらくは行政指導の実態に即して考察したのであろうか、侵害留保の原則から行政作用法の根拠を不要と解する。しかし、学説は様々で、判例と同旨の説、(行政指導の実態に鑑みて、であると思われるが)法律の根拠を必要とすると解する説などがある。

  A制定法の趣旨・目的との関係

 行政指導について行政作用法の根拠が不要であるとしても、このことから直ちに、行政指導がいかなる内容のものであってもよいということにはならない。行政作用法の趣旨や目的にそぐわない行政指導は違法または不当の評価を受けうることとなる。また、かような行政指導に従ったことによって自らの行動の正当性を主張することも許されないと解さざるをえないであろう(但し、この場合は一定の配慮が必要となる場合も考えられる)。

 ●最三小判昭和57年3月9日民集36巻3号265頁(石油の価格をめぐるカルテルの違法性と行政指導)

 事案:事業者団体である石油連盟は、第一次オイルショック後に石油製品の価格を引き上げる決定を行い、加盟各社に通知した。これに基づいて加盟各社が製品の価格を引き上げたところ、公正取引委員会は、このような行為が独占禁止法第8条第1項第1号に違反するという審決を行った。これに対し、石油連盟は、前記決定の後に当時の通商産業省から価格引き上げの幅を縮小すべしという行政指導を受け、石油元売業者もこの行政指導に従ったことを理由として、石油連盟による前記決定の違法性は消滅したと主張したが、公正取引委員会はこれを認めなかった。

 判旨:最高裁判所第三小法廷は、独占禁止法第8条第1項第1号にいう「競争の実質的制限」の解釈を示した上で、「事業者団体がその構成員である事業者の発意に基づき各自業者の従うべき基準価格を団体の意思として協議決定した場合においては、たとえ、その後これに関する行政指導があったとしても、当該事業団体がその行った基準価格の決定を明瞭に破棄したと認められるような特段の事情がない限り、右行政指導により当然に前記独占禁止法八条一項一号にいう競争の実質的制限が消滅したものとみることは許されない」として、石油連盟の上告を棄却した。

 この事例において示されているように、行政指導に従ったからといって、違法な行為が違法でなくなるということはない。少々酷であるかもしれないが、公平などの観点からすれば、このように言わざるをえない。

 B比例原則、平等原則など

 行政指導についても当然に妥当するものと解される。そのため、度を越した公務員の退職勧奨は不法行為とみなされる場合がある(最判昭和55年7月10日労働判例34520頁)。また、信義誠実の原則が妥当することがある〔最三小判昭和56年1月27日民集35巻1号35頁(T―27)など〕。

 C相手方の任意性

  行政指導は、一応、非権力的手段と位置づけられているが、実際には相手方の任意性を失わせ、何らかの行為を強要する結果につながることが多い。

 地方公共団体の要綱(行政規則の一種)は、行政指導の基準を定めるとともに、指導に従わない者の氏名の公表(当然、経済的あるいは社会的な損失を招く)、許認可などの留保を定めるものが多い。 そのため、これまで様々な事件が発生している。

 ●最三小判昭和60年7月16日民集39巻5号989頁(T―132。行政指導による建築確認の留保)

 事案:東京都の某所にマンションを建設する計画があり、業者Xは東京都に建築確認の申請を行った。しかし、住民の反対が強かったことから、東京都はXに住民との話し合いを指導した。Xはこの指導に従って話し合いをしたが、解決をみなかった。一方、東京都は新高度地区案を発表して建築確認の留保を明示し、Xにさらに話し合いを進めることを指導した。結局、Xはこれ以上指導に従わないこととし、金銭補償によって住民との紛争を解決し、ようやく建築確認を得た。Xは、その間に建築確認が留保されたことを不服として出訴した。

 判旨:最高裁判所第三小法廷は、地方自治法や建築基準法の規定からすれば建築確認の留保が直ちに違法であるとはいえないとしながらも、この留保が「建築主の任意の協力・服従のことに行政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまる」と述べた。そして、「建築主において自己の申請に対する確認処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を明確に表明している場合には、かかる建築主の明示の意思に反してその受忍を強いることは許されない」と述べた(強調は引用者)。そして、「建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法である」と述べ、東京都の上告を棄却した。

 この判決について注意しなければならないことは、青字で強調した部分である。その上で赤字で強調した部分が述べられているのである。建築基準法などに照らしても、建築確認の留保自体が違法である訳ではないとされていることについては、重ねて注意が必要であろう。

 ●最二小決平成元年11月8日判時132816頁(T―97。武蔵野市の指導要綱と給水拒否)

 事案:武蔵野市は宅地開発指導要綱を定めた。これは、中高層建築物について住民の同意を得ること、教育施設負担金を市に寄付することを事業主に求め、従わない場合には上下水道などについての協力を行わないというものである。A建設は、市内にマンションを建設しようとして住民の同意を得る努力をしたが得られなかったので、市長の承認を得ずに東京都に建築確認申請をして確認を得た。市はAからの給水契約の申し込みを拒否したが、Aは建設を強行した。Aは何度も給水契約の申し込みをしたが市は書類を受理しなかった。こうした市の対応が水道法第15条第1項に違反するとして、市長が起訴された。

 判旨:最高裁判所第二小法廷は、市長の上告を棄却した(罰金刑確定)。この決定においては、Aが行政指導に従わないという意思を明確にしていたこと、実際にマンションに入居者がいたことなどがあげられ、「このような時期に至ったときは、たとえ右の指導要綱を事業主に順守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主らとの給水契約を留保することは許されない」と述べられている。

 この判決は、水道法第15条第1項にいう「正当の理由」の解釈に関する代表例の一つでもある。また、行政契約に関するものとして、第14回において紹介した最一小判平成11年1月21日民集53巻1号13頁があるので、比較していただきたい。

 ●最一小判平成5年2月18日民集47巻2号574頁 〔T―103。武蔵野市の指導要綱と教育施設負担金(開発負担金)〕

 事案:Xは武蔵野市に3階建て賃貸マンションの建設を計画した。武蔵野市は、前掲最二小決平成元年11月8日に登場する要綱に基づいて教育施設負担金の寄付を要請した。Xは不満を抱いたが制裁などを恐れたため、市に教育施設負担金を納付した。Xは、この寄付が武蔵野市の強迫によるものであるとして意思表示の取消しを主張した上で、教育施設負担金相当額の返還を求めて出訴した。東京地方裁判所八王子支部および東京高等裁判所はXの請求を棄却したが、最高裁判所第一小法廷は、Xの主張のうち、強迫の主張を退けたものの、国家賠償の請求について破棄差戻判決を出した。

 判旨:この最高裁判決においては、行政指導による寄付金(教育施設負担金)の納付の求め自体は違法でないものの、強制にわたるなど事業主の任意性を損なうようなことがあれば違法となるという趣旨が述べられている。そして、本件においては、やはり上下水道の使用の拒否などをうかがわせるようなことで、教育施設負担金の納付を事実上強制使用としたものであり、「違法な公権力の行使といわざるを得ない」と述べられている。

 

 4.行政指導に関する行政手続法第32条以下の規定

 まず、ここで注意しなければならないことがある。行政手続法は国の行政手続に適用されるものである。地方公共団体の行政手続については各地方公共団体の行政手続条例が適用される。もっとも、行政手続条例は、基本的に行政手続法と同じ内容である。そのため、ここでは行政手続法の規定を簡単に説明する。いずれの規定も、これまでの判例の集積を基にするものである。

 @第32

 この規定は、行政指導の一般原則を示すものである。

 まず、第1項は、行政指導が行政機関の任務や所掌事務を逸脱するものであってはならない旨を、そして、相手方の任意の協力によってのみ、行政指導の目的が実現されるという旨を規定する。

 次に、第2項は、行政指導に従わなかったことを理由とする不利益な取り扱いの禁止を規定する。但し、法律によって、行政指導としての勧告に従わない者について改善命令や許可の取消処分(実際には撤回処分の場合が多い)をなすという構成がとられている場合には、ここにいう不利益な取り扱いに該当しない。

 この規定に関係する一つの問題として、行政指導に従わなかったものの氏名の公表がある。これについては、第19回を参照していただきたい。

 A第33

 この規定は、申請の取り下げ、または申請内容の変更を求める行政指導に関するものであり、 申請者が行政指導に従わない意思を表明した場合には、なおも行政指導を継続することなどによって申請者の権利行使を妨げるようなことをしてはならない旨が示されている。これは、申請者が一度行政指導に従うと、自分の意思で、すなわち任意に協力したものとみなされるため、大きな不利益を被っても事後的に争えなくなってしまうためである。

 B第34

 この規定は、許認可等の権限に関連する行政指導に関するものである。行政機関がこうした権限を行使できない場合(例、処分基準に達していない、実は処分基準として定められていない、など)、または行使する意思がない場合に、こうした権限を行使しうるという趣旨を殊更に強調することは許されない。

 C第35

 この規定は、行政指導の方式に関するものである。第1項は、行政指導の趣旨、内容、責任者の明確性を定める。第2項は、書面交付請求に対する交付の義務を定める。第3項適用除外に関する規定である。

 D第36

 この規定は、複数の者を対象とする行政指導についての原則を示すものである。

 

 5.行政指導と訴訟

 行政指導は事実行為であるから、それが違法であるとしても取消訴訟によって争うことはできないとするのが通説・判例である。

 しかし、法的構造などによっては、行政指導についても処分性を認め、取消訴訟によって争いうるとも考えられる。

 ●最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁(U―167)

 事案:Xは富山県内に病院の開設を計画し、富山県(Y)に対して病院開設の許可申請を行った。しかし、Yは、Xが病院開設を予定している地域において既に富山県地域医療計画に定めている医療圏内において病院の病床数が必要な程度に達している、という理由により、Xに対して病院開設を中止することを勧告した(医療法第30条の7による)。Xは勧告を拒否した。YはXに対して病院開設の許可処分を行ったが、同時に中止勧告にもかかわらず病院を開設した場合には保険医療機関の指定の拒否をなすというような趣旨の通告を行った。Xはこの勧告および通告の取消しを求めて出訴した。一審判決および控訴審判決は訴えを却下したので、Xは上告した。

 判旨:最高裁判所第二小法廷は、勧告について処分性を認め、富山地方裁判所に差し戻した。判決理由中においては、まず、「医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められているけれども、当該勧告を受けた者に対し、これに従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができ」、その結果として事実上は「病院の開設自体を断念せざるを得ない」と指摘されている。

 この判決によって行政指導が一般的に処分として取消訴訟によって争いうるようになったと考えるべきではないであろう。この判決において勧告に処分性が認められたのは、医療法第30条の7ではなく、健康保険法第43条の3(1998年改正前)の存在であろう。医療法第30条の7による勧告そのものは、開設許可に何らの影響も与えない。しかし、健康保険法第43条の3により、保険医療機関の指定が拒否されるとすれば、病院を開設してもほとんど意味がなくなってしまう。このような構造(当時は機関委任事務の制度が存在していた)では、勧告が次の保険医療機関指定許否処分につながりうることとなる。そのため、勧告は、いわば先行処分のような機能を実質的に有することとなるのである。

 なお、行政指導の公表が定められているような場合には、公表自体を取消訴訟の対象とし、さらに先行する行政指導の違法確認訴訟という方法もありうる。

 これに対し、行政指導に従った結果として損害を受けた場合には、国家賠償法第1条に基づいて損害賠償を請求できる場合がある。前掲最一小判平成5年2月18日がその代表例である。

 行政指導継続中の建築確認の留保は、直接的には行政行為の不作為の違法性が問題となっているので、その不作為の違法性を理由にする不作為の違法確認訴訟または損害賠償請求によって争う。

 行政指導不服従の結果としての給水拒否の場合には、給水拒否の違法を争う損害賠償請求、または給水契約締結を求める訴訟によって争うことになる。

 

(2013年4月23日掲載)

(2013年12月26日修正)

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