第25回    取消訴訟の訴訟要件その1―処分性を中心に―

 

 

 1.訴訟要件

 訴訟要件とは、訴訟における実質的な審理(本案審理)に入るための要件のことである。この要件が揃っていなければ、本案審理に入ることができず、訴えは却下される。とくに行政事件訴訟法の場合、この訴訟要件について多くの問題があり、判例も多数にのぼる。そこで、今回は、行政事件訴訟法において中心に置かれている抗告訴訟のうち、とくに代表的な存在である取消訴訟を取り上げて考察する。これは、判例や学説の蓄積があるという理由が大きいが、行政事件訴訟法自体が取消訴訟を中心として多くの規定を置き、他の類型の訴訟については取消訴訟の規定を準用するという、構造上の理由もある。

 取消訴訟の訴訟要件は、処分性、原告適格、狭義の訴えの利益(客観的訴えの利益ともいう)、被告適格、出訴期間からなる。このうち、原告適格を広義の訴えの利益ともいう(処分性を含めることもある。なお、論者によって多少意味が異なる)。行政事件訴訟、とくに取消訴訟の場合は、訴訟要件が問題となることが多く、処分性、原告適格はその最たるものである。今回は、処分性の問題を取り上げることとする。

 

 2.取消訴訟の対象―処分性の有無―

 (1)取消訴訟の対象は「処分」である

 取消訴訟などの抗告訴訟の対象は、行政事件訴訟法第3条第2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」でなければならない。このような行為であれば「処分」としての性格(すなわち、処分性)を有するので、原則として取消訴訟により争わなければならない(逆であれば争うことができない)。

 しかし、行政手続法、行政不服審査法と同様に、行政事件訴訟法第3条第2項は「処分」を正面から定義している訳ではない。この点において、ドイツ連邦行政手続法第35条と異なる。行政事件訴訟法第3条第2項を読めば、処分が「公権力の行使に当たる行為」であることは理解できる。そして、行政行為が「処分」に該当することに争いはない。また、行政行為に準ずる権力的な行為(身柄の拘束などの権力的な事実行為、私人の権利を直接かつ具体的に決定づける法令や条例)も含まれることも了解されている。しかし、他にどのような行為が「処分」として取消訴訟の対象となるのかが問題となる。

 (2)判例の基本的な態度

 行政法学において、処分性の問題については、判例の分析や批評などを通じて議論が進められてきた。法律学の後追い的性格を象徴するものであるが、事柄の性質上、やむをえないことではある。ここでも、判例の基本的な態度をみていくこととする。代表的な例となるのが、次に示す判決である。

  ●最一小判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁(U―156)

 事案:東京都は、既に所有していた土地にごみ焼却場を設置するという計画案を都議会に提出した。都議会は昭和32年5月30日にこの計画案を可決した。東京都は、同年6月8日に議会の可決を公報に掲載した上で、建設会社と建築契約を締結した。これに対し、近隣住民は、このごみ焼却場の設置場所が環境衛生上最も不都合な土地であって清掃法第6条に違反する、煤煙や悪臭などによって保健衛生上の損害を受けるおそれがある、などとして、東京都による一連のごみ焼却場設置のための行為の無効確認を求める訴訟を提起した。東京地方裁判所は訴えを却下し、東京高等裁判所も控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷も、次のように述べて上告を棄却した。

 判旨:「行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分とは、所論のごとく行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」と述べられている。本件の場合は東京都が私人から買収した土地の上に私法上の契約により設置されたものであり、東京都が計画案を議会に提出した行為は東京都の内部的行為に留まり、いずれも行政庁の処分に当たらない。

 最高裁判所は、「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」を「処分」と理解しているのであって、伝統的・通説的な見解とされてきた田中二郎博士による行政行為の定義とは異なる表現ではあるが、「処分」は基本的に行政行為である、ということになる。

 (3)行政行為

 最高裁判所の判例における定義から、行政行為は「処分」に該当する。これについては学説においても争いはない。たとえば、規制行政における命令および強制、規制行政における許認可(取消および撤回を含む)は「処分」である。但し、準法律行為的行政行為については、事実行為との区別との関係があり、若干の問題がある。準法律行為的行政行為の法的効果は法律の定めるところによるため、何らかの法的効果が付与されなければ単なる事実行為に留まることになる。

 ●最三小判昭和54年12月25日民集33巻7号753頁

 事案:Xは写真集を輸入しようとして税関長Yに輸入申請をしたが、Yはこの写真集が輸入禁制品であるという趣旨の通知を行った。Xは異議を申し出たが棄却され、出訴した。一審はXの請求を棄却し、二審はXの訴えを却下したのでXが上告した。最高裁判所第三小法廷は破棄差戻判決を出した。

 判旨:税関長による、関税定率法に基づく通知は、法律上の性質からすれば観念の通知であるが、Xが本件貨物を適法に輸入することができなくなるという法律上の効果を及ぼすため、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当する」。

 余談に近くなるが、この判決こそ、準法律行為的行政行為、およびその一種としての通知という概念の必要性を改めて示すものである。近年の行政法学において、準法律行為的行政行為そのものを不要とする見解が多いようであるが、通知が単なる事実行為でなく、行政行為としての効果を有する場合があることは否定できないのである。

 ●最一小判平成11年1月21日判時1675号48頁・判タ1002号94頁

 事案:甲は乙を母とし、丙を父とする。乙と丙は婚姻の届出をしていない。甲の出生届の通知を受けた市長は、職権により、乙の世帯票に甲を記載し、住民票の記載を行った。その際、甲の世帯主である乙との続柄が「子」と記載された。当時、住民基本台帳事務処理要領(国が制定)によると、嫡出子については長男、長女などと記載し、非嫡出子については一律に子とのみ記載されることとなっていた。乙と丙は市長に対して住民票の記載処分の取消しなどを求め、甲、乙、丙は市に対して損害賠償を請求した。一審は記載処分の取消しについて訴えを却下し、損害賠償請求を棄却した。二審も甲、乙、丙の控訴を棄却し、最高裁判所も上告を棄却した。

 判旨:「市町村長が住民基本台帳法7条に基づき住民票に同条各号に掲げる事項を記載する行為は、元来、公の権威をもって住民の居住関係に関するこれらの事項を証明し、それに公の証拠力を与えるいわゆる公証行為であり、それ自体によって新たに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する法的効果を有するものではない」。「住民票に特定の住民と世帯主との続柄がどのように記載されるかは、その者が選挙人名簿に登録されるか否かには何らの影響も及ぼさないことが明らかであり、住民票に右続柄を記載する行為が何らかの法的効果を有すると解すべき根拠はない。したがって、住民票に世帯主との続柄を記載する行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分にはあたらない」。

 この判決は、準法律行為的行政行為の公証行為について処分性を否定したものである。他に、公証行為の処分性を否定した判決として、最二小判昭和39年1月24日民集18巻1号113頁(家賃台帳の作成と登載行為)などがある。たしかに、公証行為は「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する」という性格を持たないものであることから、処分性を認めることが難しいであろう。これが、行政行為を法律行為的行政行為・準法律行為的行政行為に分類する方法の問題点にもなっていると言えよう(もっとも、既に記したように、私は準法律行為的行政行為の概念を否定しない立場に立つ)。なお、準法律行為的行政行為のうち、最も処分性を認めやすいのは確認行為である(但し、これを法律行為的行政行為とする見解もある)。

 (4)定型的非行政処分

 法律の規定、さらに判例などから、取消訴訟など抗告訴訟の対象にならないことが明白なものがある。民法の行為形式による行政活動(例、土地の任意買収、物品の購入行為)が代表である。また、法規命令も、基本的には「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」とは言い難いため、処分性を認めることはできないであろう。

 (5)内部行為

 判例における定義によると、行政の内部行為は国民との間に直接の権利変動を生じさせないため、「処分」に該当しない。

 ●最一小判昭和34年1月29日民集13巻1号32頁(T―24)

 事案:Xは煙火工場を設け、始発筒の製造販売を営んでいたが、火薬の爆発で工場のうちの3棟を失い、臨時建築制限規則に基づいて県知事に建築許可を申請した。この許可には消防法第7条による消防庁Yの同意が必要であった。Yは、一度は同意して同意書を県の土木事務所に提出させたが、翌日、住民の反対などもあったため、土木事務所長に対して同意の撤回を通告した。福岡地方裁判所はXの請求を棄却し、福岡高等裁判所も控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷も上告を棄却した。

 判旨:本件消防庁の同意は、知事に対する行政機関相互間の行為である。そのため、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する行為といえない。

 この判決は、行政組織法における組織間関係(内部関係)についての代表的な判決でもある。行政行為の定義からすれば、行政の内部関係の行為は、法律において行政行為と同種の用語が使用されていたとしても行政行為に該当しないことになる。しかし、行政行為であるか否かと、行政事件訴訟法にいう処分であるか否かとは、一応は別次元の問題であるとも言えるのであり、問題を残す。

 ●最三小判昭和43年12月24日民集22巻13号3147頁(T―57)

 事案:墓地、埋葬等に関する法律第13条に定められた「正当な理由」(埋葬の拒否に関する)について厚生省環境衛生課長が通達を発していたが、宗教団体間の対立から埋葬拒否事件が多発するに至り、同省公衆衛生局環境衛生部長が新たに通達を発した。これに対し、原告寺院が異宗徒の埋葬の受忍が刑罰によって強制されるなどとして、新たな通達の取消しを求めて出訴した。

 判旨:最高裁判所は、通達の性格を述べた上で、通達が直接的に原告寺院の埋葬受忍義務を課したり墓地の経営管理権を侵害したりするようなものではなく、通達は「処分」ではないとした。

 なお、通達に処分性を認めた判決として、東京地判昭和4511月8日行裁例集2211121785頁がある。これは、計量法の通達が争われた事件に関する判決である。

 ●最二小判昭和53年12月8日民集32巻9号1617頁(成田新幹線訴訟。T―2)

 事案:当時の運輸大臣は成田新幹線の基本計画などを全国新幹線鉄道整備法に基づき決定し、公示した上で、昭和46年、日本鉄道建設公団に建設を指示した。同公団は昭和47年に運輸大臣に工事実施計画の認可を申請し、同年に認可を受けた。この計画の予定地域内とされる東京都江戸川区などは、新幹線計画の確定によって土地を買収または収用される蓋然性が高く、所有権を侵害されるおそれがあること、騒音や振動などによって良好な環境を享受する利益が侵害されるなどとして出訴した。東京地方裁判所は訴えを却下し、東京高等裁判所は控訴を棄却した。最高裁判所第二小法廷も上告を棄却した。

 判旨:「本件の認可は、いわば上級行政機関としての運輸大臣が下級行政機関としての日本鉄道建設公団に対しその作成した本件工事実施計画との整合性等を審査してなす監督手段としての承認の性質を有するもので、行政機関相互の行為と同視すべきであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、また、これによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うわけではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらない」。

 本件に登場する日本鉄道建設公団は特殊法人であり、独立した法人格を有している(注意!)。本件のように、行政と特殊法人などとの関係を行政組織内部の関係と捉えた判決として、次のようなものがある。

 最一小判昭和49年5月30日民集28巻4号594頁(T―1。大阪市と大阪府国民健康保険審査会)

 広島地判昭和51年5月27日行裁例集27巻5号802頁/広島高判昭和53年4月12日行裁例集29巻4号532頁(建設大臣が日本道路公団に対して行った山陽自動車道の工事実施計画書の認可)

 福岡地判昭和53年7月7日行裁例集29巻7号1264頁(国営土地改良事業施行に際しての市町村の事業計画等の申請に対して都道府県が行う同意)

 (6)行政契約など

 給付行政分野においては契約の方式によることが多く、その推定が働くとも言われているが、時に処分性が認められることがある。

 ●最大判昭和45年7月15日民集24巻7号771頁(U―155)

 事案:XはAに地代を提供したが、受領を拒絶された。そのため、弁済供託を続けてきた。XとAとの間で裁判上の和解が成立し、Xは法務局供託官のYに供託金の取戻しを請求したが、時効消滅を理由として却下された。そこでXは、Yを被告として却下処分の取消訴訟を提起した。一審でXが勝訴し、Yが控訴したが棄却された。Yは上告したが、最高裁判所大法廷はYの上告を棄却した。

 判旨:多数意見は、供託官の却下行為について特別の不服審査手続が設けられていることを理由として、却下処分の取消訴訟の提起を認めた。これに対し、入江裁判官など4裁判官の反対意見は民事訴訟説を採り、松田裁判官など2裁判官の反対意見は形式面の不服について抗告訴訟、実質面の不服について民事訴訟という説を採っている。

 本質は契約であっても、とくに法律が行政上の不服申立ての規定を含む場合には処分性が認められることになる。逆に、法律に行政上の不服申立ての規定が含まれないことを理由として、農地法第80条に基づく政府保有農地の売払行為について処分性を認めなかったのが、最大判昭和46年1月20日民集25巻1号1頁(T―51)である。また、給付行政において、本来は命令や強制という意味における権力性を有しない行為であるが行政行為とされることがある(補助金交付決定など)。

 (7)一般的行為

 法律、法規命令、条例、地方公共団体の長による規則は、いずれも一般的行為であり、規律力を有するが、一般的抽象的義務を定めるだけであるから、通常は処分性が否定される。但し、時に具体的な「処分」と考えられることがある 。東京高判平成14年10月22日判時1806号3頁は、料金変更を内容とする給水条例に処分性を認める。医療費の職権告示については、東京地決昭和40年4月22日行裁例集16巻4号708頁がある。

 また、行政決定に形式的な名宛人がいない場合(道路区域決定、道路供用開始行為、道路供用廃止行為、保安林指定行為、保安林指定解除行為、道路通行禁止行為など)については、個別的な検討を要する。最一小判昭和57年9月9日民集36巻9号1679頁(長沼ナイキ訴訟。U―182)は、保安林指定解除行為の処分性を暗黙の前提としている。一方、最判昭和40年11月19日判時430号24頁は、禁猟区の設置行為に処分性を認めていない。また、次のような判例がある。

 ●最一小判平成14年1月17日民集56巻1号1頁〔御所町(現在は御所市)二項道路指定事件。U―163〕

 事案:奈良県知事Yは、昭和37年、告示によって幅員4メートル未満(1.8メートル以上)の道路を建築基準法第42条第2項のみなし道路として一括指定した。Xは自己所有地に建物を新築する際に、通路部分がみなし道路に該当するか否かを県の土木事務所に照会した。建築主事は、本件通路部分がみなし道路であると回答したため、Xが不満を抱き、Yを被告として本件通路部分について指定処分が存在しないことの確認を求める訴訟を提起した。奈良地方裁判所は本件指定の処分性を肯定した上でXの請求を認容したが、大阪高等裁判所が訴えを却下したため、Xが上告した。

 判旨:最高裁判所は破棄差戻判決を下した。理由において、本件告示によって建築基準法の「規定が適用されるに至った時点において現に建築物が立ち並んでいる幅員4m未満の道路のうち、本件告示の定める幅員1.8m以上の条件に合致するものすべてについて二項道路としての指定がされたこととなり、当該道につき指定の効果が生じる」とした上で、敷地所有者が当該道路につき道路内の建築等の制限を受け(同第44条)、私道の変更または廃止が制限される(第45条)などの具体的な私権の制限を受けることになるため、「特定行政庁による二項道路の指定は、それが一括指定の方法でされた場合であっても、個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものであり」、抗告訴訟の対象となる処分に該当するとされた。

 (8)段階的行為

 手続上、いくつかの行為が段階を踏んで行われることがある。そのうちのどの段階において処分性が認められるのかが問題となることもある。土地収用法に基づく事業認定については、行政上の不服申立て制度が用意されており、処分性が認められる(通説・判例)。また、自作農創設特別措置法に基づく農地買収計画も処分性が認められる(通説・判例)。土地改良法に基づく事業計画およびそれに対応する事業施行の認可も、処分性が認められる例である(最判昭和61年2月13日民集40巻1号1頁)。

 段階的行為についてとくに問題となるのが、都市計画法、土地区画整理事業法などに定められる事業計画である。

 ●最一小判平成4年11月26日民集46巻8号2658頁(第7回も参照)

 都市再開発法に基づく第二種市街地再開発事業計画の決定は「その公告の日から、土地収用法上の事業認定と同一の法律効果を生ずるものであるから(同法二六条四項)、市町村は、右決定の公告により、同法に基づく収用権限を取得するとともに、その結果として、施行地区内の土地の所有者等は、特段の事情のない限り、自己の所有地が収用されるべき地位に立たされる結果となる」などの理由から、「施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすものであって、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である」。

 一方、逆に、処分性を認めない、または訴えの成熟性を否定される、という例も多い。

 ●最大判昭和41年2月23日民集20巻2号271頁(第7回において扱った)

 土地区画整理事業法に基づく土地区画整理事業の計画が作成されれば、土地の形質変更や建物の新築などは制約を受ける。しかし、そうした制約は「事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限」ではなく、「事業計画自体ではその遂行によって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが、必ずしも具体的に確定されているわけではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たる性質を有するにすぎない」から、取消訴訟の対象にはならない

 ※最判平成4年10月6日判時1439号116頁も同旨であった。

 ●最大判平成20年9月10日民集62巻1号1頁(U−159)

 これは上記最大判昭和41年2月23日を変更する判決である。第7回において扱ったが、 再度、重要な部分を引用しておく。

 「土地区画整理事業の事業計画については、いったんその決定がされると、特段の事情のない限り、その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ、その後の手続として、施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることにな」り、「建築行為等の制限は、このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり、しかも、施行地区内の宅地所有者等は、換地処分の公告がある日まで、その制限を継続的に課され続ける」。

 「施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり、事業計画の決定に伴う法的効果が一般的、抽象的なものにすぎないということはできない」から「事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきであ」り、「市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である」。

 ●最一小判昭和57年4月22日民集36巻4号705頁(U―160)

 都市計画法に基づく用途地域の指定によって「当該地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課し、その限度で一定の法状態の変動」が生じるが、それはこうした制約を課する法令が制定された場合と同じように「当該地域内の不特定多数のものに対する一般的抽象的な」義務にすぎず、直ちに特定の個人に対する「具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない」。

 (9)事実行為のうち、行政指導など

 行政指導は取消訴訟の対象とならない、というのが、これまでの判例であった(大阪地判昭和58年9月29日行裁例集30巻3号397頁など)。しかし、最近、行政指導に処分性を認める判決も登場している。最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁(U―167)である(第15回を参照)

 また、指針的なものに留まる行政計画(法的拘束力を持たない行政計画。新産業都市建設基本計画など)も、取消訴訟の対象にならない(大分地判昭和54年3月5日行裁例集30巻3号397頁)。

 一方、下級審判例の傾向であるが、行政代執行法の戒告およびその通知は「処分」である。また、納税の告知は、課税処分に何らかの法的効果を及ぼすものではないが、処分性を有する(最一小判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁。T―64)。

 (10)事実行為のうち、公権力の行使たる性質を有するもの(行政不服審査法第2条第1項も参照)

 このような事実行為は処分性を有し、取消訴訟の対象となる。例として、直接強制による行為、即時執行による行為がある。

 (11)その他

 ●最一小判平成7年3月23日民集49巻3号1006頁(U―163)

 事案:Xは盛岡市の市街化調整区域の開発を計画した。そして、都市計画法第32条に基づき、公共施設管理者である盛岡市長Yに同意を求めるとともに、開発によって新設される道路などについて協議を求めた。しかし、Yは同意できないとする回答を行った。そこで、XはYを被告として出訴した。盛岡地方裁判所はYの同意と協議の処分性を否定したが、仙台高等裁判所が処分性を肯定したため、Yが上告した。最高裁判所は仙台高等裁判所判決を破棄し、Xの控訴を棄却した。

 判旨:都市計画法第32条の定めは「事前に、開発行為による影響を受けるこれらの公共施設の管理者の同意を得ることを開発許可申請の要件とすることによって、開発行為の円滑な施行と公共施設の適正な管理の実現を図ったものと解される」。そして、行政機関等がこの同意を拒否する行為は「公共施設の適正な管理上当該開発行為を行うことは相当でない旨の公法上の判断を表示する行為」である。「この同意が得られなければ、公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことができないが、これは、法が前記のような要件を満たす場合に限ってこのような開発行為を行うことを認めた結果にほかならないのであって、右の同意を拒否する行為それ自体は、開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえない」ので「国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすもので」はない。

 (12)処分性を拡張しようとする考え方

 判例が示す以上の立場に対しては、処分性を拡張し、取消訴訟の対象を拡大しようとする考え方がある。これは、通達など、民事訴訟においても争いえないものや、民事訴訟において争いうるもの、例えば、議会に対するごみ焼却場設置計画案の提出など一連の行為についても、実質的に国民生活を一方的に規律する行為であれば取消訴訟の対象とすべきである、と論じる

 ※この考え方については、さしあたり、原田尚彦・行政法要論〔全訂第七版補訂二版〕(2012年、学陽書房)386頁を参照。東京地決昭和451014日行裁例集21101187頁は、この立場を採る数少ない実例である。

 ちなみに、最一小判昭和391029日民集18巻8号1809頁(U―156)のような「不快施設」の設置を争う場合、民事訴訟などの差止請求が認められていた。しかし、最大判昭和561216日民集35101369頁(U―157、249)は、国営空港の管理における「航空行政権」(「空港管理権」と区別されている)を理由に、このような場合における民事訴訟による請求を却下した。その後、最二小判平成元年2月17日民集43巻2号56頁(U―170)においては、周辺住民の原告適格を認めている。

 ※前掲最大判昭和561216日は、大阪空港周辺に住み、航空機騒音などに苦しむ住民が、夜間の空港使用差し止め(民事訴訟による)、および過去および将来に係る損害賠償の支払い(国家賠償法に基づくものであり、これも民事訴訟による)を求めて出訴したものである。これに対し、前掲最二小判平成元年2月17は、新潟空港周辺の住民が、やはり騒音によって健康や生活における利益を侵害されたと主張してはいるが、運輸大臣が某航空会社に対して与えた定期航空運送事業免許の取消を求めたものである。

 

(2013年4月25日掲載)

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