第25回    取消訴訟の本案審理、判決

 

 

 1.取消訴訟の本案審理

 基本的には民事訴訟と同じように進められる。行政事件訴訟法には、本案審理に関する規定が多くないためである。第7条も参照のこと。

 (1)処分権主義と弁論主義

 処分権主義とは、民事訴訟において、訴訟の開始、審理の対象、および訴訟の終了について、当事者に自由な処分権限を認める原則のことである。基本的には取消訴訟についても妥当するが、訴訟の終了に関しては(和解や請求の認諾について)議論がある。

 また、弁論主義とは、訴訟資料に対する当事者の処分権限に関するものであって、事件の事実と証拠の収集を当事者の権限とすることである。裁判所には次の3点が求められることとなる。

 @当事者が主張していない事実を判決の資料として採用してはならない。

 A当事者間に争いのない事実をそのまま判決の資料として採用しなければならない。

 B当事者間に争いのある事実を証拠により認定する際には、必ず当事者の申し出た証拠によらなければならない(自らが証拠を収集することもできない)。但し、取消訴訟についてどこまで妥当するかは問題である。

 弁論主義に対するものとして、職権探知主義がある。これは、事件の事実と証拠の収集を当事者の権限とせず、裁判所の権限とすることであり、特徴は次の3点にまとめられる。

 @当事者が主張していない事実でも判決の資料として採用できる。

 A当事者に争いのない事実でも判決の資料として採用しないことができる。

 B当事者間に争いのある事実を証拠により認定する際には、当事者の申し出た証拠以外に、職権で他の証拠を取り調べることができる。

 (2)職権証拠調べ(行政事件訴訟法第24条)

 職権探知主義のBに該当するもので、当事者が適切な立証活動をしない場合に裁判所の職権による証拠調べが可能である。規定にあるように、裁判所の権限であり、義務ではない。行政事件訴訟特例法時代の判決である最一小判昭和28年12月24日民集7巻13号1604頁(U―201)は、裁判所が当事者の提出した証拠によって十分な心証を得られるのであれば、職権による証拠調べは必要ない、という趣旨を述べている。

 他方、裁判所が必要と認めたとき、職権で証拠調べをすることができるが、その結果について当事者の意見を聴くことを要する。当事者の提出した証拠だけで心証を得られない場合に証拠調べをすることが認められるのであるが、実務では、当事者に対して、証拠の提出を促す訴訟指揮権ないし釈明権を行使する程度で終わるのがほとんどである。

 なお、職権探知主義の@については、明文の法律の根拠が必要であるというのが通説である。

 (3)職権進行主義(民事訴訟法第93条・第98条など)

 日本の民事訴訟法は、訴訟の手続面について当事者主義ではなく、職権進行主義を採る。取消訴訟についても妥当する。このことは、訴訟の内容について当事者主義(弁論主義)を採るのと対照的である。

 (4)訴えの併合や変更―関連請求など  行政事件訴訟法第13条は、関連請求について訴えの併合を認める。また、同第18条は「第三者による請求の追加的併合」に関する規定であり、同第19条は「原告による請求の追加的併合」に関する規定である(同第20条も参照)。

 また、同第21条は、取消訴訟の目的となっている請求を、当該処分に係る事務の帰属する国または公共団体に対する損害賠償などの請求に変更すること (訴えの変更)を認める。その要件は、次の通りである。

 @請求の基礎に変更のないこと。

 A口頭弁論の終結に至るまで、原告が申し立てること。

 B裁判所は、訴えの変更を許す決定を下す前に、当事者および損害賠償その他の請求に係る訴訟の被告の意見を聴かなければならないことがある。

 (5)訴訟参加

 これには、第三者の訴訟参加(同第22条)と行政庁の訴訟参加(同第23条)とがある。

 第三者の訴訟参加は、訴訟の結果によっては権利を害されうる第三者が、その申立てまたは裁判所の職権で訴訟に参加しうるというものである。予め当事者および第三者の意見を聴いた上で、そして当事者もしくは第三者の申し立て、または職権によって、裁判所は第三者の訴訟参加を決定できる。この場合の第三者について民事訴訟法第68条が準用される(行政事件訴訟法第22条第5項)。

 これに対し、行政庁の訴訟参加は、「処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁」(監督権を有する上級行政庁など)の参加のことであり、裁判所が他の行政庁の参加を必要としていることもありうるので認められている。基本的には第三者の訴訟参加と同様であるが、民事訴訟法第69条が準用される(行政事件訴訟法第23条第5項)。

 また、裁判所は、行政事件訴訟法第23条の2に規定される場合に、釈明処分などをなすことができる(釈明処分の特則)。

 (6)審理の方法

 基本的には民事訴訟と同様であるが、行政庁の裁量行為に対する審査については特殊な問題がある他、行政事件訴訟法に特有の問題がある。

 職権証拠調べ(行政事件訴訟法第24条)については、既に述べた。

 立証責任については、法律要件分類説、事実考慮説、基本権分類説の対立がある。

 法律要件分類説は、民事訴訟の通説に従う考え方である。法律要件を、権利発生事実と権利障害・消滅事実とに分けた上で、行政庁の権限行使の根拠を権利発生事実とみて行政庁に立証責任を負わせるとする。

 事実考慮説は、正義公平・事案の性質・立証の難易などによる分配を説く。

 基本権分類説は、自由権的基本権の制限を旨とする処分については行政庁が立証責任を負うとする。

 行政事件訴訟は、通常の民事訴訟と異なる性質を有すること、行政庁の処分はその性質が必ずしも一義的であるとは限らないこと(二重効果処分など)、行政処分は公益上の処分であることから、行政救済法においては、行政処分が、それに不服を有する者との関係に照らし、法律上・事実上の不利益を及ぼす性質であるか否かを検討することが必要である。そして、不利益処分については、その権限行使の根拠事実の立証責任を行政庁に負わせるのが適当であると考えられる。実際の取消訴訟では、大部分、被告である行政庁が立証責任を負っている。

 (7)文書提出義務

 民事訴訟法第220条に規定される。

 (8)行政事件訴訟法第10条第1項

 これは、原告が自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として「処分」の取消しを請求できないという趣旨の規定である(原告適格に関する規定ではない)。

 (9)理由の差し替え

 第12回において扱った違法行為の転換と関係するが、ここで扱う。

 被告(行政庁)は、訴訟において当初の「処分」理由を別の理由に差し替え、または別の理由によって追完することが可能か?

 これは、租税法の領域における「争点主義」と「総額主義」との争いに関わるものである。というより、この争いが行政法の領域全体の問題として捉えられるようになった、と記すほうが正しいであろう。

 一般論としては、理由の差し替えまたは追完が全面的に禁止されていない。しかし、当初の「処分」理由の付記について、理由の差し替えを認めるか否かについて議論がある。また、「処分」理由が争点を決める場合については、当初の「処分」理由と同一性を有する範囲において、追完を認める。例えば、或る公務員について、争議行為に参加したという理由で懲戒処分を行ったが、実はこの公務員が別の政治集会に参加していたという場合である。。さらに、「処分」理由が個別行為ではなく全体的な事情の評価による場合には、被告行政庁は、「処分」を維持するためにあらゆる理由を主張しうるとする判決が存在する(例、租税の更正処分など)。

 ●最三小判昭和56年7月14日民集35巻5号901頁(U―196)

 事案:X社は、青色申告の際に本件物件の譲渡価額を7000万円、取得価額を7600万9600円、譲渡損を600万円弱とした。これに対し、Y(所轄税務署長)は、取得価額を6000万円であるとして1000万円の譲渡益を認定する旨の増額更正処分を行った。X社は異議申立ておよび審査請求を経て出訴したが、一審の段階でYは、仮に本件物件の取得価額がX社の主張通りに7600万9600円であるとしても、譲渡価額は9450万円であり、X社の申告遺脱分である2450万円は所得に計上されるべきであり、結果として増額更正処分には何らの違法も存在しないと主張した。京都地判昭和49年3月15日行集25巻3号142頁はX社の請求を一部認容したが、大阪高判昭和52年1月27日行集28巻1・2号22頁はYの控訴を認容してX社の請求を全て棄却した。最高裁判所第三小法廷は、次のように述べてX社の上告を棄却した。

 判旨:本件において「Yに本件追加主張の提出を許しても、右更正処分を争うにつき被処分者たるXに格別の不利益を与えるものではないから、一般的に青色申告書による申告についてした更正処分の取消訴訟において更正の理由とは異なるいかなる事実をも主張することができると解すべきかどうかはともかく、Yが本件追加主張を提出することは妨げないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる」。

 ●最二小判平成11年11月19日民集53巻8号1852頁(U−197)

 事案:逗子市民のXは、Y(同市監査委員)に対し、同市情報公開条例に基づいて住民監査請求に係る文書の公開を請求した。Yは公開拒否処分を行ったが、その理由は、本件文書が「市又は国の機関が行う争訟に関する情報であり、公開することにより、当該事務事業及び将来の同種の事務事業の目的を喪失し、また円滑な執行を著しく妨げるもの」であり、同条例第5条(2)ウの定められる非公開事由があるというものであった。Xは公開拒否処分の取消を求めて出訴した。Yは、一審の段階で請求の対象となった文書が同条例第5条(2)アの非公開事由に該当するという主張を追加した。横浜地判平成6年8月8日判例地方自治138号23頁はXの請求を認容した。Yは控訴したが、東京高判平成8年7月17日民集53巻8号1894頁は控訴を棄却した。最高裁判所第二小法廷は、Yの上告を認容し、原判決を破棄して事件を東京高等裁判所に差し戻した。

 判旨:「本件条例9条4項前段が、前記のように非公開決定の通知に併せてその理由を通知すべきものとしているのは、本件条例2条が、逗子市の保有する情報は公開することを原則とし、非公開とすることができる情報は必要最小限にとどめられること、市民にとって分かりやすく利用しやすい情報公開制度となるよう努めること、情報の公開が拒否されたときは公正かつ迅速な救済が保障されることなどを解釈、運用の基本原則とする旨規定していること等にかんがみ、非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してそのし意を抑制するとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることを目的としていると解すべきである。そして、そのような目的は非公開の理由を具体的に記載して通知させること(実際には、非公開決定の通知書にその理由を付記する形で行われる。)自体をもってひとまず実現されるところ、本件条例の規定をみても、右の理由通知の定めが、右の趣旨を超えて、一たび通知書に理由を付記した以上、実施機関が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨をも含むと解すべき根拠はないとみるのが相当である。したがって、Yが本件処分の通知書に付記しなかった非公開事由を本件訴訟において主張することは許されず、本件各文書が本件条例5条(2)アに該当するとのYの主張はそれ自体失当であるとした原審の判断は、本件条例の解釈適用を誤るものであるといわざるを得ない」。

 

 2.執行停止制度

 (1)行政事件訴訟制度における仮の権利救済制度としての執行停止制度

 行政事件訴訟法第44条は、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為に仮処分の制度が適用されないことを定める。また、同第25条第1項は、原告が取消訴訟を提起しても、行政行為(など)の効果が停止されない旨を定める。これが執行不停止の原則である。

 しかし、これでは行政行為の公定力との関係で、現状が固定化され、原告の側に不利な状況が進み、結局、原告の救済の機会は失われてしまう。執行不停止の原則があるために、狭義の訴えの利益が問題とされやすいのである。

 もう少し丁寧に記すならば、原告が取消訴訟を提起したからといって、問題とされる処分の効力は停止しないため、期間が経過するうちに原状回復が困難になる。そうなると、判決の時点より前に、処分の効力が消滅したり、処分の効力を争う意味が消滅することもありうる。

 そこで、原告側からの申立てが一定の要件を充足する場合には、裁判所が処分の効果を一時的に停止させる、すなわち、処分の執行を停止させる決定を出せるようにした。これが執行停止である。行政事件訴訟法第25条第2項によって、処分、処分の執行・手続の続行による回復困難な損害を避けるために、緊急を要し、かつ、「本案」について理由があり、しかも「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」(同第3項)がないときに限り、裁判所は執行停止ができるのである。

 (2)執行停止の要件

 行政事件訴訟法第25条第2項・第3項・第4項は、次に示す要件が充足される場合に限り、裁判所が執行停止を行いうる旨を定める。

 @本案訴訟が適法に係属していること。

 A「処分、処分の執行又は手続の執行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がある」こと(同第2項)。

 原状回復が困難である場合、金銭賠償が不可能な場合は勿論、これらが可能であってもそれらだけでは損害の填補がなされないと認められるような場合も含む(東京高決昭和41年5月6日行裁例集17巻5号463頁を参照)。裁判所が「重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする」(同第3項)。実際に認められたものとして、集団示威行進申請拒否処分がある。これに対し、可否の評価が分かれたものとして、出入国管理及び難民認定法に基づく退去強制令書による強制送還がある。

 B「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれが」ないこと(第4項)

 この要件に該当するものとして、集団示威行進や集会、土地収用関係の事案がある。

 C「本案について理由がないとみえ」ないこと(第4項)

 上記Aの要件に関連する判例として、次のものがある。

 ●最三小決昭和53年3月10日判時853号53頁

 事案:外国籍のXが訴訟の遂行を目的として日本への上陸許可を得た。Xは3回の在留期間更新許可を得たが、4回目の許可は受けられず、神戸入国管理事務所から退去強制令書を発付された。Xはこの令書発布の取消しを求めて神戸地方裁判所に訴えを提起し、執行停止の申立ても行った。神戸地方裁判所は送還部分のみ本案判決言渡時まで停止するという決定をなし、大阪高等裁判所もこの決定を相当と判断した。Xは、送還部分のみの停止では、X敗訴という本案判決が出された場合に直ちに令書が執行されることになるとして、最高裁判所に特別抗告を申し立てた。

 決定要旨:たしかに、Xが本国に強制送還されれば、Xが自ら訴訟を追行することは困難になるが、訴訟代理人による訴訟の追行は可能であり、Xが法廷に直接出頭しなければならない場合に、改めて日本に上陸することが認められないという訳ではない。従って、令書が執行されてXが強制送還されたとしても、Xの「裁判を受ける権利が否定されることにはならない」。

 (3)執行停止の内容

 「処分」自体の効力の停止、執行の停止、および手続の続行の停止がある。

 (4)執行停止の効果

 執行停止の効果としては、次のものがあげられる。

 @明文の規定はないが、効果は将来に向かってのみ発生する〔農地買収計画について、最三小判昭和29年6月22日民集8巻6号1162頁(U―207)〕。

 A執行停止には第三者効がある。これは、行政事件訴訟法第33条第4項により、同第1項を準用するためである。

 B執行停止には拘束力もある。これは、同第33条第4項により、同第1項を準用するためである。

 (5)執行停止制度の限界

 そもそも執行不停止の原則を維持すべきかという問題があるが、これについては検討を控えることとする。また、執行停止に遡及効を認める必要はないのか、という問題があることも指摘しておこう。

 執行停止の効果をみれば明らかであるように、裁判所による執行停止の決定は原状回復の機能を有するが、回復すべき原状がない場合に執行停止の利益は存在しない。同第33条第4項の規定に注意していただきたい。例えば、免許取消処分の場合には、執行停止決定により、免許が取り消されない状態が(一時的であるとしても)回復することになるから執行停止決定の利益がある。これに対し、免許申請拒否処分の場合、仮に執行停止決定をしても、行政庁には申請に関する審査義務が発生する訳ではないので、執行停止決定の利益はないものとされる。

 (6)執行停止の決定に対する即時抗告

 同第25条第7項により認められる。但し、即時抗告は、執行停止の決定の執行を停止する効力をもたない(同第8項)。

 (7)内閣総理大臣の異議

 行政事件訴訟法第27条により、内閣総理大臣は、執行停止の申立てがあった場合、または執行停止の決定がなされた場合に、異議を申し立てることができる(異議には理由を付さなければならない)。この異議がなされたときには、裁判所は、執行停止をすることができない。また、執行停止の決定がなされたときには、裁判所はこの決定を取り消さなければならない。

 内閣総理大臣の異議は、行政事件訴訟特例法制定の過程において平野事件(第22回を参照)が生じたことにより、同法に置かれた制度である。行政事件訴訟法においても存続するが、現在に至るまで合憲説と違憲説とに分かれている。

 合憲説によると、裁判所の執行停止権限は、本来の司法権の作用ではない。行政権の作用であるはずのものが、国民の権利保護の見地により、司法権の作用とされるにすぎない。同第25条第4項の公共性の判断も、本来は行政権のものであるところを裁判官に委ねているにすぎない。

 他方、違憲説によると、執行停止制度は原告(停止の申立人)の権利利益を保護するためのものであり、裁判所にとり不可欠な制度である。そのため、執行停止権限は本来的に司法権の作用であって、内閣総理大臣の異議は、訴訟制度の基本構造に矛盾し、裁判官の職権行使の独立性を侵害し、司法権に対する侵犯である。また、執行停止制度には即時抗告制度が用意されているのであって、それで十分である。

 

 3.取消訴訟の判決

 (1)訴訟の終了方法

 民事訴訟と同様に、行政事件訴訟の終了方法は判決に限定されない。但し、方法によっては否定的に考えられている。

 まず、訴えの取り下げは、取消訴訟についても認められる。

 次に、和解については、肯定説も存在するが、通説(?)は否定説を採る。訴訟上の和解は確定判決と同じ効力を有するために、行政庁に「実体法上の処分権」がない以上は和解が許されないとするのである。ややわかりにくい説明であるが、「処分」は行政庁が法律に従って一方的に行うものであって、当事者間の話し合いで解決しうるようなものではない、ということである

 ※この問題については、さしあたり、交告尚史「行政訴訟における和解」木光・宇賀克也編『行政法の争点(ジュリスト増刊新法律学の争点シリーズ8)』(2014年、有斐閣)132頁を参照。

 請求の認諾については、和解についてと同様の理由により、これについても否定説が存在する。

 そして、(終局)判決である。取消訴訟の判決も、原則的には「民事訴訟の例による」(行政事件訴訟法第7条)のであるが、特例がある。

 (2)判決の種類

 取消訴訟の判決の種類も、基本的には民事訴訟と同様である。しかし、民事訴訟にはない種類もある。

 却下判決は、訴訟要件が揃っていない場合の判決である。民事訴訟にいう訴訟判決と同じと考えてよい。俗に門前払い判決とも言われる。訴訟要件が揃っていないため、請求の中身の審査に入らない、という訳である。

 棄却判決は、訴訟要件が揃った上で、原告の請求に従って「処分」を取り消すだけの違法事由がない場合の判決である。こちらは民事訴訟にいう本案判決の一種であると考えてよい。

 認容判決は、原告の請求に従って「処分」を取り消すだけの違法事由がある、すなわち、取り消すべき瑕疵があると認める判決のことであり、やはり民事訴訟にいう本案判決の一種である。認容判決により、裁判所は処分を取り消すことになる。なお、行政庁の裁量処分が取消訴訟の対象となっている場合、裁量権の範囲を逸脱したり裁量権の濫用があった場合にのみ、その処分を取り消す判決を下しうる(同第30条)。

 以上は民事訴訟と同様であるが、民事訴訟では存在せず、行政事件訴訟法第31条により認められる判決として、事情判決がある。本来であれば原告の請求に従って「処分」を取り消すべきであるが、原告の請求を棄却しつつ、「処分」の違法を宣言する判決をいう。これは、行政行為(など)を基礎として現状が変更された上で新たな秩序が形成されて既成事実化した場合、その既成事実を消滅させることが公共の福祉に反するような事態が生じうるために、認められている。

 事情判決の適用例としては、次のようなものがある。

 土地区画整理法や土地改良法による換地処分に関する判決:行政事件訴訟特例法第11条によったものであるが、最二小判昭和33年7月25日民集12巻12号1847頁は、土地改良区(土地改良法)の設立認可処分に対する無効確認請求がなされた事案について、事情判決を行っている。しかし、例は多くない

 ※塩野宏『行政法U』〔第五版補訂版〕(2013年、有斐閣)198頁は、本来であれば事情判決が利用されるべき事案について却下判決がなされた例などをあげている。

 議員定数配分不均衡に関する判決:最大判昭和51年4月14日民集30巻3号223頁などが事情判決を用いるが、多くの批判がなされている。本文に示した判決は、事情判決を一般的な法の基本原則として扱っているようであるが、公職選挙法第219条第1項は、行政事件訴訟法第31条の準用を明文で排除しているからである。

 なお、第31条第2項により、中間違法宣言判決も認められる。これは、終局判決の前に、判決として「処分」の違法を宣言するものである。

 (3)認容判決=取消判決の効力

 民事訴訟の判決の効力として、執行力、形成力および既判力があげられるが、取消訴訟の判決では、執行力が問題とならない。以下、認容判決の効力を概観する。

 @形成力

 取消訴訟について形成訴訟説(通説)を採る場合、取消判決により、「処分」の効力は、それがなされた時点に遡って消滅する。すなわち、取消判決によってこの「処分」が最初から存在しなかったのと同じことになる。このような取消判決の力を形成力と表現する。形成力は、取消訴訟の原状回復機能を担うこととなる。

 これに対し、確認訴訟説によれば、行政庁に「処分」権限がないことが確認されるということを意味する。

 A第三者効

 行政事件訴訟法第32条は、取消判決の効力がが第三者に及ぶ旨を規定する。これが取消判決の第三者効である。しかし、同条にはこの第三者の範囲が規定されておらず、問題となる。

 まず、原告と対立関係にある第三者については、第三者効が問題なく及ぶ。例として、土地の収用裁決を取り消す判決の場合には起業者に、農地買収処分を取り消す判決の場合には農地売渡処分の相手方に、建築確認処分を取り消す判決の場合には建築主に、判決の効力が及ぶ。

 これに対し、原告と利益を共通にするが訴訟には参加していない第三者については、議論がある。

 相対的効力説は、このような第三者には判決の効力が及ばないとする。その理由として、次の二点があげられる。第一に、仮にこのような第三者に判決の効力が及ぶとすれば、権利保護などについて何らかの手当をする必要があるが、法はそうした手当や手続を整備していない。第二に、取消訴訟の目的は何よりもまず原告の個人的な権利利益の保護の回復にある。

 絶対的効力説は、このような第三者にも判決の効力が及ぶとする。その理由として、次の二点があげられる。第一に、取消訴訟によって法律関係は画一的に処理されるべきである。第二に、一般処分の取消訴訟は必然的に代表訴訟的な性格を有する。

 B既判力

 終局判決が確定すると、当該事案について、再び裁判所で判断しないことになる。こうして、判決が裁判所を拘束することになる。これを判決の既判力という。行政事件訴訟法には規定が存在せず、民事訴訟法第114条に規定されている。

 主観的な範囲は、訴訟当事者(およびその承継人)である。また、客観的な範囲は、訴訟物である。こうして、取消判決によって「処分」の違法性が確定する

 ※取消訴訟の訴訟物については議論があり、通説は「処分」の違法性一般であると解する。

 C拘束力

 原則として、行政事件訴訟法第33条第1項により、「処分」を取り消す判決が出されるならば、行政庁は、判決の趣旨に従って行動するという実体法上の義務を負うことになる。すなわち、拘束力は、行政庁に対する効力であり、また、その他の関係行政庁に対する効力でもある。

 同第2項は、具体的な適用場面を規定する。これは実体上の問題に関する規定となっているが、手続上の問題についても同様に妥当する。そして、同第3項は、申請に基づいてした処分、または審査請求を認容した裁決が、手続の違法により取り消された場合について規定する(同第2項の準用)。

 ▲違法性の承継が認められるような場合には、先行「処分」Aが違法の故に取り消されると、行政庁には、Aの有効性を要件とする後行「処分」Bを取り消す義務が生ずる、と説明されることがある。但し、先行「処分」Aが取り消されるのであれば、後行「処分」Bの要件が欠けることになるからBは無効となり、あえて拘束力を持ち出す必要がないとする説もある

 ※塩野・前掲書188頁など。

 なお、最小三判昭和50年11月28日民集29巻10号1797頁(U―192)は「農地買収計画についての訴願を棄却した裁決が行政事件訴訟特例法に基づく裁決取消の訴訟において買収計画の違法を理由として取り消されたときは、右買収計画は効力を失うと解すべきである」とし、その理由として「原処分の違法を理由とする裁決処分の訴は実質的には原処分の違法を確定してその効力の排除を求める申立にほかならないのであり、右訴を認容する判決も裁決取消の形によって原処分の違法であることを確定して原処分を取り消し原処分による違法状態を排除し、右処分により権利を侵害されている者を救済することをその趣旨としていると解することができる」とする。

 D反復禁止効

 取消判決が出されると、行政庁は、同一事情の下において、同一理由による同一処分をなすことできない、ということである。

 (4)棄却判決の効力

 棄却判決の場合は、既判力のみが問題となる。判決が確定すれば、当該「処分」について原告が取消しを求める訴訟を再度提起することはできない

 (5)違法判断の基準時

 取消訴訟の訴訟物たる「処分」の違法性をどの時点で判断すべきなのか、という問題がある。このような問題が生ずるのは、処分時と判決時との間に事実関係の変更や法律の改正・廃止がありうるからである。

 通説および判例〔最二小判昭和27年1月25日民集6巻1号22頁(U―204)〕は処分時説をとるが、判決時説も有力である。なお、いずれの説に立つとしても例外を認めざるをえないことには注意が必要である。

 

(2017年11月1日掲載)

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