第27回    行政事件訴訟法における、その他の問題点

 

 

 1.取消訴訟の本案審理

 基本的には民事訴訟と同じように進められる。行政事件訴訟法には、本案審理に関する規定が多くないためである。第7条も参照のこと。

 (1)処分権主義と弁論主義

 処分権主義とは、民事訴訟において、訴訟の開始、審理の対象、および訴訟の終了について、当事者に自由な処分権限を認める原則のことである。基本的には取消訴訟についても妥当するが、訴訟の終了に関しては(和解や請求の認諾について)議論がある。

 また、弁論主義とは、訴訟資料に対する当事者の処分権限に関するものであって、事件の事実と証拠の収集を当事者の権限とすることである。裁判所には次の3点が求められることとなる。

 @当事者が主張していない事実を判決の資料として採用してはならない。

 A当事者間に争いのない事実をそのまま判決の資料として採用しなければならない。

 B当事者間に争いのある事実を証拠により認定する際には、必ず当事者の申し出た証拠によらなければならない(自らが証拠を収集することもできない)。但し、取消訴訟についてどこまで妥当するかは問題である。

 弁論主義に対するものとして、職権探知主義がある。これは、事件の事実と証拠の収集を当事者の権限とせず、裁判所の権限とすることであり、特徴は次の3点にまとめられる。

 @当事者が主張していない事実でも判決の資料として採用できる。

 A当事者に争いのない事実でも判決の資料として採用しないことができる。

 B当事者間に争いのある事実を証拠により認定する際には、当事者の申し出た証拠以外に、職権で他の証拠を取り調べることができる。

 (2)職権証拠調べ(行政事件訴訟法第24条)

 職権探知主義のBに該当するもので、当事者が適切な立証活動をしない場合に裁判所の職権による証拠調べが可能である。規定にあるように、裁判所の権限であり、義務ではない。行政事件訴訟特例法時代の判決である最一小判昭和281224日民集7巻131604頁(U―201)は、裁判所が当事者の提出した証拠によって十分な心証を得られるのであれば、職権による証拠調べは必要ない、という趣旨を述べている。

 他方、裁判所が必要と認めたとき、職権で証拠調をすることができるが、その結果について当事者の意見を聴くことを要する。当事者の提出した証拠だけで心証を得られない場合に証拠調べをすることが認められるのであるが、実務では、当事者に対して、証拠の提出を促す訴訟指揮権ないし釈明権を行使する程度で終わるのがほとんどである。

 なお、職権探知主義の@については、明文の法律の根拠が必要であるというのが通説である。

 (3)職権進行主義(民事訴訟法第93条・第98条など)

 日本の民事訴訟法は、訴訟の手続面について当事者主義ではなく、職権進行主義を採る。取消訴訟についても妥当する。このことは、訴訟の内容について当事者主義(弁論主義)を採るのと対照的である。

 (4)訴えの併合や変更―関連請求など

 行政事件訴訟法第13条は、関連請求について訴えの併合を認める。また、第18条は「第三者による請求の追加的併合」に関する規定であり、第19条は「原告による請求の追加的併合」に関する規定である(第20条も参照)。

 また、行政事件訴訟法第21条は、取消訴訟の目的となっている請求を、当該処分に係る事務の帰属する国または公共団体に対する損害賠償などの請求に変更すること (訴えの変更)を認める。認められるための要件は、次の通りである。

 @請求の基礎に変更のないこと。

 A口頭弁論の終結に至るまで、原告が申し立てること。

 B裁判所は、訴えの変更を許す決定を下す前に、当事者および損害賠償その他の請求に係る訴訟の被告の意見を聴かなければならないことがある。

 (5)訴訟参加

 これには、第三者の訴訟参加(行政事件訴訟法第22条)と行政庁の訴訟参加(同第23条)とがある。

 第三者の訴訟参加は、訴訟の結果によっては権利を害されうる第三者が、その申立てまたは裁判所の職権で訴訟に参加しうるというものである。予め当事者および第三者の意見を聴いた上で、そして当事者もしくは第三者の申し立て、または職権によって、裁判所は第三者の訴訟参加を決定できる。この場合の第三者について民事訴訟法第68条が準用される(行政事件訴訟法第22条第5項)。

 これに対し、行政庁の訴訟参加は、「処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁」(監督権を有する上級行政庁など)の参加のことであり、裁判所が他の行政庁の参加を必要としていることもありうるので認められている。基本的には第三者の訴訟参加と同様であるが、民事訴訟法第69条が準用される(行政事件訴訟法第23条第5項)。

 また、裁判所は、行政事件訴訟法23条の2に規定される場合に、釈明処分などをなすことができる(釈明処分の特則)。

 (6)審理の方法

 基本的には民事訴訟と同様であるが、行政庁の裁量行為に対する審査については特殊な問題がある他、行政事件訴訟法に特有の問題がある。

 職権証拠調べ(行政事件訴訟法第24条)については、既に述べた。

 立証責任については、法律要件分類説、事実考慮説、基本権分類説の対立がある。

 法律要件分類説は、民事訴訟の通説に従う考え方である。法律要件を、権利発生事実と権利障害・消滅事実とに分けた上で、行政庁の権限行使の根拠を権利発生事実とみて行政庁に立証責任を負わせるとする。

 事実考慮説は、正義公平・事案の性質・立証の難易などによる分配を説く。

 基本権分類説は、自由権的基本権の制限を旨とする処分については行政庁が立証責任を負うとする。

 行政事件訴訟は、通常の民事訴訟と異なる性質を有すること、行政庁の処分はその性質が必ずしも一義的であるとは限らないこと(二重効果処分など)、行政処分は公益上の処分であることから、行政救済法においては、行政処分が、それに不服を有する者との関係に照らし、法律上・事実上の不利益を及ぼす性質であるか否かを検討することが必要である。そして、不利益処分については、その権限行使の根拠事実の立証責任を行政庁に負わせるのが適当であると考えられる。実際の取消訴訟では、大部分、被告である行政庁が立証責任を負っている。

 (7)文書提出義務(民事訴訟法第220条)

 (8)行政事件訴訟法第10条第1項

 これは、原告が自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として「処分」の取消しを請求できないというものである(原告適格に関する規定ではない)。

 (9)理由の差し替え

 被告(行政庁)は、訴訟において当初の「処分」理由を別の理由に差し替え、または別の理由によって追完することが可能か?

 一般論としては、理由の差し替えまたは 追完が全面的に禁止されていない。しかし、当初の「処分」理由の付記について、理由の差し替えを認めるか否かについて議論がある。また、「処分」理由が争点を決める場合については、当初の「処分」理由と同一性を有する範囲において、追完を認める(例、或る公務員について、争議行為に参加したという理由で懲戒処分を行ったが、実はこの公務員が別の政治集会に参加していたという場合)。さらに、「処分」理由が個別行為ではなく全体的な事情の評価による場合には、被告行政庁は、「処分」を維持するためにあらゆる理由を主張しうるとする判決が存在する(例、租税の更正処分など)。

 

 2.執行停止制度

  行政事件訴訟法第44条は、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為に仮処分の制度が適用されないことを定める。また、同第25条第1項は、執行不停止の原則を定める。第2項によって、処分、処分の執行・手続の続行による回復困難な損害を避けるために、緊急を要し、かつ、「本案」について理由があり、しかも「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」(第3項)がないときに限り、裁判所は執行停止ができる。

 (1)行政事件訴訟制度における仮の権利救済制度としての執行停止制度

 執行不停止の原則(第25条第1項):原告が訴えを提起しても、行政行為の効果が停止される訳ではない。しかし、これでは、公定力との関係で、現状が固定化され、原告の側に不利な状況が進み、結局、原告の救済の機会は失われてしまう。

 執行不停止の原則があるために、狭義の訴えの利益が問題とされやすいのである。すなわち、取消訴訟が提起されたからといって、問題とされる処分の効力は停止しないため、期間が経過するうちに原状回復が困難になる。そうなると、判決の時点より前に、処分の効力が消滅したり、処分の効力を争う意味が消滅することもありうる。

 そこで、一定の要件を充足した原告側からの申立てにより、裁判所が行政行為の効果を一時的に停止させる(∴執行を停止させる)決定を出せるようにした(第44条により、仮処分は排除される)。

 (2)執行停止の要件(第25条第2項・第3項・第4項)

 @本案訴訟が適法に係属していること。

 A「処分、処分の執行又は手続の執行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がある」こと(第2項):原状回復が困難である場合、金銭賠償が不可能な場合は勿論、これらが可能であってもそれらだけでは損害の填補がなされないと認められるような場合も含む(東京高決昭和41年5月6日行裁例集17巻5号463頁を参照)。

 平成16年改正法による新第3項により、裁判所は「損害の回復の困難の程度を考慮」し、「損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質を勘案」しなければならない。

 実際に認められたものとして、集団示威行進申請拒否処分がある。これに対し、可否の評価が分かれたものとして、出入国管理及び難民認定法に基づく退去強制令書による強制送還がある。

 ●最三小決昭和53年3月10日判時85353

 事案外国籍のXが訴訟の遂行を目的として日本への上陸許可を得た。Xは3回の在留期間更新許可を得たが、4回目の許可は受けられず、神戸入国管理事務所から退去強制令書を発付された。Xはこの令書発布の取消しを求めて神戸地方裁判所に訴えを提起し、執行停止の申立ても行った。神戸地方裁判所は送還部分のみ本案判決言渡時まで停止するという決定をなし、大阪高等裁判所もこの決定を相当と判断した。Xは、送還部分のみの停止では、X敗訴という本案判決が出された場合に直ちに令書が執行されることになるとして、最高裁判所に特別抗告を申し立てた。

  決定要旨:たしかに、Xが本国に強制送還されれば、Xが自ら訴訟を追行することは困難になるが、訴訟代理人による訴訟の追行は可能であり、Xが法廷に直接出頭しなければならない場合に、改めて日本に上陸することが認められないという訳ではない。従って、令書が執行されてXが強制送還されたとしても、Xの「裁判を受ける権利が否定されることにはならない」。

 B「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれが」ないこと(第4項)

 この要件に該当するものとして、集団示威行進や集会、土地収用関係の事案がある。

 C「本案について理由がないとみえ」ないこと(第4項)

 (3)執行停止の内容

 「処分」自体の効力の停止、執行の停止、および手続の続行の停止がある。

 (4)執行停止の効果

 @明文の規定はないが、効果は将来に向かってのみ発生する〔農地買収計画について、最三小判昭和29年6月22日民集8巻6号1162頁(U―207)〕。

 A第三者効(第32条第2項←同第1項の準用)

 B拘束力(第33条第4項←同第1項の準用)

 (5)執行停止制度の限界

 @そもそも執行不停止原則を維持すべきなのか?

 A遡及効を認める必要はないのか?

 B執行停止の決定は原状回復の機能を有するが、回復すべき原状がない場合に執行停止の利益は存在しない(第33条第4項の規定に注意!)。

 例えば、免許申請拒否処分の場合、仮に執行停止決定をしても、行政庁には申請に関する審査義務が発生する訳ではないので、執行停止決定の利益はない(免許取消処分と異なる)、とされる。

 (6)内閣総理大臣の異議(第27条)

 行政事件訴訟特例法制定の過程において平野事件(第24回を参照)が生じたことにより、行政事件訴訟特例法に置かれた制度である。行政事件訴訟法においても存続するが、現在に至るまで合憲説と違憲説とに分かれている。

 合憲説によると、裁判所の執行停止権限は、本来の司法権の作用ではない。行政権の作用であるはずのものが、国民の権利保護の見地により、司法権の作用とされるにすぎない。第25条第4項(旧第3項)の公共性の判断も、本来は行政権のものであるところを裁判官に委ねているにすぎない。

 他方、違憲説によると、執行停止制度は原告(停止の申立人)の権利利益を保護するためのものであり、裁判所にとり不可欠な制度である。そのため、執行停止権限は本来的に司法権の作用であって、内閣総理大臣の異議は、訴訟制度の基本構造に矛盾し、裁判官の職権行使の独立性を侵害し、司法権に対する侵犯である。また、執行停止制度には即時抗告制度が用意されているのであって、それで十分である。

 執行停止の申立てがなされたときに、内閣総理大臣が異議を述べると、裁判所は執行停止をすることができない。また、執行停止の決定がなされたときに、内閣総理大臣が異議を述べると、裁判所はその決定を取り消さなければならない(但し、異議に理由が付されなければならない)。

 

 .取消訴訟の判決

 (1)訴訟の終了方法

 民事訴訟と同様に、行政事件訴訟の終了方法は判決に限定されない。但し、方法によっては否定的に考えられている。

 まず、訴えの取り下げは、取消訴訟についても認められる。

 次に、和解については、肯定説も存在するが、通説(?)は否定説を採る。訴訟上の和解は確定判決と同じ効力を有するために、行政庁に「実体法上の処分権」がない以上は和解が許されないとするのである。ややわかりにくい説明であるが、「処分」は行政庁が法律に従って一方的に行うものであって、当事者間の話し合いで解決しうるようなものではない、ということである

 ※この問題については、さしあたり、交告尚史「行政訴訟における和解」芝池義一・小早川光郎・宇賀克也編『行政法の争点(ジュリスト増刊法律学の争点シリーズ9)』〔第3版〕(2004年、有斐閣)126頁を参照。

 請求の認諾については、和解についてと同様の理由により、これについても否定説が存在する。

 そして、(終局)判決である。取消訴訟の判決も、原則的には「民事訴訟の例による」(第7条)のであるが、特例がある。

 (2)判決の種類

 取消訴訟の判決の種類も、基本的には民事訴訟と同様である。しかし、民事訴訟にはない種類もある。

 却下判決は、訴訟要件が揃っていない場合の判決である。民事訴訟にいう訴訟判決と同じと考えてよい。俗に門前払い判決とも言われる。訴訟要件が揃っていないため、請求の中身の審査に入らない、という訳である。

 棄却判決は、訴訟要件が揃った上で、原告の請求に従って「処分」を取り消すだけの違法事由がない場合の判決である。こちらは民事訴訟にいう本案判決の一種であると考えてよい。

 認容判決は、原告の請求に従って「処分」を取り消すだけの違法事由がある、すなわち、取り消すべき瑕疵があると認める判決のことであり、やはり民事訴訟にいう本案判決の一種である。処分を取り消すことになる。なお、行政庁の裁量処分が取消訴訟の対象となっている場合、裁量権の範囲を逸脱したり裁量権の濫用があった場合にのみ、その処分を取り消す判決を下しうる(同第30条)。

 以上は民事訴訟と同様であるが、民事訴訟では存在せず、行政事件訴訟法第31条により認められる判決として、事情判決がある。本来であれば原告の請求に従って「処分」を取り消すべきであるが、原告の請求を棄却しつつ、「処分」の違法を宣言する判決をいう。これは、行政行為(など)を基礎として現状が変更された上で新たな秩序が形成されて既成事実化した場合、その既成事実を消滅させることが公共の福祉に反するような事態が生じうるために、認められている。

 事情判決の適用例としては、次のようなものがある。

 土地区画整理法や土地改良法による換地処分に関する判決:行政事件訴訟特例法第11条によったものであるが、最二小判昭和33年7月25日民集12121847頁は、土地改良区(土地改良法)の設立認可処分に対する無効確認請求がなされた事案について、事情判決を行っている。しかし、例は多くない

 ※塩野宏『行政法U』〔第五版補訂版〕(2013年、有斐閣)198頁は、本来であれば事情判決が利用されるべき事案について却下判決がなされた例などをあげている。

 議員定数配分不均衡に関する判決:最大判昭和51年4月14日民集30巻3号223頁などが事情判決を用いるが、多くの批判がなされている。本文に示した判決は、事情判決を一般的な法の基本原則として扱っているようであるが、公職選挙法第219条第1項は、行政事件訴訟法第31条の準用を明文で排除しているからである。

 なお、第31条第2項により、中間違法宣言判決も認められる。これは、終局判決の前に、判決として「処分」の違法を宣言するものである。

 (3)認容判決=取消判決の効力

 民事訴訟の判決の効力として、執行力、形成力および既判力があげられるが、取消訴訟の判決では、執行力が問題とならない。以下、認容判決の効力を概観する。

 @形成力

 取消訴訟について形成訴訟説(通説)を採る場合、取消判決により、「処分」の効力は、それがなされた時点に遡って消滅する。すなわち、取消判決によってこの「処分」が最初から存在しなかったのと同じことになる。このような取消判決の力を形成力と表現する。形成力は、取消訴訟の原状回復機能を担うこととなる。

 これに対し、確認訴訟説によれば、行政庁に「処分」権限がないことが確認されるということを意味する。

 A第三者効(第32条)

 取消判決は第三者に及ぶが、この第三者の範囲が規定されておらず、問題となる。

 まず、原告と対立関係にある第三者については、第三者効が問題なく及ぶ。例として、土地の収用裁決を取り消す判決の場合には起業者に、農地買収処分を取り消す判決の場合には農地売渡処分の相手方に、建築確認処分を取り消す判決の場合には建築主に、判決の効力が及ぶ。

 これに対し、原告と利益を共通にするが訴訟には参加していない第三者については、議論がある。

 相対的効力説は、このような第三者には判決の効力が及ばないとする。その理由として、次の二点があげられる。第一に、仮にこのような第三者に判決の効力が及ぶとすれば、権利保護などについて何らかの手当をする必要があるが、法はそうした手当や手続を整備していない。第二に、取消訴訟の目的は何よりもまず原告の個人的な権利利益の保護の回復にある。

 絶対的効力説は、このような第三者にも判決の効力が及ぶとする。その理由として、次の二点があげられる。第一に、取消訴訟によって法律関係は画一的に処理されるべきである。第二に、一般処分の取消訴訟は必然的に代表訴訟的な性格を有する。

 B既判力(民事訴訟法第114条)

 終局判決が確定すると、当該事案について、再び裁判所で判断しないことになる。こうして、判決が裁判所を拘束することになる。これを判決の既判力という。

 主観的な範囲は、訴訟当事者(およびその承継人)である。また、客観的な範囲は、訴訟物である。こうして、取消判決によって「処分」の違法性が確定する

 ※取消訴訟の訴訟物については議論があり、通説は「処分」の違法性一般であると解する。

 C拘束力(行政事件訴訟法第33条)

 原則として、第1項により、「処分」を取り消す判決が出されるならば、行政庁は、判決の趣旨に従って行動するという実体法上の義務を負うことになる。すなわち、拘束力は、行政庁に対する効力であり、また、その他の関係行政庁に対する効力でもある。

 第2項は、具体的な適用場面を規定する。これは実体上の問題に関する規定となっているが、手続上の問題についても同様に妥当する。そして、第3項は、申請に基づいてした処分、または審査請求を認容した裁決が、手続の違法により取り消された場合について規定する(第2項の準用)。

 違法性の承継が認められるような場合には、先行「処分」Aが違法の故に取り消されると、行政庁には、Aの有効性を要件とする後行「処分」Bを取り消す義務が生ずる、と説明されることがある。但し、先行「処分」Aが取り消されるのであれば、後行「処分」Bの要件が欠けることになるからBは無効となり、あえて拘束力を持ち出す必要がないとする説もある

 ※塩野・前掲書188頁など。

 なお、最小三判昭和501128日民集29101797頁(U―192)は「農地買収計画についての訴願を棄却した裁決が行政事件訴訟特例法に基づく裁決取消の訴訟において買収計画の違法を理由として取り消されたときは、右買収計画は効力を失うと解すべきである」とし、その理由として「原処分の違法を理由とする裁決処分の訴は実質的には原処分の違法を確定してその効力の排除を求める申立にほかならないのであり、右訴を認容する判決も裁決取消の形によって原処分の違法であることを確定して原処分を取り消し原処分による違法状態を排除し、右処分により権利を侵害されている者を救済することをその趣旨としていると解することができる」とする。

 ●反復禁止効:取消判決が出されると、行政庁は、同一事情の下において、同一理由による同一処分をなすことできない、ということである。

 (4)棄却判決の効力

 棄却判決の場合は、既判力のみが問題となる。判決が確定すれば、当該「処分」について原告が取消しを求める訴訟を再度提起することはできない。

 (5)違法判断の基準時

 取消訴訟の訴訟物たる「処分」の違法性をどの時点で判断すべきなのか、という問題がある。このような問題が生ずるのは、処分時と判決時との間に事実関係の変更や法律の改正・廃止がありうるからである。

 通説および判例〔最二小判昭和27年1月25日民集6巻1号22頁(U―204)〕は処分時説をとるが、判決時説も有力である。なお、いずれの説に立つとしても例外を認めざるをえないことには注意が必要である。

 

  4.取消訴訟以外の抗告訴訟

 (1)無効等確認訴訟

 行政事件訴訟法第36条に規定されるもので、「処分」の無効確認訴訟が中心となる。さらに、「処分」の不存在確認訴訟、有効確認訴訟、「処分」の存在確認訴訟、「処分」の失効確認訴訟などがある。

 「処分」の無効確認訴訟は実質的に取消訴訟の補完的な制度になっているが、原告適格などについて最も難解なものの一つである

 ※塩野・前掲書214頁は「行政行為の無効を前提とする訴訟はいわば時機に後れた取消訴訟であ」るとしている。

 @訴えの利益

 行政事件訴訟法第36条の規定は非常に難解なものである。そのこともあって、無効等確認訴訟の訴えの利益については、次の二説に分かれている。

 立法者は二元説をとっていた。この説によると、原告適格は「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」または「その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」に認められることとなる。結局、「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」であれば、予防訴訟(差止訴訟)としての無効確認訴訟が認められることになるが、文理的に難しい解釈である。

 二元説が文理的に難しいとするならば、文理解釈に忠実なものとして一元説が浮かび上がる。この説によると、原告適格は「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」であり、かつ「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」に認められることになる。ただ、この説によると、原告適格はほとんど認められなくなり、争点訴訟(民事訴訟)で行くしかなくなる。

 A「処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」の意味

 これについても見解が分かれる。

 形式的解釈説は、申請却下処分や営業許可の取消処分の無効のように、「現在の法律関係に関する訴え」を提起できない場合にのみ、無効確認訴訟の提起が許される、とする説である。所有権確認訴訟や身分確認訴訟というような「現在の法律関係に関する訴え」が可能であれば、無効確認訴訟の提起は許されないこととなる。

 これに対し、実質的解釈説は、「現在の法律関係に関する訴え」を、実質的意味における当事者訴訟(後述)または民事訴訟と解する。この説によると、土地収用法に基づく収用裁決の無効については所有権確認訴訟のみが許されるが、公務員の免職処分については身分確認訴訟と無効確認訴訟の両方が許されることになる。これも難解な説ではある。

 判例は、二元説か一元説かに立ち入っていない。無効確認訴訟が、現実的には出訴期間に遅れて提起された取消訴訟として提起されることが多いこともあって、次のような場合に原告適格を認めている。

 ●最三小判昭和51年4月27日民集30巻3号384

 課税処分を受けてまだ租税を納付していない者は、滞納処分を受けるおそれがあるため、無効確認訴訟の原告適格を有すると判断された。

 ●最三小判昭和601217日判時1179号56頁

 土地区画整理組合の設立認可処分の無効確認を求める原告について、土地区画整理事業施行区域内の宅地の所有権者や借地権者が法律上当然に組合員としての地位を取得させられるということから、原告適格を認めている。

 ●最二小判昭和62年4月17日民集41巻3号286頁(U―186)

 事案:Xは土地改良区Yから、土地改良法に基づいて換地処分を受けたが、それによって農道に接する部分が極端に狭くなり、農作業の遂行が困難になったとして、本件換地処分が「照応の原則」に違反するとしてその無効確認を求める訴訟と訴外Aに対する関連換地処分の無効確認を求める訴えを提起した。最高裁判所第二小法廷は、Xの原告適格を認めなかった東京高等裁判所判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻した。

 判旨:土地所有者など多くの権利者に対して行われる換地処分は「通常相互に連鎖し関連し合っているとみられるのであるから、このような換地処分の効力をめぐる紛争を私人間の法律関係に関する個別の訴えによって解決しなければならないとするのは」換地処分の性質に照らして適当と言い難い。また、本件の場合は「換地処分がされる前の従前の土地に関する所有権等の権利の保全確保を目的とするものではない」。そのため、「当該換地処分の無効を前提とする従前の土地の所有権確認訴訟等の現在の法律関係に関する訴え」が本件のような紛争を「解決するための争訟形態として適切なものとはいえ」ない。

 ●最三小判平成4年9月22日民集46巻6号571頁・1090頁(「もんじゅ」訴訟。U―171)

 事案:旧動燃が敦賀市に建設した高速増殖炉「もんじゅ」の設置許可について、周辺住民が無効訴訟を提起したもの。原告適格の有無と範囲が争われた。最高裁判所第三小法廷は、事案を福井地方裁判所に差し戻した。なお、本件については、旧動燃を被告として「もんじゅ」の建設および運転の差止めを求める民事訴訟も併合提起されている。

 判旨:前掲最二小判昭和62年4月17日が引用されており、第36条にいう「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」は、「当該処分に起因する紛争を解決するための争訟形態として、当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟との比較において、当該処分の無効確認を求める訴えのほうがより直截的で適切な争訟形態であるとみるべき場合をも意味する」と述べられている。

 B取消訴訟の規定の準用の有無

 無効等確認訴訟に準用されるものとして、被告適格、関連請求、第三者の訴訟参加、職権証拠調べ、判決の拘束力、および執行停止に関する規定がある。これに対し、準用されないものとして、出訴期間(行政行為の無効が争点になるのであるから当然のことである)、事情判決、および取消判決の第三者効がある。但し、最三小判昭和42年3月14日民集21巻2号312頁(U―212)は、無効確認判決に第三者効があると述べている。

 C主張および立証責任

 「処分」の無効(裁量権の逸脱濫用→処分の違法性が重大かつ明白であること)についての主張および立証責任は、原告が負う〔最二小判昭和42年4月7日民集21巻3号572頁(U―203)〕。

 (2)不作為の違法確認訴訟

 中途半端な訴訟形態であるが、処分または裁決についての申請がなされたにもかかわらず、相当の期間を過ぎても行政庁が不作為を続けている場合に、その不作為の違法性を確認することによって、申請権者の救済を図るというものである。判決は、不作為の違法性を確認した上で、何らかの応答義務を行政庁に課することになる(勝訴判決については拘束力が認められる。第38条・第33条)。

 原告適格は、第37条により、処分または裁決についての申請をした者に限定される。なお、通説および判例は、申請制度が明文で定められる必要はないとする(ただ、法令の意味は問題となる)。

 (3)義務付け訴訟(第3条第6項)

 行政庁に対して公権力の行使を求める訴訟で、義務付けを求める訴訟と義務が存在することの確認を求める訴訟を合わせたものである。

 @第1号義務付け訴訟

 「行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」に、「行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟」。第37条の2が適用される。

 訴訟を提起できる場合は「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」である。抽象的な規定であるが、「例えば、法令において、一定の処分を求めるための申請権が与えられている場合には、その申請をしないでその処分を求める義務付けの訴えを提起することは、他に適当な方法がない場合であるとはいえないであろう」と述べる見解がある

 小林久起『司法制度改革概説3 行政事件訴訟法』(2004年、商事法務)74

 原告適格は「行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」に認められる。「法律上の利益」の有無については第9条第2項が準用される。

 A第2号義務付け訴訟

 「行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」に、「行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟」である。第37条の3が適用される。

 訴訟を提起できる場合は、第37条の3第1項各号による。

 原告適格は、第1項各号に規定される「法令に基づく申請又は審査請求をした者」である。

 37条の3による義務付け訴訟の場合、同第3項により、不作為違法確認訴訟(第1号の場合)、取消訴訟または無効等確認訴訟(第2号)を併合して提起しなければならない。

 裁決を求める義務付け訴訟について:第7項により、「処分についての審査請求がされた場合において、当該処分に係る処分の取消しの訴え又は無効等確認の訴えを提起することができないときに限り、提起することができる」

 ※これについて、小林・前掲書81頁は、次のように説明する。

 「不利益処分を受けた者が、その処分の取消しを求めて審査請求をした場合でも、原処分について取消訴訟又は無効等確認の訴えを提起することができるときは、審査請求に対する裁決をすべき旨を命ずる義務付けの訴えを提起する必要性がない」。「許認可等の処分を求める申請を拒否する処分を受けた者が、拒否処分の取消しを求めて審査請求をした場合も、拒否処分について取消訴訟又は無効等確認の訴えを提起することができるときは、これに併合して申請で求める許認可等の処分をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴えを提起することができる」。

 (4)差止訴訟(第3条第7項)

 不作為的義務付け訴訟ともいい、かつては予防訴訟、予防的差止訴訟などと言われた。行政庁が何らかの処分(または裁決)をすべきでないにもかかわらず、これがなされようとしている場合に、行政庁にその処分(または裁決)をしてはならない旨を命ずることを裁判所に求める訴訟である。

 訴訟を提起できる場合は「一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合」で「その損害を避けるため他に適当な方法が」ない場合(第37条の4第1項)とされている。この「重大な損害」の有無は第2項に従って判断する

 ※小林・前掲書83頁によると、「例えば、差止めを求める処分の前提となる処分があって、その前提となる処分の取消訴訟を提起して執行停止を得れば、後続する差止めを求める処分をすることが当然にできないことが法令上定められているような場合」には、差止訴訟を起こすことができない。

 原告適格は「行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」に認められる(第3項)。この「法律上の利益」の判断についても第9条第2項が準用される(第37条の4第4項)。

 (5)仮の義務付け、仮の差止め(第37条の5)

 取消訴訟における執行停止の義務付け訴訟版、差止訴訟版である。

 (6)法定外抗告訴訟

 無名抗告訴訟ともいう。行政事件訴訟法に規定されていない類型の抗告訴訟のこと。かつては義務付け訴訟および差止訴訟もこれに含まれていたが、平成16年改正法によって法定抗告訴訟となったため、他にいかなる法定外抗告訴訟が残されているかについて、議論がある。

 

 5.公法上の当事者訴訟

 (1)当事者訴訟の意味(第4条)

 @形式的当事者訴訟(同条前段)

 当事者間の法律関係を確認し、または形成する処分または裁決に関する訴訟のうち、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とする訴訟である。

 例として、土地収用法の損失補償を請求する訴訟(同第133条第2項)があげられる。本来は収用委員会の裁決に関する訴えであるが、形式的に「起業者」と「土地所有者又は関係人」と間の訴えとする(同第3項)。収用委員会の裁決のうち、土地の収用に関しては収用委員会の裁決について国土交通大臣に対する審査請求を行うことができる(土地収用法第129条)。しかし、損失補償に関する事項については審査請求を行うことができない(同第132条第2項)。この他、著作権法第72条、農地法第85条の3、自衛隊法第105条第9項・第10項などがある。

 取消訴訟の規定の準用:第41条第1項により、行政庁の訴訟参加(第23条)、職権証拠調べ(第24条)、判決の効力(第33条第1項)、第35条(訴訟費用の裁判の効力)、第23条の2(釈明処分の特則)が準用される(他のものについては第41条第2項を参照)。

 A実質的当事者訴訟(公法上の当事者訴訟。同条後段)

 公法上の法律関係に関する確認の訴えなど、公法上の法律関係に関する訴訟のこと。なお、公法上の法律関係に関する確認の訴えは、平成16年改正法によって明示されるに至った(以前は存在しなかったという訳ではなく、存在することが確認されたという意味である)。

 この訴訟が置かれている意味であるが、公法と私法との区別が絶対的なものでなく、民事訴訟との区別が付きにくい(実際に、裁判実務では民事訴訟として扱っている)ことから、疑問視されている。

 取消訴訟の規定の準用:形式的当事者訴訟と同様であるが、実務上の意味は乏しいといわれている。とくに、第33条第1項の準用については、その具体的な意味について議論がある。

 実質的当事者訴訟によるとされる例としては、国家公務員法に基づく免職処分が無効であることを前提とする公務員の身分確認訴訟、国立学校における学生退学処分の無効を前提とする在学関係確認訴訟がある。

 B参考:争点訴訟

 行政行為の有効・無効が先決問題となっている事件で、私法上の法律関係に関する訴訟を、争点訴訟という。行政事件訴訟ではなく、民事訴訟であるが、行政事件訴訟法第45条に特別の規定がある。

 争点訴訟の例として、農地買収処分の無効について旧地主と新地主との間で争われる訴訟、土地収用裁決が無効であるとして地権者と起業者との間で土地所有権をめぐって争われる訴訟がある。

 

(2013年5月27日掲載)

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