国税としての「森林環境税
」
1 はじめに
2 「森林環境税」の創設に至るまでの過程
3 「森林環境税」の概要と問題点
4 「森林環境譲与税」の概要と問題点
5 おわりに
1 はじめに
長らくの懸案であった、森林吸収源対策に係る財源確保の手段としての国税が、2019年度税制改正において導入される見通しとなった。
2017年12月14日の「平成30年度税制改正大綱」(自由民主党および公明党。以下、平成30年度与党税制改正大綱)において、「パリ協定の枠組みの下におけるわが国の温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止を図るための地方財源を安定的に確保する観点から、次期通常国会における森林関連法令の見直しを踏まえ、平成31年度税制改正において、森林環境税(仮称)及び森林環境譲与税(仮称)を創設する」こととされ(1)、同月22日の「平成30年度税制改正の大綱」(閣議決定。以下、平成30年度政府税制改正大綱)においても確認されている(2)。
そして、2018年1月22日に召集された第196回国会(会期は同年7月22日まで)において、内閣提出法律案第38号として審議されてきた森林経営管理法が、同年5月25日に成立し、6月1日に法律第35号として公布された。施行は2019年4月1日である。これにより、「森林環境税」および「森林環境譲与税」(3)の導入に向けての準備が整えられたこととなる。
上に述べたところから明らかであるように、「森林環境税」および「森林環境譲与税」は、本稿執筆時においてまだ法律案としてもまとめられていないものである。しかし、両者の基本的構造は、概要的なものにすぎないとは言え、平成30年度与党税制改正大綱および平成30年度政府税制改正大綱において示されている。これらによれば、「森林環境税」は国税であるが、市町村が個人住民税と併せて賦課徴収を行うこととされる。後に述べるように、既に37府県および横浜市が森林環境および水源環境の保全を目的とする個人住民税および法人住民税の超過課税を行っており、国税としての「森林環境税」と課税物件(課税客体)などを同じくする部分がある。したがって、「森林環境税」を導入するには既存の地方税との調整が必要とされるはずである。また、国税でありながら賦課徴収を地方公共団体が行い、収入額に相当する額を譲与税とする点においては地方特別法人税と共通する部分があり、地方税の一部を国税化する点においては地方法人特別税および地方法人税と共通する部分がある(4)。「森林環境税」および「森林環境譲与税」は、環境税としての意味はもとより、国と地方との税源配分、地方税制のあり方という観点から、重要な問題点を孕むものである。
そのため、現段階において「森林環境税」および「森林環境譲与税」を概観し、問題点について検討することも無意味ではない。既に別稿において「森林環境税」について若干の検討を行ったが(5)、本稿においては「森林環境譲与税」を含め、前記の観点から検討を行う。
(1)平成30年度与党税制改正大綱2頁。なお、以下において、自由民主党および公明党による各年度の「税制改正大綱」については平成●●年度与党税制改正大綱と記す。また、本稿においては、紀年法につき、各年度の与党税制改正大綱および政府税制改正大綱の略記、法律の公布年月日ならびに引用文を除いて西暦で記すこととする。
2 「森林環境税」の創設に至るまでの過程
(1)先行する地方税
「森林環境税」および「森林環境譲与税」の導入に至るまでの経過の起点を何処に置くかについては議論がありうるものと思われるが、国税という位置づけを念頭に置くならば、1997年12月11日に採択された「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」(Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change)を起点と理解することができよう(6)。同議定書により、日本には、2008年から2012年までの第一約束期間における温室効果ガス排出量を1990年の排出量に比して6%削減するという義務が課された。
日本政府が同議定書を受諾したのは2002年6月4日であるが、同年度には環境省から、「京都議定書の目標を達成するための国内制度の整備との関連を含め、地球温暖化対策としての環境税の具体化に向けて早急に検討」という要望が出され、その後も繰り返されている(7)。また、民主党・社会民主党・国民新党の連立政権が発足して間もない2009年12月22日の「平成22年度税制改正大綱〜納税者主権の確立に向けて〜」(閣議決定)においては、「地方公共団体は、地球温暖化対策について様々な分野で多くの事業を実施しています。このような地方の役割を踏まえ、地球温暖化対策のための税を検討する場合には、地方の財源を確保する仕組みが不可欠です」として「地方環境税の検討」が掲げられた(8)。
他方、森林吸収源対策に係る財源確保の手段としての租税への取り組みは、地方税が先行した。これは「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年7月16日法律第87号)による地方税法の改正に伴い、法定外普通税および法定外目的税の施行について許可制(当時の自治大臣による)から国の同意を要する事前協議制へ移行したことが大きい(9)。早くも2000年5月には神奈川県が「水源環境税」の構想をまとめており(10)、2005年、神奈川県税条例附則に第39項が追加されて個人住民税所得割および均等割の超過課税としての「水源環境保全税」(通称)が導入された。構想こそ神奈川県が最も早かったが、実際の導入が最も早かったのは高知県であり、個人住民税均等割および法人住民税均等割の超過課税としての「森林環境税」(通称)は、2003年、高知県税条例付則に第33条が追加されることにより設けられた。以後、名称および内容に差異はあるが、2018年9月の時点において37府県および横浜市は、森林環境および水源環境の保全を目的に掲げ、個人住民税および法人住民税の均等割の超過課税を行っている(11)。
(2)社会保障・税一体改革以後の与党税制改正大綱
2012年8月22日に法律第68号として公布された「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」は、一般的には社会保障・税一体改革のために消費税および地方消費税の税率引き上げを定める法律として有名であるが、第7条において所得税制や法人税制などの抜本的改革のための検討課題を掲げている。同第1号ヲは消費課税に関わるものとして「森林吸収源対策(森林等による温室効果ガスの吸収作用の保全等のための対策をいう。)及び地方の地球温暖化対策に関する財源確保について検討する」と定める。
同年12月26日の第二次安倍内閣発足以降も、地球温暖化対策のための財源としての国税の導入は検討課題とされてきた。2013年1月24日に取りまとめられた平成25年度与党税制改正大綱においては、次のように述べられている。
「地球温暖化対策は、エネルギー起源CO2排出抑制対策と森林吸収源対策の両面から推進する必要がある。このうち、エネルギー起源CO2排出抑制のための諸施策を実施する観点から、地球温暖化対策のための石油石炭税の税率の特例措置が講じられている。
一方、森林吸収源対策については、国土保全や地球温暖化防止に大きく貢献する森林・林業を国家戦略として位置づけ、CO2吸収源対策として造林・間伐などの森林整備を推進することが必要である。
このため、『社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律』第7条の規定に基づき、森林吸収対策及び地方の地球温暖化対策に関する財源の確保について早急に総合的な検討を行う。」(12)
2013年12月12日に取りまとめられた平成26年度与党税制改正大綱においては、次のように述べられている。
「わが国は、本年11月に開催された気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)において、2020年の温室効果ガス削減目標を、2005年比で3.8%減とすることを表明した。この目標を確実に達成するためには、排出抑制対策と森林吸収源対策の両面から、多様な政策への取組みを推進していかなければならない。
こうした中、地球温暖化対策のための石油石炭税の税率の特例措置を講じているが、この税収はエネルギー起源CO2排出抑制のための諸施策の実施のための財源として活用することとなっている。
一方、森林吸収源対策については、国土保全や地球温暖化防止に大きく貢献する森林・林業を国家戦略として位置付け、造林・間伐などの森林整備を推進することが必要であるが、安定的な財源が確保されていない。このため、税制抜本改革法第7条の規定に基づき、森林吸収源対策及び地方の地球温暖化対策に関する財源の確保について、財政面での対応、森林整備等に要する費用を国民全体で負担する措置等、新たな仕組みについて専門の検討チームを設置し早急に総合的な検討を行う。」(13)
これを受けて、自由民主党に「森林吸収源対策等に関する財源確保についての新たな仕組みの専門検討プロジェクトチーム」が設置され、検討が進められた(14)。
2014年12月30日に取りまとめられた平成27年度与党税制改正大綱においては「森林吸収源対策及び地方の地球温暖化対策に関する財源の確保について、財政面での対応、森林整備等に要する費用を国民全体で負担する措置等、新たな仕組みの導入に関し、森林整備等に係る受益と負担との関係に配意しつつ、COP21に向けた2020年以降の温室効果ガス削減目標の設定までに具体的な姿について結論を得る」とされた(15)。
風向きに変化が現れてきたと言いうるのは、2015年12月16日に取りまとめられた平成28年度与党税制改正大綱であり、次のように述べられている。
「森林整備や木材利用を推進することは、地球温暖化防止のみならず、国土の保全や地方創生、快適な生活環境の創出などにつながり、その効果は広く国民一人一人が恩恵を受けるものである。しかしながら、森林現場には、森林所有者の特定困難や境界の不明、担い手の不足といった、林業・山村の疲弊により長年にわたり積み重ねられてきた根本的な課題があり、こうした課題を克服する必要がある。
このため、森林整備等に関する市町村の役割の強化や、地域の森林・林業を支える人材の育成確保策について必要な施策を講じた上で、市町村が主体となった森林・林業施策を推進することとし、これに必要な財源として、都市・地方を通じて国民に等しく負担を求め、市町村による継続的かつ安定的な森林整備等の財源に充てる税制(森林環境税(仮称))等の新たな仕組みを検討する。その時期については、適切に判断する。」(16)
平成28年度与党税制改正大綱においては「森林環境税」という名称およびその役割が少しばかり示されてきたが、より具体的な形が与えられたのは2016年12月8日に取りまとめられた平成29年度与党税制改正大綱においてである。
平成29年度与党税制改正大綱は、まず「森林吸収源対策」として「2020年度及び2020年以降の温室効果ガス削減目標の達成に向けて、森林吸収源対策及び地方の地球温暖化対策に関する安定的な財源の確保」のための措置を講ずると述べる(17)。明言はされていないものの、2015年12月12日に第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定(Paris Agreement)を、日本政府が2016年11月8日に受諾したことを受けたものであろう。同大綱は、続いて「森林整備や木材利用を推進することは、地球温暖化防止のみならず、国土の保全や地方創生、快適な生活環境の創出などにつながり、その効果は広く国民一人一人が恩恵を受けるものである」が「森林現場には、森林所有者の特定困難や境界の不明、担い手の不足といった、林業・山村の疲弊により長年にわたり積み重ねられてきた根本的な課題」への「対策に当たっては、森林現場に近く所有者に最も身近な存在である市町村の果たす役割が重要となる」と指摘し、「市町村から所有者に対する間伐への取組要請などの働きかけの強化」、「所有者の権利行使の制限等の一定の要件の下で、所有者負担を軽減した形で市町村自らが間伐等を実施」、「要間伐森林制度を拡充し、所有者が不明の場合等においても市町村が間伐を代行」、「寄附の受入れによる公的な管理の強化」および「地域における民間の林業技術者の活用等による市町村の体制支援」の5点について具体的な施策を進めることを打ち出す(18)。そして、これらの施策のための財源が「森林環境税」であり、「個人住民税均等割の枠組みの活用を含め都市・地方を通じて国民に等しく負担を求めることを基本とする森林環境税(仮称)の創設に向けて、地方公共団体の意見も踏まえながら、具体的な仕組み等について総合的に検討し、平成30年度税制改正において結論を得る」こととされた(19)。
「森林環境税」の導入(の検討)は、平成29年度税制改正に対する農林水産省、環境省および林野庁からの要望として出されていた。また、2016年10月19日に開かれた自由民主党「予算・税制に関する政策懇談会」において、全国町村会副会長の更谷慈禧氏(十津川村長、奈良県町村会長)が森林環境税の早期導入を求めている(19)。
平成29年度与党税制改正大綱の提言を受ける形で、2017年4月に「森林吸収源対策税制に関する検討会」が、総務省の地方財政審議会に設置された。同検討会は11月21日「森林吸収源対策税制に関する検討会―報告書―」(以下、「報告書」)を取りまとめた。
「報告書」は、「森林整備等による効果は、地球温暖化防止、災害防止・国土保全、水源涵養等、国民に広く及ぶものであるため、森林整備等のために必要な費用を、国民一人一人が広く等しく分かち合って負担して、国民皆で協力し合い、我が国の森林を支える仕組みとして森林環境税(仮称)を創設することが適当である」とする。その上で、「国民に広く等しく税負担を求めることとした場合、得られた税収は、市町村による森林整備等のために必要な財源に充てるために、税を負担する住民の所在する区域を越えて、森林整備等を行う市町村に適切に帰属させる必要がある」が「地方税は、地方団体が自らの行政を行うために必要な経費を賄うものであり、それぞれの市町村が条例に基づく課税権を行使して得た税収を、他の市町村の行政経費に充てることを目的として制度的に移転させることはできない」ために、「森林環境税」を地方税ではなく、国税とすべきである旨を述べる(24)。他方、「報告書」は、「国(税務署)が、個人住民税均等割と同様に、所得税の課税最低限を下回る所得の者も含め、広く課税をしようとした場合、国(税務署)は、現在収集していない所得情報について、納税者に提出を求めるか、市町村に情報共有を求めた上で、納税義務者を確定し、現在所得税を課されていない約900 万人から新たに税を徴収する必要が生じ、納税者及び税務当局の双方に相当な追加的事務負担を発生させることとなるため、現実的ではない」として、「森林環境税」を「個人の市町村民税と併せて賦課徴収することが適当である」とする(25)。
また、「森林環境譲与税」については、「森林環境税」の「収入額の全額に相当する額を、地方団体に対して譲与することが適当であ」り、「新たな森林管理システムが導入されることを契機として、森林が所在する市町村が森林現場においてそれぞれの地域におけるニーズに対応するために行う森林整備に関する施策及びその施策を担う人材の育成・確保に関する費用等に充てられるべき」であるとされる(26)。さらに、「納税義務者の立場に立てば、納税先の団体と、税収を財源として事業を実施する団体が一致しないこととなるため、譲与を受けた地方団体としては、通常の予算・決算の場合のような自らの団体の住民に対する説明責任だけでなく、他の地方団体の住民に対しても一定の説明責任を果たすことが求められる」から「当該説明責任を果たすため、森林環境譲与税(仮称)の譲与を受ける地方団体に対して、使途をインターネットの利用等の方法により公表することを義務づけることが適当である」とされる(27)。
総じて、「報告書」は平成29年度与党税制改正大綱における提言の趣旨に沿ったものであり、その趣旨を若干深めた程度であるに過ぎない。「森林環境譲与税」の譲与基準については具体的な方針などが示されていないと評価しうる。
なお、「報告書」は「森林環境税」および「森林環境譲与税」の導入に際しての課題(問題点)もあげているが、これについては後に取り上げることとする。
(6)地方財務協会編集『平成30年改正地方税制詳解(月刊「地方税」別冊)』(地方財務協会、2018年)321頁、山本洸大「森林環境税(仮称)及び森林環境贈与税(仮称)の創設について」地方税69巻7号(2018年)79頁も参照。
なお、神奈川県の「水源環境保全税」の場合は法人住民税について超過課税が行われない(神奈川県税条例附則第39条)。また、京都府の「豊かな森を育てる府民税」および大阪府の「森林環境税」の場合は個人住民税の均等割のみについて超過課税が行われる(京都府豊かな森を育てる府民税条例第3条、大阪府森林の有する公益的機能を維持増進するための環境の整備に係る個人の府民税の税率の特例に関する条例第2条)。
3 「森林環境税」の概要と問題点
(1)「森林環境税」の性質
既に述べたように、「森林環境税」は平成31年度税制改正において新設されるものであるが、平成30年度与党税制改正大綱および平成30年度政府税制改正大綱において基本的構造が示されている。
「森林環境税」は「市町村が実施する森林整備等に必要な財源に充てるため」の国税であり、「都市・地方を通じて、国民一人一人が等しく負担を分かち合って、国民皆で、温室効果ガス吸収源等としての重要な役割を担う森林を支える仕組み」である(28)。この表現からは「森林環境税」が目的税であるとも読み取りうるが、両大綱においては明示されていないため、新たに制定されると思われる法律にいかなる定義がなされるかにもよるものと思われる。
目的税は、特定の経費のために課する租税であって、その租税を規律する法律自体が支出目的(経費)を規定するものをいう(29)。これに対し、その租税を規律する法律自体ではなく、他の法律により支出目的(経費)が特定される場合を特定財源という(30)。両者にはこのような概念上の相違があるものの、租税による収入の支出目的(経費)が何らかの形において特定されていることには変わりがないため、「森林環境税」は少なくとも特定財源として位置づけられていると理解することができる(31)。
なお、現段階において「森林環境税」の収入額に相当する額は「森林環境譲与税」として全て市町村および都道府県に対して譲与されることとなっている。しかし、このことと普通税・目的税の区別は無関係である。例えば、地方法人特別税の収入額に相当する額は地方法人特別譲与税として都道府県に交付されるが(地方法人特別税等に関する暫定措置法第32条)、支出目的が特定されていないために普通税と位置づけられる。また、地方法人税の場合、地方法人税法第1条が「地方交付税の財源を確保するための地方法人税」と明定しているが(地方交付税法第6条も参照)、使途を特定の経費に充てることが予定されているとまでは言えないので、やはり普通税と位置づけられている(32)。
(2)「森林環境税」の課税主体と賦課徴収事務
課税主体は国であるが、実際の賦課徴収事務は市町村が行うこととされる。すなわち、市町村は、市町村個人住民税および道府県個人住民税と併せて「森林環境税」の賦課徴収を行う(地方税法第41条および同第319条第2項も参照)。一方、市町村は「森林環境税」として「納付又は納入」された額を「都道府県を経由して国の交付税及び譲与税配付金特別会計に払い込むことと」される。
その他、現段階において詳細は示されていないが、「森林環境税」については「個人住民税に準じて非課税の範囲、減免、納付・納入、罰則等に関する所要の措置」が講じられることとなっている(33)。従って、「森林環境税」に関する新法律には、地方税法第24条の5(道府県個人住民税の非課税の範囲)、同第38条(道府県個人住民税均等割の標準税率)、同第45条(道府県個人住民税の減免等)、同第295条(市町村個人住民税の非課税の範囲)、同第310条(市町村個人住民税均等割の標準税率)、同第296条(市町村個人住民税均等割の税率の軽減)、同第312条(市町村個人住民税均等割の税率)などにならった規定が置かれなければならないこととなる(34)。
なお、「森林環境税」の賦課徴収は2024年度より行われることとされる。
(3)「森林環境税」の納税義務者および税率
納税義務者は、国内に住所を有する個人とされる。また、税率は年額1,000円である(35)。
この税率の根拠につき、衆議院総務委員会において丸山穂高議員が質したのに対し、内藤尚志政府参考人(総務省自治税務局長)は、に対する答弁において「森林環境税の税収規模を検討するに当たりまして、パリ協定の枠組みのもとにおける我が国の温室効果ガス排出削減目標を達成するために必要な森林整備やその促進に要する費用等につきまして、林野庁から600億円程度との試算が示されている」、「森林環境税につきましては、個人住民税均等割の枠組みを活用することといたしまして、その納税義務者数は6,000万人強と見込んでいる」、「これらの必要な財源、あるいは国民の負担感等を総合的に勘案し、年額1,000円とした」と述べている(36)。
(4)「森林環境税」の位置づけおよび問題点
概要は以上の通りとなるが、「森林環境税」は純然たる新税ではない。
個人住民税均等割への上乗せ課税は「東日本大震災からの復興に関し地方公共団体が実施する防災のための施策に必要な財源の確保に係る地方税の臨時特例に関する法律」(平成23年法律第118号)により、まさに個人住民税均等割の標準税率の特例(以下、標準税率特例)として実施されてきたところである。すなわち、同法の第2条第1項は「平成26年度から平成35年度までの各年度分の個人の道府県民税に限り、均等割の標準税率は、地方税法第38条の規定にかかわらず、同条に規定する額に500円を加算した額とする」、同第2項は「平成26年度から平成35年度までの各年度分の個人の市町村民税に限り、均等割の標準税率は、地方税法第310条の規定にかかわらず、同条に規定する額に500円を加算した額とする」と定める。道府県個人住民税均等割への加算額と市町村個人住民税均等割への加算額を合計すると1000円となる訳である。
「森林環境税」は、2023年度に終了する標準税率特例に続く形で2024年度より導入されるものである。自由民主党税制調査会長の宮沢洋一氏は、「森林環境税」が「個人住民税と一緒に平成36年から年間1,000円を賦課徴収する。防災対策に必要な財源確保のための年間1,000円の均等割課税が35年で終わり、これに替わるかたちで徴収するものである」と明言する(37)。その上で、宮沢氏は「森林の少ない都市部の人は割に合わないと思われるかもしれないが、森林が整備されれば、川が安定し、海に滋養分が流れ、魚などの生物に良い影響を与え、巡りめぐって恩恵を受けることとなる」と主張する(38)。
標準税率特例の後継ということで、部分的であるとは言え「森林環境税」は道府県個人住民税均等割および市町村個人住民税均等割の代替となる税目であり、地方法人特別税および地方法人税に続く税源の「逆移譲」に該当する(39)。これが第一の問題点であり、第196回国会においても疑義が出された。
衆議院総務委員会において、務台俊介議員は「現在は、どうしても税を入れると偏在という事実があるものですから、地方税ではなく国税として入れてこれを地方に分ける、そんなやり方が最近一般化しているというふうに思」うと質した。これに対し、内藤政府参考人は、内藤政府参考人は「地方の行政サービスをできる限り地方税で賄うことができますよう地方税の充実確保を図ることは大変重要だと考えて」おり、「その際には、税源には偏在性があること、地方団体間の財政力格差の動向などにも配慮していく必要があると考え」るが、「地方税による対応のみでは、税源偏在という課題に対しましては一定の限界があることも事実で」あり、「地方税を充実していくこととあわせて、補完的に、偏在を是正するという観点から、地方譲与税や地方交付税の原資とするために、国税として地方法人特別税や地方法人税の仕組みも取り入れてきた」と答弁している(40)。
しかし、森林環境譲与税が先行して施行されるとはいえ、また、税源の偏在の是正という観点が込められることにやむをえない部分があるとはいえ、「森林環境税」を国税と位置づけることは、地方分権、地方税財源の確保(ないし拡充)という要請に反することになりかねない。片山虎之助議員も、参議院総務委員会において「税源の偏在が直らない。直らないでどうやるかというと、それを、今地方税のものを国税にして分け直す」ということが「だんだん拡大していって」おり、「そういう制度は地方税制にとって私は問題だと思う」、「とにかく均等、均等、偏在是正ということで国税にして、地方税を、それを分け直すというのは、(中略)地方自治のためにいいのかどうなのか」と質した。これに対し、野田聖子総務大臣は、「やっぱり地方が自立して自在に自分のお金を使うということで今後の地方の再活性化というのはあると思」うと答弁したが、「総務省の中での勉強会では、そういうことを踏まえて、今後の地方の在り方、地方税の在り方については今から議論して、いい答えが出せれるよう取り組んでいきたい」と続けたに過ぎない(41)。税源の「逆移譲」が直ちに違憲であるという訳ではないが、権限配分の観点からも妥当でないものと評価せざるをえない。地方税財源の確保(ないし拡充)とは矛盾する部分もあるが、地方税制度に税源の偏在という問題が伴うのは必然的である。偏在の是正を重視するのであれば、地方税制度および地方交付税制度の抜本的な改革を行うしかない。
第二の問題点として、「森林環境税」が個人住民税均等割と(課税主体を除く)課税要件を同じくすることがあげられる。すなわち、前述のように37府県および横浜市において実施されている超過課税とも納税義務者および税率が同じであるから、住民にとっては二重課税ということにもなりかねない。また、いずれの都道府県、市町村に対しても国による課税自主権の侵害につながりかねない。いずれにせよ、標準税率特例が終了する2023年度までに、37府県および横浜市における超過課税と「森林環境税」との調整が行われる必要があると考えるべきであろう。
もっとも、この点につき、政府・与党においては早急な調整などを不要と考えているようである。野田総務大臣は、衆議院総務委員会における長尾秀樹議員の質疑に対する答弁において、「国の森林環境税は、農林水産省が今国会に提出する予定の森林経営管理法案を踏まえて、主に市町村が行う森林の公的な管理等の財源として創設するもので」あり、「府県等が行う超過課税は、その税額や使途もさまざまでありまして、両者の使途が重複する可能性もありますが、国の森林環境税は平成36年度から課税することとしており、それまでの間に、全ての超過課税の期限や見直し時期が到来するため、関係府県等において必要に応じて超過課税の取扱いを検討していただけるものだと考えてい」る、「総務省としては、森林環境税との関係の整理が円滑に進むよう、林野庁とも連携しながら、関係府県等の相談に応じて助言を行ってまいりたい」と述べた(42)。
37府県および横浜市が行っている超過課税は、いずれも最長で2022年度までの期間限定であり、または同年度までに見直しの時期を迎える(43)。「森林環境税」および「森林環境譲与税」に関する新法律が制定されることにより、現行の超過課税はいずれも2022年度までに廃止されるのではないかと予想される。そして、国税としての「森林環境税」と目的を同じくする個人住民税均等割(および所得割)の超過課税を地方公共団体が独自に行うことは許容されなくなる可能性が高い。また、法人は国税としての「森林環境税」の納税義務者に含められていないので、34県(44)および横浜市において行われている法人住民税均等割への超過課税についても、新法律の制定以後は許容されなくなる可能性が高いであろう。但し、これは新法律の内容次第であるとも考えられる。
第三の問題点として、標準税率特例の終了後に「森林環境税」の賦課徴収を実施することの是非があげられる。「森林環境税」が個人住民税均等割の仕組みを利用した理由としては課税技術上の問題などもあるが、最大のものは納税義務者にとって負担額に変化がないことであろう。しかし、標準税率特例と「森林環境税」とは課税の根拠および理由、さらに使途が全く異なる。また、標準税率特例が時限的措置であるのに対し、「森林環境税」は永久税として位置づけられる。負担額が同じであるという理由によって、このように旧税とは全く性格が異なる新税を導入することが妥当であるかが問われなければならない。
第四の問題点として、租税法律主義との関係があげられる。前述のように、平成30年度与党税制改正大綱は「森林環境税」について「個人住民税に準じて非課税の範囲、減免、納付・納入、罰則等に関する所要の措置を講ずる」としているので、新法律には、地方税法にならった規定が置かれなければならないはずである。「報告書」も「森林環境税」については「全国的に統一的な取扱いをすることが基本であり、同時に、租税法律主義の下で、法律によりその課税要件を規定することが原則である。(中略)市町村長に地方税の場合と同様の広い裁量を認めることはできないと解すべきである」と明言する(45)。
しかし、賦課徴収の事務を市町村が担当することからすれば、「非課税の範囲」や「減免」などについて法律によって(市町村長の裁量が認められない程に)厳格に定めることは、実際上の困難を生ずるのではなかろうか。むしろ、新法律の規定により、「非課税の範囲」や「減免」について市町村条例に委任する規定が置かれることもありうるであろう。勿論、その場合には委任の個別性・具体性が求められることとなる。「報告書」が「課税時点における個々の納税義務者の担税力の有無」をあげた上で、「国税としての規律が担保され、その必要性と合理性が認められる範囲内において」として「非課税限度額の設定において、国が定める生活保護の級地区分の基準に従い、地域別の取扱いにすること」、および「納税義務者の具体的な事情を最もよく把握している市町村長が、個々の納税義務者の実際上の負担能力の程度を判定して森林環境税(仮称)の減免を行う仕組み」を「認める余地はあると考えられる」と述べている(46)のも、新法律における市町村条例への委任を或る程度は認容しうるという考え方に立つものと理解してよいと考えられる(47)。
(28)平成30年度与党税制改正大綱13頁。
4 「森林環境譲与税」の概要と問題点
「森林環境譲与税」は、市町村から国に払い込まれた森林環境税の収入額に相当する額を市町村および都道府県に対して譲与するものである。譲与額の割合は〈表1〉に示す通りである。
〈表1〉森林環境譲与税の譲与額の割合
期間 |
市町村 |
都道府県 |
2019年度〜2024年度 |
80% |
20% |
2025年度〜2028年度 |
85% |
15% |
2029年度〜2032年度 |
88% |
12% |
2033年度〜 |
90% |
10% |
出典:平成30年度政府税制改正大綱29頁を基に、筆者が作成。
市町村に譲与されるべき額は、その50%が私有林人工林面積により、20%が林業就業者数により、30%が人口で按分される。都道府県についても同様である。
「森林環境譲与税」については使途が定められることとなっている。すなわち、市町村に対しては「間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の整備及びその促進に関する費用に充て」ること、都道府県に対しては「森林整備を実施すること市町村の支援等に関する費用に充て」ることが義務付けられる(48)。また、使途の公表等が市町村および都道府県に対して義務付けられることとなっている。
ここで「森林環境譲与税」についての第一の問題となるのが施行期日である。
「森林環境税」は2024年度から賦課徴収が行われることとされているのに対し、「森林環境譲与税」は2019年度から市町村および都道府県に対して譲与されることとされている。すなわち、「森林環境譲与税」は5年度分について「森林環境税」に先行することとなっている。このため、経過措置として、「森林環境譲与税」は地方交付税および譲与税配付金特別会計における借入金をもって充てることとなる。従って、2019年度から2023年度まで、「森林環境譲与税」は、その名称にもかかわらず、厳密には譲与税としての性格を持たないこととなる。また、例えば借入金の財源、償還の確実性など、財政規律の観点から疑問視されうる。これを第二の問題と捉えることが許されるであろう。
2019年度より2023年度までの各年度における借入金および譲与額は〈表2〉に示す通りである。
〈表2〉「森林環境譲与税」に係る2019年度より2023年度までの各年度における借入金および譲与額各年度譲与額の割合
期 間 |
借入金の額および譲与額 |
2019
年度から2021 年度まで |
200
億円 |
2022年度および2023年度 |
300 億円 |
出典:〈表1〉に同じ。なお、「借入金の額および譲与額」には、別途、当該年度における利子の支払いに要する費用等に相当する額が加算される。
経過措置の期間が終了し、2024年度より「森林環境税」の賦課徴収が始められると、「森林環境税」の収入額より借入金の償還金および利子の支払いに要する費用等に相当する額を控除した額に相当する額が「森林環境譲与税」となる。但し、2024年には償還が行われない。2025年度より2032年度までの各年度における借入金の償還額は〈表3〉に示す通りである。
〈表3〉「森林環境譲与税」に係る2025年度より2032年度までの各年度における借入金および譲与額各年度譲与額の割合
期 間 |
償還額 |
2025年度から2028年度まで |
200
億円 |
2029年度から2032年度まで |
100 億円 |
出典:〈表1〉に同じ。なお、「償還額」には、別途、2019年度から2023年度までの利子の支払いに要した費用等に相当する額が加算される。
続いて、第三の問題として使途の公表をあげておこう。
前述のように、「森林環境税」は少なくとも特定財源と位置づけられていると考えられる。しかし、特定財源(または目的税)という位置づけが与えられ、「森林環境譲与税」として地方公共団体に譲与されたからといって「本当に森林環境の改善につながるのか何の保証もない」、「『道路特定財源』のように、使い道を限定した特定財源はこれまでも無駄遣いの温床として問題となってい」るという指摘もなされており(49)、「森林環境税」が真に「市町村が実施する森林整備等に必要な財源に充てるため」のものであり、「都市・地方を通じて、国民一人一人が等しく負担を分かち合って、国民皆で、温室効果ガス吸収源等としての重要な役割を担う森林を支える仕組み」という表現に相応しいものであるか否かを確かめるためには、使途の公表を義務付けることは必要である(50)。
このことから、市町村および都道府県に公表を義務づけるとしたことは妥当である(51)。しかし、森林経営管理法の所管省庁である林野庁を初めとして、国は全く公表の義務を負わなくてよいのであろうか。国は譲与する側であって実際に譲与税を森林整備のために支出する側ではないものの、使途などについて公表する義務を負うべきではなかろうか。また、市町村および都道府県が個別に公表するだけでは、国民にとって使途を十分にチェックすることが難しいものと思われるので、国が取りまとめた上で全国的な状況として公表することが望ましいと考えられる。
(48)平成30年度与党税制改正大綱33頁。
(49)石村編・前掲注(31)56頁[石村]。
(50)2018年2月15日の衆議院本会議において、黒岩宇洋議員は、野田総務大臣への質疑において「重要な観点は、この目的を達成するために税が適正に執行され、山森林地域のみならず、国全体に利益がもたらされることで」あり、「自治体には、使途が不要不急なものとならぬよう、そのような利用状況の公開が求められる」と述べている〔第196回国会衆議院会議録第6号(平成30年2月15日)10頁〕。
5 おわりに
例年通りであれば2018年12月中旬に平成31年度与党税制改正大綱が、同月下旬に平成31年度政府税制改正大綱が取りまとめられ、公表されるであろう。そして、これらにおいて最終的に「森林環境税」および「森林環境譲与税」の形が示されることとなる。
もっとも、多少は内容が深められることがあるにせよ、基本構造が改変されることはないものと考えられる。その場合には、本稿において論じた問題点が残る。
いずれにせよ、「森林環境税」および「森林環境譲与税」を定める新法律の内容がいかなるものとなるのか、注意を向ける必要がある。
また、繰り返しになるが、「森林環境税」は、地方法人特別税および地方法人税に続く税源の「逆移譲」の例となる(52)。いずれも地方公共団体間における税源の偏在が理由とされるものであるが、偏在の是正を強調するのであれば、地方税制度は縮小に向かわざるをえなくなる。既に人口縮小期に入っている日本の将来を見据え、根本的な税源再配分を行うべき時期が到来しているとも言いうる。また、地方分権という理念の再検討も必要とされるべき段階に入っている、と考えるべきであるのかもしれない。
(2019年4月18日掲載)
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