動き始めた情報公開法

{おおいた・市民オンブズマン第7回総会記念講演、2001年5月20日}

 

(これは、当日の講演のための草稿であり、時間の関係などもあって話すことができなかった部分も含んでいます。)

 

 

 T  はじめに

 

  この度、おおいた・市民オンブズマン代表の河野聡弁護士、および事務局長の永井敬三氏より、記念講演ということで御依頼を受けた。その趣旨として、「情報公開法施行後全国的に公開請求がなされる中で分かってきた問題点や今後の活用などについて40分程度でご講演をお願いしたい」とのことである。私自身は、一国民として、情報公開請求をなしうる立場でもあれば、一公務員として、情報公開請求を受ける機関の一員としての立場でもある。そして、いずれからも中立といいうる研究者としての立場もある。その意味において、情報公開については、私なりの問題意識がある。

  情報公開法が施行されてから、既に1か月半ほどが経過している。まだ、情報公開法そのもの、そしてその施行状況を振り返るには時期尚早ということも言いうるかもしれない。しかし、法そのものについては、既に施行以前から様々な解説や業績が公表され、問題点などが相当程度に明らかとされている。また、施行状況については、新聞などでも報道されていて、或る程度の問題点が浮かび上がってきている。制度運営は、勿論、時間の経過とともに改善されるものであるし、そうでなければならないが、そのためにも、最初の時点における状況を検討し、評価を加えることが求められる。

  そのような任務を、私が適切に行いうるかどうか、自信はないが、昨年1118日のシンポジウム「みんなで使おう国の情報公開!」(このシンポジウムの模様を、私自身のホームページ(http://www.h2.dion.ne.jp/~kraft/)で公開している。但し、まだ完全再現に至っていない)においてパネリストとして参加し、情報公開法そのものの問題点を指摘したこと、そして、大分大学における情報公開への準備に、委員として加わり、取り組んだ経験をもつこと、これらから、今回の講演をお引き受けした次第である。

 

U 情報公開法施行前の状況

 

  最初に、私が大分大学の情報公開検討委員会委員として、情報公開の準備に携わった経験を基に話をさせていただきたい。

  情報公開法は、1999年5月24日、法律第42号として公布された。これを受け、大分大学で情報公開検討委員会が、同年9月16日に組織された。私は、教育福祉科学部選出委員として、また、唯一の行政法専攻の委員として、体制作りに協力した。大分市の状況を視察したり、個人的に大分市情報公開室へ行って話を聞いたり、メーリングリストなどを通じて他の市町村の状況を尋ねたりしていた。当時から、情報公開法の解説書が数多く市販されていたのであるが、正直に言って、官庁の対応は決して速くなかった。実際、総務省(前の総務庁行政監察局)による情報公開基準が大分大学の手許に届いたのは昨年の秋である。大学の場合は、国立大学協会が、北海道大学の情報公開規程や開示・不開示基準などをモデルとする比較的詳細なプランを作成していた。我々の委員会は、組織などについて独自の検討を行っていたが、その努力が無駄になり、作り直したことすらある。また、文部科学省による開示・不開示基準が大分大学に届いたのは、実に施行直前、今年3月中旬になってからである。しかし、これでも省庁の中では速いほうである。残念ながら、現在、私の下に、文章の形による証拠が残っていないが、3月18日夜のNHK第一放送のニュースによると、その時点で開示・不開示の基準などを作っていた省庁は、文部科学省を含めて僅か二つしかなかった。省庁によっては、行政文書の把握に手間取っていたようである。その理由として、情報公開法は、施行日以前に作成されていた行政文書であっても、規律の対象とする、ということがあげられる。実際、大分大学の例を取ってみても、行政文書の把握には思いのほか時間を要した。また、文書管理規程の見直しにも時間を要した。

  一方、省庁再編に伴い、引越しなどの際に大量の行政文書が廃棄された例もあると聞く。また、文書管理規程の見直しの際、保存年限を、例えば3年から1年に短縮するということも、多くの行政機関において行われたようである。さらに、実際にどの程度可能であるかわからないが、情報公開法がこれまでの公文書概念よりも広い行政文書概念を採用していることもあり、職員が「つまらないメモをとるな」と注意されるそうである。これは実に簡単な話で、行政文書である限り、決裁や供覧という手続を採らずとも、組織で共用していれば(あるいは、それが予定されていれば)行政文書になるからである。また、会議録などについても、従来から議事録などを作成していない場合が多いが、情報公開法の施行により、文書化しないという傾向が強まることも予想されている。理由として、同法が行政機関の長に対し、文書作成義務を課す規定を有していないことがあげられる。その一方、情報公開というが、公開の対象となるものは、情報自体ではなく、行政文書である(この点に関して、オランダの例が参考となる)。そのため、開示請求をしても、行政文書不存在という理由で不開示決定がなされる場面が多くなるのではないか、とも予想される。

  組織共用文書を行政文書として公開の対象とすることは、たしかに、これまでより公開の幅を広くすることにつながる。しかし、それでは具体的にどのようなものが行政文書にあたるかということについては、意外に不明確な点も多い。とくに、これから、行政の情報化が進み、電子メールなどで情報が行き交うことになると、行政文書の認定が困難になることも予想される。日本の場合、行政手続法も情報公開法も、電子情報化を想定した内容となっていない。たしかに、行政文書には電磁的記録も含まれており、その程度において情報化を念頭に置いていると言えなくもない。しかし、申請手続などに課題が残る。開示にしても、基本的には紙の文書の形にすることになっている。通商産業省などにおいて、電子申請や電子申告が既に始められており、今後、さらに範囲が拡大されることが予定されている。そのこととの関連において、情報公開においても電子的な手続を可能にすることが求められよう。

  私は、今年度から、財団法人ハイパーネットワーク社会研究所の特別研究員として、電子自治体構想に関わっている。そこにおいて、行政内部の意思決定過程や、情報伝達過程、さらに言うならば、従来の決裁や供覧の手続をどのように改めるかという問題にも取り組むことになる。

  また、省庁によって実際に行われているが、行政文書ファイル管理簿をホームページで公開することも、さらに求められることになる。国の省庁は、おおむね、行政文書ファイル管理簿を公開しているので、データベースによる検索システムによって行政文書の特定が可能である。しかし、地方公共団体の場合、このようなシステムを採用するところは少ない。

  私が実際にホームページを検索してみたところ、行政文書ファイル管理簿は、総務省、財務省、法務省、経済産業省、大分医科大学などで公開されている。とくに、総務省の場合、各省庁の行政文書ファイル管理簿にリンクしている。

  また、以前にもまして、情報公開以前に、積極的な情報開示(提供)が求められるところでもある。

 

V 情報公開法施行後の状況

 

  情報公開法の施行日は今年4月1日であるが、当日が日曜日であったため、実際には翌日から施行された。当日は、新聞、ラジオ、テレビで報道されたように、外務省、厚生労働省など、大きな政治問題を引き起こした省庁などに多くの関心が寄せられたようである。

  施行日から1ヶ月が経過し、日本経済新聞5月2日付朝刊3面に、情報公開法の施行状況に関する記事が掲載された。今回は、手許に十分な資料が集まらなかったこともあり、この記事を基にして状況を概観することとする(各省庁のホームページも参照したが、件数などについては掲載されていない)。

  日本経済新聞社が調査したところによれば、中央省庁だけで、4月2日から5月1日までの間に3806件の開示請求があった。その内訳は、次のようになっている。

申請件数

決定件数

開示決定件数

不開示決定件数 主な開示請求内容
内閣官房

137

官房機密費、交際費の内容など
内閣府

137

未集計

未集計

未集計

経済対策、月例経済報告の資料、原子力関連
警察庁・国家公安委員会

152

未集計

未集計

未集計

機密費、交際費、国家公安委員会の議事録
防衛庁

194

28

北朝鮮の弾道ミサイル、不審船事件
金融庁

1330

未集計

未集計

未集計

金融再生委員会の議事録、

長銀・日債銀破綻の経緯

総務省

137

54

39

15

政治資金収支報告書、情報公開法案の審議資料
法務省

129

未集計

未集計

未集計

ロッキード事件、よど号事件の関連資料
外務省 59 38 外交機密費、日ロ外交の首脳会談メモ
財務省

119

68

14

41

財政・金融分離の経緯、機密費の使用状況など
文部科学省

222

128

80

25

教科書検定、学校法人決算、交際費
厚生労働省

512

未集計

未集計

未集計

薬害事故、新薬承認、国立病院の医療事故
農林水産省

102

80

40

40

交際費、謝金など経理関係書類
経済産業省

239

124

62

24

交際費、通商交渉、愛知万博の計画決定過程
国土交通省

257

67

18

24

航空・河川・道路など公共事業関係
環境省

80

37

28

水俣病の認定検討会議事録、京都議定書
合計

3806

629

291

186

  この表にいう開示決定が、部分開示を含むのか否かについては、明らかでない。しかし、請求件数に対し、回答件数の割合が低い、ということがわかる。勿論、この請求件数は4月2日から5月1日までのものであるから、回答件数だけでは対応の速さ・遅さを測ることができない。しかし、審査の速度が必ずしも請求者のニーズに応えるものとなっていないことが推測される。上記記事の内容は、この推測を確かめるかのようなものとなっている。

  外務省は、38件について既に決定期限を延長したようである。また、財務省も「旧大蔵省から引き継いだ行政文書について『開示・不開示の審査にあたって慎重な検討が必要』との理由から期限の延長を決めている」と報じられている。

  4月2日になされた開示請求に対し、どの程度の開示決定がなされたのか、残念ながら十分にわからなかった。財務省については、4月2日になされた開示請求68件が審査された結果、開示決定は14件であったというから、約21%しかなされていないことになる。内閣府の場合は、表においては未集計となっているが、5月2日に申請者に対する決定通知がなされたようである。開示決定が5割から6割、不開示が1割、期限延長が2割程度だとのことであるが、詳細などはわからない。

  また、総務省の場合、54件の開示決定に対して15件の不開示決定となっており、その理由として文書不存在があげられている。

  開示決定および不開示決定については、実際に始まったばかりのところでもあり、まだ判明していない部分も多いので、具体的な検討はこれからの課題ということになるであろう。

  開示請求から審査(判定)を経て決定に至るまでの時間については、後ほど取り上げることとする。

 

W 問題点あるいは今後の課題

  実際に施行されてから、既に情報公開法について指摘されていた点とは別の、様々な問題点が浮き彫りになっている。また、情報公開法については、施行以前から様々な課題が指摘されている(最近のものとして、松井茂記・情報公開法(2001年、有斐閣)437頁以下を参照)。ここでは、そのいくつかを取り上げることとする。

  (1)行政文書の特定

  情報公開請求をなすにあたって、最大の課題と考えられるのは、行政文書の特定が困難であるという点である。総務省のホームページでは、各行政機関が保有している行政文書ファイル管理簿にリンクするという形で、約2750万件の行政文書ファイルの検索システムを公開している。しかし、このシステムではファイル名だけが判明するのであり、具体的にいかなる情報が含まれているかまではわからない、という場合が多い。また、例えば同じ費目について、各省庁によってファイル名が異なるという事実が指摘されている。この場合、複数の省庁に対して情報公開請求をなすことが難しくなる。同じようなことは、他のファイルについても存在すると思われる。この点に関して明快な基準はないが、将来的には統一される必要もあるであろう。とくに、遠隔地から情報公開請求をする場合、行政文書の特定が困難であるということは、適切な請求をなしえないことにもつながる。

  もっとも、行政文書ファイル管理簿を作成する側からすれば、何万点ものぼる行政文書をファイル化するだけでも、予想以上の時間を要するのであり、まして、具体的な情報もわかるように作成することは、非常に困難でもある。しかし、少なくとも、その方向に向けて作成する努力くらいは、課せられてもよい。また、上述のように、実質的には同じような内容であるのに名称が各機関によって異なるという状態は、早急に改善される必要がある。

  (2)情報公開請求への対応

  地方公共団体でも、いまだに対応の悪さを指摘されるところがある。情報公開法施行直後の外務省の対応についても、その悪さがテレビで放映された(もっとも、これは、機密費問題に絡んで松尾容疑者が作成した文書の公開を請求したという事例に関するものであり、請求者の真剣さにも左右されるところが多いのかもしれない)。それでも、情報公開市民センターの黒田達郎事務局長は、上記日経記事において「霞が関の中央官庁では、直接の担当者が相談窓口まで出向いて文書の特定を手伝ってくれるなど比較的丁寧な対応が目立つ」と語っている。黒田氏は、地方の出先機関について問題視しているようである。これについては、私自身、何とも評価しようがない。或る知人は、サテライト日田問題に関して経済産業省九州経済産業局に情報公開請求をした。この時の対応はよかったという話である。

  出先機関の対応ということでは、むしろ、委任が問題となる。これは、国の出先機関(地方支分部局など)が、情報公開に関する事務を上部の機関に委任しているということである。上記日経記事においては、岡山県の営林署に情報公開請求をしたところ、大阪の近畿中国森林管理局に回されたという話が掲載されている。これは、情報公開法および同法施行令にいう行政機関の定義とも関わってくる。例えば、国立大学の場合は国家行政組織法第8条の2にいう施設等機関であり、情報公開法施行令第1条第2項第1号により、独立の機関とされるので、文部科学省に委任されるということはない。

  また、検察庁は、国家行政組織法第8条の3にいう特別の機関である。そして、情報公開法第2条第1項第5号および同法施行令第1条第3項により、法務省から独立した情報公開の行政機関となる。

  しかし、このような規定がない限り、国の出先機関に情報公開請求がなされた場合、上級の機関に請求がまわされることになりうるので、郵送などの手段があるとしても、遠隔地に居住する者にとっては不便を強いられるであろう。

  また、精確には対応と異なるのかもしれないが、申請から決定までに要する時間について述べておきたい。次に、開示請求から審査(判定)を経て決定に至るまでの状況を概観しておきたい。

  情報公開法は、第10条において、開示決定などの期限を30日以内と定めている。しかし、同第2項において「行政機関の長は、事務処理上の困難その他正当な理由があるときは、同項(注:第1項のこと)に規定する期間を三十日以内に限り延長することができる」と定めている。ここにいう「事務処理上の困難その他正当な理由」の判断は行政機関の長に委ねられているので、延長となる例も少なくないと思われる。また、規定上は再延長が認められないと解釈されるが、延長後の期限が経過しても決定が出されない場合には、不作為の不服申立て、不作為の違法確認訴訟などの手段によることとなる。

  それ以上に問題であるのは、第11条であろう。現在のところ、この条文が適用された例があるか否かについては不明であるが、「開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため、開示請求があった日から六十日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合」、そのうちの「相当の部分について当該期間内に開示決定等をし」た上で「残りの行政文書については相当の期間内に開示決定等をすれば足りる」と規定されている。この「相当の期間」には上限がない。そのため、「著しく大量である」こと、かつ、「事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれ」の判断とともに、どの程度の期間が設定されるのかという問題が生じる。

  (3)請求手続

  現在、政府は、諸外国に比して遅れていると指摘される行政の情報化に取り組んでおり、既に経済産業省などで電子申請などについての検討を始めている(一部の申請手続については、既に始められている)。このことから、情報公開についても、情報化に対応した措置が求められる。実際、情報提供については、現在、各省庁のホームページにおいて積極的になされているところである(それでも、アメリカやドイツに比べれば、入手できる情報は限られている。電子政府の構想が日本においても進められているが、インターネットにおいて、様々な行政関係の情報を容易に入手し得るように整備されることが求められる。そうでなければ、電子政府の意味がなくなる)。しかし、日本において、情報公開手続の電子情報化は、著しく遅れている。情報公開法は、現在、請求が文書で行われることとされているため、ファクシミリはともあれ、電子メールでの請求は、少なくとも条文の上で認められていない。また、請求だけでなく、決定、そして実際の開示も、条文の上では書面でなされることが念頭に置かれている。従って、例えば磁気ディスクに情報をコピーするという形での開示は、条文上、予定されていない。

  たしかに、電磁的記録の場合、紙の文書と異なって、不開示情報が含まれている場合、技術的にその部分の削除などが困難であるという点は避けられない。しかし、最近では、職員が行政文書(地方公共団体の場合、または刑法上では公文書)を作成する場合、コンピューターによることが一般的であって、電磁媒体によって情報が保存される。このことから、紙の文書という形でなく、電磁媒体に記録することによる公開、さらに進んで、電子メールの形による公開が求められることとなろう。

  もっとも、このようにする場合、行政内部の情報化が進められる必要がある。実際、例えば官公庁に質問のメールを出す。そのメールが、受付の課において受け取られると、一旦プリントアウトされ、担当と思われる課に回される。担当課の職員が回答文書を起案し、作成すると、その文書の紙が受付の課に回され、電子メールとして回答されるのである。官公庁内のLANネットワークが不十分なところさえ、意外に多い。電子決裁などのシステムが確立されないと、情報公開手続の電子情報化は難しいのではなかろうか。

  (4)国会および裁判所

  情報公開法の正式の名称は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律である。この点については、既に多くが語られているので、ここでは詳しく取り上げないこととする。ただ、裁判所の情報公開については、とくに、1996年に改正された民事訴訟法第91条・第92条をあげておきたい。これらの規定により、当事者の秘密保護を(少なくとも表向きの)目的とする第三者の閲覧などの制限がなされているが、松井茂記教授も指摘されるように、プライヴァシーや営業秘密の保護は尊重されなければならないとは言え、そのことが裁判記録の公開を広範に制約するということにつながらないし、日本の場合は、そもそも裁判記録が十分ではないという問題点もある(松井・前掲書478頁)。改善が要求されるところである。

  (5)開示決定および不開示決定の公表

  情報公開法第39条は、情報公開法の施行状況について、毎年度、各行政機関の長から受ける報告(総務大臣が求める)を取りまとめ、概要を公表するという義務を、総務大臣に課している。この報告の求め方、そして概要の作成の仕方については、あまり指摘がなされていないようであるが、上記新聞記事のようなスタイルを基礎にしつつ、国民にわかりやすいものとならなければならないであろう。その参考例として、川崎市の公設オンブズマンである川崎市市民オンブズマンの報告書をあげておきたい。

  同報告書は、不服申立件数を、市全体、そして市の機関毎の統計としてまとめている。また、不服申立が認められた事例、認められなかった事例、管轄外となった事例をいくつか紹介している。

  このように、事例(詳細でなくてもよい)をあげることによって、情報公開についても、どのような事案について開示されているのかを示すことができる。これは、利用者側にとっても便宜である。

  そして、件数については、申立件数を当然のこととして、全面開示件数、部分開示件数、全面非開示件数とに分けて公表することが望ましい。場合によっては、全面非開示件数のうち、さらに行政文書府存在の件数、応答拒否の件数を細分化して示す必要もある。さらに、延長件数を示す必要もある。

  また、情報公開法を管轄する総務大臣が、情報公開のあり方について各行政機関の長に改善の勧告などをなすことが考えられてよい。

  (6)特殊法人および独立行政法人の情報公開

  これは、施行以前から指摘されている問題であるが、ここでも簡単に取り上げておく。

  現実の行政活動を概観すると、国の省庁だけが公的な部門に関して活動している訳ではない。むしろ、各省庁の監督を受ける特殊法人が、各省庁に代わって実質的な行政活動を行っている例が多い。そして、行政改革が叫ばれているにも関わらず、特殊法人の整理は進んでいない。また、同じ行政改革の一環として、独立行政法人制度が設けられ、今年から実施されている。この独立行政法人も、法律上、国から独立した人格を有するため、特殊法人と類似するものとなっている。

  情報公開法においては、特殊法人および独立行政法人について、規律の対象としていない。第42条において「その性格及び業務内容に応じ、独立行政法人及び特殊法人の保有する情報の開示及び提供が推進されるよう、情報の公開に関する法制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとする」と規定され、先送りされた。しかし、附則第2項により、公布後2年を目途として、特殊法人および独立行政法人の情報公開に関する法律を制定するものとされている。この法律案は既にでき上がっている。特殊法人(および独立行政法人)は、法的には国と異なる人格を持つため、仮に情報公開を請求しても、不開示決定は行政処分とならず、そのままでは行政不服審査法が適用されない。そのため、特殊法人(および独立行政法人)については、情報公開に際して不開示決定を行政処分とみなすなどの方策が取られることとなる(なお、認可法人や特殊会社は、特殊法人および独立行政法人に関する情報公開法の対象から外されている。この点も、問題視されるかもしれない)。

  ここで、独立行政法人とは、独立行政法人通則法第2条第1項に規定されるものをいう。また、特殊法人とは、「法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、」総務省設置法「第4条第15号の規定を受けるものをいう」と定義されている。

 

X 市民オンブズマン活動への注文など

  最近、地方公共団体の中には、情報公開請求に「慣れ」が生じ、オンブズマンの請求など怖くも何ともないという雰囲気も出ているようである。実際、私が知っている某市職員氏は、交際費の請求などについて、そんな瑣末なことを請求されても痛くも痒くもない、これなら内部監査のほうが怖い、情報公開を通じて行政を監視するというが、本当にその意味で情報公開制度を使いこなせる人はほとんどいない、と話してくれた。

  また、私は、「みんなでつくろうシティズンズ・チャーター」というホームページの「ネットワークWhy Not?」にも入っている。そこにおいて、情報公開度ランキングについて議論をしたが、多くのメンバー(公務員も多いが、実業家、サラリーマンなどもおられる)が、ランキングの意味について疑念を呈しておられた。これは、当日発表された大分県内市町村の情報公開ランキングを見ると、一層、妥当であるという感を強くする。

  さらに、くまもと・市民オンブズマンのホームページに備えられている掲示板には、「警察の癒着の構造にもメスを入れるべきはない」か、「これをやれた時に初めてオンブズマンは市民に広く受け入れられる」、「今の状態はオンブズマンによるオンブズマンの為のオンブズマンだと思う」という書き込みがある。

  残念ながら、4月2日の情報公開請求の様子などをみると、この批判は当っている、と判断せざるをえない部分がある。たしかに、全国各地の市民オンブズマン活動により、交際費などの透明化などがなされ、地方自治体の行財政などに大きな影響を与えたことは否定しない。しかし、残念ながら、市民オンブズマン活動には、公金の不正支出を監視するという点に制約されているのではないかという感をぬぐいきれない。地方分権、住民自治の強化という観点からすれば、住民の要求は公金の不正支出というものを超えている。その意味において、市民オンブズマンの活動は、相対的に矮小化しつつあり、住民の意思から、少しずつではあるが離れていく傾向にある。また、どのようなものであれ、公金が支出されれば正当性を追求するという、あたかも市民オンブズマン活動の存在をアピールするような動きに出ていないだろうか。

  その意味において、くまもと・市民オンブズマンの掲示板に出ているような批判が出ていることについて、謙虚に受け止め、情報公開請求の原点に立ち返って欲しい。そうでなければ、情報公開制度の意味が失われかねない。

 

(2001年5月23日掲載。なお、最後の部分だけ、5月22日に加筆)

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