税法・財政法試験問題集・その6 解説など
なお、都合により、必答の(1)と選択の(2)について解説を加えます。
(1)について
問題文には、次のような条件が課されている。
ア:乙の当初の相続額は3000万円、丙の当初の相続額は4000万円、丁の当初の相続額は4000万円、戊の当初の相続額は4000万円であった。
イ:その後、甲の遺産が新たに発見された。その結果、合計課税価格は3000万円増えて1億8000万円となった。基礎控除の額に変更はない。相続のやり直しの結果、乙の相続額は1000万円増えて4000万円、丙の相続額は1000万円増えて5000万円、丁の相続額は1000万円増えて5000万円となったが、戊の相続額のみは当初の相続額のままの4000万円であった。
そこで、これに忠実に計算する。なお、実は簡易な計算式が存在するのであるが、レポートの中には超過累進税率の基礎を理解していないと思われるものが散見されたので、ここでは簡易な計算式を使わず、基本に忠実に、という意味で、あえて面倒な計算方法を使用する。
ア 問題文には敢えて示していないが、合計課税価格が1億5000万円であることはすぐにおわかりであろう。
相続人は4人であるから、基礎控除額は
50,000,000+10,000,000×4=50,000,000+40,000,000=90,000,000 (円)
従って、課税遺産額は
150,000,000−90,000,000=60,000,000(円)
となる。
ここで、一旦、4人が法定相続分に応じて相続したと仮定する。
乙は、課税遺産額のうちの半分を相続することになるから30,000,000円を相続することになる。また、丙、丁および戊は実子なので、それぞれ10,000,000円を相続することになる。
ここで相続税額の合計を計算する。税率は、相続税法第16条による。
乙については
10,000,000×0.1+(30,000,000−10,000,000)×0.15=1,000,000+3,000,000=4,000,000(円)
丙、丁および戊については
10,000,000×0.1=1,000,000(円)
従って、4人が負担すべき相続税額の合計は700万円となる。
今度は、この700万円を、実際の相続分の割合に応じて分割することになる。
乙については
7,000,000×30,000,000/150,000,000=7,000,000×1/5=1,400,000(円)
丙、丁および戊については
7,000,000×40,000,000/150,000,000=7,000,000×4/15=1,866,666(円)
以上のようになる(なお、本来であれば100円単位以下切り捨てなどとやるが、ここでは小数点以下を切り捨てとしている)。
イ やはり、敢えて問題文には示していないが、合計課税価格が3000万円増えて1億8000万円になったことになる(実際には、非課税分その他のややこしい問題が存在するが、ここでは一切省略し、合計課税価格が増えたことにしている)。
基礎控除額には変わりがないので、アと同様に計算すると、課税遺産額は9000万円となる。
そこで、やはり法定相続分による相続が行われたと仮定する。当然ながら、税率は、相続税法第16条による。
乙については
10,000,000×0.1+(30,000,000−10,000,000)×0.15+(45,000,000−30,000,000)×0.2=1,000,000+3,000,000+3,000,000=7,000,000(円)
丙、丁および戊については
10,000,000×0.1+(15,000,000−10,000,000)×0.15=1,000,000+750,000=1,750,000(円)
従って、4人が負担すべき相続税額の合計は1225万円となる。
今度は、この1225万円を、実際の相続分の割合に応じて分割することになる。
乙については
12,250,000×40,000,000/180,000,000=12,250,000×4/18=2,722,222(円)
丙については
12,250,000×50,000,000/180,000,000=12,250,000×5/18=3,402,777(円)
丁については
12,250,000×50,000,000/180,000,000=12,250,000×5/18=3,402,777(円)
戊については
12,250,000×40,000,000/180,000,000=12,250,000×4/18=2,722,222(円)
以上のようになる。
さて、ここで、アとイとを比較して欲しい。とくに、相続財産の合計額が増えたにもかかわらず、相続分が増えていない戊について比較していただきたい。
アの場合、戊の相続税額は1,866,666円である。しかし、イの場合、戊の相続税額は2,722,222円である。相続分が増えていないのに、税額は85万5000円ほど増えるのである。これはおかしな話であろう。相続の割合が減少しているのに、納税負担は増えるのであるから。
もし、このような事態になった場合(相続遺産の価額評価の計算などによっては、十分に起こりうる)、多少欲をかいてでも相続分を増やさない限り、戊のような人は損をすることになる。実際の計算結果などにもよるが、1万円でも多く相続したほうがかえってトクなのである。
但し、実際にそのような場面になり、私がここで記したようなことを行い、そのために相続人間で紛争が起こったとしても、当方は責任を負いません。あしからず。
(2)について
ここでは、実際に、流通過程に免税事業者が入らない場合と入る場合とを比較してみることとする。
まず、次のような事例を考えてみる。計算の都合上、税率は10パーセントとする。
製造業者A 売上価格:1000円
税額:100円一次卸売業者B 仕入価格:1100円(このうち、税は100円)
付加価値:1000円
売上価格(税抜き)は2000円、これに対する税額は200円
納税額は100円(200−100=100)
二次卸売業者C 仕入価格:2200円(うち、税は200円)
付加価値:1000円売上価格(税抜き)は3000円、これに対する税額は300円
納税額は100円(300−200=100)
小売業者D 仕入価格:3300円(このうち、税は300円)
付加価値:1000円
売上価格(税抜き)は4000円、これに対する税額は400円
納税額は100円(400−300=100)
消費者E 購入価格:4000円(このうち、税は400円)
さて、ここで免税事業者が入ると、どのようなことになるのか。
免税事業者の場合は、消費税の納税義務がない(当然である)。そのために仕入税額控除もできない。ここで、上の例に登場するCが免税事業者であったとすると、次のようになる。なお、税率は上と同様に10パーセントとする。
製造業者A 売上価格:1000円
税額:100円一次卸売業者B 仕入価格:1100円(このうち、税は100円)
付加価値:1000円売上価格(税抜き)は2000円、これに対する税額は200円
納税額は100円(200−100=100)
二次卸売業者C 仕入価格:2200円(うち、税は200円)
付加価値:1000円売上価格(税込み)は3200円(200円はそのまま上乗せ)
納税額は0円
小売業者D 仕入価格:3200円(このうち、税は200円)
付加価値:1000円
売上価格(税抜き)は、仕入税額控除ができないので4200円。
これに対する税額は420円
納税額は420円(仕入税額控除ができないため)
消費者E 購入価格:4620円(このうち、税は420円)
以上を比較して、次のことがわかる。
Cが免税事業者でなければ、仕入税額控除ができるから、Dも仕入税額控除ができることになり、Dの納税額は100円となる。そしてEが最終的に負担させられる消費税額は400円となる。これは、AないしDが納税義務を負う額の合計額と同一である。
しかし、Cが免税事業者であると、C自身は納税義務を負わないが、AないしBの納税義務分について仕入税額控除ができない。このため、Cの小売価格には200円がそのまま上乗せされる(そうしないとCは利益を確保することができない)。そしてDは、3200円を仕入価格とするのであるが、やはり仕入税額控除ができないので、利益を確保するためには売上価格を4200円と、200円多くしなければならない。そして、この売上価格に税率がかかるので、Dは420円の納税義務を負うことになる。そしてEに品物が譲渡されると、結局、220円分も負担が増えることになってしまう。
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