税法・財政法試験問題集・その71 解説など
設問1について
もう一度、Aの遺族について見ていただきたい。本来であれば、ここで図を示すのが最善であるが、仕様の都合などにより、文章で説明する。
相続税の基礎控除は、相続税法第15条第2項により、民法第5編第2章に規定される相続人、すなわち法定相続人の数により計算する。計算式は次の通りである。
3000万円+600万円×(法定相続人の数)=(基礎控除の額)
但し、ここで注意しなければならないのは、相続税法第15条第2項の( )内の言葉である。
まず、「当該被相続人に養子がある場合の当該相続人の数に算入する当該被相続人の養子の数は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める養子の数に限るものと」され、第1号において「当該被相続人に実子がある場合又は当該被相続人に実子がなく、養子の数が一人である場合」は1人、第2号において「当該被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合」は2人まで、養子を基礎控除の額の計算に含めることができる。本設問の場合はHという実子がいるので、第1号が適用される。
次に、「相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする」こととなる。従って、本設問の場合は配偶者であるBが相続を放棄したが、基礎控除の額の計算においてはBが相続を放棄しなかったものとみなすこととなる。
さらに、本設問において注意しなければならないのは、養子であるCがAより先に亡くなっており、そのCの子としてEおよびFがいることである。この場合はEおよびFが代襲相続人となるので、基礎控除の額の計算に際しては当然、法定相続人の数に入れる。レポートを読んでいると、EとFのどちらか一人のみが基礎控除の額の算定に際して考慮されるという解答が散見されたが、法定相続分の話ではないのでEもFも立派に1人と数えられる。
従って、本設問において、まず、法定相続人はB、E、F、G、HおよびIの6人となるが、Hは実子であるのに対し、GおよびIは養子であるため、基礎控除の額の計算に際しては法定相続人は5人として扱われることとなる。
以上から、基礎控除の額は、
3000万円+600万円×5=3000万円+3000万円=6000万円
となる。
設問2について
次は遺言書が残されている場合である。遺言においては法定相続人でない者にも財産を継承させる旨の意思表示をなすことができるから、誰が法定相続人であるかを見極めなければ、相続税額の計算を行うことができなくなる。
まず、法定相続人は、配偶者のb、実子のd、eおよびfである。このうち、fは相続を放棄しているが、基礎控除の額の計算においてはfが相続を放棄しなかったものとみなされるのは、設問1と同様である。
これに対し、cは法定相続人ではない。aの弟であり、かつ、上記の通りaには実子がいるからである。また、設問1と異なり、gは代襲相続人ではない。従って法定相続人でもない。gの親であり、かつaの実子であるdは生存しているからである。
以上から、基礎控除の額は、
3000万円+600万円×4=3000万円+2400万円=5400万円
である。
なお、レポートの中に、cとgについては相続税額の20%加算(相続税法第18条)が適用されるとして基礎控除の額を計算しているものがあったが、相続税額の20%加算と基礎控除の額の計算は全く異なる話であるから、混同してはならない。