税法・財政法試験問題集・その88 解説など

 

 

 

 都合上、〔1〕のみについて解説する。

 (1)Aは、2018年4月10日に、2500万円という評価がなされた財産の贈与を父(満61歳)から受けた。これについては相続時清算課税制度の適用を選択した。

 また、Aは、同年5月1日に、1500万円という評価がなされた財産の贈与を母(満61歳)から受けた。これについて相続時清算課税制度の適用を選択しなかった。

 まず、Aが父から贈与を受けた分については、相続時清算課税制度の適用を選択しているので、

 25,000,000-25,000,000)×0.2=0×0.2=0

 従って、この分についての贈与税は0円である。

 次に、Aが母から贈与を受けた分については、相続時清算課税制度の適用を選択していないので、贈与税額の計算をする。まず、贈与税の基礎控除額は110万円なので、基礎控除額の課税価格は、

 15,000,000-1,100,000=13,900,000

 この課税価格に税率を適用する。この場合には相続税法第21条の7ではなく、租税特別措置法第70条の2の5に定められる税率が適用される〔2015(平成27)年1月1日以後に、満20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合に該当するためである〕。税率表は次の通り。

基礎控除後の課税価格

税率

速算法(基礎控除後の課税価格をXとする)

200万円以下の金額

10

0.1X(円)

200万円を超え400万円以下の金額

15

0.15X-100,000(円)

400万円を超え600万円以下の金額

20

0.2X-300,000(円)

600万円を超え1000万円以下の金額

30%

0.3X-900,000(円)

1000万円を超え1500万円以下の金額

40

0.4X-1,900,000(円)

1500万円を超え3000万円以下の金額

45%

0.45X-2,650,000(円)

3000万円を超え4500万円以下の金額

50

0.5X-4,150,000(円)

4500万円を超える金額

55%

0.55X-6,400,000(円)

 ∴13,900,000×0.4-1,900,000=3,660,000

 従って、この分についての贈与税は366万円である。

 以上から、Aが納付しなければならない贈与税は366万円である。

 ▲(2)および(3)に含まれる問題のために、相続時清算課税制度の適用が全くなかった場合について計算すると、父から贈与された財産と母から贈与された財産とを合算した上で贈与税額を計算するから、次のようになる。

 25,000,000+15,000,0001,100,000=38,900,000

 38,900,000×0.5-4,150,000=15,300,000

 ▲やはり(2)および(3)に含まれる問題のために、母から贈与された財産がなく、かつ、父から贈与を受けた財産について相続時清算課税制度の適用がなかった場合について計算すると、次のようになる。

 25,000,000-1,100,000=23,900,000

 23,900,000×0.45-2,650,000=13,405,000

 (2)2019年4月以降に父が亡くなり、相続が開始されたとする。この時点での相続人は母、Aおよびその兄弟姉妹Bである。また、この時点での相続財産の価額は5000万円であり、2018年4月10日に父から贈与された財産の評価額は3500万円になっている。遺言はないので全員が法定相続分にしたがって相続する。

 (3)2019年4月以降に父が亡くなり、相続が開始されたとする。この時点での相続人は母、Aおよびその兄弟姉妹Bである。また、この時点での相続財産の価額は5000万円であり、2018年4月10日に父から贈与された財産の評価額は1500万円になっている。遺言はないので全員が法定相続分にしたがって相続する。

 (2)と(3)は互いに関係するものであるが、2018年4月10日に父から贈与された財産の評価額が異なる点に注意して欲しい。ここが、相続時清算課税制度の適用を受けるべきか否かについての肝心な点であり、講義でギャンブルのようなものと評価したところでもある。

 @まずは、相続税法(および租税特別措置法)に従い、計算する。

 この場合には、2018年4月10日に父から贈与された財産について相続時清算課税制度の適用を受けているので、父の相続遺産に贈与財産を加算しなければならない。なお、相続時清算課税制度の適用を受けた上で既に贈与税を納付している場合は、その贈与税額を相続税額から控除するのであるが、本設問においては贈与税額が0円である。

 また、相続時清算課税制度の適用を受けている場合に加算する贈与財産の価額は贈与時の価額であり、相続時の価額ではない。従って、本設問の場合は3500万円ではなく、2500万円を加算することとなる。

 まず、相続財産の価額に贈与財産の価額(贈与時の価額)を加算すると、

 50,000,0002,500,000=75,000,000

 法定相続人は3人なので、基礎控除額は、

 30,000,000+3×6,000,000=48,000,000

 従って、課税遺産額は、

 75,000,000-48,000,000=27,000,000

 ここで、相続税の総額を計算する。いかなる場合であっても法定相続分により相続をしたと仮定するので、次のように計算する。

 母については、課税遺産額の2分の1を相続すると仮定するから、

 27,000,000÷2×=13,500,000

 Aについては、課税遺産額の4分の1を相続すると仮定するから、

 27,000,000÷2÷2=6,750,000

 Bについても、課税遺産額の4分の1を相続すると仮定するから、

 27,000,000÷2÷2=6,750,000

 母については、相続税法第16条の税率を適用すると、

 13,500,000×0.15-500,000=1,525,000

 Aについては、相続税法第16条の税率を適用すると、

 6,750,000×0.1=675,000

 Bについても、相続税法第16条の税率を適用すると、Aと同額になる。

 従って、相続税の総額は、

 1,525,000+675,000×2=1,525,000+1,350,000=2,875,000

 こうして得られた総額を実際の相続分に応じて配分する訳であるが、遺言はないので法定相続分通りに配分すると、

 母:2,875,000÷2=1,437,500 (但し、配偶者特別控除の適用により、実際の納税額は0円)

 A:2,875,000÷4=718,750 (1000円未満を切り捨てて718, 000円)

 B:2,875,000÷4=718,750 (1000円未満を切り捨てて718, 000円)

 ここまでが、相続時清算課税制度の適用を受けた場合における相続税の額の計算である。

 Aさて、(2)では父から贈与された財産の評価額が2500万円から3500万円に上昇している。そこで、本来とは異なり、相続時清算課税制度の適用を受けている場合に加算する贈与財産の価額を相続時の価額であるとして計算してみる。

 まず、相続財産の価額に贈与財産の価額(贈与時の価額)を加算すると、

 50,000,0003,500,000=85,000,000

 法定相続人は3人なので、基礎控除額は、

 30,000,000+3×6,000,000=48,000,000

 従って、課税遺産額は、

 85,000,000-48,000,000=37,000,000

 ここで、相続税の総額を計算する。いかなる場合であっても法定相続分により相続をしたと仮定するので、次のように計算する。

 母については、課税遺産額の2分の1を相続すると仮定するから、

 37,000,000÷2×=18,500,000

 Aについては、課税遺産額の4分の1を相続すると仮定するから、

 37,000,000÷2÷2=9,250,000

 Bについても、課税遺産額の4分の1を相続すると仮定するから、

 37,000,000÷2÷2=9,250,000

 母については、相続税法第16条の税率を適用すると、

 18,500,000×0.15-500,000=2,275,000

 Aについては、相続税法第16条の税率を適用すると、

 9,250,000×0.1=925,000

 Bについても、相続税法第16条の税率を適用すると、Aと同額になる。

 従って、相続税の総額は、

 2,275,000+925,000×2=2,275,000+1,850,000=4,125,000

 こうして得られた総額を実際の相続分に応じて配分する訳であるが、遺言はないので法定相続分通りに配分すると、

 母:4,125,000÷2=2,062,500 (但し、配偶者特別控除の適用により、実際の納税額は0円)

 A:4,125,000÷4=1,031,250 (1000円未満を切り捨てて1,031,000円)

 B:4,125,000÷4=1,031,250 (1000円未満を切り捨てて1,031,000円)

 ここで、@で得られた結果とAで得られた結果を比較して欲しい。父から受けた贈与財産の価額が上昇していたならば、Aが納付すべき相続税額は1,031,000円であるはずであるが、贈与時の価額を加算するために718, 000円に収まっている。相続税額で313,000円も低くなることがわかる。

 B次に、(3)では父から贈与された財産の評価額が2500万円から1500万円に下落している。そこで、本来とは異なり、Aと同じく、相続時清算課税制度の適用を受けている場合に加算する贈与財産の価額を相続時の価額であるとして計算してみる。

 まず、相続財産の価額に贈与財産の価額(贈与時の価額)を加算すると、

 50,000,0001,500,000=65,000,000

 法定相続人は3人なので、基礎控除額は、

 30,000,000+3×6,000,000=48,000,000

 従って、課税遺産額は、

 85,000,000-48,000,000=17,000,000

 ここで、相続税の総額を計算する。いかなる場合であっても法定相続分により相続をしたと仮定するので、次のように計算する。

 母については、課税遺産額の2分の1を相続すると仮定するから、

 17,000,000÷2×=8,500,000

 Aについては、課税遺産額の4分の1を相続すると仮定するから、

 17,000,000÷2÷2=4,250,000

 Bについても、課税遺産額の4分の1を相続すると仮定するから、

 17,000,000÷2÷2=4,250,000

 母については、相続税法第16条の税率を適用すると、

 8,500,000×0.1=850,000

 Aについては、相続税法第16条の税率を適用すると、

 4,250,000×0.1=425,000

 Bについても、相続税法第16条の税率を適用すると、Aと同額になる。

 従って、相続税の総額は、

 850,000+425,000×2=850,000+850,000=1,700,000

 こうして得られた総額を実際の相続分に応じて配分する訳であるが、遺言はないので法定相続分通りに配分すると、

 母:1,700,000÷2=850,000 (但し、配偶者特別控除の適用により、実際の納税額は0円)

 A:1,700,000÷4=425,000

 B:1,700,000÷4=425,000

 ここで、@で得られた結果とBで得られた結果を比較して欲しい。父から受けた贈与財産の価額が下落していたならば、Aが納付すべき相続税額は425,000円であるはずであるが、贈与時の価額を加算するために718, 000円である。相続税額で293,000円も高くなることがわかる。

 ●今回の事例では、相続時清算課税制度の適用を全く受けなかった場合の贈与税額が1530万円(父から贈与された財産のみであるとすれば1340万5千円)、適用を受けた場合の贈与税額が366万円であるため、多少の財産価額の変動があっても相続時清算課税制度の適用を受けたほうが得であると思われるかもしれない。しかし、これは相続財産の価額、相続時清算課税制度の適用を受けた贈与の回数などに左右されるのである。  

 

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