行政法試験問題集・その5

 

大分大学教育福祉科学部・法律学特講2003年度夏季休暇課題〔2003年7月22日出題〕

 

(1)設問の形式に関係なく、誤っている選択肢については、その理由を簡潔に(3行以内で)記して下さい(理解を深めるために)。

(2)提出日まで、質問等は御自由に、できれば積極的に(但し、まずは自分でよく考えて、参考書などもよく読んでから。また、研究室にいないときもあります。電子メールは、kraft@d1.dion.ne.jp まで)。

(3)提出日は、9月12日までとします。研究室に持参して下さい。なお、私が不在の場合は、扉に貼られている袋の中に入れて下さい。

(4)採点などが済みましたら、返却いたします。

 

1.行政の定義に関する以下の記述のうち、誤っているものはどれか。

@行政を「司法でもなく立法でもない一切の国家作用である」(Julius Hatscheck)と定義するのが消極説である。

A行政を「国家がその法秩序の下で、その目的を実現するための、司法以外の作用である」(Otto Mayer)と定義するのが積極説である。

B日本においては、積極説が通説である。

C憲法第65条において「行政は、内閣に属する」とされ、第73条各号などに内閣の権限が規定されているが、これは形式的意義の行政に関する事柄であり、こうした権限の中には、実質的意義の行政とは言えない事柄も含まれている。

 

2.法律の留保に関する以下の記述のうち、誤っているものはどれか。

@侵害留保説によれば、国民の自由と権利を侵害する行為については法律の根拠が必要である。

A行政の全ての活動について法律の根拠が必要であるとする見解は、全部留保説とよばれ、現在の判例・通説である。

B権力的な行為であれば、侵害的か授益的かを問わず法律の根拠が必要だとする見解は権力留保説である。

C重要事項留保説(本質留保説)は、行為が授益的か侵害的か、あるいは権力的か非権力的かに関わらず、重要な事項は法律で定めるべきとする説である。

 

3.行政上の法律関係に関する次の記述のうち、判例に照らして妥当なものはどれか。(国家T種)

@いわゆる4現業に勤務する一般職の国家公務員には公共企業団体等関係法およびいわゆる労働三法の適用があるから、その勤務関係は国家公務員法の適用される非現業の一般職の国家公務員のそれと異なり、基本的には私法上の労働契約関係である。

A恩給法は公権たる恩給権の保護を目的としてこれを担保に供することを禁止しているものであるから、恩給権者たる債務者が債権者に恩給金の受領を委任し、債権者をしてその受領した恩給金を債務の弁済に充当させる契約は、実質的に恩給権に質権を設定する契約と同視されるべきものであり無効である。

B国が国税滞納者の財産を差し押さえた場合における国の地位は民事執行法における差押債権者の地位に類するものであり、租税債権が公法上のものであることは国が一般私法上の債権者より不利益な取扱いを受ける理由とはならないから、国税の滞納処分による差押の関係においても民法177条の適用がある。

C村民が村道を通行することができるのは、村民が村道通行権と称する公権を有するからではなく、村がこれを村道として開設していることの反射的効果であるから、個々の村民はたとえ第三者の不法な行為により村道の利用を継続的に妨害されても、当該第三者にこの妨害の排除を請求することはできない。

D市議会の議員の報酬については市が議員に対してこれを支給しなければならない義務を負うものであって、これを受ける権利は公法上の権利であるから、条例に譲渡禁止の規定がなくとも、あらかじめこの権利を任意に譲渡することはできない。

 

4.行政法関係における信義則ないし信頼保護の原則に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当なものはどれか。(国家T種)

@法律による行政の原理、とりわけ租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、法の一般原理である信義則の法理の適用については慎重でなければならず、租税法規における納税者間の平等・公平という要請を犠牲にすることなく、当該課税処分にかかわる課税を免れしめて納税者の信頼を保護することができるような特別の事情が存する場合に初めて右法理の適用の是非を考えるべきである。

A公営住宅の使用関係には、公営住宅法およびこれに基づく条例の定めが適用され、民法および借地借家法の規定は適用されないが、その関係を規律するにあたっては法および条例の定めのほか、法の一般原則である信義則が適用されると解されるから、公営住宅の使用者が法の定める明渡請求事由に該当する行為をした場合であっても、賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情のあるときは、事業主体の長は明渡しを請求することはできない。

B地方公共団体が一定内容の将来にわたって継続すべき施策を決定した場合であって、かつ特定のものに対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘がなされ、その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提として初めてこれに投入する資金または労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合には、密接な交渉をもつに至った当事者の関係を規律すべき信義衡平の原則に照らし、その施策の変更に当たっては、かかる信頼に対して法的保護が与えられなければならない。

C給水装置新設工事の申込みに対し、当該建物が建築確認を受けていないものであることを理由として受理を拒否することは、水道法15条1項にいう「正当の理由」によるものとは解されず、また水道事業者が地方公共団体である場合には、事業者と利用者の関係は契約関係ではなく公の施設の利用関係であると解されるから、たとえ当該建物の建築に至った経緯、違反の程度、是正の勧告に対する対応等を総合較量して、申込みが信義に反すると認められると認められる特段の事情があるときであっても、右受理の拒否は違法であるといわざるをえない。

D公有行政財産たる土地につき使用許可によって与えられた使用権は、それが期間の定めのない場合であれば、当該行政財産本来の用途または目的上の必要が生じたときは、その時点において原則として消滅すべきものであり、また、権利自体に右のような制約が内在しているとみるのが相当であるが、使用権者が使用許可を受けるに当たって、その対価の支払いをしたという特別の事情が存する場合には、法の一般原則である信義則に基づき、利用権の消滅に伴って生ずる損失を補償することが要請される。

 
参考〕水道法15条1項  水道事業者は事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。

5.次のうち行政処分にあたる行為はどれか。(地方上級。一部改)

  @国有財産を、それを管理する財務大臣が払い下げた。

  A国会が新規の税制を採用する議決をし、それを官報で公示した。

  B知事が建築許可基準を決めるにあたり、消防署長の意見を聴取した。

  C勤務成績不良な公務員を本人の意思に反して降職させた。

  D公有地の利用に関して、議員がゴミ焼却場建設の計画書を議会に提出した。

 

6.行政行為の効力に関する以下の記述のうち、誤っているものはどれか。

@違法な行政行為でも権限のある者が取り消すまでは有効なものとして扱われるというのが、公定力である。

A一定期間が経過すると国民の側から取消しを求められなくなるのが不可争力である。

B執行力は行政行為に当然に付随する効力である。

C裁決や審決という名称の行政行為にはしばしば不可変更力を伴う。

  D不可変更力を伴う行政行為の中には、上級行政庁や裁判所であってもこうした行政行為の変更や取消をなしえない場合がある。この場合には、実質的確定力が伴うことになる。

 

7.行政行為の効力に関する次の記述のうち、通説に照らして妥当なものはどれか。(国家T種)

  @行政行為は公定力を有するから、行政行為に重大かつ明白な違法がある場合にその無効を主張するためには、まず、行政事件訴訟によって無効の確認を得なければならないが、その際に出訴期間の制限はない。

  A行政行為は公定力を有するから、違法な行政行為によって損害を受けた場合でも、当該行政行為の取消を得た後でなければ損害賠償請求をすることはできない。

  B行政行為は、行政事件訴訟法に定められた出訴期間を過ぎれば不可争力を生ずるから、その期間の経過後には行政庁も行政行為を職権で取り消すことができなくなる。

  C行政行為は不可変更力を生ずる場合があり、実質的にみて法律上の争訟の裁判の性質を有する裁決のような行政行為は、特別の規定がない限り、裁決庁は自ら職権でこれを取り消すことはできない。

  D行政行為は執行力を有するから、法律上特別の規定がなくても、行政庁はその判断に基づき、聴聞等の手続を経て自力で行政行為の内容を実現することができる。

 

8.以下の記述のうち、学問上の許可と認可に関する説明として誤っているものはどれか。

@ある行政行為が許可か認可は法令上の名称によって決まる。

A認可は法的効果を完成させる行政行為である。

B必要な認可を得ずになした法律行為は無効となるのが原則である。

C必要な許可を得ずになした法律行為でも無効となるとは限らない。

  D許可を命令的行為に含め、認可を形成的行為に含めるのが通説であるが、許可も形成的行為に含める説も存在する。

 

9.公定力と行政行為の瑕疵に関する以下の説明のうち、正しいものを二つ選びなさい。

@ある行政行為の取消しを待たずに、その行政行為の違法を主張して国家賠償を求めることは違法である。

A瑕疵が軽微な場合には、取消原因とならないこともある。

B必要な聴聞を実施しないで行った営業許可取消処分は違法であるが、取り消しうるに留まり、無効ではない。

C無効な行政行為を争う場合には、原則として3ヵ月以内に訴訟を提起する必要がある。

D死者に対する固定資産税の課税処分は、「違法行為の転換」の法理により、そのまま相続人に対する課税処分として効力を有する場合もあるというのが判例の立場である。

 

10.行政行為の無効、取消に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。(国税)

  @行政行為が対世的に無効であるというためには、当該行政行為に内在する瑕疵が重要な法規違反であるという要件に該当すれば足りる。

A重大かつ明白な瑕疵を有する行政行為であっても、それが一応の行政行為らしい外観を備えているときは、その効力を否定できるのは、その行為の相手方のみにとどまる。

B無効な行政行為の場合は正当な権限のある行政庁または裁判所の判断をまつまでもなく、その無効を主張することが認められており、審査請求の前置および出訴期間の制限のいずれもが排除されている。

C行政行為に瑕疵がある場合には、当該行政行為を取り消すことが法律生活の安定を害するとか社会公共の福祉に重大な影響がある場合であっても、それを有効な行為として取り扱うことは許されない。

D行政行為が書面によることを要件としている場合に書面によらずにした行政行為は取り消し得べき行政行為にとどまるから、正当な権限のある行政庁または裁判所による取消により初めてその効力を失う。

 

11.瑕疵ある行政行為を取り消し得べき行政行為と無効の行政行為とに分けた場合、次のうち前者に該当するものはどれか。(地方上級)

  @任期の満了した議員が議事に加わって行われた地方議会の議決。

  A適法な召集手続をふまずに行われた地方議会の議決。

  B相手方の詐欺に基づいて行われた行政行為。

  C書面によることが要件とされている場合に書面によらず口頭で行われた行政行為。

D死者に対して行われた行政行為。

 

12.行政行為の取消と撤回に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。(国税)

@取消権は、処分行政庁のみならず監督行政庁もこれを有する場合があるが、撤回権は原則として処分行政庁のみがこれを有する。

A裁量処分の取消権は、処分行政庁のみがこれを有し、裁判所は撤回権のみを有する。

B裁判所は、取消原因の存する場合は、その処分の取消が公共の利益に反する場合であっても常に取り消さなくてはならない。

C取消も撤回も、その効果は既往に遡ることを原則とするが、処分の相手方の権利または利益を侵害することになる場合は、この限りでない。

D撤回は、成立に瑕疵のない行政行為の効力を失わしめる行為であることから、処分の相手方に有利な場合はともかく、権利侵害となる場合は絶対に許されないとするのが通説である。

 

13.行政裁量に関する以下の記述のうち、誤っているものはどれか。

@行政裁量は行政行為についてとくに問題とされるが、行政立法などについても認められる。

A「公益上必要があるとき」に該当するかどうかについて行政庁が判断する際には、「効果裁量」が認められる。

B裁量行為でも、裁量権の逸脱や濫用がある場合には違法となる。そのため、恣意的な裁量権の行使、または報復的な目的による裁量権の行使は違法となる。

C法令上の要件に該当するかどうかの判断に関して行政庁に認められる裁量は「要件裁量」である。

D行政庁が或る処分をなす際に、「要件裁量」と「効果裁量」のいずれをも考慮しなければならない場合がある。

 

14.行政裁量に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らして妥当なものはどれか。(国家T種)

@出入国管理及び難民認定法が在留外国人の在留期間の更新事由を概括的に規定し、その判断基準を特に定めていないのは更新事由の有無の判断を法務大臣の自由裁量に委ねる趣旨であるから、法務大臣の判断について裁判所の裁判権は一切及ばない。

A仮に法律の明文が自由裁量を認めているかのように規定している場合であっても、権利または自由を制限、剥奪する行為について条理上羈束裁量と解すべきであるから、国公立大学の学生の懲戒処分について懲戒処分を行うか否か、またいずれの処分を選択するかについては懲戒権者の裁量は認められない。

B個室付浴場の建設予定地の近所に、県知事が児童福祉法で定める児童福祉施設の設置を認可した場合において、当該認可が同法の目的とは無関係に開業を阻止することを主たる目的として行われたとしても、裁量を誤った違法なものとはいえない。

C個人タクシー事業の免許申請については、法律上、審査、判定の手続、方法等に関する明文の規定がないから、免許を与えるか否かは行政庁の自由裁量に委ねられていると解されており、行政庁が具体的な審査基準の設定等の手続も採らずに申請を却下しても違法ではない。

D地方公務員法に基づく分限処分は、任命権者の純然たる自由裁量に委ねられているものではなく、処分理由の有無につき考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断された場合には、裁量権の行使を誤ったものとして違法である。

 

15.行政裁量に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らして妥当なものはどれか。(国家U種)

@公立大学における学生に対する懲戒処分については、その処分が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか、または社会観念上著しく妥当性を欠き裁量権の範囲をこえるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されている。

A自動車運転手の交通取締法規違反の行為が、法条所定の運転免許取消の事由に該当するか否かは、道路における危険防止の観点に照らし具体的事案ごとに判断を要するから、もっぱら公安委員会の自由裁量に委ねられるべきものである。

B国家公務員に対する懲戒処分については、内部管理における当然の作用として懲戒権者の裁量に任されているものであるから、懲戒権者が行う懲戒処分が裁量権の濫用として違法となる余地はない。

C農地に関する賃借権の設定移転につき、法律が小作権保護の必要上これに制限を加え、その効力を農地委員会の承認に係らせているのは個人の自由の制限ではあるが、法律が承認について客観的を定めていない以上、承認するか否かは農地委員会の自由裁量に委ねられていると解すべきである。

D外国人の在留期間の更新は、法務大臣の裁量権限に属するが、裁判所はその権限が法の目的に従って適切に行使されたか否かを審査判断することができる。

 

16.行政不服審査法に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。(国家U種)

@行政庁の処分についてそれが違法または不当であるか否かの第一次的判断権は行政庁に委ねられているから、原則として行政庁に対する裁決を経なければ行政事件訴訟を提起することはできない。

A審査請求において処分が違法または不当ではあるが、これを取り消しまたは撤廃することにより公の利益に著しい障害を生ずると考えられる場合には審査庁は当該審査請求を棄却することができる場合がある。

B不服申立ては、簡易迅速な手続を旨として書面により審理され、行政事件訴訟法における場合異なり、不服申立人が口頭で意見を述べることは認められていない。

C審査庁が原処分庁の上級行政庁である場合において、審査庁がその一般監督権の作用として審査請求人の不利益に原処分を変更することが相当であると認めるときは、審査庁は裁決でこれをすることができる。

D審査請求がなされた場合には、処分庁は裁決がなされるまで原則として当該処分の執行を停止しなければならない。

 

17.行政不服審査法上の不服申し立てに関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。(国家T種)

@不服申立ての対象となる行政庁の処分とは、行政庁が優越的な地位において公権力の発動として公法的規制をする行為であり、準法律行為的行政行為を除いた、いわゆる法律行為的行政行為と呼ばれるものがそれである。

A不服申立ての対象とされるものは行政庁の処分ならびに不作為であるが、処分と不作為とは行政庁の行為の態様が作為でなされたか不作為でなされたかに違いがあるにすぎず、救済に関し特に別異に扱う理由はないので、その救済手続上なんらの区別も設けられていない。

B不服申立ては原則として書面により行われなければならず、この書面には不服申立人の意思によって不服申立てが行われたことを確認するために押印が必要とされているが、書面による申立ての性質上、不服申立人の意思は客観的に書面の文言によって判断されなければならない。

C行政不服審査法は、審査庁に審査内容の充実を期するなどのために職権探知の権限を与えているが、審査庁が職権による探知を行うことなしに、申立人の申立事項についてのみ審理をなし、裁決をしてもなんら違法ではない。

D裁決には理由を付記しなければならないが、これは申立人に裁決に至った経過を示すことによって、その審査の経緯を知る機会を与え、併せて訴訟手続などに移行するか否かの判断の基礎となるべきであるものであるから、理由の付記のない採決は当然に無効になる。

 

18.行政事件訴訟法による取消訴訟に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。(国税)

@行政権の自由裁量に属する処分であっても、裁量権の濫用もしくは裁量権の踰越があった場合には取消訴訟の対象となりうる。

Aある処分につき法令の規定により審査請求が認められている場合には、まず審査請求をした後でなければ処分の取消の訴えを提起することはできない。

B処分の取消の訴えは処分行政庁を被告として提起しなければならず、このことは、処分後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継された場合でも同様である。

C取消訴訟の原告適格は取消を求めるにつき法律上の利益を有するものに限られるから、処分または裁決の相手方以外の者は訴えを提起することができない。

D取消訴訟の結果は公共の福祉に影響するところが大なので、特に裁判の適正を確保する必要があり、職権証拠調べのみならず、審理方式としても広く職権探知主義が採用されている。

 

19.行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟の対象に関する記述のうち、判例に照らし妥当なものはどれか。(国家T種)

@税関庁が貨物の輸入に対して関税定率法に基づいて行う「当該貨物は輸入禁制品たる公安を害すべき書籍である」旨の通知は、いわゆる観念の通知ではあるが、これにより当該貨物を適法に輸入する道を閉ざす法律上の効果を有するものであるから、抗告訴訟の対象になる。

A納税のために物納された土地であって、国の普通財産となったものについての払下げ行為は、一見私法上の売買に類似しているが、その形式として、売渡申請書の提出をこれに対する払下げ許可のプロセスを要求している以上、抗告訴訟の対象とされる処分性を具備している。

B土地区画整理事業の施行者が土地区画整理法に基づいて定める事業計画自体は一般的・抽象的に決定されるもので、特定個人に対する処分とは異なるが、これが公告された場合には、同法によりその付随的な効果として施行地区内の宅地建物所有者の権利行使が制限されるから、抗告訴訟の対象となる。

C厚生大臣が、墓地、埋葬等に関する法律に定められた埋葬拒否の正当理由について、都道府県知事に対して発した「異教徒の埋葬を拒否することは違法である」旨の通達は、上級機関が下級機関の職務権限の行使を指揮するにとどまらず、宗教法人の古来の寺院経営方針を変更させるものであるから、抗告訴訟の対象になる。

D運輸大臣が日本鉄道建設公団の提出した新幹線工事実施計画に対して全国新幹線鉄道整備法に基づいて行う認可は、上級機関たる運輸大臣が下級機関たる日本鉄道建設公団に対して行うに内部的行為にとどまらず、計画地内の土地所有者に土地を買収される極めて高い可能性を生じさせるものであるから、抗告訴訟の対象になる。

 

20.行政事件訴訟法に基づく訴えの利益に関する記述のうち、判例に照らし妥当なものはどれか。(国家T種)

@保安林の指定解除に関し、保安林の伐採による利水機能の低下により、洪水緩和等の点で直接に影響を被る一定の範囲の地域に居住する住民については、右解除処分の取消の訴えを提起する原告適格は認められるが、代替施設の設置によって保安林存続の必要性がなくなったと認められるに至った場合は、当該取消を求める訴えの利益は消滅する。

A特定に美に予定された集団示威行動のための公会堂、公園使用に関する不許可処分については、その処分により実際に示威行動に使用できなくなったという不利益を生じさせたと考えられるため、当該日の経過によっても不許可処分の取消を求める訴えの利益は失われない。

B免職された公務員が免職処分の取消訴訟の係争中に死亡した場合、給与請求権は相続できないと考えられるため、訴えの利益は当該公務員の志望により消滅することとなり、その結果としてその相続人による訴訟の承継も認めることはできない。

C空港の新規路線免許により生ずる航空機騒音によって社会通念上著しい障害を受ける場合であっても、周辺住民は、当該処分により個別具体的に自己の権利または法律上保護された利益を侵害されるものではないため、免許取消を求める原告適格は認められない。

D建築基準法に基づく建築確認については、当該確認の取消を命ずる判決により処分の実体的違法性を公権的に確定し、関係行政庁に是正命令を発するよう義務づけることとなるので、たとえ当該工事が完了した場合においても、建築確認の取消を求める訴訟の利益は失われない。

 

21.次のうち、個人的公権または法の保護すべき利益が侵害されたとして、行政訴訟を提起することのできる場合はどれか。ただし、判例の見解に従う。(地方上級)

  @文化財保護法によって特別名勝地に指定された地域の指定を行政庁が取り消したため、地元住民が名勝観賞上および文化生活上の不利益を受けた場合。

  A建築主事が建築確認処分をしたが、その建築確認処分に係る建築物が出現することにより、近隣居住者が日常生活上悪影響を受ける場合。

  B運輸大臣が、地方鉄道業者に対し、運賃値上げを許可する処分をしたため、沿線付近の住民が不利益を受けた場合。

  C運転免許処分の取消の訴えの係属中に、当該処分の効果が消滅した場合。

  D新道の公用開始によって、旧道が廃止されたため、公道と自宅との連絡道が若干遠くなり一部の住民が不利益を受けた場合。

 

22.国または公共団体は、公権力の行使にあたる公務員が職務上なした不法行為について責任を負うが、これに関して、次のうち正しいものはどれか。(地方上級)

  @国または公共団体は、公務員の行為にたとえ故意または過失がなくとも、直接損害賠償責任を負う。

  A公務員が公権力の行使にあたって、故意によって私人に損害を加えた場合には、私人は公務員に対して直接損害賠償を求めることができる。

  B勤務時間外に警官が制服を着て職務質問を装って接近し、強盗殺人を行った場合、その所属する公共団体は損害賠償の責めに任じない。

  C選任監督者と給与負担者とが異なる場合には、公務員の不法行為により損害を受けたものは、そのいずれに対しても賠償を請求できる。

  D公務員の不法行為により損害を受けた者は、当該公務員個人に対しても、損害賠償を求めることができる。

 

23.国家賠償法1条に関する次の記述のうち、判例に照らして妥当なものはどれか。(国家T種)

  @数人の国家公務員による一連の職務行為の家庭に置いて他人に損害を生じさせた場合に、その一連の行為のうちいずれかに故意または過失による違法行為があったのでなければ、その損害が生じなかったであろうと認められるとしても、具体的にどの公務員の違法行為によるものか特定できないときは、国は国家賠償法条による賠償責任を負わない。

  A第2審裁判所によって、勾留状記載の公訴事実と起訴状記載の公訴事実とが相類似はするが、刑事訴訟法上相違すると判断され、勾留決定が取り消された場合には、勾留決定をした裁判官に故意または過失があったとみなすのが相当であり、国は当該被勾留者に対して国家賠償法1条による賠償責任を負う。

  B国からの嘱託に基づいて保険所勤務の医師が国家公務員の定期健康診断の一環として行った検査によって受診者が損害を受けた場合には、医師の行った当該検診に過失がある限り、国は国家賠償法1条による賠償責任を負う。

  C公立中学校のクラブの顧問教師には、生徒がクラブ活動中は生徒の安全管理のため常時生徒を指導し監督する義務があり、教師がこれを怠っている間に生徒が乱闘し負傷した場合には、当該中学校を設置している地方公共団体は、負傷した生徒に対して国家賠償法1条による賠償責任を負う。

  D裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、当該裁判官が違法または不当な目的をもって裁判したなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得る特別の事情のない限り、国は国家賠償法1条による賠償責任を負わない。

 

24.国家賠償法2条および3条に関する次の記述のうち、判例に照らして妥当なものはどれか。(国家T種)

  @道路管理者の設置した赤色灯標注等が倒れていたため、夜間に道路工事現場で交通事故が発生したとしても、その標注等が事故直前に他車によって倒されたものである場合には、道路管理に瑕疵があったとはいえない。

A普通河川について、市がその管理権、所有権、賃借権などの権限をもたない場合は、その市が事実上これを管理していたとしても、その市は国家賠償法2条1項にいう「公共団体」にあたらない。

B河川の管理についての瑕疵とは、当該河川が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいい、このような瑕疵の有無を判断する基準については、道路その他の人口公物の管理の場合と質的差異は認められない。

C河川の管理についての瑕疵の有無は、河川の管理に特に由来する時間的、技術的および社会的諸制約の下での同種同規模の河川の管理の一般的水準および社会通念に照らして判断すべきであり、財政的制約による予算措置の困難性の抗弁は許されない。

D公の営造物の設置管理の瑕疵による損害賠償責任については、営造物の設置管理費用の負担者もその責めに任ずべきとされるが、この費用負担者とは当該営造物の設置費用に法律上負担義務を負うものに限られ、実質的にその費用を負担していたにすぎないものは含まれない。

 

25.公法上の損失補償に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。(国家T種)

@損失補償が認められるのは憲法29条1項が財産権を保障している趣旨によるのではなく、財産権の内在的制約を超えて私有財産に課される特別の犠牲を全体に転嫁するという公平負担の原則によるとするのが通説である。

A公共の安全、秩序の維持、社会的共同生活の安全の確保のような消極目的に基づいて、必要最小限度の財産権の収容または制限がなされる場合であれば、収用または制限の程度、態様等の如何に関わらず損失補償を要しないとするのが通説である。

B財産権の収用または制限を許容する法律の規定が、本来その収用または制限につき補償を要する場合にもかかわらず補償規定を定めていなかったとしても、それだけで直ちにその法律が違憲無効とされるわけではない。

C憲法29条3項にいう「正当な補償」の意義については、常に完全な補償、すなわち財産権者が被った財産上の損失をすべて算定した額をいうとするのが判例である。

D損失補償が金銭補償の方式により行われる場合には、その支払いが財産権の収用もしくは制限に先立ち、またはそれと同時に行われなければならないとするのが判例の立場である。

 

問題の解説など

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