行政法試験問題集・その5  解説など

(2003年9月16日に、受講生に配布)

 

1.誤っているものはBである。日本においては、消極説が通説である。積極説も存在するが、決定力に欠けることもあって、通説の地位を得ていない。

@およびAは正しい。積極説には、この他にも様々な定義が存在する。この問題に示したのは、ドイツ行政法学における代表例である。

Cも正しい。憲法に示されている内閣の権限は形式的意義の行政に関するものである。しかし、内閣の権限に属するからすべてが実質的意義の行政に関する事柄であるとは言えない。例えば、憲法第73条第6号には政令制定権が定められているが、これは実質的意義の立法である。

 

2.誤っているものはAである。全部留保説は、判例および通説の採るところではない。

  @は正しい。元々、ドイツ流の法治主義は、このような考え方を採り、立憲主義と絶対王政との妥協を図った。この考え方が日本の行政法学にも入り込み、通説となった。侵害留保説は、日本国憲法の下において、行政活動に関する最低限の原則と考えられている。

  Bも正しい。権力留保説は、まさに選択肢に示したとおりの考え方である。

  Cも正しい。重要事項留保説(本質留保説)は、最近、ドイツの行政裁判所判例において採用されている説である。

 

3.妥当な選択肢はBである。民法第177条は典型的な私法の規定であるが、最判昭和31年4月24日民集10巻4号417頁は、租税関係について民法第177条の適用を認める。

@は誤り。現業公務員であっても、一般職の公務員であることには変わりがなく、基本的には、公務員の勤務関係として公法上の規律に服する(最判昭和49719日民集28巻5号897頁)。

Aは誤り。最判昭和301027日民集9111720頁によると、このような契約自体は有効であるとされる。

Cは誤り。村民は、村道を使用する自由権的権利を有する(これが公権であるか否かはともあれ)。従って、この権利を侵害された場合には、その排除を求める権利を有する。反射的利益ではない。

Dは誤り。公法上の権利であるという部分は正しいが、法令や条例に譲渡や差し押さえを禁止する規定がなければ、譲渡などをなしうる(最判昭和53年2月23日民集32111頁)。

 

4.正答はB。これは、講義の際にも扱った最判昭和56年1月27日民集35巻1号35頁の判旨である。

  @は誤り。租税法規における納税者間の平等・公平という要請を犠牲にしても、当該納税者の信頼を保護しなければならないような特別の事情がなければ、信義則の適用が認められない、とするのが判例である(最判昭和621030日判時126291頁)。

  Aも誤り。たしかに、公営住宅法やこれに基づく条例が特別法として優先的に適用されるが、一般法である民法や借地借家法の適用も認められる(最判昭和591213日民集38121411頁)。

  Cも誤り。水道法に規定される水道の利用関係は私法上の関係である。また、給水拒否の正当理由は、給水の申し込みが権利濫用に当たる場合、または水道そのものに関連する事由に限られる。

  Dも誤り。選択肢には「使用権者が使用許可を受けるに当たって、その対価の支払いをしたという特別の事情」が掲げられているが、使用権者が営業を行い、その利益によって償却を終わっているような場合にまで、損失を補償する必要はない(最判昭和49年2月5日民集28巻1号1頁)。

 

5.行政処分にあたる行為はCである。公務員の任用や罷免は行政行為であるとされる。地方公務員法第28

  @は誤り。これは私法上の行為である。払い下げは、売却を意味する。

  Aも誤り。国会の議決はそもそも行政の行為ではないし、議決によって成立した法律の内容は抽象的であるから、具体的に何人かの権利や義務に影響を与えるものではない(例外もあるが)。また、官報による公示は、法律の存在、内容などを国民に示す行為であり、これによって具体的に何人かの権利や義務に影響を与えることはない。

  Bも誤り。これは行政機関相互の行為であり、具体的に何人かの権利や義務に影響を与えるものではない(この選択肢については、最判昭和34年1月29日民集13巻1号32頁を参照)。

  Dも誤り。地方議会において議員がゴミ焼却場の計画書を議会に提出したからといって、具体的に何人かの権利や義務に影響を与えるものではない。

 

6.誤っているものはBである。行政法学の教科書においては、行政行為の効力として執行力があげられるのであるが、これは行政行為に当然に付随するものではない。行政行為に従わない者に対して強制執行をかける場合などには、別に法律の根拠を必要とする。

  残りの選択肢の記述はいずれも正しい。とくに説明する必要はないので、行政法学の教科書なども参照すること。

 

7.妥当なものはCである。不可変更力は、元々、裁判所の判決について主張されるものであり、一般的に言えば、行政行為には不可変更力がない。しかし、選択肢にもあるように、行政不服審査の裁決・決定は判決に類似する性格をもつから、不可変更力が認められる。この類の行政行為について職権取消が認められるとすると、法的状態が不安定になる。

@は誤り。行政行為の無効は、行政行為の効力が生じないということであるから、行政事件訴訟によって無効の確認を得なければならないという訳ではない(無効等確認訴訟は存在するが)。

Aも誤り。そもそも、行政行為の効力自体の問題と、違法な行政行為によって受けた損害の問題とは、次元が違う(損害は、結果の問題である)。判例も、行政行為が違法であるという理由で国家賠償を請求する場合にその行政行為の取消などの判決などを得る必要はないという趣旨を述べている(最判昭和36年4月21日民集15巻4号850頁を参照)。

Bも誤り。不可争力は、行政行為についてその相手方(私人)が行政事件訴訟などによって取消を求められなくなるという意味であり、行政行為をなした行政庁の職権取消とは無関係である。

Dも誤り。これについては、前問の解説を参照。

 

8.誤っているものは@である。日本の法律においては、学問上の許可を意味する用語として、許可、認可、免許など、様々な言葉が用いられている。そのため、法令において許可という用語が使われているからといって、法的性質が許可であるとは限らない(例.民法第34は、公益法人の設立について許可制度を採用するが、ここでいう許可は行政法学上の許可ではない。民法学と行政法学とでは、許可と認可の意味が逆になっている)。

残りの選択肢については、まさに記述のとおりであるが、Dについては少し解説を加えておく。日本においては、一般的に許可が命令的行為に含まれているが、以前から、許可を形成的行為に含める説が存在する。なお、ドイツ行政法学においては、許可も形成的行為に含めるのが通例である。

 

9.この設問は、2001年度法学検定試験問題集の行政法編のうち、複数の問題を組み合わせたものである。正答はAとDである。

Aの場合、行政行為の瑕疵が軽微なのに取り消し、新たな行政行為をなすというような必要がない場合である。Dは、違法行為の転換の典型例である。固定資産税は、対人税というより対物税であるため、仮に固定資産の所有者(固定資産税の納税義務者)が死亡していたとしても、相続人が固定資産を相続しているために、相続人に対する課税処分と解することも可能である。

  @は誤り。これについては、第7問の解説を参照。

  Bも誤り。行政手続に関して瑕疵がある場合、その手続が重要であるならば無効と判断される可能性が高い。聴聞を実施しないで行った許可取消処分については、無効とされる可能性が高い。

  Cも誤り。無効な行政行為について争うということは、無効等確認訴訟などを提起することを意味する。この場合、取消訴訟について存在する出訴期間は適用されない。

 

10.妥当なものはBである。行政法学の教科書なども参照していただきたい。

@は誤り。判例や通説は重大明白説(そのうちの外形上一見明白説)を採用しており、行政行為に重大な法規違反があり、かつ、そのこと(つまり瑕疵)が外形上、客観的に明白であることを求める。

Aも誤り。判例や通説によれば、仮に行政行為らしい概観を備えていても「重大かつ明白な瑕疵を有する行政行為」は無効なのである。従って、誰でも行政行為の無効を主張できる。

Cも誤り。本来であれば、この選択肢に書かれていることが望ましいのかもしれないが、違法な行政行為であっても、それによって一定の状態が形成されている場合には、その行政行為を取り消すことが有害な場合もある。こうした場合には、事情裁決、事情判決という手段が認められる。行政行為の違法性を宣言するが、取消をしないという判断である。

Dも誤り。行政行為の中には要式行為であるものが存在する。この場合、所定の方式に従うか否かは重大な要素であるから、選択肢にあるような行政行為は無効と解するべきであろう。

 

11.取り消しうべき行政行為に該当するのはBである。ここで民法96条を思い出してほしい。この規定によれば、詐欺に基づく法律行為は瑕疵ある法律行為であるが無効とされておらず、取り消しうべき法律行為とされているに留まる。行政行為についても同様であり、詐欺、強迫などに基づく行為は無効とされない。

  残りの選択肢は、無効の行政行為である。なお、Dについては、無効行為の転換により、相続人に対しては有効な行政行為となりうるので注意する必要がある。

 

12.妥当なものは@である。この点についての明文の規定はないが、行政法学上はこの選択肢のように説明されている。

Aは誤り。行政事件訴訟法第30条を参照のこと。また、裁判所は行政行為の撤回権を有しない。

Bも誤り。これについては、第10問の解説(選択肢Cの部分)を参照。

Cも誤り。取消は遡及効が伴うのが原則であるが、撤回は遡及効を伴わないというのが原則である。なお、取消であっても遡及効が認められない場合があるというのは、選択肢に書かれている通りであるが、具体的な事案の判断に左右されるであろう。

Dも誤り。この選択肢の前半は正当であるが、後半が誤っている。行政行為の撤回がいかなる場合に認められるべきであるかについては、学説上、争いがある。それが、この選択肢の後半に関わることなのであるが、「権利侵害となる場合は絶対に許されない」という訳ではない。

 

13.誤っているものはAである。この場合の裁量は「要件裁量」である(選択肢Cの記述を参照)。効果裁量は、要件がある場合にいかなる行為をなすか(いかなる効果を与えるか)についての裁量である。

残りの選択肢はいずれも正しい。とくに解説をなす必要はないと思われる。但し、Bについては、このような疑いがあり、事実認定でその疑いを否定できなかったにもかかわらず、裁量権の行使を違法としていない判決が存在する点にも、注意が必要である。

 

14.妥当なものはDである。判例により、地方公務員法に基づく分限処分は、自由裁量ではなく、羈束裁量であるとされている(もっとも、両者は相対的になりつつある)。これについては、最判昭和36年4月21日民集15巻4号850頁を参照。

@は誤り。これはマクリーン事件最高裁判決(最判昭和5310月4日民集32巻7号1223頁)を基にした記述である。たしかに、在留外国人の在留期間の更新事由については法務大臣の広範な裁量権に委ねられていると理解されている。しかし、裁量権について裁判所の審査権が全く及ばないというのではない。重大な事実誤認がある場合など、裁量権の行使に事実面での基礎が欠けているような場合などには、裁判所の審査権が及ぶことになる。

Aも誤り。基本的に、国公立大学の学生の懲戒処分は、学長の裁量権に委ねられている(最判昭和29年7月30日民集8巻7号1501頁を参照)。

Bも誤り。これは有名な事件を基にした記述で、最判昭和53年5月26日民集32巻3号689頁は、選択肢に示した事案について裁量権の著しい濫用があるとして判断している。

Cも誤り。これも有名な個人タクシー事件(最判昭和461028日民集25巻7号1037頁)に基づくものである。判決においては、行政庁は具体的な審査基準を設定しなければならないという趣旨が述べられている。

 

15.判例の趣旨に照らして妥当なものは@である。前問の解説(選択肢Aの部分)を参照のこと。

Aは誤り。選択肢に示した事柄は、公安委員会の法規裁量に委ねられるべきものである。従って、自由裁量ではない。

Bも誤り。これについても、前問の解説を参照のこと。

Cも誤り。本来、農地に関する賃借権の設定や移転は、当事者たる私人が自由になしうる事柄である。しかし、小作権を保護するために法律による規制を加えているのである。従って、仮に承認に関して農業委員会が基準を策定していないとしても、そのことから承認するか否かが農業委員会の裁量に委ねられているものとは言えない(最判昭和31年4月13日民集10巻4号397頁を参照)。

  Dも誤り。有名なマクリーン事件に関する最判昭和5310月4日民集32巻7号1223頁は、法務大臣の自由裁量を認める。選択肢の記述は法規裁量になっているので誤り。

 

16.妥当なものはAである。行政不服審査法40条第6項により、このようなことが認められる。これを事情裁決という。

@は誤り。行政事件訴訟法第8条によれば、行政行為に関する不服が存在する場合に、行政事件訴訟を選択するか行政不服審査を選択するかは当事者の選択の自由に委ねられるのが原則である。但し、個別の法律により、先に行政不服審査を申し立て、裁決などを経てからでなければ行政事件訴訟を提起できないとされる場合もある。

Bも誤り。原則として書面審査であるが、審査請求人や参加人(利害関係者のこと)が申し立てた場合には、口頭による意見陳述の機会も与えられなければならない(行政不服審査法第25条第1項但し書きを参照)

Cも誤り。行政不服審査法の趣旨は、国民の権利救済である。従って、いかに上級行政庁たる審査庁が一般監督権を有するといっても、行政行為の不利益変更は認められない。行政不服審査法第40条第5項但し書きを参照。

Dも誤り。行政不服審査法は執行不停止原則を採用する(行政不服審査法第34条第1項)。

 

17.妥当なものはCである。これについては、行政不服審査法第29条第1項なども参照。また、高松高判昭和31年6月14日行裁例集7巻6号1413頁を参照。

@は誤り。準法律行為的行政行為も公権力の行使であることに変わりはない。

Aも誤り。これについては、行政不服審査法を実際に読んでいただきたいが、処分に対する不服申立ての手続と不作為に対する不服申立ての手続は、相当に異なっている。

Bも誤り。前半は正しい。しかし、書面の文言だけで不服申立て人の真意を全て判断できるとは限らないので、後半は誤り。最判昭和321225日民集11142466頁を参照。

Dも誤り。この点については説が分かれており、無効と解する説と取り消しうるに留まると解する説とがある。

 

18.妥当なものは@である。行政事件訴訟法第30条がこの趣旨を規定する。

Aは誤り。第16問の解説(選択肢@の部分)を参照のこと。

Bも誤り。行政事件訴訟法第11条を参照のこと。処分の取消訴訟は処分行政庁を被告としなければならないのは当然であるが、処分後に処分行政庁の権限が他の行政庁に承継された場合には、承継行政庁を被告としなければならない。

Cも誤り。処分または裁決の相手方以外のものであっても、実質的な当事者であれば訴えを提起することができる(最判昭和57年4月8日民集36巻4号594頁も参照)。行政事件訴訟法第9条の解釈において問題となるのが、周辺住民などの原告適格である。

Dも誤り。日本において、民事訴訟の原則は当事者主義である。これは行政事件訴訟においても妥当する。行政事件訴訟法第24条は職権証拠調べに関する規定であるが、条文を読めばわかるように、裁判所は職権証拠調べをすることが「できる」のであって、義務とはされていない(しかも、証拠調べの結果については当事者に意見を求めなければならない)。

 

19.判例に照らし妥当なものは@である。通知には「観念の通知」と準法律行為的行政行為としての通知とがあるが、選択肢の場合は、適法な輸入ができなくなるという法律効果を有するものであるから、準法律行為的行政行為としての通知であり、処分に該当する(厳密に言うならば、この設問の記述には問題があるが、そのまま掲載した)。

Aは誤り。払い下げは私法上の契約であり、処分としての性格を有していない。

Bも誤り。最判昭和41年2月23日民集20巻2号271頁は、土地区画整理事業計画は事業の青写真にすぎないから処分姓を持たないという判断を示している。

Cも誤り。通達は行政組織の内部について法的な拘束力を有するが、国民の権利義務に直接の影響を与えるものではない(最判昭和431224日民集22133147頁)。従って、通達を公告訴訟の対象とすることはできない。

Dも誤り。判例は、運輸大臣と鉄建公団の関係を行政機関相互の関係と同一視する(最判昭和5312月8日民集32巻9号1617頁)。

 

20.判例に照らし妥当なものは@である。これは有名な長沼訴訟のうち、最高裁判決に基づくものである(最判昭和57年9月9日民集36巻9号1679)。狭義の訴えの利益が代替施設の整備によって消滅する、という趣旨である。

Aは誤り。判例は、このような場合に、仮に不許可処分を取り消しても無意味であるから、狭義の訴えの利益は失われた、という判断を示す(最判昭和281223日民集7巻131561頁)。

Bも誤り。最判昭和491210日民集28101868頁は、公務員の給与請求権について相続を認め、相続人による訴訟の継承を認めている。

Cも誤り。有名な新潟空港訴訟最高裁判決(最判平成元年2月17日民集43巻2号56頁)は、空港の騒音によって社会通念上著しい障害を受ける周辺住民について原告適格を認めた。

Dも誤り。この場合、裁判所が取消判決を出したとしても、行政庁が違反是正命令を出すべきという法的拘束力が生じる訳ではない(最判昭和591026日民集38101169頁)。

 

21.行政訴訟を提起することのできる場合はAである。判例によれば、建築確認処分に係る建築物が出現し、保健衛生上の悪影響が生じうる場合、火災などの危険にさらされる恐れがある場合には、近隣の居住者がこの確認処分について取消訴訟を提起することができる(最判昭和591026日民集38101169頁なども参照のこと)。

@は誤り。文化財保護法は、地元住民の名勝観賞上および文化生活上不利益を法的に保護していないと理解されている(最判平成元年6月20日判時1334201頁を参照)。

Bも誤り。地方鉄道法(現在の鉄道事業法)は、乗客の鉄道利用の利益を法的に保護するものではない(最判平成元年4月13日判時1313121頁を参照)。

Cも誤り。自動車運転免許の取消処分によって名誉や侵害が侵害されたとしても、それらは道路交通法が法的に保護する利益ではない(最判昭和551125日民集34巻6号781頁)。

Dも誤り。このような場合の住民の利益は、道路法や都市計画法などによって保護された利益ではなく、反射的利益と解される。

 

22.正しいものはCである。これは、国家賠償法第3条第1項に規定されている。

@は誤り。国家賠償法第1条については代位責任説が通説であり、不法行為の存在が前提とされる。また、過失責任原則が取られている点にも注意が必要である。

Aも誤り。このような場合であっても、公務員個人に対する損害賠償請求は認められない(最判昭和47年3月21日判時66650頁を参照)。

Bも誤り。国家賠償法第1条に規定される「職務の遂行」に該当するか否かは、行為の外形を標準として判断する(最判昭和311130日民集10111502頁)。

Dも誤り。判例は、公務員が職務遂行中に起こした加害行為について、その公務員個人に対して直接賠償請求をすることを認めていない(最判昭和30年4月19日民集9巻5号534頁)。

 

23.判例に照らして妥当なものはDである。国家賠償法の適用範囲は行政機関に限定されていないので、理論上は裁判所についても国家賠償の問題が生じうる。しかし、最判昭和57年3月12日民集36巻3号329は、選択肢に示したとおりの判断をした。このため、たとえば地裁の判決に瑕疵があり、無罪と判断されるべき被告人が誤って有罪とされたとしても、よほどのことがなければ裁判官は国家賠償責任を負わないこととなる。

@は誤り。このような場合にどの公務員の違法行為によるかを特定する必要がないとするのが判例である(最判昭和57年4月1日民集36巻4号519頁)。国家賠償法第1条については代位責任説が通説であり、不法行為の存在が前提とされる。また、過失責任原則が取られている点にも注意が必要である。

Aも誤り。このような場合、検察官や裁判官の故意または過失という問題は生じえないとするのが判例である(最判昭和281110日民集7巻111177頁)。

Bも誤り。このような場合には民法が適用される。定期健康診断における検査といえども一般的な診療行為と異ならず、それ自体が公権力の行使と言えないからである(最判昭和57年4月1日民集36巻4号519頁)。

Cも誤り。判例は、事故が発生する危険性を具体的に予見できる場合を別として、顧問の教諭が個別の部活動に常に立ち会い、監視指導する義務を負うものではない、という趣旨を述べる(最判昭和58年2月18日民集37巻1号101頁)。

 

24.判例に照らして妥当なものは@である。この場合、道路の安全性に問題があったことは認められるが、道路管理者が早急に原状を回復し、道路の安全状態を保つことが不可能な場合には、道路管理に瑕疵があったとは認められない(最判昭和50年6月26日民集29巻6号851)。

Aは誤り。法的な権限が存在しないとしても、市が事実上、河川を管理しているような場合には、その市が国家賠償法第2条の「公共団体」にあたる、とされている(最判昭和591129日民集38111260頁)。

Bも誤り。河川管理については、大東水害訴訟最高裁判決(最判昭和59年1月26日民集38巻2号53頁)が判例となっている。この判決は未改修河川に関するものであるが、河川の安全基準が道路などの安全基準と異なるとしており、判決理由中においていわゆる大東基準を示している。

Cも誤り。大東水害訴訟最高裁判決は、河川管理の瑕疵の有無について、財政的な制約などを考慮すべきであると述べている。このことからすれば、「財政的制約による予算措置の困難性の抗弁」も認められることとなる。

Dも誤り。一定の要件が必要とされるが、地方公共団体が国から補助金を得ているような場合には、公の営造物の管理者が地方公共団体であったとしても、国が費用負担者とされる場合がある(最判昭和501128日民集29101754頁)。

 

25.妥当なものはBである。これには有名な奈良県ため池条例判決もある。また、最判昭和491127日刑集22121402頁は、仮に法令が損失補償に関する規定を置いていなくとも、憲法第29条第3項を根拠として損失補償を請求できるので、法令を違憲無効と解すべきではない、と述べている。

@は誤り。損失補償が認められるのは財産権保障の趣旨からでもある。

Aも誤り。一般的には、消極目的に基づく財産権の制限については損失補償を必要としないと理解されうるかもしれないが、制限が強度である場合には損失補償を要すると解すべきであろう。

Cも誤り。通説・判例は相当補償説を採る。その代表例が最判昭和281223日民集7巻131523頁である。但し、この判決は農地改革に関するものであり、特殊な事例とも言われている。そのためもあり、相当補償説といっても完全補償が原則であるとされている。

Dも誤り。判例は、補償の先行、または補償の同時履行までが憲法によって保障される訳ではないという趣旨を述べている(最判昭和24年7月13日民集3巻8号1286頁)。

 

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