行政法試験問題集・その64
筑波大学大学院ビジネス科学研究科法曹専攻(法科大学院)「地方自治」2017年度期末試験〔2017年9月20日出題〕
〔問題〕 以下の事案について、次の設問に答えなさい。
B町は、かねてから給水地域および給水人口の拡張に迫られ、浄水場に適した用地の取得を検討していた。平成25年10月に、B町は、不動産業者Cが同町内に所有する甲土地が浄水場設置の条件を満たすことから、甲土地を3億円で購入するという契約をCと締結した。そして、B町は、同月10月、同年12月および平成26年1月の3回に分けて、計3億円を代金としてCに支払った。なお、B町は平成26年3月に他の町村と合併し、A市となっている。
A市の住民であるXは、平成26年8月、甲土地の売買代金額が時価と比較して2倍以上の高額であり、甲土地の取得の必要性もなかったのであって、甲土地の売買は違法であるとして、地方自治法第242条に基づいて住民監査請求を行ったが、A市監査委員は同年11月に請求を棄却した。そこで、Xは、同年12月に、甲土地の売買が地方自治法第2条第14項および地方財政法第4条第1項に違反するとして、地方自治法第242条の2第1項第4号に基づき、A町長のYを被告として、Yが当時のB町長に対して不法行為に基づく損害賠償等を、Cに対して不当利得返還等を、それぞれ請求するように求めて出訴した(但し、以下においてはCに対する請求を問わないこととする)。
〈参照条文〉
地方財政法第4条第1項:「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」
設問1 (配点20)
Xが甲土地の売買の違法性を主張するためには、いかなる理由付けが考えられるか。また、YがXの請求を棄却するように求めるとすれば、いかなる主張が考えられるか。
設問2 (配点30)
他の複数の不動産鑑定士によれば、甲土地の適正な価格は1億4350万円であったとして、甲土地の売買について、係属地方裁判所(の裁判官)はいかなる判断を示すべきか。また、2億8750万円である場合にはどうであるか。設問1で述べたことを踏まえ、論じなさい。
設問3 (配点50)
平成28年12月に係属地方裁判所から判決が出され、これに対して控訴がなされて東京高等裁判所に係属することとなった。その最中、平成29年3月のA市議会において、或る議員から、本件に係る損害賠償請求権を放棄する旨の議案が提出され、審議の結果、賛成13、反対7で決議された。この議決を受けて、Yは損害賠償請求権が放棄された旨の通知を当時のB町長に送付した。
このA市議会の議決は、適法と言いうるであろうか。判例、学説の動向に照らし、適法説、違法説のそれぞれの論拠を示しつつ、裁判所としていかなる判断を下すべきかについて論じなさい。
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