行政法試験問題集・その79
筑波大学大学院ビジネス科学研究科法曹専攻(法科大学院)「地方自治」2019年度期末試験〔2019年9月21日出題〕
〔問題〕 次のT、Uから一題のみを選択し、論じなさい(なお、Uは3頁にあります)。
T.次に示す事案について、設問に答えなさい。なお、地方自治法の規定については、現行のものを参照すること(令和2年4月1日施行予定の改正規定は参照しないでください)。
A市は、同市内にある外郭団体Bに対して職員を派遣するとともに、Bに対して補助金や委託金を支出していた。しかし、A市は、「公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律」(派遣法)第6条第2項、および同市「公益法人等への職員の派遣等に関する条例」(本件条例)の規定によることなく、上記外郭団体に対し、派遣職員人件費に充てる補助金または委託金を支出していた。
A市の住民であるXらは、同市の支出行為が派遣法などに照らして違法である、などとして、A市長のYに対し、平成28年度および平成29年度に同市が支出した補助金または委託料に含まれる派遣職員人件費相当額等について損害賠償を請求することを求め、外郭団体に対して派遣職員人件費相当額について不当利得の返還を求める旨の住民監査請求を行ったが、A市監査委員は請求を棄却したため、Xらは同旨の請求を内容とする住民訴訟を提起した。
甲地方裁判所は、平成31年1月25日にXらの請求を一部認容し、Yに総額で35億円あまりの損害賠償請求等を行うように命ずる判決を言い渡した。Yは直ちに乙高等裁判所に控訴した。その後、平成31年3月、A市は本件条例の改正を行う旨の案をA市議会に提出したところ、A市議会は賛成多数でこれを可決し、改正条例が成立した。この改正条例の附則第5条は、本件訴訟に係る損害賠償請求権および不当利得返還請求権ならびにこれらに係る遅延利息の請求権、さらに平成22年4月1日から平成31年3月31日までの間に係るA市から「派遣先団体への補助金、委託料その他の支出に係る派遣先団体又は職員に対する本市の不当利得返還請求権及び損害賠償請求権は、放棄する。」とする旨の規定である。本件訴訟は現在も乙高等裁判所に係属中である。
〈設問1〉(配点30)
あなたが乙高等裁判所の裁判官であるとする。A市のXらは、本件の補助金または委託金の支出についてYに少なくとも過失が認められると主張しているが、この点についてどのように判断するか。学説、判例の動向に照らしつつ、論じなさい。
〈設問2〉(配点30)
本件条例の改正案に対するA市議会の議決は、適法と言いうるであろうか。判例、学説の動向に照らし、適法説、違法説のそれぞれの論拠を示しつつ、裁判所としていかなる判断を下すべきかについて論じなさい。
〈設問3〉(配点40)
本件について、乙高等裁判所がXら敗訴の判決を下し、これが確定したとする。Xらは、A市に対し、当該住民訴訟に係る弁護士報酬などの支払を請求する訴訟を甲地方裁判所に提起したとする。あなたがXらまたはXらの訴訟代理人であるとして、いかなる論理構成によって主張するか、また、あなたが甲地方裁判所の裁判官であるとしたら、どのように判断すべきであるかについて論じなさい。なお、設問2で解答したあなたの立場とは切り離して考えてください。
〔参照条文〕
〔1〕公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律より
(派遣職員の給与)
第6条 派遣職員には、その職員派遣の期間中、給与を支給しない。
2 派遣職員が派遣先団体において従事する業務が地方公共団体の委託を受けて行う業務、地方公共団体と共同して行う業務若しくは地方公共団体の事務若しくは事業を補完し若しくは支援すると認められる業務であってその実施により地方公共団体の事務若しくは事業の効率的若しくは効果的な実施が図られると認められるものである場合又はこれらの業務が派遣先団体の主たる業務である場合には、地方公共団体は、前項の規定にかかわらず、派遣職員に対して、その職員派遣の期間中、条例で定めるところにより、給与を支給することができる。
〔2〕A市公益法人等への職員の派遣等に関する条例より
(趣旨)
第1条 この条例は、公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律(平成12年法律第50号。以下「法」という。)第2条第1項及び第3項、第5条第1項、第6条第2項、第9条、第10条第1項及び第2項並びに第12条第1項の規定に基づく公益的法人等への職員の派遣等に関し必要な事項を定めるものとする。
{第2条および第3条は略}
(派遣職員の給与)
第4条 派遣職(企業職員(地方公営企業等の労働関係に関する法律(昭和27年法律第289号)第3条第1号に規定する地方公営企業に勤務する一般職に属する地方公務員をいう。以下同じ。)である派遣職員及び同法附則第5項に規定する職員(以下「労務職員」という。)である派遣職員を除く。第6条及び第9条第1項において同じ。)のうち、法第6条第2項に規定する業務に従事するものには、その職員派遣の期間中、給料、扶養手当、地域手当、住居手当、初任給調整手当、通勤手当、単身赴任手当、特殊勤務手当、時間外勤務手当、宿日直手当、管理職員特別勤務手当、夜間勤務手当、休日勤務手当、管理職手当、期末手当及び勤勉手当のそれぞれ100分の100以内を支給することができる。
2 前項の規定により支給する給与に関するA市職員の給与に関する条例(昭和●●年▲▲月条例第■■号。以下「給与条例」という。)、A市職員に対する期末手当等の支給に関する条例(昭和○○年△△月条例第□□号)及びA市職員の特殊勤務手当に関する条例(平成◎◎年▼▼月条例第◆◆号)の規定の適用については、派遣先団体における業務の従事を本市における勤務と、その就業の場所を勤務する公署と、派遣先団体における休日、休暇、労働時間その他の労働条件を本市の休日、休暇、勤務時間その他の勤務条件とみなす。
3 市長は、第1項の規定により給与の支給を受ける派遣職員に関する地方公務員等共済組合法(昭和37年法律第152号)第116条第1項の規定による負担金を同法第3条第1項に規定する組合に払い込むものとする。
4 市長又はその委任を受けた者は、第1項の規定により給与の支給を受ける派遣職員に関する児童手当法(昭和46年法律第73号)第17条第1項の規定により読み替えられる同法第7条第1項の規定による認定及び同法第8条第1項の規定による支給を行うものとする。
U.次に示す事案について、設問に答えなさい。
甲県は、平成30年2月22日、A地にある県有地(以下、A土地)を乙社保有のB土地と交換する契約を締結した。しかし、平成30年4月17日、A土地から環境基準を大幅に上回る有害物質が検出された。そこで、乙社は甲県に対して瑕疵担保責任の履行を申し入れるとともに、A土地の有害物質および廃棄物の除去を求める旨の妨害排除請求の訴訟を提起した。この訴訟は、平成31年3月15日、乙社が甲県にA土地を譲渡し、甲県が乙社に40億円を支払う旨の和解が成立した。
甲県議会は、平成元年に、甲県が応訴した事件について行う和解に関しては甲県知事が専決処分を行うことができる旨の議決を行っていた。今回の和解も、この議決に基づき、平成31年3月1日に、甲県知事の専決処分により行う旨の決裁がなされ、成立に至っている。
甲県の住民Xは、平成31年4月8日に甲県監査委員に対して住民監査請求を行ったが、監査委員は、令和元年7月31日、Xの監査請求が不適法であるとして受理しない旨の通知をした。Xらは住民訴訟の提起を検討している。
〈設問1〉(配点20)
監査委員がXの住民監査請求を不適法とした理由については、いかなるものが考えられるか。
〈設問2〉(配点40)
Xが住民訴訟を提起し、甲県知事に対して損害賠償請求または不当利得返還請求を行うことを請求することとした。違法性の主張として、いかなるものが考えられるか。また、これに対して裁判所はいかなる判断を示すべきであるか。論理構成に注意して論じなさい。
〈設問3〉(配点40)
前の設問に対する解答を踏まえつつも、裁判所がXの請求を棄却する旨の判断を行うとする。いかなる理由付けが考えられるか。また、棄却の判断は妥当であるか。論理構成に注意して論じなさい。
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