行政法試験問題集・その79  採点基準など

 

 

 問題Tの出題の意図

 〔1〕本問は、A市が、同市内にある外郭団体Bに対して職員を派遣するとともに、Bに対して補助金や委託金(以下、補助金等)を支出していたが、「公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律」(以下、派遣法)第6条第2項、およびA市「公益法人等への職員の派遣等に関する条例」(以下、本件条例)の規定によることなく、Bに対して派遣職員人件費に充てる補助金または委託金を支出していたという事例について、A市の住民が住民監査請求を経て住民訴訟を提起したところ、乙高等裁判所係争中にA市が本件条例の改正案をA市議会に提出し、同市議会がこれを可決したという事案(以下、本件事案)を題材にして、住民訴訟に関する基本的事項および論点の理解、ならびに論述力の評価を問うものである。

 また、問題文に断り書きを入れたように、2017(平成29)年度の地方自治法の改正により、2020(令和2)年4月1日より「普通地方公共団体の長等の損害賠償責任の一部免責」を定める新第243条の2が施行されるが、この規定の妥当性そのものが学説において議論されていることもあり、現行法を前提として論述を進めていただくこととした(もっとも、そのことを踏まえた上であれば、新第243条の2の妥当性を論じていただいてもよいが、妥当性に関する論述に偏った解答については、設問2について15点を減点させていただく。本問は新第243条の2の妥当性を直接的に問うものではないからである)。

 なお、本問は最二小判平成24年4月20日民集66巻6号2583頁を参考にして作成したものである。但し、設問3のみは神戸地判平成30年1月17日判タ1453171頁を参考としている。これらの判決(判例)を理解しているか、ならびに地方自治法第242条の2などの解釈のあり方(設問3は同第12項)を問うている訳である。

 〔2〕設問1について

 この設問においては、まず、Xらがいかなる点についてYに少なくとも過失が認められると主張しているかを考えなければならない(そうしなければ満足な解答を記せない)。

 甲地方裁判所は、本件事案について、Xらの請求を一部認容し、Yに総額で35億円あまりの損害賠償請求等を行うように命ずる判決を言い渡した。しかし、本件事案に類似する事案につき、前掲最二小判平成24年4月20日は、派遣法に地方公共団体から派遣先団体等への補助金等が派遣職員等への給与に充てられることを禁止する旨の明文の規定がないこと、当時は多くの政令指定都市において派遣団体等に支出された補助金等が派遣職員等の給与に充てられていたことなどを理由として、市長に注意義務を怠った過失が認められない旨を判示した。その意味では、Xらの主張の内容を考えるのは難しいかもしれない。

 Xらが行いうる主張としては、次のようなものが考えられる。

 まず、本件事案においては、Bが行う事業が派遣法第6条第2項にいう「地方公共団体の委託を受けて行う業務(中略)と認められるものである場合又はこれらの業務が派遣先団体の主たる業務である場合」に該当するか否かが問われる。Xらの主張としては、Bが行う事業は同項にいう場合に該当せず、形式的にBに対する補助金として支出しているにすぎず、派遣法に照らして脱法行為である、ということになる。これに対し、Yの主張としては、派遣法第6条第2項には派遣法に地方公共団体から派遣先団体等への補助金等が派遣職員等への給与に充てられることを禁止する趣旨が含まれていない旨が考えられる。

 次に、このような脱法行為と言うべき行為をしたことにつき、Yには少なくとも過失があったという主張が考えられる。

 続いて、Bへの支出が地方自治法第232条の2にいう「公益上必要がある場合」に該当するか否かが問われる。Xらの主張としては、「公益上必要がある場合」が支出団体の性格および事業内容のみから判断されるべきでなく、派遣職員等に対してBからの給与として支払われる給与相当額についてBに補助金等の支出をすべきか否かについての検討を行わなかった、という主張が考えられる。これに対するYの主張は「公益上必要がある場合」が支出団体の性格および事業内容から判断されるべきであるというものである。Xらの主張を乙高等裁判所の裁判官が採用するのであれば、Bへの補助金等の交付は、Bに派遣されたA市職員に対してA市職員として受け取る給与を補助金を通じて交付することを意味する、というような見解が示されることとなるであろう。

 〔3〕設問2について

 前述のように、地方自治法新第243条の2はまだ施行されていないので、現行法を前提として解答していただきたい。

 この設問においては、甲地方裁判所がXらの請求を一部認容し、Yらが乙高等裁判所に控訴し、現在も乙高等裁判所係属中に、A市が本件条例の改正案(本件について損害賠償請求権または/および不当利得返還請求権を放棄する旨の)をA市議会が行った場合に、その議決が適法であると考えるべきか否かが問われている。

 適法説、違法説のそれぞれについて論拠を示していただく訳であるが、その前提として地方自治法第96条第1項第10号にあげられる議会の議決事項を示す必要がある。その際に、地方公共団体の長が議会の議決に基づく事務を誠実に執行する義務を負うこと(同第138条の2)、他方で議会の議決に異議があるときは長が再議に付しうること(同第176条第1項)から、これらの点への目配りも必要とされるであろう(但し、発展的ではあるので、5点の加点要素とする)。その上で、適法説、違法説のそれぞれについて説得力のある理由付けを行い、続いて議決に関する議会の裁量権を念頭に置き、最二小判平成24年4月20日民集66巻6号2583頁の論旨を参考にしつつ、いかなる法的判断を行いうるか、力量が問われる。ここで、適法説、違法説のそれぞれにつき、判例、学説などにおいて展開された理由付けの例を示しておく。

 適法説

 ・地方自治法第96条第1項第10号は、債権放棄について何らの制限も定めていないから、議会には政策的裁量が認められる(但し、裁量の逸脱・濫用が認められる場合もある)。

 ・住民訴訟が提起されたからと言って、住民代表機関である議会が住民訴訟における個別的な請求に反する議決に出ることまで妨げられるものではない。

 ・地方自治法に、普通地方公共団体の長が自らに係る議案を提出することを禁止する規定はなく、仮に権利放棄の議案を提出したとしても同第138条の2に違反するものではない。

 違法説

 ・議会による権利放棄の議決は、地方公共団体の執行機関が行った違法な財務会計上の行為を放置することに等しい。従って、損害の回復などの是正の機会を放棄することに等しい。

 ・議会による権利放棄の議決は、住民訴訟制度を根底から否定することを意味する。そのため、議決権の濫用に該当する。

 ・住民訴訟は、地方公共団体の執行機関または議会が、執行機関または職員の財務会計上の行為または「怠る事実」の適否ないしその是正の要否について、職責を十分に果たしていない場合に、住民が地方公共団体に代わって違法の防止または回復を図ることを目的とする制度であり、最終的には裁判所の判断を得て判断の客観性と措置の実効性を確保するためのものである。

 ・債権放棄の議決は、これによる利益を得る者に対して補助金を交付することに等しい効果を有するため、少なくとも「公益上必要がある場合」(同第232条の2)という要件を充足する必要がある。

 ・普通地方公共団体の長、議会のいずれも善管注意義務を負う。

 〔4〕設問3について

 問題文をお読みいただければおわかりと思うが、設問3は設問1および設問2と異なる流れとなっており(そのために「設問2で解答したあなたの立場とは切り離して考えてください」と記した)、設問2においてXらの主張を認容すべきであると解答した場合であっても、Xら敗訴の判決が下され、これが確定したことを前提としていただきたい。

 本件事案については、甲地方裁判所がXらの請求を一部認容する判決を言い渡している。また、乙高等裁判所係属中にA市議会が本件条例の改正案に対する議決を行っている。そのため、仮にこの議決が行われなければ、または否決していれば、乙高等裁判所も甲地方裁判所の判断を支持する判決を言い渡していた可能性もある。逆に、乙高等裁判所がXら敗訴の判決を下したのはA市議会の議決の故であると考えることもできる。そこで、地方自治法第242条の2第12項にいう「第1項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」に該当するか否かについて、論拠を示しながら解答しなければならない。

 本設問の場合は否定説により解答するほうが容易であろう。すなわち、地方自治法第242条第1項および第12項の趣旨および文言に照らせば、第12項にいう「第1項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」は、判決の主文において原告の請求が認容されることを意味するのであり、それが民事訴訟法や公職選挙法の用語法にも合致する、という趣旨である。

 これに対し、肯定説による解答は難易度が高くなる。前掲神戸地判平成30年1月17日について、原告らは、同項にいう「第1項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」に該当するか否かは訴訟制度上の認容判決がなされたか否かによるべきではない、本件事案のような場合はA市に一旦は損害賠償請求権等が帰属したのであるから、事務管理が成功したものとして考えるべきであるなどと主張している。

 本設問の場合は、肯定説、否定説のそれぞれに目配りをすることができるか、その上で、いずれの説に立ちつつ、他方の説を論駁して結論を導き出しうるかが問われる。

 問題Tの採点の基準

  設問1(配点30)

 前述のように、本設問についてはまずXらの主張の論拠を示し、それに対して裁判官としての判断を示さなければならない。

 @Bが行う事業が派遣法第6条第2項にいう「地方公共団体の委託を受けて行う業務(中略)と認められるものである場合又はこれらの業務が派遣先団体の主たる業務である場合」に該当しない、とする主張。Bが行う事業は同項にいう場合に該当せず、形式的にBに対する補助金として支出しているにすぎず、派遣法に照らして脱法行為である、ということになる(5点)。

 A脱法行為というべき行為をしたことについて、Yには少なくとも過失があったという主張(5点)。

 BBへの支出は地方自治法第232条の2にいう「公益上必要がある場合」に該当しないという主張。派遣職員等に対してBからの給与として支払われる給与相当額についてBに補助金等の支出をすべきか否かについての検討を行わなかった(5点)。

 C前記@に対する裁判官としての判断。派遣法第6条第2項の解釈を踏まえ、論旨を展開しているか(5点)。

 D前記Aに対する裁判官としての判断。Yらには少なくとも過失が認められるか否かについて、論旨を展開しているか(5点)。

 E前記Bに対する裁判官としての判断。地方自治法第232条の2の解釈を踏まえ、論旨を展開しているか(5点)。

 加点要素:Bの過失等の有無(5点)、A市の損害等の額(5点)。

 設問2(配点30

 @論点の摘示(5点)

 普通地方公共団体の議会による、当該普通地方公共団体の損害賠償請求権等を放棄する旨の議会の議決(地方自治法第96条第1項第10号)は、議会の裁量権の逸脱または濫用に該当せず、適法であるか。また、この議決は住民訴訟(4号請求)の意味を没却することにならないか。いずれかの趣旨が書かれていればよいが、両方書かれているとなおよい。

 なお、加点要素であるが、改正条例成立・公布による附則の施行についてのA市長の誠実執行義務(同第138条の2)との関連、A市議会議員の議案提出権(同第112条第1項)のいずれかを含めた場合には5点を加える。

 A適法説の論拠(5点)。少なくとも二つ、できれば三つ以上をあげるのが望ましい(「出題の意図」を参照)。一つしかあげられていない場合は3点とする。また、無関係と考えられる論拠があげられた場合は一つについて2点減点する。

 B違法説の論拠(5点)。やはり、少なくとも二つ、できれば三つ以上をあげるのが望ましい(「出題の意図」を参照)。これについても、一つしかあげられていない場合は3点とする。また、無関係と考えられる論拠があげられている場合は一つについて2点減点する。

 C裁判官としての判断(10点)。まず、前掲最二小判平成24年4月20日を踏まえつつ、その趣旨を示す必要がある(3点)。この判決は、基本的に適法説に立ちつつ、議決による損害賠償請求権等の放棄が地方自治法の趣旨等に照らして不合理であり、議会が有する議決に関する裁量権の逸脱・濫用にあたると認められるときに、その議決が違法となり、当該放棄は無効となる、と判示した。

 これを踏まえつつ、議会(および普通地方公共団体の長)が有する裁量を前提としつつ(3点)、逸脱・濫用がみられるか否かについて検討する(4点)。論旨展開に重きを置き、適法と解するにせよ違法と解するにせよ、その根拠、裁量に対する統制の論拠が十分に示されているか否かが、評価のポイントとなる。なお、この基準(判旨)に対する批判を記してもよい。

 D結論(5点)。

 設問3(配点40

 @論点の摘示(10点)

 本件事案に注意しつつ、地方自治法第242条の2第12項にいう「第1項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」に該当するのはいかなる場合であるか、本件事案はそれに該当するか、が論点となる。

 単純に論点を示してもよいが、本件事案についていかなる理由によって論点が導き出されるのかを説明すると丁寧になる(但し、この部分は次のAに記してもよい)。

 AXらまたはXらの訴訟代理人としての論理構成(10点)

 前述のように、肯定説ということで難易度は高くなるが、少なくとも、「出題の意図」に記したところが書かれている必要がある。それ以外の論拠で説得力があるものについては5点を加点する。

 BXらまたはXらの訴訟代理人による主張への反駁としての論理構成(10点)

 本設問においては直接記されていないが、裁判官としての判断を行う以上、XらまたはXらの訴訟代理人による主張に対する反対論の論拠を示す必要がある。こちらの場合は、前掲神戸地判平成30年1月17日を参考にしつつ、やはり「出題の意図」に記したところが書かれている必要がある。

 C裁判官としての判断(10点)

 肯定説、否定説のいずれに立脚してもよいが、他方の説を論駁して結論を導き出しうるかが問われる。本設問については、既に肯定説、否定説が示されていることから、単純に裁判官としての判断(結論)が示される可能性も高いが、それでは結論だけが示されていることになってしまうので(3点しか与えられない)、多少の重複をいとわず、他方の説に対する疑問、批判などを説得力をもって記す必要がある。その論旨展開について最大7点とする。

 

 問題Uの出題の意図

 〔1〕本問は、甲県所有地であるA土地と乙社所有地であるB土地との交換契約がなされたが、A土地から環境基準を大幅に上回る有害物質が検出されたために乙社が甲県に対して瑕疵担保責任の履行を求め、かつ妨害排除請求の訴訟を提起し、結局は甲県知事の専決処分に基づいて和解が成立した、という事案(以下、本件事案)を題材にして、住民監査請求および住民訴訟に関する基本的事項および論点の理解、ならびに論述力の評価を問うものである。

 本問においては、甲県議会が、甲県が応訴した事件について行う和解について甲県知事が専決処分を行うことができる旨の決議を平成元年に行っていたことが重要なポイントとなる。

 なお、本問は東京高判平成13年8月27日判時176456頁を参考にして作成したものである。この判決の趣旨を理解しているか、ならびに地方自治法第96条第1項第12号および第180条第1項などの解釈のあり方を問うている訳である。

 〔2〕設問1について

 この設問においては、敢えてXらが行った住民監査請求の趣旨などを示していない。また、監査委員が住民監査請求を不適法とした理由について、地方自治法のどの条文を根拠にしたと考えられるかを問うている。

 その際に注意しなければならないのが、本件事案において甲県知事が行った専決処分の根拠である。

 地方自治法には、普通地方公共団体の長による専決処分について二つの条文を置く。第179条と第180条である。

 179条第1項本文は「普通地方公共団体の議会が成立しないとき、第113条ただし書の場合においてなお会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる」と定める。しかし、本件事案に即せば、本条が適用されるべき場合でないことは明らかである。

 他方、第180条第1項は「普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる」と定める。本件事案については第180条第1項の適用が問題となることがわかるであろう。

 従って、監査委員が住民監査請求を不適法とした理由の第一としては、住民監査請求が第180条第1項ではなく第179条に論拠を求めたことがあげられる。

 次に、住民監査請求が財務会計上の行為に関して行われたものではないという理由付けが考えられる。前掲東京高判平成13年8月27日の一審判決である東京地判平成13年2月28日判自24016頁によれば、監査委員は、議会がいかなる事項を「軽易な事項」として知事の専決処分に委ねるかは議会が自らの権限において行う判断に関わることであり、財務会計上の行為とは言えない旨を述べた。この2点が記されていれば十分である。

 (前掲東京地判平成13年2月28日によれば、監査委員は、和解金の支出が土地開発基金によって執行されたこと、和解が議決に付すべき契約に該当しない旨を判断したが、本問においてはここまで記す必要はない。)

 なお、本件事案においては、住民監査請求が第242条第2項に定められた期間内に行われているので、同項が不適法の理由になるとは考えられない(言及するのはよい)。また、甲県知事の専決処分に基づく和解が「軽易な事項」であるか否かは、住民監査請求および住民訴訟の要件ではなく、本案に係る事柄であると考えるべきであるから、不適法という判断はあたらない。

 〔3〕設問2について

 地方自治法第242条の2第1項を読めば理解できると思われるので、誰が「甲県知事に対して損害賠償請求または不当利得返還請求を行うことを請求したか」は記していない(勿論、原告のXである)。

 Xによる違法性の主張を示す前に、本問における論点を示す必要がある。第一に、和解について議会の議決を経ることなく甲県知事の専決処分が行われたことの違法性であるが、実質的にはこのような専決処分を許容する議会の議決に違法性があるか否かである。第二に、和解によって甲県に損害が生じたと言いうるか否かである。

 続いて、論点に即してXの主張を組み立てていく必要がある。

 第一の論点については、例えば、次のような主張が考えられる。

 ・地方公共団体が応訴することは議会の議決事項でないから(第96条第1項第12号を参照)、議会が応訴に関する事項を知事の専決処分として委任することは許されない。

 ・甲県議会の議決が、応訴事件について行う和解について全て甲県知事の専決処分の対象とする趣旨であるとすれば、額の多少に関わらず地方自治法第180条第1項にいう「軽易な事項」に該当することになりかねず、同項の明文に反する(重大かつ明白な瑕疵がある)。

 ・和解による甲県の支出が予算の議決を欠くので違法である。

 第二の論点については、例えば、次のような主張が考えられる。

 ・甲県知事の専決処分に基づく和解により、甲県には40億円の損害が生じている。

 ・本件の和解に際して甲県は40億円の支出を行うべきこととなるが、これはA土地の評価額(たとえば路線価による)よりも高額である。

 以上のXの主張に対する裁判所の判断についてであるが、第一の論点に対してはXの主張に基づいて違法とする見解を記すほうが容易であろう。但し、第96条第1項第12号に関するXの主張については疑問もあるので(応訴と和解とは次元が異なる)、第180条第1項の「軽易な事項」に注目し、A県議会の議決が額の多少を問わず和解について知事の専決処分に委ねた点で重大かつ明白な瑕疵を有し、無効である、とする判断を下すべきである、ということになる。これに対し、Xの主張を退ける判断を下すとするならば、和解がすべからく「軽易な事項」に該当する旨の判断を組み立てていかなければならない。

 第二の論点については、本問においてはA土地の評価額などの詳細を示していないので、損害の有無についてXの主張を認める、認めない、のいずれでもよい。認めないのであれば、たとえば、40億円という金額はA土地の評価額に比して高額であるとは言えない、あるいは、40億円にはA土地の評価額に加えてA土地とB土地との交換差金の分も含まれる、というような判断を示せばよいであろう。

 〔4〕設問3について

 設問2と設問3は、解答者の立場によっては重複する記述が多くなるが、前掲東京高判平成13年8月27日が控訴人(原告)の請求を棄却しているので、これにならい、敢えて裁判所がXの請求を棄却する判決を下すとして、いかなる理由付けが考えられるかを問うこととした。

 設問2について述べたように、裁判所の判断としては、第一の論点についてはXの主張を認め、その上で第二の論点については甲県が損害を受けないとすることの理由付けを考えるのが最も容易であろう。理由付けについては前述のところを参照されたい。

 棄却の判断の妥当性については、答案が採る立場によって異なることになろうが、ここは設問2において採る見解によりつつ、あまり省略することなく論じ(「設問2についての解答において論じたように」というような表現を用いてよいが)、結論に導いていただきたい。

 問題Uの採点の基準

 設問1(配点20

 本設問においては監査委員が住民監査請求を不適法と判断した理由を示せばよいので、ここで本問における論点を示す必要はない。

 前述のように、地方自治法には普通地方公共団体の長による専決処分について第179条と第180条の規定がある。ここに着目し、本件事案については第180条が参照されるべきであるが、Xが第179条に論拠を求めたことを見抜く必要がある(10点)。

 なお、第242条第2項に言及した答案については、第179条および第180条に言及されていない場合に限って5点とするが、第179条および第180条に言及されている場合には加点要素にも減点要素にもならない(もっとも、監査委員が誤って住民監査請求の期間の超過を認定することも考えられなくはないが)。

 設問2(配点40

 @論点の摘示(10点)

 本問において論点を摘示するとすれば、設問2において行うのが妥当なところであろう。ここで、「出題の意図」において示した二つの論点を示す必要がある(一つについて5点)。

 AXの主張の組み立て(15点)

 Xの主張の論拠については「出題の意図」において示した。とくに第一の論点については二つ以上を示す必要があるだろう。主張の論拠一つについて5点とし、四つ以上あげられており、かつ論拠となりうるものがあげられている場合には5点を加点する。

 BXの主張の論拠に対する裁判所の判断(15点)

 Xの主張の論拠のそれぞれについて、裁判所としての判断を示す必要がある。論拠に対する判断一つについて5点とする(Xの主張の論拠が四つ以上あげられており、それに対応する形で裁判所の判断が示されている場合には5点を加点する)。

 設問3(配点40

 前述のように、設問2と設問3は、解答者の立場によっては重複する記述が多くなるが、極端に記述を省略することなく、多少の重複をいとわず記して欲しい。

 @第一の論点についての判断により棄却するか、第二の論点についての判断により棄却するか。これは必ずしも答案で直接的に示す必要はないが、答案を構成する上で考えておかなければならない(そうしないと記述が明確にならない)。

 AXの主張の論拠についての判断

 設問2において解答したXの主張の論拠に対する判断を一つずつ示す必要がある(5点ずつ。計15点。但し、四つ以上あげられている場合には5点を加点する)。

 B棄却の判断の妥当性(20点)

 前述のXの主張の論拠についての判断の妥当性について、論拠をあげながら妥当性を論ずることとなる。

 実際の解答に際しては、第一の論点についての裁判所の判断、第二の論点についての裁判所の判断、それぞれについて妥当性を論じることとなる(10点ずつ。双方を綯い交ぜにして記すことは望ましくない)。その際、とくに裁判所による棄却の判断が妥当でないとするならば、その理由は何に求められるかについて明示しなければならない。第一の論点については第180条第1項(さらに第96条第1項第12号)の解釈について、第二の論点についてはX県の損害の有無について具体的に記すことが求められる。

 C結論(5点)

 

(2019年10月3日掲載)

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