行政法小演習室・その6 解説など
1.正答はBである。これは最判平成元年9月19日民集43巻8号955頁の趣旨である(但し、この判決には反対意見が付されている)。
@は誤り。最二小判昭和35年3月18日民集14巻4号483頁は、この種の事案について、食品衛生法を警察取締法規と理解した上で、この法律による許可を受けていない当事者との取引は、私法上の効力を否定されないと判示した。
Aも誤り。公営住宅の利用関係は、公営住宅法およびその関係条例に特別な定めがなければ、民間住宅の利用関係(賃貸借関係)と基本的に変わりがない。そこで、民法および借家法(借地借家法)が適用されることになる。最判昭和59年12月13日民集38巻12号1411頁も同旨を述べている。
Cも誤り。最判平成9年12月18日民集51巻10号4241頁は、建築基準法に基づいて道路位置の指定がなされ、現に開設されている私道を通行して日常生活において不可欠の利益を得ている者は、特段の事情がない限り、私道の敷地所有者に対して通行妨害行為の排除を求める人格的権利を有する、という趣旨を述べている。
Dも誤り。これはAの事案と混同しやすいので注意が必要である。「公営住宅の使用関係は基本的に私人間の家屋賃貸借関係と異なるところはない」ということは、既に述べたとおりである。しかし、公営住宅法のそもそもの目的は、低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を提供することである。最判平成2年10月18日民集44巻7号1021頁は、この公営住宅法の趣旨を述べた上で、公営住宅の入居者が死亡した場合に相続人が当該公営住宅を使用する権利を当然には承継しない(相続しない)と述べる。
2.(1)誤っているものはCである。行政主体の意思を決定して外部に表示する権限をもつ機関は行政庁である。国の場合は行政官庁ともいう。
講義資料Nr. 2でも述べたように、執行機関には二つの意味がある。
第一は、行政法学の行政組織論において用いられるもので、国民に対して実力を行使する権限を有する機関の意味である。手足として動く実行部隊のようなものであると考えればよいであろう。警察官、消防署員、徴収職員など、行政上の強制執行や即時執行に携わる者が該当する。また、立入検査や臨検に携わる者も含められうる。
第二は、地方自治法で用いられる用法であり、第一の意味とは全く異なる。地方自治法では、地方公共団体の議会を議決機関と位置づけ、地方公共団体の長、委員会(教育委員会、人事委員会、公安委員会など)、監査委員をいう。国の行政機関については、この意味での用法は存在しない。
(2)Cの記述のうち、「執行機関」を「行政庁」に直せばよい。なお、他のパターンも存在するので、考えてみていただきたい。
3.この問題については、まずアからウまでのそれぞれについて見ていくこととする。
アは誤り。上級行政庁と下級行政庁との関係は基本的に指揮監督関係であり、これは法律の根拠がなくとも認められる。但し、取消停止権、および本問に登場する代執行権については、法律の根拠が必要であるか否かについて議論がある。下級行政庁の権限も法律に基づいた権限であることからすれば、上級行政庁が法律の根拠もなしに下級行政庁の権限を自ら代わって行うと考えることはできないと考えるべきであろう。これに対し、指揮監督関係を強調する考え方によれば、法律の根拠は不要である。
イも誤り。たしかに、上級行政庁から下級行政庁に権限が委任された場合、当該権限は下級行政庁に移る。しかし、上下関係はそのまま残るから、上級行政庁と下級行政庁との間に指揮監督関係が残ることとなる。
ウは正しい。「下級行政庁の行った違法・不当な行為の取消し又は停止を当該下級行政庁に命ずる権限」については、法律の根拠がなくとも当然に認められるべきであろう。不議論が存在するのは、命令の権限から一歩先、上級行政庁自らが取消しや停止を行う権限について法律の根拠が必要か否か、という点である。
以上から、アが×、イも×、ウは○となり、Fが正しい。
4.(ア)は誤っているので2を選ぶ。内閣府、法務省等の各省は国の行政機関であるが、行政庁ではない。また、都道府県や市町村は行政主体であり、行政庁ではない。国の行政庁は各省の大臣、各庁の長官などである。また、地方公共団体の行政庁は都道府県知事、市町村長などである。
(イ)は正しいので1を選ぶ。諮問機関は、国家行政組織法第8条に規定される審議会等に該当する。一方、同法にいう委員会は第3条第2項に規定されており、省、庁と並ぶ存在である。この委員会の代表例は、選択肢に登場する中央労働委員会や公害等調整委員会である。なお、この種の委員会は合議制の行政庁である。
(ウ)も正しいので1を選ぶ。行政法学上の執行機関の例が警察官、消防職員、自衛官、海上保安官である。
(エ)も正しいので1を選ぶ。問題文に書かれているように、監査機関という概念を設ける見解がある。その例が、会計検査院(憲法上の機関であり、内閣から完全に独立している唯一の国家機関)、総務省の行政監察部門、地方公共団体の監査委員である。
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