行政法小演習室・その7  解説など

 

 

1.(1)は5点。(2)は8点。

  (1)誤っているものはAである。残りはすべて正しい。

    @侵害留保説によれば、国民の自由と権利を侵害する行為については法律の留保が必要である。

    A行政のすべての活動について法律の根拠が必要であるとする見解は、全部留保説とよばれ、現在の判例・通説である。

    B権力的な行為であれば、侵害的か授益的かを問わず法律の根拠が必要だとする見解は権力留保説である。

   C重要事項留保説(本質留保説)は、行為が授益的か侵害的か、あるいは権力的か非権力的かにかかわらず、重要な事項は法律で定めるべきだとする説である。

  (2) 全部留保説には、上記の内容もあれば、純粋に私法上の行為を除くすべての行政活動について法律の根拠を求める見解もあるが、いずれにせよ、現在の判例・通説が採るところとなっていない。判例は侵害留保説を採用するものと思われるが、いまひとつ明確ではない。また、学説では、侵害留保説が通説とも言い切れない状況であり、おそらくは権力留保説が支配的になりつつあるものと思われる。

 

2.(1)は5点。(2)は8点ずつ、計32点。

  (1)妥当なのは@である。とくに説明するまでもないと考えていたが、「国民の権利義務に関する行政立法は、法律の授権なしに行われてはならないということによる」という部分が誤っていると考えた学生も少なくなかった。この部分は、とくに委任立法を念頭においているのであり、妥当である。

  (2)A〜Dのそれぞれについて、修正した文章の例を示し、若干の解説を加えておく。

  A「法律の優位の原則とは、行政活動は法律の定めに違反して行われてはならないという原則であり、この原則はあらゆる行政活動について妥当するものとされている。しかし、法律の定めよりも厳しい内容の行政指導をすること が、ただちにこの原則に反し許されないということにはならない。」

  なお、元の文の「行政指導」を「行政処分」に修正してもよい。

  行政指導は事実行為であるため、法律の定めよりも厳しい内容の行政指導をしたからといって、直ちに法律の優位の原則に反する訳ではない。事実上の強制にならない限り、法律の定めよりも厳しい内容の行政指導であっても法律の優位の原則に反せず、許されると理解されている。

  B「法律の留保の原則とは、一定の行政活動が行われるためには法律の根拠を必要とするという原則であり、その妥当する範囲については多くの考え方があるが、国民主権主義に立つ現行憲法の下では、すべての行政活動について法律の根拠を要すると解する全部留保説が通説で はない。」

  既に述べたように、現在でも侵害留保説が通説であると即断しえないのであるが、少なくとも全部留保説は通説ではない。

  C「公務員の勤務関係、国立学校の利用関係のようないわゆる特別権力関係においては、法律による行政の原理がそのままでは適用されないとされていたが、その特別権力関係内部における処分の相手方は、当該処分において裁判所に救済を求めることが 全くできないという訳ではない。」

  現在、判例でも特別権力関係はそのまま主張されている訳ではないし、学説でもほとんど支持されていない。特別権力関係とされたもののうち、たとえば公務員の勤務関係については法律による行政の原理が及ぶべきであり、懲戒処分などについては裁判所に救済を求めることができる。一方、それができないというものもあるが、この場合には部分社会の法理などが用いられている。

  D「違法な行政行為の取消しは、法律による行政の原理の要請するところであるが、とくに授益的処分である場合には、処分庁は その授益的処分の取消しについて制約を受けることがありうる。」

  学説においては、たとえ違法であっても授益的処分(許可、認可など)の場合は直ちに取り消したりすることが許されない、とする考え方が支配的になっている。これは、その授益的処分の持続に関する私人の側の信頼を保護する必要性などがあるためである。なお、不利益処分であっても、違法であるからといって直ちに取り消すことが許されないという場合も想定しうる(あまり多くはないであろうが)。

 

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