堺市固定資産税等賦課徴収懈怠違法確認等請求事件

大阪地方裁判所平成20年2月29日判決、判例タイムズ1281号193頁

 【事実の概要】

 堺市内にある甲池および乙池の土地は、いずれも地方税法348条2項6号にいう「ため池、堤とう」として固定資産税および都市計画税(以下、固定資産税等)について非課税として扱われた(702条の2第2項も参照)。

 甲池については堺市が所有者として登記されており、A町水利組合が管理し、A町会(権利能力なき社団)がC卸売市場協同組合に賃貸している。C卸売市場協同組合は、この池の水面上の大部分にデッキプレートを構築し、その上に建物を建てて所有しており、この建物でC卸売市場、DホームセンターおよびE水産流通センターなどが営業している。

 乙池については、登記簿の表題部に所有者として「大字K」と記載されている。乙池水利組合が管理し、遅くとも平成10年頃からB町自治会(権利能力なき社団)がその敷地の一部をF社に対して住宅展示場として賃貸している。やはり水面上の一部にデッキプレートが構築され、その上に未登記の複数の建物があり、モデルハウスとして展示されている。

 原告は、登記簿上はため池とされ、現況もそうであるこれらの池について、 実際には所有または管理する町会・自治会が第三者に賃貸し、水面上にデッキプレートが構築されて建物が建てられているにもかかわらず、堺市長が固定資産税等の賦課徴収を違法に怠り、同市に損害を与えているなどと主張し、平成17年2月1日に住民監査請求を行った。これに対し、堺市監査委員は請求に理由がないとする通知をした。そこで、原告は、地方自治法242条の2第1項3号および4号に基づき、堺市長(現職および前職)、同市北支所税務課長(平成12年度〜平成14年度の1名、平成15年度〜平成 16年度の1名)を被告とする住民訴訟を提起した。

 

 【判旨】

 一部却下、一部認容(乙池の土地について平成15年度および平成16年度の各固定資産税等の賦課徴収の懈怠が違法であることを確認した)、一部棄却。

 一 「固定資産の所有者が当該固定資産を」地方税法348条2項「各号に掲げる公用又は公共の用に供するとともに当該固定資産の全部又は一部を有料で貸すなどしてこれを収益している場合であっても、当該固定資産が現実に当該各号に掲げる公用又は公共の用に供されている限り、市町村は、当該固定資産の所有者に対し固定資産税を課することができないと解すべきであ」る。同項ただし書は「課税、非課税について課税権者である市町村の裁量を認める趣旨の規定をしていること、例外的に固定資産税を課することができる場合として、『固定資産を有料で借り受けた』とのみ規定することにより、通常の取引上固定資産の貸借の対価に相当する額に至らないとしても、その固定資産の使用に対する代償として金員が支払われていれば足りる」(最判平成6年1220日民集48巻8号1676頁を参照)。

 そして、「地方税法348条2項6号にいう『公共の用に供する』とは、何らの制約を設けず、広く不特定多数人の利用に供することをいい、 同号にいう『ため池』とは、耕地かんがい用の用水貯留池をいうものと解される」から「本件各土地がため池として公共の用に供されていたといえるためには、 本件各賦課期日において、本件各土地が客観的にみて耕地かんがい用の用水貯留池としての機能を果たしうる状態にあっただけでは足りず、その貯溜水が現実に広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供されていたことが必要である」。

 二 甲池は「現時点においてもその貯留水がその近隣に少なからず存在する田畑のかんがいの用に供されているものと認められ」るが、乙池については「客観的にみて耕地かんがい用の用水貯溜池としての機能を果たし得る状態にあったか否かはともかく、その貯溜水が現実に広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供されていたものとは証拠上認め難い」。

 三 乙池の土地に関しては「登記簿の表題部に所有者として記載されている者が固定資産税の納税義務者となる」。B町自治会が「大字K」とされた地域の住民からなる入会団体の後身として乙池の土地を所有しており、「堺市も上記事実を認識した上同自治会がその財産である上記土地の一部を処分するに当たりその所有権移転登記手続に協力していた」から、「少なくとも本件各賦課期日において上記土地の所有者として登記されている『大字K』がB町自治会に該当することを容易に知り得たというべきである」。 

 四 乙池の土地全体の半分程度を占めるデッキプレート部分は「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地としての機能を果たしているということができ」るから「デッキプレートが構築されている部分とその余の部分とに区分し、前者についてはその地目を宅地、後者についてはその地目を池沼と認定した上、固定資産評価基準に従ってその価格を評価し、地方税法及び堺市市税条例の定めるところに従って固定資産税及び都市計画税を賦課徴収すべき」である。

 五 「地方税法408条に規定する固定資産の状況の実地調査の程度、態様についても、少なくとも土地についていえば、すべての土地の利用状況の細部についてまで逐一行う必要はなく、特段の事情がない限り、外観上土地の利用状況、現況地目等を確認し、これらに変化があった場合にこれを認識する程度で足りる」。

 

 【検討あるいは評釈

 本件の主要な争点は、(1)本件各土地は非課税財産(地方税法348条2項6号)に該当するか、(2)本件各土地は非課税財産(同1項)、または納税義務者を確定することができない固定資産に該当するか、(3)本件各土地に係る平成 13年度の固定資産税等の賦課徴収を怠ったことによる堺市の損害の額、および(4)市長および北支所税務課長の故意または過失の有無、である。

 . 争点(1)について 〔判旨一および二〕

 本判決は、甲池、乙池のそれぞれが賦課期日の時点において地方税法34826号にいう「公共の用に供する用悪水路、ため池、堤とう及び井溝」として機能しているか否かに着目して、非課税財産の該当性を判断した。その上で、それぞれの池についてただし書が適用されるか否かが解釈上の問題となった。但し、甲池についてはそもそも同号が適用されるのかという点に疑問が残るが、本判決が展開する論理に一応は従い、検討する。

 そもそも、3482項は「政策的な見地から認められる固定資産税の物的非課税規定」であり(注1)、「公共用地の確保という政策目的のために非課税としたものであると説明するほかない」という指摘がある(注2)。それはともあれ、3482項ただし書については、固定資産税の性格(財産税か収益税か)との関係もあって見解が分かれる。

 本判決が参照する最判平成6年1220日民集48 8 1676頁は、固定資産税が財産税であり、「固定資産の収益の有無や多寡はその課税と直接関連するものとはいえない」と述べる東京地判平成4年3月19日判タ791139頁の趣旨を是認した上で、348条2項にいう「固定資産を有料で借り受けた」とは「通常の取引上固定資産の貸借の対価に相当する額に至らないとしても、その固定資産の使用に対する代償として金員が支払われているとき」を指すものと解する。

 従って、この考え方によれば、「有料」とは「利益の提供について金員の支払を必要とすること」であり、 金員の額の程度や利益との対価性の有無には関係がないこととなる(非有償説(注3))。なお、「有料で借り受けた」場合について「あくまでも租税政策的な見地から設けられたものであり、貸主や借主の私法上の地位、各人の利害状況等を考慮して設けられたものではない」とする指摘もある(注4)

 これに対し、「有料」を、通常の賃料または使用料との対価性がある場合と理解する説がある(有償説(注5))。この立場によると、一種の「犠牲的精神」に立つような場合(賃料や使用料が固定資産税の納付額を下回るような場合)には 「有料」と言えないこととなる。

 本判決は、【判旨】 の一に示したように「固定資産の所有者が当該固定資産を地方税法348条2項各号に掲げる公用又は公共の用に供するとともに当該固定資産の全部又は一部を有料で貸すなどしてこれを収益している場合であっても、当該固定資産が現実に当該各号に掲げる公用又は公共の用に供されている限り、市町村は、当該固定資産の所有者に対し固定資産税を課すことができないものと解すべきであ」ると判断しており、非有償説に立つものと思われる。

 地方税法348条2項6号および堺市市税条例31条2項の文言解釈による限り、有償説のように理解することは困難であると思われる。また、有償説をとるならば、本件の場合、甲池について非課税扱いを妥当とする判断を下すことは難しいであろう。

 これに対し、非有償説をとるならば、 甲池について非課税扱いを妥当とする判断を下しやすい。しかし、この説をとるならば、「固定資産を有料で借り受けた者が、これを法第348条第2項に掲げる固定資産として使用する場合においては、当該固定資産の所有者に対し固定資産税を課する」と定める堺市市税条例31条2項の意味が不明になる。基本的に非有償説に立つとしても、本件のような条例の規定には有償説的な意味が込められていると考えられないであろうか。固定資産税が基本的に財産税であるという立場をとるとしても、地方税法348条2項ただし書には収益税としての性格が込められており、堺市市税条例31条第2項はその趣旨を明らかにしたと考えることも可能ではなかろうか。

 なお、 本判決は堺市市税条例 31条2項に言及せず、地方税3482項ただし書にのみ着目しており、地方税法 3482項ただし書を「課税、 非課税について課税権者である市町村の裁量を認める趣旨の規定」と理解する。しかし、地方税法348条2項ただし書が「当該固定資産の所有者に課することができる」と定めるのに対し、堺市市税条例31条2項は、既に示したように「当該固定資産の所有者に対し固定資産税を課する」と規定するのであって「課することができる」とは規定していない。「市町村の裁量」は、市税条例の制定に際して認められるものであって、堺市が上記のような規定を置いた以上、課税をするか否かについて裁量が認められるとは考え難い(注6)

 また、本判決は「地方税法が賃貸の対象とされている土地が同法348条2項各号に該当しない用途で利用されている場合はそもそも同項所定の用途的非課税の対象にならないことを前提としているのは困難というべきである」と述べるが、その意味が判然としない、と言わざるをえない。

 (注1)占部裕典・判評44020頁〔判時1537 (1995) 214頁〕。

 (注2)千葉勝美・法曹時報4811号(1996年)2491頁。

 (注3)占部・前掲19頁(213頁)。千葉 ・前掲2492 頁が「『有料』 とは、文字どおり、貸借とけん連性をもって成立した債務に基づいて金員が支払われることを意味するにとどまるというべきであろう」と述べているのも、同じ趣旨であろう。 碓井光明 『要説住民訴訟と自治体財務』 〔改訂版〕(2002年、学陽書房)290頁、木村琢磨「地方公共団体が被った損害(1)」 磯部力・小幡純子・斎藤誠編『地方自治判例百選』〔第3版〕(2003年、有斐閣)191頁も参照。

 (注4)千葉・前掲注2492頁。この趣旨は、非課税という例外の、さらに例外を設けたということであろうか。租税政策的な見地というより、課税という原則に戻したというだけではないのか(そうであれば、課税は当然であり、政策などを持ち出すまでもない)。

 (注5)占部・前掲注19頁。

 (注6)千葉・前掲2490頁を参照。

 2.争点(2)について(判旨三)

 本判決の事実認定によると、甲池の土地の所有者は堺市とされている。この点について原告側は地方税法343条2項後段に従ってA町会が「現に所有している者」であると主張したのに対し、被告側は、甲池の土地が348条第1項に該当し、かつ、実質的な所有者の確定も極めて困難であるから非課税扱いが妥当であると主張した。本判決は同2項6号に該当するから非課税扱いが妥当であると判断したが、前述のように、これには疑問が残る。

 本判決においては、管理者であるA町水利組合、C卸売市場協同組合に賃貸しているA町会の位置づけが不明瞭のままに残されているのであるが、実質的な所有者はA町会であることを暗黙の前提としているのであろうか。そうでなければ、34826号に言及し、これを援用する意味が不明であると思われる。しかし、このように解釈すると、台帳課税主義または「『登記名義人課税』原則」の意味が失われかねない(注7)。甲池については同第1号が適用されると解するのが妥当であろう。

 次に、乙池については、登記簿の表題部に所有者として示されている「大字K」が、後に市町村合併が繰り返されたこともあって現在のどの地域に相当するかは不明となっているものの、乙池水利組合が管理し、B町自治会が実質的な所有者となっていると認められることから、「大字K」はB町自治会に相当すると考えざるをえないであろう。その意味において、本判決は妥当である。

 (注7)碓井光明『要説地方税のしくみと法』(2001年、学陽書房)173頁。

 3.争点(3)について(判旨四)

 本判決は、固定資産評価基準を参照し、原則として一筆の土地を一画地として評価するものとするが、「一筆の土地が一体として利用されていないなど、その形状及び利用状況等からみて一体を成して いると認められる複数の部分に区分され、 その各部分ごとにその土地の地目が異なる場合において、 これを一筆の土地としてその全体の地目を認定し固定資産評価基準に従って評価したのでは、 当該宅地の適正な時価、すなわち、客観的な交換価値への接近方法としての一般的な合理性を欠くと認められるようなときには、 その一体を成している部分の土地ごとにそれぞれその地目を認定して固定資産評価基準の定める方法による評価をすべきであ」ると述べる。

 総務省の告示である固定資産基準の法的性格をどのようにとらえるにせよ(注8)、一筆の土地を、たとえ明確に用途等によって地目を区分できる場合であっても常に一体として取り扱わなければならない とするだけの合理的理由が存在するか否かは疑問である。

 従って、本件判決の言うように、宅地の部分と池沼の部分とに分けた上でそれぞれについて固定資産評価基準に従って価格を評価し、固定資産税および都市計画税を賦課徴収すべきであると考えるのが妥当であろう。

 (注8)最判昭和611211日判時122558頁、碓井・前掲書188頁、金子宏『租税法』〔第十四版〕(2009年、弘文堂)344頁、北野弘久編『現代税法講義』〔訂版〕(2009年、法律文化社)223頁などを参照。

 4.争点(4)について(判旨五)

 本判決は、地方税法408条に定められる実地調査について「すべての土地の利用状況の細部についてまで逐一行う必要はな」く、「限られた期間内にこれらのため池について逐ーその現実の利用状況等を調査することが事務的、技術的に困難である」と述べ、市長および北支所税務課長の故意・過失を否定した。これは、一般論としては理解しえなくもないが、本判決の判断には疑問も残るところである。

 土地については、原則として3年ごとに評価を行い、価格を決定する(同349条、341条6号)。このため、基準年度の翌年度と翌々年度には評価が行われず、据え置かれるのが原則である(3491項ないし3項)。341条第5号にいう「適正な時価」と矛盾する嫌いはあるが、少なくとも3年に1回は、非課税として扱われている土地についても、非課税の是非を含めた再評価が必要となるのではないか。

 堺市市税条例47条は、「固定資産税の非課税の規定の適用を受けなくなった固定資産の所有者がすべき届出」という見出しの下、「法第348条第2項各号の固定資産として同条同項本文の規定の適用を受ける固定資産について、当該各号に掲げる用途に供しないこととなった場合、又は無料で使用させている固定資産を有料で使用させることとなった場合においては、当該固定資産の所有者は、その事実発生の日から30日以内に、その事実を証する書面を添えて、その旨を市長に届け出なければならない」と定める。このような届出義務が定められている場合に、地方税法408条について本判決のような解釈をとるならば、堺市市税条例47条は無意味な規定になりかねず、妥当でないものと思われる(注9)

 (注9)もっとも、この届出義務の不履行に対し過料を科す旨の規定は堺市市税条例に存在しない(同101条を参照)。

 5.結論

 乙池の部分について固定資産税等を賦課徴収しなかったことを「怠る事実」として違法性を確認したことは妥当であると解されるが、その他の部分については疑問が残る。

 

 (あとがき)

  この論文は、会計と監査60巻13号(2009年12月号)32頁から36頁までに掲載されたものです。雑誌掲載時は縦書きでしたが、ホームページに掲載する際に横書きに改めました。その関係で、一部表記を変更した箇所があります。また、誤字などの訂正も行いました。 

 

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