地方における独自の財源確保と事前協議

 

●独自の税収確保には総務大臣の同意が必要

 本格的な地方税財政改革が先送りされる中で、地方自治体による法定外普通税等の導入が相次いでいます。九州でも「太宰府市歴史と文化の環境税条例」などが制定されました。このような流れは地方分権改革の進展を示すものとして一応の評価をすることができます。

 しかし、地方自治体は、この種の税を全く独自に導入できるわけではありません。条例を制定し、施行するためには、地方税法第245条、第669条、第731条第2項に定められた総務大臣との事前協議を行い、かつ、総務大臣の「同意」を得なければなりません。

●同意と許可は異なるのか

 かつては、法定外普通税については自治大臣の「許可」を必要とする制度が採用されていました。その後、地方公権一括法による改正に伴い、「許可」が「同意」に変更されたのですが、実質的に両者がどのように異なるのかという疑問が少なからぬ論者から指摘されています。また、法定外目的税については規定が存在しなかったのですが、やはり地方分権一括法による改正によって規定が追加され、やはり「同意」を必要とする事前協議を行うこととされました。

 地方自治法第245条第1号に列挙される国の関与の方式を見ますと、「是正の要求」に続いて「同意」、「許可、認可又は承認」、「指示」、「代執行」の順に列挙されていますが、これらは全て「処分その他公権力の行使」と位置づけられています(同第250条の13、第251条の3第1項)。

 もっとも、これらは講学上の行政行為ではないので、取消訴訟ではなく、機関訴訟の対象となります(地方自治法第251条の5を参照)。それでも、純粋に法的性質を検討するのであれば、行政行為と同様と考えてよいと思います。

●同意は対等で、許可は上下関係?

 或る総務省関係者は、「同意」は対等者間の関係について使用する用語であり、上下関係を示すものではないこと、「承認」の場合に「協議」は不要であるが、「同意」の場合は「協議」を前提とするとして、「同意」と「承認」の性質は異なると説明しています。これは、地方自治法第245条第1号の構造からすれば、「許可」についても同様に妥当するのでしょう。

 しかし、この説明では法的性質の違いは明らかにはなりません。地方税法上も、「同意」は法定外普通税等を定める条例の効力(施行するための効力)を完成させるための要件とされています。このことからすれば「同意」は行政行為のうちの認可に相当する法的性質を有すると考えられます。従って、名目は「許可」制度から「同意」制度に変わったといっても、実質には特別な変化がないと指摘することが出来ます。

 このような制度の下で、課税自主権の拡大など、財政面における地方分権はどこまで実現しうるのかという根本的疑念が残ります。

 

《付記》以上が、T&A Master第9号(2003年3月3日号)39頁に掲載されたものです。この雑誌は、一般の書店などで入手できません。また、この文章の掲載が遅れましたのは、雑誌発売日以降においても、掲載の有無などを確認できなかったことによります。なお、題目を含め、編集者などによって文体の変更、出典の削除などがなされたので、以下、私のオリジナル原稿を掲載します。

 

 

事前協議における総務大臣の「同意」の法的性質

 

  本格的な地方税財政改革が先送りされる中、地方自治体による法定外普通税および法定外目的税の導入が相次いでいる。九州では「太宰府市歴史と文化の環境税条例」が代表例である。これは、地方分権改革の進展を曲がりなりにも示すものであり、一定の評価をすべきであろう。

  しかし、地方自治体は、この種の税を全く独自に導入できる訳ではない。条例を制定し、施行するためには、地方税法に定められる総務大臣との事前協議を行い、かつ、総務大臣の「同意」(地方自治法第245条第1号ニ)を得なければならない(地方税法第259条・第669条・第731条第2項)。

  かつて、法定外普通税については自治大臣の「許可」を必要とする制度が採用されていた(法定外目的税については規定が存在しなかった)。地方分権一括法による改正に伴い、「許可」が「同意」に変更されたのであるが、実質的に両者がどのように異なるのかという疑問が、少なからぬ論者から示される。実際、地方自治法第245条第1号に列挙される国の関与の方式をみると、「是正の要求」に続いて「同意」、「許可、認可又は承認」、「指示」、「代執行」の順に列挙されており、「処分その他公権力の行使」と位置づけられている(同第250条の13、第251条の3第1項)。もっとも、これらは講学上の行政行為ではないので、取消訴訟ではなく、機関訴訟の対象となる(地方自治法第252条を参照)。それでも、純粋に法的性質を検討するのであれば、行政行為と同様に考えてよい。

  或る総務省関係者は、「同意」が「対等な立場にある者相互の間において使用されており、上下関係を前提とする用語ではな」いこと、「『承認』は必ずしも『協議』を必要としないが、『同意』については、通常は双方の協議を前提とするものであ」ることから、「同意」と「承認」の性質は異なるとする{松本英昭・新版逐条地方自治法〔第1次改訂版〕(2002年、学陽書房)941頁}。この論旨は、地方自治法第245条第1号の構造からすれば、「許可」についても妥当するのであろう。

  しかし、この説明では法的性質が明らかにならない。事前協議の結果としての「同意」であったとしても、契約的要素があるとは思われない。地方税法上も、「同意」は法定外普通税および法定外目的税を定める条例の効力(施行するための効力)を完成させるための要件とされている。このことからすれば、「同意」は行政行為のうちの認可に相当する法的性質を有すると考えられる。従って、名目は「許可」制度から「同意」制度に変わったと言っても、実質には特別な変化がないと考えるべきである。

  その意味では、課税自主権の拡大など、財政面における地方分権はどこまで実現しうるのか、という根本的疑念が残る。

 

(掲載:2003年3月28日)

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