第二部    国の財政法制度

 

 

03    財政法の構造と原理―財政法に示された財政の原則―

 

 第一部において日本国憲法における財政の基本原則を概観したが、今回は、財政法における諸原則を概観することとする。以下に掲げるのは、いずれも財政会計上の原則であり、財政法や会計法に拠ることとなる。なお、第三部において扱う地方税財政法の領域にも共通する部分が存在するので、そのような部分については、ここで取り上げることとする。

 (1)会計年度独立の原則

 国や地方公共団体には会計年度がある。これは、財政活動を規制し、その実績を明確にするために設けられる。すなわち、財政活動における収入と支出との対応関係を明確にするために設けられる。

 会計年度は、基本的に1年である。戦時中、軍事費特別会計が戦争終結までの期間を一会計年度としたこともあるが、基本的には1年が妥当であろう。あまり長期にわたると、収入と支出との対応関係が不明確になるおそれが高くなるからである。

 この意味において、複数年度予算の設定には疑問なしとしない。会計年度を1年と規定したとしても、実質的には複数年にわたる一会計年度を設けることになりかねないからである。もとより、毎年、会計検査院(監査委員)、国会(議会)、さらに国民(住民)によるチェックがなされるのであれば、長期的視野を備えた制度として評価しうる。

 会計年度の始期と終期をいかに定めるかは、各国によって異なるし、立法政策の問題であると言いうる。財政法第11条は、始期を4月1日とし、終期を翌年3月31日とする。

 会計年度独立の原則は、既に示したように、憲法第86条において示される原則である。そして、これは予算単年度主義を示すものでもある。このことは、憲法第52条(通常国会の召集)および第90条(決算)からも明らかである。

 財政法第12条も、この原則を明示する。また、第42条本文は「繰越明許費の金額を除く外、毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、これを翌年度において使用することができない」と定め、当該年度の経費が翌年度の経費の支出に流用されないようにしている。また、翌年度に予算の剰余が発生することを見越して歳出を執行するようなことがあってはならないという意味を持つ。この他、会計法第1条第1項は「一会計年度に属する歳入歳出の出納に関する事務は、政令の定めるところにより、翌年度七月三十一日までに完結しなければならない」と定め、第9条本文も「出納の完結した年度に属する収入その他予算外の収入は、すべて現年度の歳入に組み入れなければならない」と定める。

 しかし、この原則を厳格に貫き通すことによって、かえって財政運営が困難になることもある。そこで、例外が定められている。

 第一が、既に第一部において取り上げた継続費である。財政法第14条の2は「国は、工事、製造その他の事業で、その完成に数年度を要するものについて、特に必要がある場合においては、経費の総額及び年割額を定め、予め国会の議決を経て、その議決するところに従い、数年度にわたつて支出することができる」と定める(第1項)。継続費は最高で5箇年度までとされる。また、継続費については、年割額の逓次繰越も認められている(第43条の2)。

 重森暁・鶴田廣巳・植田和弘編『Basic現在財政学』〔第3版〕(2009年、有斐閣)30頁[横田茂執筆]は、継続費および国家債務負担行為を「多年度予算の制度である」と評価した上で、「それらは国会の議決の対象となってはいるが、単年度の歳出規模を小さく表すことにより予算の全体を隠し、後年度における軍事費や公共事業費の膨張を図る政府の財政的操作の手段となることに注意しなければならない」と述べる。

 第二が、第42条本文にも規定される繰越明許費である。これは、第14条の3において定義されるもので、歳出予算に示された経費のうち、年度内に支出を終わらないと認められるものについては、国会の議決を経た上で翌年度に繰り越す経費のことである。この場合には、第43条に従い、各省庁の長が繰越計算書を作製し、財務大臣の承認を得ることによって繰越明許費を使用することができる。なお、使用した場合に、事項毎に財務大臣および会計検査院に通知することも義務づけられている。

 第三が、第42条ただし書きに規定される事故繰越である。これは、予算に示されている経費のうち、「避け難い事故」の故に年度内に支出を終わらせられないものについて認められる。この場合も、第43条に従った手続を必要とする。

 第四が、前年度剰余金の受け入れである。第41条は、歳入歳出の決算の上で剰余が生じたときに、その剰余を翌年度の歳入に繰り入れることを規定する。

 第五が、過年度収入および返納金戻入である。会計法第9条本文は「出納の完結した年度に属する収入その他予算外の収入は、すべて現年度の歳入に組み入れなければならない」と定めている。過年度に属する収入であっても、現実には異なる年度に収納されることがある。そのために、現実に収納された年度の歳入に含めるのである。但し、支出済みとなっている歳出について返戻金が出た場合には、政令(予算決算及び会計令第6条など)の規定に従い、その歳出の金額に戻入することができる(会計法第9条ただし書き)。

 第六が、過年度支出である。会計法第27条本文は「過年度に属する経費は、現年度の歳出の金額からこれを支出しなければならない」と規定する。これも、過年度に属する支出であっても現実には異なる年度に支出されることがあるために、現実に支出された年度の歳入をあてるというものである。なお、ただし書きにより、「その経費所属年度の毎項金額中不要となつた金額を超過してはならない」という制約が付けられる。

 第七が、財政法第44条に規定される特別資金の保有である。これは、個別の法律により認められるもので、一般会計に属する資金として、国税収納金整理資金、決算調整資金、経済基盤強化資金などがあり、特別会計に属する資金(基金)として、消費的資金、準備的資金、などがある。なお、地方自治法第241条は、基金の保有を認める。

 (2)会計統一の原則

 国の歳入および歳出を管理・経理する際には、当然、全体的な財政状況を容易に把握できなければならない。このためには、歳出および歳入が単一の会計の下に置かれ、統一的に管理・経理されることが望ましい。会計統一の原則は、かような要請を行うものである。

 仮に、特定の事項に基づいて得られた歳入が、特定の事項に関する歳出にあてられるとなると、各行政分野の会計が独立することとなる。このようになると、国の財政が統一されなくなり、見通しもきかなくなる。そして、計画性のない財政となるおそれがある。

 そこで、後に取り上げる総計予算主義を明示する財政法第14条は、歳入歳出の全てを予算に編入することを求めている。しかし、第13条第1項が一般会計と特別会計の区別を設けていることは、会計統一の原則に対する例外が認められるということである。特定の収入支出を一般の収入支出と区別して経理をなすほうが能率的でかつ合理的である場合もある、と説明される。もっとも、この場合であっても、無制約に例外が認められるならば、国の財政がひどくわかりにくくなり、各分野の裁量あるいは恣意性を助長することになりかねない。そこで、第13条第2項は「国が特定の事業を行う場合、特定の資金を保有してその運用を行う場合その他特定の歳入を以て特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に限り、法律を以て、特別会計を設置するものとする」ことを明示する。特別会計の設置に国会を関与させ、監視させる趣旨であると理解できる。それにしても、特別会計を規定する法律の数は多い。また、特別会計については、財政法の規定に対する特例を定めることができる(第45条)。

 (3)統一的収支の原則

 これは、会計統一の原則と深い関係を有する原則であり、歳入、歳出のそれぞれを統一的に整理し、取り扱うことにより、歳入全体から歳出を行うべきであって、個別の歳入から個別の歳出に充てるべきではない、とする原則である。会計法第2条は、この原則を明示するものである。また、会計統一の原則と異なり、統一的収支の原則は、特別会計についても適用される。

 (4)総計予算主義の原則

 完全性の原則とも言われる。これも、憲法第86条から導き出される原則で、財政法第14条に規定される。また、会計法第2条の規定も、この原則と関係する。

 歳入および歳出は、それぞれ別個に、総額を計上しなければならず、全ての収入、全ての支出は、予算に計上されなければならない。これによって、予算における一切の収支を明らかにし、予算の全体像を明瞭にすること、国会、さらに国民による監督を容易にすること、予算執行の責任の所在を明確にすることが期待されるのである。

 これは、企業会計において採られる純計予算主義(原額計上主義)と対峙する。純計予算主義の場合は、収入と支出との差額を予算に計上することになる。利益の取得などに重心を置くのであれば、純計予算主義のほうが望ましいのであろうが、財政については、総計予算主義のほうが望ましいのである。但し、特別会計などで純計予算主義を採用すべき場合もある。

 なお、この総計予算主義から派生する原則として、ノン・アフェクタシオンの原則がある。近代国家において、租税は国家財政の支出全体に向けられるものとされる。これは、総計予算主義の原則などから導かれる。そして、原則的に、特定の租税収入を予算中の特定の支出項目に充てることは許されない。これがノン・アフェクタシオンの原則である。

 ※この記述は、拙稿「地方目的税の法的課題」日税研論集46号『地方税の法的課題』(2001年、日本税務研究センター)280頁による。

 しかし、この原則は、とくに法律によって特定の租税について使途を限定することを妨げるものではない。こうした例外として、目的税、特定財源がある。

 ※普通税でありながら使途が限定されているもの、税以外の収入で使途が限定されているものをいう。

 とくに、近年、地方分権改革との関連において、ノン・アフェクタシオンの原則に対する例外としての目的税に対する評価が高まっている。その理由として、行政サーヴィスと負担者との間における受益関係が明確であることなどがあげられている。受益者負担論の観点からの再評価なのであるが、これについては、別に拙稿において批判的に検討したので、詳細はそちらを参照していただきたい。

 拙稿・前掲282頁を参照。ここで簡単に記すと、受益者負担の概念を安易に拡大させていること、応益負担を単純に強調していると考えられること、使途目的の限定が財政の弾力性などを失わせるおそれがあること、などが私の批判の骨子である。なお、同「地方消費税法再考―地方税財政権の観点から―」税制研究55号(2009年)95頁も参照。

 (5)課徴金等法律主義

 これは租税法律主義の延長線にある原則と言いうるもので、財政法第3条に規定されている。課徴金は、手数料、使用料、納付金、罰金、科料、裁判費用などからなるが、行政権に基づくものとしては手数料、使用料、納付金などが該当する。国民から徴収する金銭負担であるという点においては、租税と共通する。また、専売価格や事業料金についても、価格が市場において決定されるものではないので、課徴金と類似する部分もあるし、国民の負担などを考慮するならば、法律の規定により、または国会の議決により決定することが望ましい。このために、第3条は法律主義を採るのである。

 なお、憲法第84条に関連する租税の定義については、第一部において取り上げた。

 しかし、第一部において述べたように、財政法第3条は昭和23年の「財政法第三条の特例に関する法律」により適用が停止(あるいは修正)されており、実質的には適用例が存在しない。

 (6)国費分担法律主義

 財政法第10条は「国の特定の事務のために要する費用について、国以外の者にその全部又は一部を負担させるには、法律に基かなければならない」と定める。これも、租税法律主義の延長線にある原則であり、負担金や寄付金などにも法律主義を及ぼすものである。

 杉村章三郎『財政法』〔新版〕(1982年、有斐閣)70頁は「国費分賦法律主義」と表現する。

 しかし、第10条は、現在まで一度も施行されていない。これは財政法の規定において唯一の例である。未施行の理由としては、国費分担法律主義を徹底すると「国の財政が膨張する懸念があり、漸進的に立法措置を講ずるほうが適当と判断されたこと」があげられる※※

 ※財政法附則第1条は、同法第3条、第10条および第34条の施行日を政令で定める旨を規定する。このうち、第3条は昭和23年4月政令第86号により、1948(昭和23)年4月16日から施行された。また、第34条は、昭和2210月政令第218号により、1947(昭和22)年1021日から施行された。しかし、第10条の施行に関する政令は、現在に至るまで存在しない。従って、第10条は現在も未施行のままである。

 ※※兵藤広治『財政会計法』(1984年、ぎょうせい)43頁による。また、杉村・前掲書71頁は、同条の文言が「極めてあいまいであるため、財政法の他の規定が施行されているにもかかわらず今日なお施行されないのも故なしとしない」と評価する。

 もっとも、寄付金については「官公庁における寄付金等の抑制について」という、昭和23年1月30日の閣議決定が存在する。これは、寄付金が半強制的な性質を帯びる場合が多く、「国民に過重の負担を課し、行政措置の公正に疑惑を生ぜしめる恐れがあるなどの弊害がある」が故に、諸経費を寄付金などで賄うことを極力慎むこと、寄付金の募集を厳禁すること、自主的寄付の場合においても割り当ての方法を採らず、しかも「主務大臣が弊害の恐れがないと認めたもの」のみ受け入れること、などが要請されている。

 槇重博『財政法原論』(1991年、弘文堂)74頁を参照。なお、槇博士は、この閣議決定について「財政法10条に基づいて法律で定めるべきものであった」と述べる。

 施行されていないとは言え、この条文には解釈上の問題があるので、触れておく。

 第一に「国の特定の事務」である。これは不明確であるが、杉村博士は「国の一般行政事務を遂行するに当たって特別な施設をなす場合とか(例えば国立大学の建設に当たり図書館や運動施設を設ける場合)あるいは特殊の国家事業を営む場合(例えば国立美術館を設けたり、原子力の基本事業を営む場合)」と理解する。ただ、このように理解すると、受益者負担との関係が問題となるが、受益者に求める負担についても法律主義を定めるものであるということなのであろう。

 ※杉村・前掲書73頁。

 第二に「国以外の者」である。これについて、私人を指すことは間違いないが、問題は地方公共団体が含まれるか否かである。当然に地方公共団体を含むという説もあるが、杉村博士は「地方公共団体に対して国の経費を負担させるについて法律主義を採ることは憲法92条の規定からも推定され、国と地方公共団体との財政関係については地方財政法に詳細、明確な方針が定められており敢て財政法の規定を要しない」として、私人に限定して解する。どちらが正しいかはにわかに断定しがたいが、実務的な解釈は、地方公共団体を含めるものである。

 ※杉村・前掲書71頁。

 第三に「費用の負担」である。負担金を徴収する場合、強制的に寄付金を集める場合が含まれるとして、私人などに無償で事務を行わせる場合が含まれるか否かが問題となる。含まれると理解する説が多いようであるが、法律に基づいて私人などに行為義務が課される場合(所得税の源泉徴収事務などが該当する)には、「社会通念上合理的と認められる範囲」内の費用負担については、別に法律による措置は不要である、と理解されている。すなわち、国が、私人に無償で事務を行わせ、私人に生じた費用については、基本的に国が補償する必要はない、ということになる。

 ※杉村・前掲書72頁、兵藤・前掲書43頁。

 

2014年4月1日掲載)

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