第二部    国の財政法制度

 

 

05    国家の決算制度

 

 

 企業会計において、決算は重要な意味を有する。企業の実績を語るものでもあるし、企業が営利を目的とする以上、どの程度の利益が生じたか、どの程度の損失が生じたのかということは、企業の存続にとっても、そして株主の利益にとっても、関心事たらざるをえない。決算に全く注意を払わない企業など、おそらく存在しえないであろうし、仮に存在したとしても長く存続しえないであろう。

 しかし、政府の財政制度に関して記すならば、企業会計とは逆に、これまで、決算は、予算と比較してもあまり関心を持たれなかった。国会でも決算が審査されるのであるが、政治家は決算よりも予算のほうに多大な興味・関心を示す。予算であれば自己の実績や評価につながるが、決算ではそうしたものにつながらないからである。また、一般の公務員も、監査などがあることからすれば決算に全く関心がないという訳でもないが、予算に対してよりも高い関心を抱くような誘因に乏しいのも事実である。そして、このような姿勢が、放漫財政というべき状態を生み出し、巨額の財政赤字に国、地方、そして国民が苦しむ結果を生み出したのである。

 このことを念頭に置き、これからの政治、行政、そして財政を考える際、決算を軽視する訳にはいかない。これまでのような経済成長を前提とした税収の伸びは期待できないし、現在の莫大な財政赤字を念頭に置けば、無駄の少ない財政運営が求められざるをえない。そうなれば、予算よりもむしろ決算が重要視されなければならない。

 もとより、政府会計と企業会計を単純に同一視することは許されない。政府と企業とでは機能も役割も異なるのであるから、最近の風潮にみられるような単純化、同一化は慎まなければならない。しかし、政府会計は、企業会計とは異なり、その主な収入源を国民の租税とするはずのものであり、支出の目的も、国民全体の福利に役立つようなものでなければならないはずのものである。従って、その意味に由来する効率化、しかも企業会計とはおそらく異なる意味での効率化などが求められる。

 こうした問題意識を前提として、国家財政における決算制度について概観していく。

 

 1.決算の意義

 国家財政において、決算とは、一会計年度における国の収入(歳入)および支出(歳出)の実績(予算執行の実績)を、確定的な計数によって表示することを内容とする国家行為である。

 地方公共団体の財政においても、ほぼ同じ定義である。

 法的効果を有する予算と異なり、決算そのものには、国家機関を拘束する法的規範性がない。もっとも、会計検査院の権限が発動されるという意味での効果、および、決算が国会において正当なものとして承認された場合に政府(内閣)の責任を解除するという効果は生じる。しかし、会計検査院の権限の発動については法的効果と言いうるかもしれないが、政府(内閣)の責任の解除については、法的効果と言い難い。

 ※浅野一郎・河野久編著『新・国会事典―用語による国会法解説―』〔第2版〕(2010年)128頁。

 しかし、決算自体は憲法および実質的意義における財政法によって規律されるし、日本国憲法に規定される国民主権原理に鑑みれば、決算に法的効果がないとしても、無意味であるという訳ではない。

 決算は、国家財政における収入(歳入)および支出(歳出)の事後的審査、すなわち国会の事後的監督を受ける。これによって、当該年度の予算執行が適正に行われたか否かが判断され、将来の財政計画の形成や後年度の予算の編成についての監視も行われるということになるのである。これにより、予算の適正な執行が行われたか、すなわち、違法または不当な執行がなされなかったか、予算において意図された効果が発揮されたか、ということが調査されることになるのである。

 ただ、前述のように、実際にそのようなことが行われているか否かについては、少なからぬ疑問が生じる。それは、決算が、結局のところは収入(歳入)および支出(歳出)の事後報告にすぎず、事後審査を受けたとしても収入(歳入)および支出(歳出)の是正(場合によっては効果の否定)がなされる訳ではないからである。財政民主主義を徹底させるという観点に立つならば、決算の意味についての再検討が必要となるのではなかろうか。

 

 2.決算の作成手続など

 予算の編成に際して各省各庁の長が概算要求(歳出などの見積もり)をしていることからすれば、修正などを受けつつも基本的にはその要求に応じて配賦された予算がどのように支出されたか、などの報告をなす必要があるのは当然である。

 また、予算の執行は当該年度に限られるが、実際には会計年度の末日である3月31日までに収入支出の原因が発生すると、それが当該年度の収入支出として扱われるため、翌会計年度の一定期間まで、当該年度の収納や支払いについて整理をしなければならない。これを出納整理という。

 ここで、予算決算及び会計令の規定を引用しておくこととする

 (歳入金の収納期限)

 第三条 出納官吏又は出納員において毎会計年度所属の歳入金を収納するのは、翌年度の四月三十日限りとする。。

 (歳出金の支出期限)

 第四条  支出官において毎会計年度に属する経費を精算して支出するのは、翌年度の四月三十日限りとする。ただし、国庫内における移換のためにする支出又は会計法第二十条第一項の規定により歳出金に繰替使用した現金の補てんのためにする支出については、翌年度の五月三十一日まで、小切手を振り出し又は国庫金振替書若しくは支払指図書を発することができる。

 (歳出金の支払期限)

 第五条  出納官吏又は出納員において毎会計年度所属の歳出金を支払うのは、翌年度の四月三十日限りとする。

 (返納金の戻入期限)

 第六条  会計法第九条但書の規定により支出済となつた歳出金の返納金を、支払つた歳出の金額に戻入するのは、翌年度の四月三十日限りとする。

 (日本銀行における受入れ及び支払の期限)

 第七条  日本銀行において毎会計年度所属の歳入金を受け入れるのは、翌年度の四月三十日限りとする。ただし、次に掲げる場合においては、翌年度の五月三十一日まで、受入れをすることができる。

  一 出納官吏からその収納した歳入金の払込みがあつたとき

  二 市町村その他の法令の規定により歳入金の収納の事務の委託を受けた者からその領収した歳入金の送付があつたとき

  三 国庫内において移換による歳入金の受入れをするとき

   四 印紙をもつてする歳入金納付に関する法律第三条第五項の規定による納付金の受入れをするとき

 2 日本銀行において毎会計年度所属の歳出金を支払うのは、翌年度の五月三十一日限りとする。

 こうして、出納整理が済まされると、各省各庁の長は、毎会計年度、その所管する歳入および歳出の決算報告書並びに国の債務に関する計算書、そして継続費決算報告書を、翌会計年度の7月31日までに財務大臣に送付する(財政法第37条第1項・第3項、予算決算及び会計令第20条。会計法第1条も参照)。これを受けて、財務大臣が歳入予算明細書と同一の区分に基づいて歳入決算明細書を作成する(財政法第37条第2項)。また、財務大臣は、歳入決算明細書および歳出決算報告書に基づき、歳入歳出の決算を作製する(第38条第1項)。この際、第38条第2項に掲げられた諸事項を明らかにする必要がある。

 なお、予算と決算が一致することは、たしかに望ましいことであるし、原則としてそうでなければならないが、実際には過不足が生じる。

 このうち決算上の剰余金については、財政法第6条および第41条により規律を受ける。両者の文言は類似しているので区別が付きにくく、理解に困難を来しかねないのであるが、第41条の場合の剰余金を歳計剰余金といい、第6条の場合の剰余金を純剰余金という。

 まず、歳計剰余金が存在する場合には、翌年度の歳入に繰り入れることとされる。しかし、純剰余金は歳計剰余金と同一ではなく、歳計剰余金から、予算決算及び会計令第19条などにより、翌年度に繰り越した歳出予算の財源に充てるべき金額、地方交付税法に規定される地方交付税交付金の決算額の超過額(同令附則により、空港整備事業費等財源、道路整備費財源などが示されている)などを控除して得られた額とされており、純剰余金の2分の1以上は翌々会計年度までに公債または借入金の償還財源に充てられる(財政法第6条)。

 ※予算決算及び会計令第19条第2号の文言は、地方交付税交付金そのものである。

 これに対し、決算上、不足額が生じる場合については、財政法に規定がない。そこで、高度経済成長期が終了してしばらく経った1970年代後半に、決算調整資金に関する法律が制定された。この法律に従い、決算の上で不足額が発生した場合には、決算調整資金から、マイナスとなっている純剰余金が0になるために必要な額を一般会計歳入に組み入れることになっている。逆に、純剰余金から公債または借入金の償還財源に充てられた分を控除して得られた差額は、予算により、決算調整資金に繰り入れることが認められる。また、特別の必要な場合には、予算により、一般会計から決算調整資金への繰り入れが認められ、さらに、国債整理基金からの決算調整資金への繰り入れも認められる。

 

 3.決算の審査(会計検査院) 

 こうして作製された決算は、閣議に提出されて決定されるが、これで直ちに国会に提出されるのではなく、「内閣は、歳入歳出決算に、歳入決算明細書、各省各庁の歳出決算報告書及び継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書を添附して、これを翌年度の十一月三十日までに会計検査院に送付しなければならない」。これは、憲法第90条第1項を受けて規定されることである。会計検査院による決算の審査(検査)は、国会による審査(審議)の前に行われる。

 会計検査院は、第一部において述べたように、日本国憲法の下で内閣から完全に独立している唯一の行政機関である。これは、決算を検査する際の独立性を強く保障するためであるものと理解される。組織および権限については会計検査院法に定められる。

 ※憲法の文言からは必ずしも明らかでないように読み取りうるのであるが、学説などにおいて、会計検査院が内閣から完全に独立していることに関し、異論はない。また、杉村章三郎『財政法』(1982年、有斐閣)140頁は、会計検査院が国会や内閣、そして裁判所と並ぶ憲法上の機関であると理解した上で「憲法の改正なくしては最高機関である国会すらもこの機関の廃止変更(名称の変更を含む)はできないことを意味するものであり、またその主要な権限である決算審査についても立法機関は同様の拘束を受けることとなる」と述べ、会計検査院の独立性を説明する。独立性は、会計検査院法第1条において改めて規定されている。なお、財政法第18条および第19条も参照。

 会計検査院は、3人の検査官により構成される検査官会議と事務総局によって組織される(会計検査院法第2条)。長は検査官の互選に基づいて、内閣により任命する(第3条)。また、検査官の任命は内閣が行うのであるが、その際には両議院の同意が必要となり、天皇の認証も必要である(第4条第1項・第4項)。検査官の任期は原則として7年であり、再任は1回のみ許される(第5条第1項)。事務組織については第12条以下および会計検査院規則に定められ、国家行政組織法の適用はない。

 検査官の定年は満65歳である(会計検査院法第5条第3項)。この他、第4条第3項、第6条および第7条に該当する場合には退官または失職するが、その他の場合においてはその意に反して職を失うことはない(第8条)。

 権限は、憲法第90条第1項に定められているところを基礎とし、会計検査院法第20条以下に定められている事柄について行使される。

 なお、会計検査院法第38条により、会計検査院は独自の規則制定権を有する。

 主要な権限は、会計検査(これは常時行われるものとされる)および会計経理の監督であり、会計検査は正確性、合理性、経済性、効率性および有効性などの関連からなされることとなっている(第20条第2項および第3項)。なお、会計検査は、国の収入支出の決算に対する確認であり、単なる調査報告ではない(第21条)。なお、この確認は、決算を確定させるものではない。

 会計検査院の検査権限は、第22条各号に掲げられているものに及ぶ。これをみると、国の会計のみならず、国が補助金などを交付し、または貸付金などの形で財政援助を与えているもの(すなわち、国の相手方)の会計、国が資本金の一部を出資する法人の会計などにも及んでいる。また、日本放送協会(NHK)など、特別法によって会計検査院の検査を受けることとされるものも存在する。

 実際の検査については、第23条各号に掲げられた会計経理の検査を、自らの意により、または内閣の請求により行うことができるし、職員を派遣して実地における検査を行うこともできる(第25条)。また、帳簿、書類または報告の提出を求め、関係者への質問をなし、または出頭なども求めることもできる(第26条)。さらに、検査を進めるうちに会計経理について法令に違反し、または不当である事項が存在すれば、直ちに意見を表示し、または適宜の措置を求めることができ、是正改善の処置をさせることもできる(第34条)。検査の結果、法令や制度、または行政について改善を必要とする事項があると判断した場合には、主務官庁などの関係機関の責任者に意見を述べ、または改善の処置を要求することもできる(第36条。なお、第37条も参照)。

 検査を行った後に、会計検査院は検査報告を作成する。その際には、第29条の各号に規定される事項(いずれも重要である)を掲記しなければならない。そして、この検査報告が、決算とともに内閣に送付される。なお、会計検査が決算に対する確認であり、検査の結果として違法または不当な部分が発見されたとしても、それを無効としたり取り消したりすることはできないし、仮に会計検査院がそのようなことを行ったとしても、法的には無意味である。もっとも、会計事務職員に関する懲戒処分の要求をなす権限があること(第31条)、あるいは、犯罪行為があると認められる場合の検察官への通告義務があること(第33条)に鑑みれば、全く無意味であるとも言い切れない。

 ※勿論、他の行政機関に対して是正を求める、というような意味は認められる。

 内閣は、会計検査院の検査報告を受け取った後、各省各庁の長に回付される。また、内閣は、この検査報告について、国会に対する説明書を作成する。これは、国会における決算の審議の際に参考資料としての意味を有し、検査報告に対して実際に各省各庁がいかなる是正措置などを講じたのか、または、各省各庁がいかなる意見を有するか、などの説明が内容とされる。

 なお、会計検査院については、日本財政法学会編『会計検査院(財政法叢書27)』(2011年、全国会計職員協会)所収の論文も参照されたい。

 

   4.決算の審議(国会)

 こうして、会計検査院の検査報告とともに、決算が内閣から国会に提出されることとなる。憲法第90条第1項は「次の年度」としか定めていないが、財政法第40条第1項は「翌年度開会の常会において国会に提出するのを常例とする」と定める。「常例」であるから、必ず「常会」に提出しなければならないというものではない。

 なお、この時に国会に提出されるのは歳入歳出決算であるが、歳入決算明細書、各省各庁の歳出決算報告書および継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書が添附されることとなる(同第2項)。また、財政法以外の法律により、添附を義務づけられる書類もいくつか存在している。

 予算と異なり、決算については衆議院の先議権や議決における優越がない。内閣は、衆議院、参議院のどちらを先にして提出してもよく、同時に提出してもよい。

 また、予算と異なるもう一つの点として、大日本帝国憲法時代以来、決算は国会における報告案件であり、審議案件とされない、という慣行がある(憲法や財政法、そして国会法などに規定が存在しない)。これが、政治家などが決算にそれほどの関心を抱かないことの原因であると考えられる。しかも、決算の審議―前述のように、実際には報告案件に過ぎないが、ここでは審議の語を使用しておく―は、衆議院、参議院で全く別に行われており、国会の議決と言っても、実際には各院の議決が出されるにすぎず(議決がなされても他院への送付はない)、仮に審議未了になったとしても、次の通常国会または臨時国会に提出される必要はないとされているし、会期不継続の原則を適用するか否かも国会の判断に委ねられるとされている

 ※浅野・河野編著・前掲書129頁、兵藤広治『財政会計法』(1984年、ぎょうせい)108頁。

 しかし、このような取り扱いは、予算と比較してもあまりに軽すぎ、国会における審議の意義を失わせることにならないのであろうか。この点について、杉村章三郎博士は「決算についてはその審査が会期中に終了しなかった場合にも会期不継続の原則が適用されない」と述べた上で「決算は審議未了となっても一般の議案と異なり次の国会までに修正を加えられるべきものではないし、またこれを提出するかを政府が任意に決しうるものでもなく必ず国会の審議を受けなければならないものであるから、一度提出された決算は審議未了となっても次の会期において継続審議されるべきである」と述べる。私も、この説のほうが妥当であると考えている。

 ※杉村・前掲書151頁。

 もっとも、仮にいずれかの院が決算を否決したとしても、それまでになされた歳入歳出の効力に変更がなされる訳ではない。そのため、決算を国会における審議案件とせず、報告案件に留めるという取り扱いはやむをえないものかもしれない。ただ、決算の重要性が軽視されているという印象はぬぐえない。根本的な再検討の時期に来ていると考えたい。

 朝日新聞2011年2月11日付朝刊4面14版に掲載された「08年度決算  やっと決議」という記事は、2008年度決算が2011年2月14日に行われる参議院決算委員会でようやく議決される予定であると報じている(参議院の本会議でない点にも注意)。この記事によると、2008年度決算が国会に提出されたのは2009年11月であり、2010年の通常国会で審議されるはずであったが、当時の鳩山由紀夫内閣総理大臣の辞任によって審議が打ち切られている。また、同年秋の臨時国会でも審議されたが、閣僚の問責決議案が可決されたことで審議が止まった、という。しかも、2008年度予算が自由民主党・公明党の連立政権の下で編成され、執行されたことから、現在の与党である民主党が消極的であったとも書かれている。これが本当のことであれば、政権与党としては問題のある態度であると評価せざるをえないし、与野党を問わず、いかに決算が軽んじられてきたかを示す好例であるとも言いうるであろう。 

 なお、各院には決算委員会が置かれており、決算についても、本会議の前に決算委員会において「審査」が行われる。そして、本会議において決算の承認または不承認の決定が行われることとなる。

 

2014年5月17日掲載)

(2016年6月28日修正)

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