大分県に望まれること〜ある大学教授のつぶやき〜

 

  大分大学に着任して五年が経ち、少しずつではあるが、大分県、そして県内各市町村の状況が見えてきている。職業柄、他都道府県において行われている、新しい行政スタイルに向けての様々な取り組みや諸問題を概観することが多いが、大分県は、一部の市町村を除き、それほど顕著な動きを示しておらず、むしろ後景に退いているように思われる。行政の水準も、決して低いとは思われないが、高いほうに位置する訳ではない。

  目下、地方分権が声高に叫ばれており、独自の新税(法定外普通税や法定外目的税)、自治体憲法と言うべき「まちづくり基本条例」などの取り組みが、全国各地においてみられる。もっとも、中央官庁などの抵抗は今も根強い。それに加えて、全体として地方の財政状況は厳しい。地方分権改革の方向性にも少なからぬ問題点がある。国のみならず、否、或る意味において地方自治体はなおさら、順風満帆とは程遠い状況にあるが、住民参加を促進し、あるいは住民の多様な意思を(調整しつつ)汲み取る努力が続けられている。また、或る意味では右の前提であるが、自治体の財政状況などについて積極的な情報公開・提供に努めている所も多くなっている。

  大分県は、かつて、地方分権の旗手的な存在であったし、広域行政を積極的に推進する都道府県の代表的存在と目されていた。しかし、最近改善されてきたとは言え、情報公開については遅れをとっていたし、住民参加の公正かつ透明な行政手続がなされているのか、アカウンタビリティ(説明責任)が果たされているのか、という点についても、昨年秋に発覚した汚職事件などを振り返るならば、課題は多いと思われる。

  そればかりではなく、過疎化および高齢化の進行、大分市への人口および経済の集中、市街地(中心部)の空洞化の進行など、難題が山積している(勿論、ここにあげた事柄は全国的な課題である)。大分県の場合、ここ数年、過疎地に指定されている市町村の率は都道府県中第一位である。これは、一村一品運動のような、行政主導による地域おこし政策が十分な成果をあげたとは到底言いえず、むしろ多くの市町村の基盤を弱体化させたということを示している。また、道路整備に偏重した基盤整備が、公共交通機関の衰退、ひいては過疎化の進行と人口集中に拍車をかけたと考えられないであろうか(必要性を否定する訳ではない)。そればかりではなく、観光振興に取り組むにしても、公共交通機関が貧弱であるため、遠方からの観光客を見込めず、基本的には自家用車を利用する日帰りのお客しかしか呼び込めない、どうかすると通過点にしかならない、という結果に陥る。

  現在、全国的な大波となっている市町村合併についても、私は、これが地方の行財政改革に決定的役割を果たすものであるのか、疑念を抱いている。合併を進めるにしても、将来像を明確にしなければ、住民の理解を得られるとは思われないし、行政自身にとっても、目先の利益に目が眩み、長期的にみて選択を誤る、という結果につながりかねない。大分県にも、何が真のメリットなのか、何が必要となるのか、わかりやすい形で県民に示すことが求められる。

  ここまで記したことは、大分県、県内の市町村が抱えるもののうち、若干の例にすぎない。私は、これらの課題について総合的に解決するための有効な処方箋を即座に用意する能力を持っていない。しかし、すべてを行政が決定し、住民に対して一方的に理解を求め、場合によっては動員するという政策手法は、既に限界に達している、あるいは、通用しなくなっていると言いうるのではないであろうか。こうした方法は独善に陥りやすく、後世にツケを残しやすい。このことからして、今後、大分県には、科学的・合理的な政策決定および遂行、情報公開、さらに住民参加の一層の推進を求めたい。

  ■略歴  1968年7月5日、川崎市に生まれる。1992年、中央大学法学部法律学科を卒業。1995年3月、早稲田大学大学院法学研究科修士課程を修了。1997年3月、早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程を中退。同年4月より大分大学教育学部講師。同数育福祉科学部講師を経て、2002年4月より助教授、大学院福祉社会科学研究科の専任担当。また、2000年4月から、大分医科大学医学部医学科および別府大学文学部人間関係学科の非常勤講師を、2001年4月から、財団法人ハイパーネットワーク社会研究所の共同研究員を兼任。

 「大分発法制・行財政研究」    http://www.h2.dion.ne.jp/~kraft/  (旧アドレスですが、そのまま載せています。)

 

  (あとがき)  この論文は 、ESN出版 から刊行された大分ジャーナル創刊号(月号、2002.5.10)の4445に掲載されたものです。雑誌掲載時は縦書きで、写真も掲載されていますが、省略しました。

(2002年7月6日掲載)

 

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