サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第2編
本ホームページに「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第1編」という記事を掲載しております。この記事につきまして、その後の経過を知りたいという御意見をいただきました。
大分合同新聞2000年7月2日付朝刊朝F版の記事を参考にしつつ記してから、3ヶ月ほどが経過していますが、問題は解決しておりません。むしろ、激化の様相を見せております。
そこで、続編として、この問題を再び取り上げます。
別府市が発行している「市報べっぷ」11月号は、特集として別府競輪に関する記事を掲載しています。このうちの一部の記事に対し、10月31日、日田市長が「事実と異なる」として異議を申し立てました(大分合同新聞2000年11月1日付朝刊朝F版25面)。
同記事の何が問題だったのでしょうか。同記事6頁には、「サテライトのメリットの一つとして、地域経済の振興に役立つことがあげられます。そこでは、車券売場の窓口係員をはじめ多くの雇用が生じます」、「サテライトの設置で、競輪のギャンブル的イメージからか、周辺に与える影響を心配する向きもありますが、現在では宇佐のサテライトをはじめ他のどこのサテライトでも、心配されているような現象は起こっていません」という文言があります。新聞記事によれば、日田市長が異議を唱えたのは、(少なくとも直接的に)この部分に対してではなかったようです。
続いて、「法的にも問題はないサテライト日田」(ここには、設置までの経緯が記されております)、「別府市の考え方」および「市民にとって欠かせない別府競輪」という小見出しの下、「サテライト日田」の建設を進めるという大前提を維持する考え方を述べた上で、「競輪収入は別府市の財政運営にとって欠かせない財源になっています」と結んでいます。
日田市長が異議を唱えたのは、「別府市の考え方」に掲げられた第二の項目に対してでした。別府市は、この問題について三項目を掲げております。それは、次の通りです。
「@競輪は国の許可を得て行う公営競技である。戦後の復旧から現在まで地方財政の健全化に寄与している事業であり、法律に基づいて実施できる競輪事業を、地方公共団体の条例で何らかの規制をすることについては、慎重に検討する必要がある。
A場外車券売場の通産大臣の設置許可まで、『サテライト日田』の場合3年を要した。反対するのであれば、日田市としては、本来、設置許可が出る前に、許可権者である通産大臣に対して明確な反対の意思表示をすべきだったのではないか。
B自転車競技法では、当然のことではあるが、場外車券売場は『だれにでも、どこにでも』許可されるものではなく、地域性、商圏性、将来性などの設置基準を厳格に審査したうえで、通産大臣が設置者に許可したものであり、したがって別府市が車券の発売を撤回することはできない。」
また、市報7頁には「設置者から申し出があった直後の平成8年9月から今年の7月まで実務担当者が日田市を7回、日田商工会議所を1回訪れ」たこと、「設置者も日田市とひんぱんに接触を重ね、地域住民に説明会を開」いたことなども記されております。
これに対する日田市の反論は「一九九七(平成九)年一月−通産大臣に市長名で反対要望書を提出、同八月−九州通産局に市長が設置反対を陳情、同九月−通産省車両課に市長が設置反対を陳情、同十月−九州通産局に教育委員会が反対要望書を提出するなど、明確に反対の意思表示をしてきた」というものです。日田市長は「記事に明らかに事実と異なった部分がある。近日中に、別府市長にあてた内容証明郵便で異議を申し立て、訂正を求める」と発言しています(以上、大分合同新聞前掲記事)。
結果的に、大分合同新聞の記事見出しにある通り、別府市報の記事は「サテライト日田」問題の「火に油を注ぐ」ことになりました。
しかし、別府市の主張と日田市の主張とは、あまりに食い違いが大きく、どちらが真実を語っているのか、図りかねるところがあります。
仮に別府市の主張が正しいとするならば、日田市の主張は虚偽となります。法的にはともあれ、市長の政治的責任が問われかねないこととなるでしょう。
問題は、日田市の主張が正しい場合です。別府市のほうに問題が帰せられることにもなるのでしょうが、実は、そう単純な話でもありません。
再び、自転車競技法を参照してみましょう。前にも記しましたように、場外車券売場に直接関わる第4条に登場する者は、場外車券売り場の設置者と通商産業大臣であり、場外車券売り場の設置を予定された市町村の長や住民は登場しません。競走場の設置又は移転に関する第3条を参照しても、通商産業大臣が設置許可をする前に「関係都道府県知事の意見を聞かなければならない」(第2項)、都道府県知事が意見を述べる前に「公聴会を開いて、利害関係人の意見を聴かなければならない」(第3項)と規定されておりますが、「関係都道府県知事」であれ「利害関係人」であれ、同意を必要としておりません。
それでは、日田市長名による反対要望書の提出などは、法的にいかなる意味を持つことになるのでしょうか。第4条の各項を参照しても、設置場所となる市町村の長の同意は規定されておりません。また、市長、市議会、地域住民の反対意見が「利害関係人の意見」として扱われることも予定されておりません。従って、自転車競技法によれば、日田市が主張している一連の反対の意思表示は、法的な効果を伴うものではなく、事実行為にすぎないことになります。
あるいは、通産省の行政指導により、場外車券売場設置者が設置場所となる市町村の長の同意を得ることを求められるということも考えられます。しかし、行政指導は、たとえ法的な根拠があったとしても事実行為であり、法的な効果を伴いません。そればかりでなく、行政手続法第32条以下の規定によれば、行政指導に従うか否かは設置者に委ねられることになり、設置者が行政指導に反して設置場所となる市町村の長の同意を得なかったからといって、設置許可をしないという訳にもいきません。
また、行政手続法第10条に基づく公聴会などの手続が必要だったとも考えられるのですが、この規定は公聴会などの開催を法的に義務づける規定ではありません。公聴会を開催し、設置場所となる市町村の長、議員、住民の意見を聴いたとしても、それらが必ず反映されなければならないというものでもありません。
このように考えると、是非は別として、「サテライト日田」問題は、このままの展開で進むならば別府市側に軍配が上がりそうな気配です。
●残念ながら、別府市のホームページも、日田市のホームページも、「サテライト日田」問題を取り上げておりません。
○市報「べっぷ」11月号(通算1462号)については、大分大学経済研究所所蔵のものを利用しました。
(2000年11月)
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