サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第12編

 

 この問題を追い続けて半年ほどが経ちます。きっかけは、6月27日の午後、大分合同新聞別府支社からの電話でした(このときに私が話した内容の一部は、同紙2000年7月2日付朝刊に掲載されています。第1編を参照して下さい)。それ以降、とくに11月と12月は、この問題の動きを追い続けてきました。理由としては、何よりも私自身の職業と関係します。条例制定権の限界は当然のこととして、まちづくりの進め方、市町村財政の再建の仕方、公営競技のあり方、住民意思の反映の仕方、そして、市町村同士の関係のあり方を、この問題は改めて我々に投げかけてきました。私がサテライト日田問題を、今回を含めて12回も取り上げてきたのは、こうした諸問題の複合体(complex)として、地方自治(および地方政治)の在るべき姿を考察する適切な題材であるからに他なりません。そして、個人的な告白を述べるならば、情報公開とともに、サテライト日田建設問題を通じて、私は自らの行政法学者のしての姿勢・立場を再確認していました。

 地方分権を推進する中で、ともすれば国と地方公共団体との関係、あるいは都道府県と市町村との関係ばかりに注目が集められています。しかし、実際には、地方分権を推進することにより、都道府県間または市町村間の利害などの衝突が、将来において頻発することになるかもしれないのです。これは、或る程度は仕方のないことでもありますが、放置するならば、かえって地方分権推進の障害にもなります。東京大学の中里実教授は、最近、地方公共団体が法定外普通税または法定外目的税として独自の財源を追求する動きに対して「地方団体間の課税権の(場合によっては、かなり醜いかたちの)衝突が現実の問題になりつつあるのではないか」と指摘されております(「地方税条例の効力の地域的限界」地方税2000年11月号5頁)。私は、こうした危険が地方税だけの問題ではないということを、ますます実感するようになりました。地方自治法で、こうした問題を予想した規定があるのでしょうか。ないとすれば、早急な手当が必要ですし、あるとしても、現在の規定では不十分であるかもしれません。

 さて、ここでサテライト日田問題の動きに触れておくこととしましょう。

 既に、別府市議会観光経済委員会がサテライト日田問題について「継続審査」とすることを可決したことを記しておりますが、12月18日、別府市議会本会議においても、この問題は「継続審査」とすることが、賛成多数で可決されました。このため、12月4日から工事開始となったサテライト日田は、建物が完成してもしばらくの間は場外車券売場として機能しないこととなります(朝日新聞の12月19日付大分asahi.com/ニュースに掲載された 溝江建設のコメントも参照)。一方、日田市側は、大石昭忠市長、室原基樹市議会議長、武内好高日田商工会議所会頭が揃って記者会見をし、別府市側の判断を歓迎する趣旨を語られております。

 そして、12月22日、大塚茂樹助役をはじめとする別府市の代表4氏が、日田市役所を訪れ、日田市側と会談をしました。しかし、市報べっぷ11月に掲載された記事をめぐり、日田市の首藤洋介助役は訂正を求めましたが別府市側が回答を留保したため、日田市側が退席して決裂しました。大分asahi.com/ニュース12月23日付の記事によれば、別府市側の訪問に対して、目的が告げられた段階で日田市側が制止し、話し合いは10分で終わったとのことです。また、別府市側は意見交換の場を1月か2月に設けたいとしていますが、日田市側は市報べっぷ11月号掲載の記事について別府市側の明快な回答を求めており、交渉は進展しないものと思われます。

 今回の問題を振り返ってみると、6月の条例制定などについては日田市側にも問題があると思われるのですが、11月以降の別府市側の対応には、適切でないと評価されても仕方がないような点が多かった、と言いうるでしょう。その原因は、結局のところ別府市側の拙速さにあるのですが、これでは日田市側の反発という火に油を注ぐだけであったと思われます。

 例えば、別府市側は、日田市側の反対活動などに対し、別府市にではなく、通産省や溝江建設に対して反対をすべきである旨を何度も述べております。日田市民の方々の肩を持つ訳ではありませんが、筋違いな発言であるとしか言いようがありません。たしかに、設置許可を申請したのは 溝江建設であり、設置許可を出したのは通産省です。日田市側は、通産省に対しても反対活動をすべきであったでしょう。しかし、別府市は、この設置許可の実質的な当事者です(まさか、このことを忘れていた訳なのでしょうか?)。 溝江建設が施設を建てたとしても、溝江建設自身が勝手に車券を売ることは許されていないのです。

 また、以前書き忘れていたことなのですが、別府市観光経済委員会の席上、別府市の大塚助役は、個人的な意見と断りつつも、日田市と別府市が折半して 溝江建設に補償金を出すことを、日田市側に電話で提案した旨を明らかにされました。これも日田市側の怒りを買い、拒否されたのも当然です。法的にみても、日田市側に損害賠償責任を認めることはできないでしょう(日田市が当初は設置を歓迎していたなどの事情があれば、話は別です)。設置許可という場面だけで見るならば、 溝江建設と通産省が当事者、別府市は実質的当事者、日田市および日田市民は第三者なのです。

 さらに、別府市側が公営カジノ設置に積極的な姿勢を見せたことも、時期的に見ればまずいことであったと評価できます。おりしもサテライト日田問題の最中、空洞化する一方の別府市中心街の再活性化、長期低落傾向の観光を再び上昇気流に乗せるためのものであるとは言え、日田市側の反発は勿論、別府市民の間からもサテライト日田設置反対の声を高める結果になったことは否めません(ちなみに、公営カジノ設置については、宮崎県も積極的な姿勢を見せております。これは、おそらく、シーガイアの問題とも関連すると思われます)。

 今回を以って、「サテライト日田(別府競輪場の場外車券問題)建設問題」は、ひとまず終了とさせていただきます。そして、さらにこの問題の展開が見られる場合には、第二部として扱います。また、この問題については、2000年12月21日、TBS系で放送される番組の取材を受けましたので、御覧いただければ幸いです(放送は、2001年1月7日、13時からです)。

  

(2000年12月24日)

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