サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第22編

 

 (はじめに、今回、寄稿文を作成するにあたり、読売新聞大分支局記者の小野鐘好氏から、同新聞をはじめとした記事をファックスでお送りいただきました。このホームページの記事を作成する上でも、非常に役立ちました。この場を借りて、御礼を申し上げます)

 1月の段階で、サテライト日田設置許可に対する無効等確認訴訟を日田市が提起する意向を示していたことについては、第16編において取り上げるとともに、その可能性を検討しました。2月1日、日田市議会臨時会は、市報べっぷ2000年11月号掲載の訂正を求める訴訟の提起に関する議案を全会一致で可決しましたが、この時、市議会では上記無効等確認訴訟の提起を早期に求める声も出ておりました。

 2月20日、日田市長の大石昭忠氏は、日田市議会全員協議会に出席し、上記無効等確認訴訟の提起を表明しました。2月8日の別府市議会臨時会にてサテライト日田設置関連補正予算案は否決されたものの、設置許可自体の効力が失われている訳ではなく、経済産業省も設置許可の撤回に消極的であることが、訴訟提起の理由です。このことを、私は、仕事中、NHKラジオ第一放送の大分ローカルニュースで知りました。読売新聞2001年2月22日付朝刊24面(大分地域ニュース)および同13S26面などでも報道されております。この訴訟が提起された場合、元日本弁護士会連合会事務総長の寺井一弘弁護士ら5氏が日田市側の訴訟代理人を務めることも報道されております。

 読売新聞2001年2月22日付朝刊24面(大分地域ニュース)には、寺井氏による次のようなコメントが掲載されております。「地方自治の意味を問いただす重要な裁判になるだろう。憲法で保証された地方自治が、いい加減な許認可制度で侵されようとしている現状を考えれば、絶対に敗訴してはならない」。

 また、日田市も、設置許可などが「反対運動をしてきた日田市の意向を無視しており、地方自治の本旨を定めた憲法九二条の趣旨に反し、地方自治体の自治権と自己決定権を侵害している」という見解を示しております(同じ記事によります)。

 2月20日、フジテレビ系の「ニュースジャパン」で、およそ5分間、サテライト日田問題が報道されました。実のところ、私はこの番組を見ておりません。数人の方から、基本的な流れが報道されていたという話を伺いました。このことを受けて、翌日からの「ひたの掲示板」ではサテライト日田問題に関する書き込みが増えました(そのうちの一人が、他ならぬ私です)。別府競輪場のホームページの「質問コーナー」は、相変わらず休眠状態です。

 そして、ついに、2月23日、日田市議会臨時会は、この無効等確認訴訟の提起を全会一致で可決・承認しました。実際には、別府市に設置の断念を要請し、別府市、 溝江建設、そして経済産業省の意向や動きなどをみて、3月末までに提起される模様です。別府市議会3月定例会では、サテライト日田設置関連補正予算案が提出されないようですが、別府市執行部が設置の姿勢を変えていないため、無効等確認訴訟の提起に踏み切ったことになります。

 この臨時会の模様は、大分合同新聞2001年2月24日付朝刊朝F版27面、読売新聞同日付朝刊36面(大分地域ニュース)、朝日新聞同日付朝刊13版34面および大分13版31面などで報道されました。

 (大分asahi.com/ニュースでは一本化されて、http://mytown.asahi.com/oita/news02.asp?kiji=641 に掲載されています)

 当日、傍聴席には日田市連合育友会会長の後藤功一氏など30名ほどの市民が訪れました。臨時会は10時に開会され、提案理由の説明がなされた後、総務委員会において審議されました。朝日新聞上記大分13版31面によれば、委員会の席上、委員から、日田市の原告適格性、別府市や 溝江建設が取り下げた場合の対応、市民の理解などに関する質問が出されたということです。執行部側は、3月15日付の日田市報でこの問題に関する特集を組んで理解を求める旨を示しました。午後、本会議の席上、総務委員会委員長の梶原明治氏により、提訴議案を可決した総務委員会の審査報告がなされました。梶原氏は「この裁判は地方分権の時代における地方の自治権、自己決定権を明確にするための意義深いもの。地方自治権の侵害が、全国の自治体で、繰り返されることのないようにする必要がある」と述べ、議会も強い協力をする意向を示しました(朝日新聞上記記事)。その後、「民意を反映しない許認可制度をめぐる論議に一石を投じる意義深い訴訟」、「憲法が定めた地方自治の本旨を明確にし、許可の違法性を追及するべき」という賛成討論(大分合同新聞上記記事)がなされ、全会一致で可決されたのです。

 閉会後、大石市長は、この訴訟を通じて日田市の主張を通していきたいという旨を示し、同時に、許可の取消によって訴訟の意味がなくなるとも述べて、設置許可の撤回に期待感を表しました。

 この日田市議会による議決に関連して、私は、2月22日、読売新聞大分支局の小野記者より依頼を受け、私の意見を示す寄稿文を作成しました(初めてのことです)。これは、2月24日付の読売新聞朝刊36面(大分地域ニュース)に掲載されました。以下、その全文を紹介いたします(なお、掲載の段階において若干の修正を受けており、この点については私も了解しております)。

 

 サテライト日田問題について(訴訟提起の議案可決を受けて)

 この問題は、条例制定権の限界、まちづくりの進め方、住民意思の反映の仕方、市町村関係の在り方など、地方自治における重要な諸課題が凝縮されたものである。また、地元住民の意見を十分に反映させる仕組みを予定していない自転車競技法の問題点を、改めて浮き彫りにしたものと言える。

 今回、日田市は、別府市に対し市報記事訂正を求める訴訟を提起したのに続き、経済産業省に対し、サテライト日田設置許可無効等確認訴訟の提起を、議会の同意により正式に決定した。設置許可が出されたのは昨年六月であるから、行政事件訴訟法第十四条第一項により、設置許可取消訴訟を提起することはできない。別府市執行部が設置の姿勢を全く変えておらず、経済産業省も事態の具体的な打開策を示していないことから、取消訴訟より要件が厳しい無効等確認訴訟の提起に踏み切らざるをえなかったのであろう。

 しかし、この訴訟において日田市の主張が認められるかという問いに対しては、消極的に回答せざるをえない。無効等確認訴訟を定める行政事件訴訟法第三十六条は非常に難解な条文であるが、まず、本件設置許可により日田市がいかなる損害を受けるおそれがあるのか。次に、日田市が設置許可の無効等の確認を求める法律上の利益を有すると認められるのか。特に、法律上の利益については、自転車競技法の解釈上、また判例の傾向からみても、日田市に認めることは難しいと思われる。仮にこの二つの要件を充たしたとしても、設置許可に係る行政裁量という壁にぶつかる。これを突破することは非常に難しいのではなかろうか。

 また、この問題を概観すると、両市執行部の対応の違いが顕著であることに気づく。特に、昨年末頃からの別府市執行部の発言内容などを考えると、不適切な点が目立つ。これでは、日田市側の理解を得られないのも当然であろう。

 

 ここで、若干の補足あるいは注釈を加えておきます。裁量の問題です。

 実は、ここでは行政裁量、すなわち、設置許可に関する経済産業省(設置許可当時は通商産業省)の裁量が問題になるのは当然のことですが、そればかりでなく、立法裁量も問題となります。他の公営競技関連法では、場外券売場の設置許可に関して地域住民の同意を要件にしているにもかかわらず、自転車競技法では法律上の要件となっていないからです。議案などを目にした訳ではないので、詳しいことはわかりませんが、間接的にはこの立法裁量も問題とされるのではないかと思われます。

 しかし、日田市という地方公共団体が国(経済産業省)による設置許可処分の無効等確認訴訟を提起するということ自体は、大きな意味を持つものと思われます。この種の反対運動などは、日田市のみでなく、全国でみられます。また、まちづくり、地域づくりは、本来、市町村が、とくに住民が主体的に取り組むべきものです。憲法第92条以下において地方自治が制度的に保障されているにもかかわらず、これまでの多くの法律は、地方公共団体、さらには住民の自主性をあまりにも軽視してきました。高度経済成長期であれば、こうした法体系についても一定の説明がつきせんが、もうそのような時代は過ぎ去りました。同種の公営競技関係法において、管轄省庁が違うからといって、許可申請手続に、決して無視しえない相違があるということも、理解の範囲を超えます。日田市の今回の行動は、全国に、改めて地方分権とは何かという問いを投げかけることになるでしょう。

 私も、今回の寄稿をきっかけとして、日田市が無効等確認訴訟にて勝訴しうる方法を探ってみたいと考えています。

 なお、ここで、行政事件訴訟法の規定を紹介しておきます(説明などについては「第16編」を御覧下さい)。

 

(出訴期間)

第十四条  取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つたから三箇月以内に提起しなければならない。

二  前項の期間は、不変期間とする。

三  取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。但し、正当な理由があるときは、この限りでない。

四  第一項及び前項の期間は、処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、その審査請求をした者については、これに対する裁決があつたことを知つた日又は裁決の日から起算する。

 (無効等確認の訴えの原告適格)

第三十六条  無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。

 

 なお、前述のように、日田市は、サテライト問題について、3月15日付の日田市報に特集記事を掲載する方針を立てています。私も、是非とも読ませていただきたいと思います。

 本当は、まだ記したいこともあるのですが、差し障りがあるということも予想されますので、ここでは控えておきます。

 

(2001年2月25日)

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