サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第38編

 

 サテライト日田問題により、公営競技の場外券売場設置に関する各地での問題は、地方自治、とりわけ、住民自治の大問題として、注目を浴びています。九州でも、福岡市に2つの場外券売場が設置される予定となっており、これが問題となっています。このことについては、第37編でも少々触れました。今回は、日田を離れ、福岡市で問題となっている問題の一つ、福岡ドーム内に設置が予定されている場外馬券売場を取り上げます。もっとも、日田とは異なり、私がこれまで問題を十分に追いかけた訳ではありません。しかし、他の地域においてどのように反対運動が展開されているのか、若干であったとしても取り上げるべきでしょう。まして、福岡市では、博多駅前(博多口)に場外車券売場(サテライト博多)設置問題もあるのですから。2つの場外券売場が同時並行的に問題となるのは、政令指定都市である福岡市だからなのでしょうか。もっとも、地方競馬といい競輪といい、事業の収支状況は概して良好でないと聞きます。それだからこそ、博多駅前および福岡ドームに場外券売場を設置しようということなのかもしれません。

 第37編において記した通り、1月29日に大分地方裁判所で行われた日田市対経済産業大臣訴訟の口頭弁論の後、福岡ドーム内の場外馬券売場の設置に反対する福岡市民の方から、2月9日に当仁中学校で行われる反対集会へのお誘いを受けました。私は、この機会にと思い、参加することを決めました。土曜日ですが、当日の午前中には大学での会議が入っています。これに出席した上で、自家用車を使い、大分自動車道、九州自動車道、福岡都市高速道路2号線および1号線を経由し、西公園ランプで降り、中央区の北西端、川を渡れば早良区で福岡ドームがあるという当仁中学校に到着しました。ちなみに、私が福岡市を訪れるのは約8か月ぶりのことで、唐人町周辺は全く初めて、福岡ドームを間近に見たのも初めてです(入ったことはありません)。

 地図で調べておいたのですが、実際に走ってみて驚きました。地下鉄唐人町駅から北に向かうと、高層住宅が立ち並び、西日本短期大学をはじめとして、多くの学校が並んでいます。当仁中学校に入ると、福岡ドームが間近に見えます。福岡市の方々は、福岡ダイエーホークスというプロ野球団の存在もあって身近に思われるかもしれませんが、私には異様な光景として眼に焼き付きます。一種の威圧感すらあるのです。野球場といえば、川崎球場、東京ドーム(前身の後楽園球場も)、横浜スタジアム、阪神甲子園球場、西宮球場などをみていますが、福岡ドームには、これらと違う何かがあるように思えます。

 私が当仁中学校に到着したのが少しばかり早かったこともあり、当仁中学校の校長室に案内していただき、校長先生、シンポジウムのパネラーの方々に紹介していただきました。そして、会場である体育館に入りました。右側のほうには、福岡市議会議員、福岡県議会議員、さらには福岡県で選出された国会議員、またはその秘書の方々の席も設けられています。一般席には、私の他、サテライト日田設置反対運動に参加されている方、サテライト博多設置反対運動に参加されている方も来られておりました。

 予定時間を少しすぎてから、シンポジウム「ドームにゃ馬券売り場はいらんばい―守れ! 子供と住環境―」は、「子供の教育環境を守る会」の平田素子氏の司会によって始まりました。「馬券売場を作らせぬ会」の代表を務める諸岡敬一郎氏による開会の辞、弁護士で修猷館高校PTA会長も務める実行委員長の羽田野節夫氏による挨拶の後、福岡中央養護学校保護者会会長の溝口生司氏による基調報告がありました。

 当日配布された資料、および溝口氏の報告によると、この場外馬券売場計画は、佐賀競馬組合、荒尾競馬組合、そして岩手競馬組合によって進められたもので、2001年2月28日、農林水産省との事前協議が開始され、3月12日には福岡ドームに要望書が提出されています(ここに岩手が入ってくる理由ですが、詳細を書くことは控えます。ヒントとして、福岡ドームを本拠地としているプロ野球団をあげておきます)。4月からは福岡ドームより、10月10日に上記三競馬組合より、地元の校区自治連合会長への事前説明がなされています。場外馬券売場の設置承認申請書が農林水産省から提出されたのは11月28日であり、設置が承認されたのは12月6日でした。

 一方、11月28日、「馬券売場反対の会」は、設置反対の要請書を提出しています(提出先は不明)。12月に入ってから、地行浜1丁目町内会長、当仁中学校PTA役員など多数の市民が福岡市長へ陳情をしており、「馬券売場に反対する福岡連絡会」なども陳情をしております。また、福岡市PTA協議会が、福岡市長および福岡市議会議長に反対署名(約13000人分)を提出しています。今年の1月に入ってからは、福岡市議会においてこの問題が取り上げられております(1月25日、福岡市議会第一委員会において「請願審査」)。福岡市議会は、請願を継続審査としております。

 ここまでの経緯の中で、場外馬券売場計画は地元の同意を得られたものと扱われていました。しかし、実際には、自治会連合会長5氏が住民に何の説明も相談もせずに同意の捺印を押したということです。法的には何の権限もなく、そもそも法人格すらないのが通常であるはずの自治会が、地域住民の代表機関として位置づけられるのもおかしな話なのですが、実際、行政は何かと自治会組織を利用します。そのために、各地で訳のわからないような事件が続発したりするのです(私自身も、実家のほうで経験しています)。

 また、今回のシンポジウムにおいては、基調報告用の他、数枚の資料が配布されております。新聞記事が主なものですが、「西新宿競輪施設誘致反対の会」(代表は古川昭夫氏)による「非会員制場外券売場では、中学生も馬券・車券が購入可能」という記事も入っております。ここでも紹介しておきます。

 1991年、大阪府警察署少年課は、大阪府内の場外馬券売場で補導された未成年者(高校生が443人、中学生が23人、専門学校生などが219人、計685人)に意識調査をしました。その結果は、次の通りでした(回答したのは511人)。

 購入回数1回:200人

 購入回数2回:117人

 購入回数3回・4回:96人

 購入回数5回以上:98人

 私が驚いたのは、「窓口で(未成年ということで)購入を拒否されたことがあるか? という問いに対しては、463人(91%)が無い と回答しています」という件でした。私自身は、生まれてから今まで、馬券や車券などの類を一度も購入しておりませんし、公営競技場に入ったのも2回だけです。2回とも川崎競輪場でしたが、競輪ではなく、バザーなどが行われていた時に入ったのでした。競馬法第28条は「学生生徒又は未成年者は、勝馬投票券を購入し、又は譲り受けてはならない」と定めておりますし、自転車競技法第7条の2も「学生生徒及び未成年者は、車券を購入し、又は譲り受けてはならない」と定めております。そのため、競馬事業施行者や競輪事業施行者(そして競艇事業施行者やオートレース事業施行者)は、未成年者に馬券や車券などを販売してはならないはずです。確認の作業をほとんどしていないのでしょうか。1970年代、私が小学生の頃、江口寿史氏のデビュー作である「恐るべき子供たち」という漫画の中には、大人に変装して東京競馬場で予想屋をやって稼ぐ小学生が登場しますが、中学生以上であれば、制服さえ着なければ堂々と馬券や車券などを購入できるということになります。

 また、1991年9月10日付朝日新聞朝刊31面に掲載された「中高生ら685人が競馬  配当金はデートなどに  大阪で補導」という記事も資料として示されています。

 「西新宿競輪施設誘致の会」によれば、上記の調査結果は、1993年5月に高松地方裁判所で出されたウインズ高松差止訴訟の判決でも引用されており、同裁判所は「未成年者の馬券購入を完全に防止することは不可能であり、風俗や教育上の悪影響を与えることは否定できない」と判断したとのことです(残念ながら、判決の出典などは示されておりません)。この論理は、福岡市中央区の唐人町などでは一層強く妥当することになるでしょう。

 基調報告の後、シンポジウムがありました。コーディネーターは羽田野氏、パネラーは、早良区小学校PTA連合会会長の坂田浩司氏、地行浜1丁目町内会代表の上畠茂幸氏、当仁中学校青少年健全育成協議会副会長の奥村貞夫氏、そして「子供の教育環境を守る会」の光安美穂氏でした。パネラーから数分間の意見表明、質疑応答の順に振興しましたが、ここでは、各パネラーの意見を紹介しましょう。

 坂田氏は、PTAの立場を強調しておりました。福岡ドームが選ばれたのは、駐車場などがあり、整備されているという理由であるが、付近は有数の文教地区であり、一度許されるならば、他の施設も許されざるをえなくなる、という危機感を示しました。

 上畠氏は、自治会長という立場から、ホークスタウンの建設時に町内会長を務め、ダイエーと交渉したという経験などを語りました。

 奥村氏は、環境浄化運動に取り組んできた立場から、ギャンブル性の高いものが残虐性などに発展する可能性のあることを指摘し、福岡県および福岡市が本気で青少年対策(保護育成)に取り組むつもりなのかと、疑問を呈示しました。

 光安氏は、住民として、この場外馬券売場計画は新聞報道によって初めて知らされたのであり、それ以前には何の説明もなかったこと、事実経緯に触れた上で、住民の知らない間に「住民の同意」がなされたという、まさに住民としての怒りの念を語りました。

 その後、住民の同意などをめぐって質疑応答がなされました。

 シンポジウムの最後に、「シンポジウム宣言(案)」が、「当仁中学校区教育環境を守る会」の上畠みずえ氏によって朗読され、採択されました。ここで、全文を紹介いたします。

 「私達は、福岡ドームに場外馬券売り場の開設が予定されているこの地域に住み、そして働く者として、青少年の教育育成環境を懸念する市民として、福岡ドームの場外馬券売り場設置に反対し、この設置計画を撤回、断念させるためにここに集まった。

 私達はこの計画の反対と撤回を求める声を福岡市民に広め、福岡ドームと三競馬組合(岩手・佐賀・荒尾)に対してこの計画の撤回、断念を申し入れてきた。福岡市議会に対しては、この計画への反対を求める請願をし、農林水産省に対しては、承認取り消しを申し入れた。今日ここに集まり、意見を交え、次のことを確認し、決議しあった。

 1  地域住民の住環境と周辺の教育環境、医療環境などをないがしろにした馬券売場設置計画は、この地域環境に相容れないものである。

 2  こども総合相談センターを設立しようとしている福岡市の計画と矛盾するものである。

 3  地元住民の意見をまったく無視した手続きに重大な欠陥がある。

 ここに集う地域住民と福岡市民はこの計画に驚き、怒り、そして決意する。

 福岡ドームとダイエーに要求する。この計画の撤回と断念を!!

 三競馬組合に呼びかける。この計画の撤回と断念を!!

 農林水産省に求める。この計画の承認撤回とこの計画そのものの撤回、断念の指導を!!

 私達のこどもの未来と地域環境を守るために、地域住民、PTA、教育関係者、医療関係者等々、みんなで手に手を取ってこの計画の阻止のために、前進しよう!!」

(送り仮名などは原文のまま)

 その後、シンポジウムに参加した多くの人々は、福岡ドームに向かってデモ行進をしました。私は、他の地域の方々とともに、西鉄福岡駅前(中央区天神)に向かいました。

 

(2002年3月2日)

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